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アニメ「ランウェイで笑って」第8話の感想・考察――本気が大事なものを奪う

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第8話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

第7話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第8話「デザイナーの器」

相当する原作のエピソード:第6巻第45話「母からの手紙」、第46話「天秤」、第47話「最適解」、第48話「当然の報い」

母親の容態が悪化したという報せを受け、病院に駆けつける育人。さらには滞納していた治療費がのしかかり、育人はバイトを増やすため苦渋の思いで柳田と遠に「仕事を辞めさせてほしい」と伝える。そんな育人の元に、心のマネージャー・五十嵐がやってきてある提案を持ちかけるのだが……。

 

 

1.手術の先延ばしの理由

育人の母親は、手術の先延ばしを希望していました。これは、デザイナーになりたいという夢を持つ育人のためにほかありません。

もし、芸華祭までに手術をすれば、その時点で手術費用が発生します。そうすれば、育人は金策に走らなければならなくなり、デザイナーになるための好機として逃せない芸華祭に集中できません(それどころか辞退さえもあり得ます)。母親は、息子の夢を応援するからこそ、手術を先延ばしにしていたのです。

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「母さん、僕、ファッションデザイナーになりたいんだ」

しかし、現実は非情で、芸華祭まで2か月前ほどのタイミングで緊急手術という結果になってしまいました。

 

 

2.長男としての責任

病院に駆け付けた育人は、取り乱すほのかをなだめ、今後の対応を示しました。しかし、彼女が帰宅した後は、深く自省し、母親の遺書を読んで動揺して涙まで流してしまいます。

若干高校生に過ぎない育人ですが、ほのかの前では、ギリギリのところで長男(長子)としての責任を果たした、というのが伝わってきます。

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ほのかを抱きしめる育人

 

 

3.育人が辞めた理由

育人は、結局、柳田のスタジオも綾野遠のスタジオも辞めてしまいました。どちらも給料がもらえるにもかかわらず、わざわざ辞めたのは、割りの良いバイトをするためです(原作第6巻110頁)。

これを踏まえ、少々無駄な勘繰りをしてみます(読み飛ばし推奨)。

そもそも育人は高校生なので、どこで働いても一般的には、アルバイトの時給は最低賃金かそれを少し上回る程度しかもらえないと思われます(時給の良い深夜帯については18歳未満が働くことは法律で禁止されています)。

となると、高校生でも雇ってくれる時給の良いバイトを探すのは困難なはずです。実際、育人が行ったバイトは、引っ越し、コンビニ、清掃、工場、新聞配達と、ありふれたバイト先でした。これらの業種は外資系ではないと思われるので、時給は最低賃金程度だと思われます。

すると、ここで一つ疑問が浮かびます。割りの良いバイトを探すために柳田や遠のスタジオを辞めたということは、育人はここで最低賃金を下回る時給しかもらえていなかったのではないのでしょうか?

しかし、それでは雇用主である柳田や遠が法律違反をしていることになってしまいます。そうでない可能性を考えるとなると、そもそも育人は雇用契約を結んでいなかった、という仮説が立てられます。つまり、柳田や遠とは雇用関係にない育人は、最低賃金の適用対象たる労働者の地位にいなかったのです。

それでは、育人はどのような身分で柳田や遠の「お手伝い」をしてお金をおもらっていたのでしょうか? 考えられるのは、育人は徒弟制度類似の発想の下で「お手伝い」し、「お給金」としてお金をもらっていた可能性です。

そもそも、育人は、労働力提供(とその対価の獲得)という目的もありましたが、デザイナーになるための技能習得という目的を持って柳田や遠のスタジオで働いていました。このような専門職においては、弟子が師匠に技を教えてもらうことを目的とした徒弟制度がよく似合いますし、師匠の側も弟子の側もその発想になっていてもおかしくありません。弟子の側からすれば、「師匠に迷惑をかけながら弟子にしてらっている」という考えなのでしょう。

このような徒弟制度の下では、「労働力提供の当然の対価として使用者は労働者に給料を支払わなければならない」という労使関係の原則が通用しません。むしろ、「弟子は当然にタダ働き」が原則で、「師匠からの恩恵として弟子にお給金が支給される」ことが例外なのです(そもそも、私は詳しくないので確定的なことは言えないのですが、現在の日本において無給や最低賃金以下の徒弟制度が合法なのかは相当に疑わしいです)。

とまあ、色々述べてきましたが、要するに、柳田や遠のところで「お手伝い」をしていた育人は、それなりに安いお給金しかもらえていなかった可能性があるのです。

 

 

4.本気が大事なものを奪う

 

(1)綾野遠の本気

スタジオを辞めたいと言ってきた育人から事情を聞き出した遠は、育人に対してパタンナーとして遠のチームに入れば、母親の入院費用は遠が負担する」ことを提案します。

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「育人、悪いことは言わない。僕のチームに入りなよ。そしたら、育人の親御さんの入院費は僕が払うから」

しかし、遠のチームに入って芸華祭のショーに出場するということは、育人は自分自身の出場を辞退しなければならないことを意味します。

入院費を捻出するために多数のバイトをこなしながら芸華祭に出場しようとする育人に対して、遠は「24時間、頭も身体も全て作品に捧げている人間の前で、あんまり舐めたこと言わないでよ」と厳しい言葉を投げかけます。さらには、育人にはデザイナーになれるほどの才能はない、とまで言います。

このように遠の言動を振り返って見ると、彼が嫌なヤツに見えるかもしれません。が、遠は“本気”なのです「24時間、頭も身体も全て作品に捧げている」綾野遠は、芸華祭のショーで綾野麻衣を超えるために本気なのです

そのためには、彼は手段を選ばない人間のようです。ベストな布陣で芸華祭に挑みたいからこそ、育人のパタンナーのとしての才能を評価しているからこそ、遠は育人を自分のチームに引き入れたいのです。たとえそれが育人のデザイナーになりたいという夢を壊すようなことがあっても

前回第7話にてモデルに対して本気な千雪が心に怒ったのと同様に、綾野遠もデザイナーに対して本気なのです。

 

(2)五十嵐優の本気

綾野遠から厳しい選択を突き付けられた育人に、今度は長谷川心のマネージャーの五十嵐が襲来します。五十嵐は、育人に対し、「心にデザイナーを諦めるよう説得すれば、お金(100万円程?)をあげる」と提案します。

遠と同じく、五十嵐もただの嫌なヤツではありません。五十嵐も“本気”なのです五十嵐は「長谷川の将来に責任を持つ立場にある」からこそ本気なのです

そして、五十嵐もそのためには手段を選ばない人間のようです。「人は才のある場所で活躍すれば幸せになれる」(第7話)という信条を持つからこそ、心のモデルとしての才能を評価しているからこそ、五十嵐は心にデザイナーを諦めさせたいのです。たとえそれが本心とは裏腹に心にデザイナーを諦めるよう説得させるような状況に育人を追い込んだとしても

デザイナーに対して本気な綾野遠と同じく、五十嵐も心のマネージャーとして本気なのです。

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「こう言えば全員幸せだ。『僕のショーにモデルとして出てください』って」

 

(3)理想主義と現実主義

母親の入院・手術のために金欠の育人には、これ幸いとばかりに手段を選ばない遠と五十嵐の“本気”が襲ってきました。

育人はこの状況を「なんで、みんなそうやって、僕の大事なものと大事なものを天秤にかけて奪おうとするんだ」と憤っていました。

遠は、「育人の母親(入院費)」「育人のデザイナーになりたいという夢」を天秤にかけました。五十嵐は、「育人の母親(入院費)」「心のデザイナーになりたいという夢」を天秤にかけました。いずれも育人にとっては大事なものです。大事なものだからこそ、奪われるわけにはいかないのです。

ところで、この状況は第6話における千雪による育人の評価を思い出します。

育人のこと、結構、尊敬してるんだ。

私はさ、本気でハイパーモデルになるつもりだから、モデルに必要ないことはほとんど切り捨てちゃうの。でもね、育人は違う。捨てない。全部捨てないの。

きっと私の方が夢に向き合っている時間は長い。それでも育人が頑張っていないって、欠片も思えないのは、きっとそこに何も捨てない、両立するって覚悟があるから。

千雪が尊敬していた育人の「全部捨てない」という努力手法が、危機に晒されているのです。

しかし、こうして育人の心情を慮ってみると、彼は多分に理想主義的です。「全部捨てない」という生き方は、おそらく誰もが目指すところですが、簡単には実現できません。実際、育人には母親の入院・手術による金欠という非情な現実が襲い、育人はそれに上手く対処できませんでした。

そんな育人に対して、遠や五十嵐は現実主義的です。遠は育人に対してデザイナーよりもパタンナーとしての方が将来性があると説き、五十嵐は心にはデザイナーなんかよりもモデルとしての才能があると確信しています。遠や五十嵐からしてみれば、育人や心(それに千雪)の夢は子供っぽい理想に過ぎず、大人として現実的な方向に進路を転換して欲しいのです

しかも、遠や五十嵐は現実主義的なだけでなく、狡猾でもありました。遠は、厳しい言葉も言いましたが、育人のパタンナーとしての才能を評価し、そこに逃げ道(進路転換の余地)を用意しているのです。五十嵐は、育人に対して、心にデザイナーを諦めるよう説得する際には、心の育人に対する信頼を利用して、「僕のショーにモデルとして出てください」と言うように提案するのです。「こう言えば全員幸せだ」と。

育人の窮地を利用して自らの利益を最大化しつつ、育人も母親も心もそれなりの幸せを掴める余地を提案する手法は、狡猾というほかはありません。

 

 

5.長谷川心の支え

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「先輩が……カラメル?」

育人がスタジオを辞めることを柳田から聞いた心は、「私で先輩の力になれるの?」「助けられてばっかなのに」「あんなに強い先輩が辞めたがるってことは、それくらい大きな問題で」と躊躇します。

しかし、今度は心が育人を支える番であると心は決心しました。芸華祭のショーに出ると決心したとき(第5話)、柳田のスタジオを追い出されそうになったとき(第7話)など、育人は心を支えてくれたのでした。

今の育人には支えてくれる人はいません(千雪はパリです)。だからこそ、心は柳田や遠に働きかけ、ひいては藤戸社長にまで心の想いが届いたのです。

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「千雪に作った服のデザインを買い取らせてほしい」

 

 

6.育人に対する評価

第8話ではファッションデザイナーを目指す育人に対して2人の人物から評価が下されました。

一方では、綾野遠は、「育人にそこまでの才能はない。この際だから勘違いしないように事実を告げるけど、育人のデザイナーとしての才能は、並か、並以下だよ。デザイナーになれたところで、食っていける器じゃない。これを機に諦めてパタンナーを目指した方がいい」と言いました。

他方では、「僕、ファッションデザイナーになれると思いますか?」と育人に問われた藤戸社長は「私からしたら、ならない方が驚きだよ」と答えました。

この2人の発言をどう評価するのかは難しいところです。

一見すると、遠の言葉の厳しさと藤戸社長の言葉の優しさが対比されます。しかし、藤戸社長の言葉も、「並程度のデザイナーにならなれる」というように解釈すれば、遠の言葉と変わりません。

とはいえ、2人の言葉は相当に文脈依存的です。つまり、遠には育人にパタンナーとして自分のチームに入って欲しいという下心があったので、わざと厳しい言葉を言ったという可能性も考えられますし、藤戸社長には息子ほどの年代の少年が涙を流しているのを見て同情で優しい言葉を言ったという可能性も考えられるのです。

しかし、いずれにせよ育人が藤戸社長の言葉に救われたのは間違いありません。

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「私からしたら、ならない方が驚きだよ」

 

 

7.ラストの千雪の独白がグッとくる

この部分はもしかしたら次回第9話の冒頭に使われるかもしれないのでネタバレみたいになってしまうかもしれないのですが、第8話のラストシーンで、育人に「僕のショーに出てくれませんか?」と聞かれた千雪が「もう、しょうがないなぁ」と言った場面のことです。

この千雪のセリフの前には、原作では独白があって、これがグッときたので以下に引用します(原作第6巻第48話)。

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パリでのオーディションが上手くいかず失意の表情の千雪

ファッションウィークは、パリだろうがミラノだろうが、誰でも受けられるオーディションを開くブランドが多い。極端なことを言えば、デザイナーに認められれば素人だって出られる。でも、それが重要なのは“身長(スタイル)”だから。

オーディションは10mくらいの距離をデザイナーの前で往復するだけ。私は数十社受けて、結局1mも歩かせてもらえなかった。

藤戸千雪というモデルを必要としてくれる場所はない。現場も、実の父親も、憧れの人からだって、一度見放された。

それなのにどうして、どうして君は、いつだって、いてほしい時に現れて、わたしは君の言葉に救われちゃうんだ。

 このような独白があってからの、「僕のショーに出てくれませんか?」「もう、しょうがないなぁ」なのです。最高の流れじゃないですか?

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「もう、しょうがないなぁ」

 

 

 

第9話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

アニメ「ランウェイで笑って」第7話の感想・考察――千雪の本気、心の本気

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第7話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

第6話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#新衣装登場!)

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第7話「存在感(オーラ)」

相当する原作のエピソード:第4巻第25話「心の支え」、第26話「弱虫の決意」、第5巻第37話「存在感(オーラ)」、第38話「業界の宝」、第39話「大人の仕事」、第40話「憧れと才能と手段と」、第6巻第41話「忍び寄る魔の手」、第42話「君は何になりたいの?」、第43話「頑張り屋さん」、第44話「優先順位のお話」

ようやく勝ち取った雑誌撮影の仕事に訪れた千雪は、そこで出会った高身長のモデルの存在感に圧倒されてしまう。それは、本当はデザイナー志望であり、嫌々ながらモデルの仕事をこなす心だった。打ちひしがれた千雪は帰り道、マネージャーに「モデルを辞めたい」と訴える心の姿を見てしまい……。

 

 

1.「存在感(オーラ)」について

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心に挨拶をする千雪

ついに、藤戸千雪と長谷川心が邂逅しました。初見こそ圧倒された千雪は、すぐに立ち直り自信を持って撮影に臨むことになります。しかし、撮影衣装に着替えた心に千雪は再び圧倒されたのでした。

アニメではやや足りないところがあったので、ここでは原作ベースで「存在感(オーラ)」について解説してゆきたいと思います。

まず、千雪の回想場面にて雫さんは千雪とこのような会話をします。

「胸を張りなさい。千雪、モデルに必要なものって何?」

千雪「身ちょ――」

「違う。〔モデルに必要なのは〕『存在感(オーラ)』。身長はあくまで“オーラ”を放つ最大のツールでしかない。だから千雪、胸を張って! 手の先、足の先まで神経集中! 瞳に魂込めなさい! 腑抜けたオーラで相手できるほど高身長モデルは甘くないわよ!」

 これを思い出した千雪は、雫さんの教え通りに姿勢を正して心に挨拶を行い、細かなところまで気を配って撮影の準備に取り掛かります。

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爪を磨く千雪

そんな中、他のモデルたちが心に対する妬み嫉みを話しているのが千雪の耳に入ります(モデルにしては肉が多いとか、事務所社長と枕営業してるとか……)。ここで千雪はもう一度雫さんの言葉を思い出します。

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「“存在感(オーラ)”が出る2つの場所、どこか分かる?」

「千雪……じゃあ“存在感(オーラ)”が出る2つの場所、どこか分かる? ひとつは身体(スタイル)。姿勢、仕草、身長から放出される」

千雪「もうひとつって何……雫さん?」

「もうひとつは……ね、〔胸に手をあてながら〕“ここ”。自信っていう“気持ち(ハート)”から滲み出るの。心から溢れ出るの。だからね、千雪。当たり前だけど、何かに挑戦してたら悔しいことも辛いこともある。ましてやモデルの世界。いじめや足の引っ張り合いだって珍しくない。だからこそ相手を貶めない。相手をけなすことで安心する、そんな自分を正当化するための貶めからは自信は生まれない。そんなモデルの心からは存在感(オーラ)は出ない」

雫さんの言葉を胸に、千雪は「自信」を持って、つまり心を貶めていた周りのモデルとは違うんだという気概を持って撮影に臨みました。ところが……長谷川心の登場で場の空気は一変しました

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オーラを出そうとする千雪に降りかかる長谷川心のオーラ

撮影後に千雪は長谷川心のオーラについてこう振り返っています(原作第5巻第38話)。

すごいモデルっているもんだなぁ。今まで何人か見てきたけど……でも、あの人は異質……。目が、何というか……冷たい。心を閉ざしているみたいな、魂が宿らない瞳。逆にそれが異質な空気になってる。

また、カメラマンの美和さんは、長谷川心についてこう表現しています(原作第5巻第39話)。

長谷川心ちゃんは、スイッチが入ると、空気が止まるんだよね。喉元に刃物を突き付けられて、「今、この瞬間は音を立てるな。動くな。」って言われてる気分に私はなった。バチバチの激しい存在感(オーラ)を出す子は結構いるんだけどね、ああいう静かで鋭いのは初めてだったかも。

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長谷川心のオーラ

この2人の感想からは次のことが言えそうです。すなわち、他人を貶めることではオーラは生まれないが、しかし、長谷川心は自分自身を貶めることによってオーラを生み出している、と。デザイナーになりたいという夢を持ったままモデルの仕事をしている負い目が彼女のオーラを生み出しているのです。まさに「負のオーラ」です。

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他を圧するオーラ

そして、高身長と負のオーラを持った長谷川心の強い存在感に、低身長かつ長谷川心のような独特のオーラも出せなかった千雪は圧倒されてしまった上、撮影から外されたのです。

そんな失意の千雪は、「貶めからは自信は生まれない」という雫さんの教えにもかかわらず、思わず「わたしは心のどこかでまだ――思ってたんだ。同じ舞台に立ちさえすれば戦えるって。東京ファッションウィークで拍手をもらえたから、相手がどれだけスタイルが良かろうが勝負はできるって。――ちがった。わたしじゃ――同じ舞台にすら上げてもらえない」「身体に傷を作らないのはモデルの初歩の初歩でしょ。本気でやってよ。真面目にやってよ。あなたの場所に立ちたいモデルは山ほどいるのに、立ちたくても立てないモデルがいるのに、立たせて……もらえないモデル……だって。なのに、なんで、なんで、なんで――」と泣きそうになってしまいました。

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涙をこらえる千雪

 

 

2.千雪の本気、心の本気

撮影後、心はマネージャーの五十嵐にお願いをしました。

「こういうの、もうやめてください」

五十嵐「気にしなくていい。才能あるやつが勝って、ないやつが負ける」

「嫌なんです。私のせいで辛い思いする人がいるの。お願いします! モデルを辞めさせてください!」

五十嵐「それは、『自分のせいで蹴落とされる人間がいる』ということに耐えられないって意味か?」

「そういう……わけじゃ……」

ここで2人の会話を聞いていた千雪が心を問い質します。

千雪「それって、私のせい? 私を見て可哀そうだと思ったってこと? ふざけないでよ! あなたに同情される筋合いはない! あなたがどんな思いでモデルをやってるかなんて知らないけど、こっちは本気でやってる! なのに、私の覚悟をなんだと……!」

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涙をこぼしてしまった千雪

「私のせいで辛い思いする人がいるのが嫌」という心の言葉は、たしかに千雪の本気を軽んじる発言でした。千雪は本気でモデルをやっているからこそ、“落とされる”ことも“外される”ことも、覚悟しているのです。本気でモデルをやっているなら自身の責任として千雪が背負うべきことを、心がまるで自分の責任のように感じ、モデルを辞めるための口実に使うのは、千雪としては許せないのです。

そんな「千雪の本気」に触発された心は、五十嵐にこう宣言します。「五十嵐さん、モデルを辞めさせてください!」「私は本気で服を作る人になりたいんです!」と。「千雪の本気」によって、心は「デザイナーになるという夢」についての本気を思い起こしたのです。しかし、五十嵐はそれを認めず……。

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「五十嵐さん、モデルを辞めさせてください」

 

 

3.五十嵐優について

ここでは、原作を織り交ぜながら、心のマネージャーである五十嵐優について掘り下げてゆきたいと思います。

さて、長谷川心の決意にもかかわらず、五十嵐は「ダメだ。人は才のある場所で活躍すれば幸せになれる。何度だって言う。お前の体はモデル界の宝。服飾界で腐らせるのは私が許さん」と返します。

その後、五十嵐はバーにて過去を振り返ります。

向いていない人間が選べる選択肢は3つだけ。諦めるか、正々堂々ぶつかって砕け散るか、しがみついて手段を選ばず夢をつかむか。〔私は〕そうして手に入れた。

嬉しい……。あこがれ続けたラーレフォーン〔イギリスの老舗ブランド〕のショーなんだ。嬉しいに決まってる。そのはずだったのに……

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「そのはずだったのに……」

モデル時代に168cmまでしか身長が伸びなかった五十嵐は、後ろ暗い手段で憧れのショーに出ましたが、そこの景色は奇麗だとは思えませんでした。結局、彼女は、「“向いている場所”で居場所を見つけるしか幸せはなかったんだよ」と結論づけ、マネージャーに転職しました。

そして五十嵐は、現在の長谷川心が選択の分岐に立っていると吐露します。「妥協して服飾界の小さなところに収まる……なら、もっと早い段階で妥協してモデル界に来るべきだ」「だってヤツはモデルとして天才だ。同じ不幸なら最も幸せなところで不幸になればいい」とまで言うのです。

それに比して千雪については、「千雪の向いていない世界でかむしゃらに頑張ってる姿が、昔の自分とかぶる?」と問われると、五十嵐は「あれは向いていないんじゃない、終わってるんだ! 私は、手段を選ばず夢をつかんで幸せになれなかった。結局、自分が向いている場所で居場所を見つけるしかなかったんだよ」「人はやれることしかやれないんだ。お前もあのチビに引導を渡してやれ」と雫に言うのです。

以上のことから五十嵐優の人生観が分かります。要約すれば、「人が幸せになれるのは向いている場所だけ。向いていない人は早々に諦め、別のところで向いている場所を見つけるべきだ」というものです。五十嵐はこの人生観に従って、マネージャーとして彼女に厳しく接し、また千雪はモデルを諦めるべきだと雫に言うのです。彼女の人生観は、一理あるどころか現実主義的で説得力があります。五十嵐はただの嫌な人なんかではありません。

ちなみに、アニメでは省略された五十嵐と雫の過去(モデル時代)については、原作第5巻第40話をご覧ください。

 

 

4.支えてくれる人

柳田に最終チェックを頼まれた心は、失敗をしてしまいました。チェックしたにもかかわらず、まち針が2本も残っていたのです。「こんなガキでもできるような作業でミスりやがって」「さっさと帰れ! 迷惑だ!」と柳田に言われた心は玄関に向かいます。

しかし、そんな心を育人は引き止めます。ここで育人が行動を起こしたのは、自分にも同じ経験があったからです。

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心を引き止める育人

初めて柳田のアトリエに訪れた際、育人も柳田に追い出されそうになりました(第2話)。そこで帰りそうになった育人を引き止め背中を押してくれたのは千雪でした。育人には支えてくれる人がいたのです。

しかし、今回の心には支えてくれる人はいません。育人を除いていないのです。だから、今度は自分が支える番だと気付いた育人は心を引き止めたのです(原作第4巻第25話参照)。

育人に支えられて戻ってきた心による謝罪と、育人による説得によって、柳田はようやく許してくれました。それどころか、「実力がない人間がやらなきゃいけないことは2つだけだ。実力を上げることと、できる仕事を全力でやること。それと2次予選ちゃんと通過しろ。じゃなきゃお前を使ってる俺が恥をかく」と、アドレスと激励までくれたのです。オジサンのツンデレも良いものです。

ちなみに、柳田がデザイン専門で自分では縫えず、厚手の手袋をしてまち針を抜いたのは、初めてのミシンで指に縫い目ができたトラウマからです(笑)

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わざわざ厚手の手袋をしてまち針を抜いた柳田

 

 

5.デザイナーとパタンナー

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「僕のチームに入らないか? パタンナーとして」

綾野遠は、芸華祭のショーに挑む自身のチームに、パタンナーとして育人を招こうとしました。

ここで、柳田の言葉を借りながら、パタンナーの仕事について振り返りをしておきます(原作第6巻第41話)。

パタンナーは、簡単に言うと“デザインを作れる服にする”仕事だ。

デザイナーのデザインは基本的に“絵”で上がってくる。作り方なんか考えずにな。コレクションに出すようなブランドだと、「は? これどうやって作んだ」なんてもんもザラだ。それをパタンナーは自身の経験と知識をフル活用し、素材選び、縫い方、糸の種類、アイロンのかけ方、ひとつでもずれれば再現できない独創的なデザインを、パズルのようにひとつひとつ繋ぎ合わせて現物化する。一流のパタンナーは一流のデザイナーよりも貴重。そう言われるほど価値がある存在だ。

ただ、おかっぱ。パタンナーはどこまで行ってもパタンナーだ。デザイナー主導は変わらん。お前が前に言った野望、その野望を果たせるのはどっちだ? ブレるな。

 こうした柳田の教えのおかげもあってか、育人はきちんと遠の誘いを断ることができました。

ちなみに、育人のパタンナーとしての才能は既に第4話にて言及されていましたね。

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6.長谷川心の2次予選の合否について

実は、原作では、長谷川心は2次予選に通過できませんでした(第6巻第43話~第44話)。

こう書くと、「まさかここに来てオリジナル展開か?」と思われるかもしれませんが、そういう訳ではありません

心が2次予選で落ちたことを知った後、彼女の頑張りが報われてほしいと思った育人は心に対して、自分のチームに加わって一緒に本選に出ないかと提案します。

このとき2人は、「2次予選に合格しても別の予選通過者とチームを組む人が何人かいるため、その人が辞退した分だけ枠が余り、心にも追加合格の可能性がある」と遠から教えられます。

育人の誘いと追加合格の可能性の間で揺れる心でしたが、彼女の下した結論は厳しい方でした。育人と一緒ではマネージャーは自分の“本気”を認めてくれないと考え、育人の誘いを断ったのです。そしてその後、心はその枠に見事追加合格したのです!

このような原作の流れを見ると、なんとも迂遠なような気がするかもしれませんが、しかし長谷川心の“本気”が試された展開だったのです。

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共に本選に進むことになった育人と心

 

 

 

さて、次回は、第8話「デザイナーの器」です。容体の悪化した育人の母親はいったいどうなるのでしょうか? 育人は手術費用を工面できるのでしょうか?

 

第8話の記事はこちらからどうぞ!

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アニメ「ランウェイで笑って」第6話の感想・考察――デザイナーの資質とは?

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第6話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

第5話の感想記事はこちらから!

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0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第6話「優越感と劣等感」

相当する原作のエピソード:第4巻第30話「等価交換」、第31話「コンセプト」、第5巻第32話「自分を信じろ」、第33話「優越感と劣等感」、第34話「甘美な誘い」、第35話「Just a moment」、第36話「私の“利(メリット)”」

参加者が自分でデザインした服を披露する芸華祭一次予選。育人が選んだモチーフは審査員の予想を大きく裏切るものだった。審査員たちの育人への評価は……!? 一方、夢に向かって突き進む育人に感化された千雪も、自分の力で道を切り開こうと片っ端からモデルの仕事先へ自らを売り込んでいた。

 

 

1.千雪の尊敬する人

同級生との会話の中で、千雪は育人のことをこう評します。

育人のこと、結構、尊敬してるんだ。

私はさ、本気でハイパーモデルになるつもりだから、モデルに必要ないことはほとんど切り捨てちゃうの。でもね、育人は違う。捨てない。全部捨てないの。

きっと私の方が夢に向き合っている時間は長い。それでも育人が頑張っていないって、欠片も思えないのは、きっとそこに何も捨てない、両立するって覚悟があるから。

私にはできない。できないから感心するし、尊敬するし、負けたくないって思うの。

だからね、育人。勝って。勝たないとその努力は証明できない。

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「私にはできない。できないから感心するし、尊敬するし、負けたくないって思うの」

この千雪の言葉に表れているように、育人と千雪の努力の方法は対照的です。

そして「勝たないとその努力は証明できない」という言葉は、千雪自身にも向けられたものでもあります。だって、「私でもパリコレに出るのは無理じゃない、君でもデザイナーになるのは無理じゃないって、私のためにも証明したいんだよ」(第2話)と、千雪は自身も育人も結果がすべての世界に身を置くことを覚悟しているのですから。

ところで、「育人のことを尊敬している」というこの千雪の発言は、前回(第5話)の育人の発言と対になるものです。そこでは育人は、心に対してこのように言葉をかけていました。

えっと、うまく言えないんですけど、やりたいことはやるべきで、認めてもらうには自分から一歩踏み出す。そう、尊敬する人から学びました。

育人のいう「尊敬する人」とは千雪のことです。このように育人と千雪は、叶えたい夢や努力の方法は異なりますが、互いを尊敬し高め合っているのです。

 

 

2.デザイナーの資質――オシャレの問題

一次予選の合格発表の場面がアニメではやや分かりにくかったと思うので、原作ベースで解説してゆきたいと思います(原作第5巻第32話~第33話)。

(1)手直しをすべきか否か

まず、全員の審査が終わった後、予選参加者らは教員から次のように指示されました。

これから私と学園長で二次予選に進む通過者を決める……前に、今から2時間の手直しの時間を与える。審査の段階で散々言われたヤツもいるだろう。挽回するチャンスだ。

デザイナーは、モデルをランウェイに送り出すギリギリまで手直しをする。それは自分が生み出すものに誇りと責任を持ってるからだ。諦めるな!! 自分を信じろ!! それはデザイナーの立派な資質だ!!

手直しをする者は残って作業! しない者は多目的教室Aに移動して作品を提出するように!

このように言われた学生たちの相当数は、布を買い足すために財布を手に教室を出てゆきます(この点、アニメにおける学生らの歩く姿勢からは、手直しをせずにドールを持って多目的教室に移動したように見えます)。

周りの学生らが行動を起こす中、育人は悩みます。そこで育人の頭に思い浮かんだのは、千雪に言われた「欲しいなぁって思って。好きだよ、これ」という言葉でした。この言葉に勇気をもらった育人は、手直しをせずに、当初の状態のままで提出することを決意します。

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「欲しいなぁって思って。好きだよ、これ」

(2)真のテーマ

育人が提出のために向かった先の教室で待っていたのは、学園長の衝撃の言葉でした。少々長いですが、アニメより分かりやすいので原作のセリフをそのまま引用します。

じゃあ審査会で色々言われても自分を信じて“直さず”作品を提出しにきたみんな! これから、がくえんちょーの私から大事なお話と、この予選の本当の審査基準のお話をします。

さて、みんな! 今回の課題「セイラちゃんに似合うオシャレな服」をテーマに服を作りましたね。そして中には、「ダサい」って言われた人もいる。“オシャレ”がテーマなら、非難の言葉は“ダサい”だよね~。でもみんな、思わなかった? 「オシャレってなんだよ」「漠然としすぎだろ」……って。

実を言うとね、オシャレかどうかなんてことほど主観的なことはないんだよ。

だって、そうでしょ? ちょっと昔にメンズのショートパンツが流行して、最近は「タックイン」がトレンドになってる。流行だからさ! “オシャレ”が好きは人は注目するわけじゃない。……でもこの中でもいるでしょ? 「ダサい」って思ってる人。そんなもんなのよ。派手なのが“奇抜無理”って言う人もいれば、シンプルなのを“地味つまらない”って言う人もいる。

パリに並ぶトップブランドの服全部をオシャレだと思う人なんていない。あのトップブランド「CHANEL」の創始者、ココ・シャネルは、当時女性の必需品だった“コルセット”を使わないジャージー生地の着やすい服を作り続けた。最初は世間からの苦い言葉の連続だったけど、今では“男性に魅せるための女性服”から、“女性のための女性服”へと女性服の常識を変えた。

日本を代表するブランド「COMME des GARÇONS(コムデギャルソン)」や「Yohji Yamamoto」は、当時タブーとされていた“黒”の服をパリコレで発表。賛否両論降り注いだけど……現在、数多くの黒い服がパリのランウェイを歩いてる。

他人の“好み”に振り回されてはダメ。“ダサい”“タブー”に怯えて70億人に嫌われない服を作るくらいなら、69億人に嫌われても、1億人が「大好き!」って言う服を作りなさい。

ここに集まったみんなは、他人の意見に振り回されず自分の中の個性(オシャレ)を完遂したみんな! そしてそれこそがこの課題の真の合格条件(テーマ)。

デザイナーが服を作る基準に“オシャレかどうか”……なんかよりもっと適した言葉がある。“面白い”か“面白くない”か。よってこの場に来たみーんな! “面白い服”をありがとう! 一次予選突破です!!

さて、これから学園長の言葉を解きほぐしていきます。

ア.デザイナーの資質とは

まず、「オシャレ」「ダサい」の話は分かりやすかったですね。具体例が提示され、「オシャレとは主観的なものであって評価の基準にはならない」ということが説明されました。

そしてデザイナーの資質として大事なのは、「他人の“好み”に振り回されてはダメ」「他人の意見に振り回されず自分の中の個性(オシャレ)を完遂」すること、なのでした。

ただし同時に、学園長は「“ダサい”“タブー”に怯えて70億人に嫌われない服を作るくらいなら、69億人に嫌われても、1億人が「大好き!」って言う服を作りなさい」とも言います。自分自身ではない以上、この1億人だって「他人」のはずです。このままでは矛盾に満ちた発言になってしまいます。

しかし、これを整合的に解釈するならば、「デザイナーは、自分自身のオシャレを、そしてそれを好きだと言ってくれる人のことを信じろ」ということになるでしょう。自分自身のオシャレの基準で作り上げたパジャマに対する自信が揺らいだ際に、千雪の「これ好きだよ」という言葉に励まされた育人は、まさにデザイナーの資質を試されたのでした

イ.学生審査員の役割

ところで、「他人の意見に振り回されず自分の中のオシャレを完遂すること」が真のテーマだったことから、学生審査員の役割が明らかになります。

学生たちは「審査員」という肩書から「オシャレさを審査すること」だと自身の役割を解釈し、競争相手である他人の作品には辛辣な評価を下します。が、真のテーマは「オシャレさ」ではない以上、この評価の内容は関係ありません。もちろん、「審査する側が審査されている」という訳でもありません(したがって、育人が審査員として行った好意的な評価も審査の上では特に意味はありません。人間関係にとっては大事ですが)。

要するに、学生が互いに審査員になるという形式のために「審査会は蹴落とし合いである」という心理状態に陥った上で辛辣な評価を下し、審査される側の「自分の中のオシャレ」を揺らがせることこそが学生審査員の役割だったのです。

ウ.面白い服

上記の発言の最後の方で、学園長は、「デザイナーが服を作る基準に“オシャレかどうか”……なんかよりもっと適した言葉がある。“面白い”か“面白くない”か」と言っています。

同じく「69億人に嫌われても、1億人が「大好き!」って言う服を作りなさい」との発言の中で「好き」という基準も言及されているので、「好き」と「面白い」の違いが気になるところです。

ところで、先ほどの解釈によれば、「自分自身のオシャレを、そしてそれを好きだと言ってくれる人のことを信じること」がデザイナーの資質でした。「オシャレ」主観的なものである以上、それについて「好き」と言うことも主観的なはずです

そうすると、「オシャレ」や「好き」の内容が主観的である以上は評価の基準になり得ません。しかし、それとは裏腹に、教師陣は18名の中から1~3位の順位付けを行っているのです。ということは、順位付けには何らかの客観的な基準があったはずであることからすれば、この順位付けは「面白い」の程度によって決められたものだったのです。

そう考えてみると、学生審査員の役割審査される側の「自分の中のオシャレ」を攻撃してそれを揺らがせること教員審査員の役割「面白い」の順位を付けること、ということになります(遠は両方を兼ねていましたね)。

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育人は3位に

(3)育人の資質

育人は、手直しをせずに他の一次予選通過者と同じく「自分の中のオシャレ」を貫いた点、そして育人の「オシャレ」を「好き」と言ってくれた千雪を信じた点において、デザイナーの資質を持っていることが評価された訳ですが、学園長は彼についてこう言っていました。

セイラちゃん、ストライプ好きなのよねぇ。だから、もし狙ってたとしたら、彼、着る相手の嗜好を読み取る素晴らしいものがあると思うの。

 

 

3.デザイナーの資質――お金の問題

ところが、デザイナーの資質について、育人は綾野遠から厳しい言葉を投げかけられてもいます。

「ねぇ、育人はさ、予選の結果、満足してる?」

育人「どう……なんですかね。満足はしてないと思います。でも……」

「甘いよ。材料費、なんでちゃんと使わなかった? そんなの生地を見ればすぐに分かるよ。だから育人は負けたのが仕方がないって思ってる?」

育人「それは絶対違います!」

「仮に違ったとしても、よろしくないね。個人の都合でデザインを最高の状態で再現することを後回しにしたのは、服を作る者として真摯じゃない。はっきり言う。今回の敗因は、生地選びを渋ったからだ。そこにたとえどんな理由があったって、客には一切関係ない」

育人「仕方ないじゃないですか。だって、あのお金は妹たちの……。僕は長男だ! 妹たちのお金に手を付けなきゃならないくらいなら、僕は……!!」

「『僕は』ね。その続きを言わないところは偉いよ。ごめんね。こんな説教をするつもりじゃなかったんだ」

(1)遠の言葉の意図

このようにデザイナーの資質について育人を責める遠の意図は、もちろん自身が立ち上げるブランドに育人をリクルートするためということもあるはずですが、やはりそれ以上に、育人に対して発破を掛けることにあったはずです。

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「負けちゃった、か……」

育人は、順位が発表されたとき「負けちゃった、か……」とつぶやき、心に「おめでとうございます!」と祝われた際には、「ですよね。こんなにいい結果になるなんて思ってもみませんでした」と、あまり悔しそうな様子ではありませんでした。木崎香留や江田龍之介が順位発表の際に感情を露わにしたのとは対照的です。

きっとこのような悔しさや向上心があまり見られない育人を見て、遠は上記のようにデザイナーの資質を説き、育人から悔しさと向上心を引き出したのだと思われます。

(2)「僕は……!!」の続き

育人の「僕は……!!」の続きが気になるところです。「妹たちのお金に手を付けなきゃならないくらいなら」という前からの続きを踏まえれば、「僕はデザイナーになることを諦める!」みたいな感じになるのでしょうか。

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「『僕は』ね。その続きを言わないところは偉いよ」

しかし、その後の「『僕は』ね。その続きを言わないところは偉いよ」という遠の言葉との繋がりが難しいところです。いったい何が「偉い」のでしょうか? 「育人自身の夢であるデザイナーという職業を否定することはしなかった」ことが「偉い」ということなのでしょうか

あるいは、言霊信仰の観点から言えば、「妹たちのお金に手を付けなきゃならないくらいなら、僕はデザイナーになることを諦める!」と言葉に出してしまえば、「たとえ妹たちが許してくれても、そういう状況に陥ったときにデザイナーになることを諦めなければならなくなる」と自分自身を縛る言葉を育人が言わなかったことが、デザイナーになるためならば何でもする遠にとっては「偉い」ということだったのでしょうか

皆さんはどう解釈しましたか?

(3)柳田の回答

ところで、第4話の最後で、遠が育人の引き抜きを柳田に提案していましたね。どうやらアニメでは省略されたようなので、ここで原作の柳田の回答を紹介すると、以下のような返答でした。

あいつはあいつだ。俺の物でも……ましてやテメェの物にもならん。

 

 

4.千雪の努力

前回(第5話)では、室内でヒールを履いたりストレッチをするなど千雪が家で努力を重ねる様が見られましたが、今回は、宣材写真を撮ったり営業を掛けたりする様が見られました。

宣材写真の費用が自分持ちというのは(モデルをしているとはいえ)高校生にとってなかなか厳しい世界です。

また更に凄いのが、書類審査に全落ちしても直営業を行い、ようやく取り付けたアポでも、新沼の代わりの赤坂から「向けられない視線、冷たい言葉」を浴び、それでも自己アピール攻勢を続ける千雪のメンタルの強さには脱帽するしかありません

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「向けられない視線、冷たい言葉……いつも通り……引き締めろ!」

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身体を傷つける可能性があるためにモデルが忌避する場所であっても、自分なら撮影できることをアピールする千雪

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「また電話してください」

 

 

5.「友達」

宣材写真を撮る際、千雪は衣装の一つとして、育人がミルネージュのオーディションを受ける千雪のために作った服を着ます。

「その服、どうしたの?」と問われた千雪は、それまでの撮影時とは異なり、モデルらしからぬ笑顔を浮かべて「友達が作ってくれました」と答えました。やはりこれは「ランウェイで笑って」に通じる笑顔ですよね。

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「友達が作ってくれました」

さて、この笑顔もですが、「友達が作ってくれました」という言葉も興味深いところです。第6話の冒頭で、千雪は同級生に対して育人のことを「友達ではないけど」と説明していました。おそらくこの矛盾は、千雪の同級生に対する変な意地ないしはプライドのためです(そのわりには育人は「尊敬する人」であるなどと、わりと恥ずかしいことを言っていましたが)。

アニメでは省略されたのですが、原作では、カメラマン(美和っち)に「その服、どうしたの?」と問われた千雪は、「なんて答えよう。宿敵? 戦友? 〔同級生の〕2人には否定しちゃったしなぁ。でも、美和っちだし、変な伝え方できないし――まぁいっか」と考えをめぐらせた後、「友達が作ってくれました」と答えたのでした。

ここからは、千雪が育人との関係をどう捉えているのかを伺えます。すなわち、千雪にとって育人は、「宿敵」でも「戦友」でもなく、「友達」なのです。とはいえ、重要なのは、千雪がこの「友達」の中にどのような意味を込めているかです。たとえば、

「都村君には負けたくないでしょ」(第3話)

「こんな仕掛けしちゃって。あいつめ、ヘタレのくせに。私が引っ張って助けなきゃ、心もとない男子のくせに」「都村君のくせに、君ってヤツは、ムカつくくらい私の窮地を救っちゃうんだ」(第3話)

「育人のこと、結構、尊敬してるんだ」(第6話)

など、千雪による育人評はそれなりにあります。これを見ると、やはり「友達」の中にはその言葉以上に豊かな意味合いが込められていそうです。これからの千雪による育人評、そして育人による千雪評が気になるところです。

 

 

 

さて、次回は、第7話「存在感(オーラ)」です。ついに藤戸千雪と長谷川心が邂逅することになりました! 果たして、撮影はいったいどうなるのでしょうか?

 

第7話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

ブログを始めてから半年の分析と感想――各種データとともに振り返る

 

 

2020年2月9日をもって、2019年8月9日に当ブログを始めてから半年が経過しました。ということで、この半年を振り返りたいと思います。

ちなみに、ブログを始めてから1か月の感想・分析については、以前に書いた記事があります。

irohat.hatenablog.com

 

 

1.各種データ

結論から言えば、半年間の公開記事数は77本(この記事を除く)、登録読者数は162人、総アクセス数は約36,000アクセスということになります。が、この数字には一種のカラクがあるので、以下、読んでみてください。

 

(1)記事数

この記事を除けば、現在、半年で77本の記事を書きました(一旦公開した後、翻意して削除した記事はありません)。月ごとの内訳は以下の通りです。

2019年8月:24本

2019年9月:10本

2019年10月:8本

2019年11月:10本

2019年12月:10本

2020年1月:12本

2020年2月:3本(2月8日まで)

最初の一月は1日1本の記事をアップしていましたから、これを例外とすれば、おおよそ月に10本程度が限界のようです。

ちなみに、ちゃんと計算すると、

77本÷6月=月に約12.8本

約12.8本÷4週=週に約3.2本

となりますが、現在の月に10本程度のペースだと、週に2本、調子の良いときに週3本くらいになります。

記事を書くには、ネタがあるかどうかも重要ですが、記事を書くための時間ややる気も不可欠なので、毎日のように記事をアップしている方に対しては、まったく尊敬するしかありません。

 

(2)登録読者数とアクセス元

このブログに登録された読者数については、いちいちその経過を記録していないのでザックリとした数字になりますが、開始1か月で96人、半年で162人になりました

最近は「〇〇さんが読者になりました」という通知をあまり見ないので、これくらいで頭打ちなのかなぁと思っています。

そもそも、後述のように、ブログに書く記事の内容が変遷している(つまり、雑多なテーマの記事を集めたブログである)ので、読者になろうとする人が少ないと思います。

さらに言えば、どちらかといえば検索からブログにアクセスしてくる人を念頭に置いた記事を書くつもりのブログなので、登録読者数の頭打ち感は気にしてもしょうがないと割り切っています(もちろん、はてな登録読者数が増えるに越したことはないのですが)。

実際、アクセス元の約7割がGoogle検索、約2割がYahoo!検索、約1割がはてな関連やTwitterなので(Twitterはもう少し増やしたいところです:https://twitter.com/irohat1)。

 

(3)スター数

スター数については、これも、はてなアカウント保持者しか付けられないので、評価に迷うところです。とはいえ、数字は明らかです。

8月中旬から10月上旬にかけては何故かほとんど恒常的に二桁に達していたのですが(最高で78個:茅原クレセ『ヒマチの嬢王』――「キャバクラ」×「地域振興」のお仕事マンガ! - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ )、最近は10に達せば万々といったところでしょうか。

 

(4)アクセス数

半年間の総アクセス数は、約36,000アクセスです。1月あたり約6,000アクセス1日あたり約200アクセスという計算になります。

しかし、この数字には注意が必要です。というのも、半年間の合計約36,000アクセスのうち、約18,000アクセスは始めてから1か月の間の数字なのです(詳しい経緯はこちら:ブログを始めて1か月の感想 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ )。

ということで、一時的な例外状況を除外して考えると、

(36,000-18,000)÷5月=1月あたり約3,600アクセス

約3,600アクセス÷30日=1日あたり約120アクセス

ということになります。最近は平均してこれをやや下回るくらいです。もっと増やしたいですね。

 

(5)アクセス先――人気記事は?

私のブログのアクセス数の多い人気記事には、4つの種類があります。適当にネーミングすれば、ラノベジャンル論記事タイミング型記事保存版型記事マイナー記事の3つです。

ア.ラノベジャンル論記事

ラノベのジャンル論についての記事は鬼門で、炎上気味にアクセスが増えました(リンク先で紹介しているような記事のことです:ブログを始めて1か月の感想 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ )。

最近はこれらの記事へアクセスする人も少なくなくなりましたが、再びこの手のジャンルの記事を書けばアクセスは増えると思います(が、あまりその気にはなれませんね)。

イ.タイミング型記事

アニメの放送直後や漫画・ラノベの発売直後に公開した感想記事は、アクセス数が増える傾向にあります。が、基本的に時期モノなので、時期が過ぎればアクセス数は減少します

漫画やラノベの感想記事もそれなりですが、やはり、アニメの感想記事は競争が激しい(同種の記事が多い)ので、基本的には、「〇〇 △話 感想」と検索したときに、検索上位(特に検索1ページ目)に入り込むには、なるべく早く記事を書いて公開しなければなりません(たとえば、「ランウェイで笑って △話 感想」とGoogle検索したときに、5chやTwitterの実況のまとめといった、執筆・編集の時間が少なくて済みそうな記事、あるいは読むのが手軽な記事が検索上位に並んでいます)。

タイミング型記事は、労多くして功少なし、といったところでしょうか。

ウ.保存版型記事

保存版型記事というのは、「〇〇のおすすめ10選」「△△の理由とは」みたいな、公開から期間が経過してもその内容が時代遅れになりにくく、持続的にアクセスされる記事のことです。私のブログの場合、以下の記事が人気のようです。

女性が主人公のライトノベルはおもしろい!――おすすめすべき理由を考察してみた - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

女の子が主人公のアニメおすすめ10選‼ - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

どちらも、「女性が主人公」という点で共通しています。おそらく、「女性が主人公」という切り口で書かれた競合記事が少ないからだと思われます。「女性が主人公のおすすめラノベ10選」とか「百合ライト文芸おすすめ10選」みたいな記事を書きたいなあ~とずっと思っているのですが、まだ書けていません(というか、これを書けるほど読めていません)。

エ.マイナー記事

マイナー記事というのは、本来ならばタイミング型記事に分類されてしかるべき内容だが、競合する相手があまりにも少なく検索1位となってしまったために、アクセスを集めるようになった記事のことです。

私の場合、漫画『かげきしょうじょ!!』の第8巻の感想・考察記事がこれに該当します。この記事を公開してからずっと、基本的にアクセス数トップの地位にいます。

『かげきしょうじょ!!』第8巻の感想・考察――渡辺さらさの出生の秘密に迫る! - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

Googleで検索すると、「かげきしょうじょ 8巻 感想」ならば3位ですが(1位、2位は「読書メーター」)、「かげきしょうじょ 8巻 考察」1位、さらに「かげきしょうじょ 考察」「かげきしょうじょ ネタバレ」でも1位になっています。

この『かげきしょうじょ!!』という漫画は大変面白いのですが(紹介記事はこちら:斉木久美子『かげきしょうじょ!!』――歌劇に夢見る少女たちの青春を目撃せよ! - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ)、白泉社の「MELODY」という隔月刊の少女向け漫画雑誌に掲載されており、「週刊少年ジャンプ」や「週刊少年マガジン」はもちろんその他の少年誌・青年誌に掲載の漫画に比べると、やはり残念ながら知名度・読者数という点で劣ります。そして、「漫画の読者数が少ない=記事を書く人が少ない」ということになるので、結果的に、このような人気のマイナー記事になったのだと思います。

 

 

2.記事の内容の変遷

記事の内容は変遷しています。 ただし、「小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ」というブログ名の範囲内に収めています(そう考えると、この広範なブログ名は何とも覚悟がありませんね)。

 

(1)ラノベ・漫画

ラノベや漫画についての紹介・感想・雑考を記した記事は、ブログを始めて2か月間(8月~9月)に集中しています。最近はほとんどラノベや漫画の記事をアップできていなくて心苦しいところです。

ライトノベル カテゴリーの記事一覧 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

漫画 カテゴリーの記事一覧 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

 

(2)アニメ

ラノベや漫画に取って代わって増えたのがアニメの感想記事です。

アニメ カテゴリーの記事一覧 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

ア.総評系の感想記事

1話を見た感想、前半(6話まで)を見た感想、最終話までを見た感想など、視聴したアニメすべてについて一言ずつ程度の感想を書いた記事は、手軽なので毎クール書くようにしています。

2019夏アニメ総評①――マイベスト5選 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019夏アニメ総評②――ひとことコメント - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019秋アニメ1話目一言コメント - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019秋アニメ前半一言コメント - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019秋アニメ総評①――ひとことコメント - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019秋アニメ総評②――マイベスト5選 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2020冬アニメ1話目ひとことコメント - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

イ.単発的な感想記事

毎話の感想は大変なので書けないのですが、書きたいという気持ちが高ぶって、単発的に書いた記事はいくつかあります。

アニメ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」11話の感想・考察 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

アニメ「荒ぶる季節の乙女どもよ。」12話の感想・考察 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

アニメ「俺を好きなのはお前だけかよ」第9話のちょっとした感想 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

アニメ「バビロン」第9話を見てちょっと興奮した件 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

ウ.紹介・まとめ記事

初期のころはアニメそれ自体の紹介・まとめ記事を書いていました。

女の子が主人公のアニメおすすめ10選‼ - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019年秋に放送予定のラノベ原作アニメ一覧――女性が主人公のアニメは2本! - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

これから放送される予定の「女性が主人公」のラノベ原作アニメ一覧――秋2本、冬1本、時期未定3本 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

最近は、アニメに関する動画やキャプチャを紹介したりまとめた記事が多いです。

2019夏アニメで購入したOP・ED曲 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

アニメ「女子高生の無駄づかい」の各話予告動画は見ましたか? - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019秋アニメで購入したOP・ED曲 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2019アニメのOP・ED曲の年間マイベスト10選 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

アニメ「戦×恋(ヴァルラヴ)」全12話のミッション(デート)一覧【画像付き】 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

「荒野のコトブキ飛行隊」の第1話&外伝が無料公開されているのはご存知ですか? - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

エ.毎話の感想記事

毎話の感想記事を書くのは、結構大変なので最初のころはやっていなかったのですが、最近はしています。

2019秋クールは、いきなり感想を書くのは難しいのかなと思ったので、ソフトテニス経験者ということで、アニメ「星合の空」について、ソフトテニスの解説記事を書いていました。

星合の空 カテゴリーの記事一覧 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

同クールに、アニメではないですが、漫画原作ドラマのあおざくら 防衛大学校物語についても記事を書いていました。同時期に2本並行は大変でした。1クールに1本が限界だと悟りました。

あおざくら 防衛大学校物語 カテゴリーの記事一覧 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

現在、2020冬クールでは、アニメ「ランウェイで笑って」の各話の感想記事を書いています。

ランウェイで笑って カテゴリーの記事一覧 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

 

(3)ドラマ・映画・小説の記事は少ない

アニメに比して、ドラマ・映画・小説の記事は少ないです。

ドラマは、前掲の「あおざくら」のほかには書いていません。本当は、2019秋クールに見たドラマの感想をまとめた記事を途中まで書いていたのですが、結局書ききれず、またタイミングも逃してしまったのでボツにしました。

映画については、そもそもこのブログを始めてから映画館で見たのは1本だけです。しかし、ちゃんと記事にしました。

今さらながら映画「屍人荘の殺人」を観てきたので感想を - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

小説(ラノベ除く)については、このブログを始めてからあまり読めていません。去年の11月くらいに石持浅海作品をまとめて読んだので記事を書きたかったのですが、結局書かずじまいです。が、別の作者の作品についてはなんとか記事にしました。

彩藤アザミ『昭和少女探偵團』――戦前昭和レトロで百合なミステリーはいかがですか? - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

 

(4)その他の記事

その他、節目に記事を書いたり気まぐれに記事を書いたりしています。

ご挨拶とブログの運営方針について - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

ブログを始めて1か月の感想 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

新年のご挨拶と抱負――2020年の楽しみにしているアニメ・映画・ドラマ - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

2020年のうちに映像化が決定されるのではないかと期待している5作品 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

私の好きなイラストレーター - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ

 

 

3.今後の方針

 

(1)全体的な方針

記事の公開頻度については、最低週1本が適正かなあと考えています。まったくの趣味で始めたものなのに、心労になるようなノルマを課すなんて笑えませんからね。アクセス数も、あまり気にしても精神衛生上良くないですし。

あと、関連して言えば、はてなブログを無料版からPro版に移行する予定はありません。料金を払うほど、特に不便はしていないので(読者の方に不便があったらごめんなさい)。

 

(2)個別的な方針

アニメについては、良い作品があれば、毎クール1作品に限定して、各話の感想記事を書いていきたいです。

ブログ名に反しないよう、ラノベ、漫画、小説については、もっと記事を書きたいのですが……(アニメを見る本数を減らすべきなのかもしれません)。そもそも、積読を消化していかなければなりません。

 

いずれにせよ、なんとか半年間続けることができています!

読者の皆様のおかげです! 今後ともよろしくお願いします!!

 

 

アニメ「ランウェイで笑って」第5話の感想・考察――長谷川心の夢・才能・需要をめぐる葛藤

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第5話の感想・考察記事です。

第4話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#(第5弾登場!)

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第5話「それぞれの流儀」

相当する原作のエピソード:第4巻第23話「コンプレックス」、第27話「アイデンティティー」、第28話「其々の流儀」、第29話「お宅訪問」(第25話「心の支え」、第26話「弱虫の決意」のほとんどのエピソードは、省略もしくは次話以降へと後回しにされています)

日本一の服飾大学・芸華大のファッションショーの予選に挑戦することになった育人。予選をくぐり抜けた者だけがショーに参加する資格を得られる。育人は共に柳田の元で働く長谷川 心が複雑な事情を抱えていることを知り、「一緒に予選に挑戦しないか」と誘う。二人で参加した予選当日、発表された課題は育人にとって不利な課題で…!?

 

 

1.引き抜きはどうなった?

第4話は、綾野遠が育人の引き抜きを柳田に提案したところで幕切れとなりましたが、第5話ではその続きが描かれていませんでしたね! 芸華祭予選の行方も気になりますが、こっちも気になりますね!

 

 

2.綾野麻衣の言葉

長谷川心が初めてファッションショーにて綾野麻衣にかけられた言葉は、「いつも街を歩くように普通に足を動かしなさい。あとは勝手に私の服が歩かせてくれるから」でした。この言葉は、「服は人を変えられる」という育人の信条に共通するところがありますね。

そういえば、ふと思ったのですが、モデルをしていなくても、服によって気持ちが変わることは皆さん経験していますよね? 私服(カジュアル・ウェア)だと実感することはあまりないかもしれませんが、各種の制服(ユニフォーム)スーツ(フォーマル・ウェア)だと、特に実感できます。

皆さんの多くが腕を通した経験のある学校の制服は、その学校の一員としての実感を持たせるという機能を持つ、ということが学校の制服の必要性を語る際には言及されています。また、入学式や卒業式あるいは成人式で、スーツや振り袖を着ることは、着た人に節目の行事であることの自覚と緊張感をもたらします(派手な着物を着て成人式でやんちゃする人たちは、それこそあの服装によって気が大きくなっているという一面もあるのでしょうね)。裁判官・警察・自衛隊・医者・看護師・CAなどの職業上の制服は、周りの人が一見して判別しやすいという機能はもちろんですが、きっと着た人にその職責の自覚を持たせるという機能も持っているはずです。

この作品を通して、服を見る目に新たな視点が加わりました!

 

 

3.長谷川心の葛藤と育人

心はマネージャーから手痛い言葉を投げかけられました。

そいつはうちの事務所のホープ。身長181cm、股下93cm。うちの事務所の宝だ。それが気の迷いでこんな所に逃げられても困る。無理だよ。お前はデザイナーになんかなれない。お前はモデルをやりたくない当てつけに、デザイナーに憧れているフリをしているだけだから。失礼だろ? 本気でデザイナーを目指している人間に。

「無理だよ」という――千雪が言われた、そして千雪が育人に言ってしまった――この言葉に、心はまともに反論できませんでした。この言葉に動揺した心は、「マネージャーの言ったこと、モデルが嫌じゃなかったら、デザイナーになりたかったか分かんないもん」とまで言ってしまいます。

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「マネージャーの言ったこと、モデルが嫌じゃなかったら、デザイナーになりたかったか分かんないもん」

しかし、育人は、服飾についてあれこれ書かれた心のノートを見て、服飾にあふれた室内を見て、デザイナーになりたいという心の夢が真摯なもので、彼女がそれに向かって努力していることに気付きます。

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心の部屋

そして心に芸華祭のファッションショーに出ることを提案します。その際、育人はこう言っていました。

えっと、うまく言えないんですけど、やりたいことはやるべきで、認めてもらうには自分から一歩踏み出す。そう、尊敬する人から学びました。

一見すると、この尊敬する人が誰だか分かりにくいですが、これは千雪のことです。「やりたいことはやるべきで、認めてもらうには自分から一歩踏み出す」ということは、パリコレモデルになるためにウォーキングの練習をしたりオーディションを受け続けたりなど、千雪が実践してきたことですし、藤戸社長に雇ってもらうために「ここで動かなかったら何も変わらないよ」「デザイナーになることを諦めてほしくない」と千雪に言われた育人自身が実践してきたことでもありました。

このようにしてみると、どんな困難があっても夢を追い続ける千雪の信念が、育人に伝わり、そして心に伝わっていることが分かります。

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「やります! 私も出ます、芸華祭!」

ところで、原作の第25話~第26話に相当するエピソードが省略されていました。ここでも心の葛藤が描かれているのでぜひ原作第3巻をご覧になってください!

  

 

4.長谷川心と藤戸千雪

(1)天職

「やりたいこと(夢)」「できること(才能)」「求められること(需要)」の3つが重なり合うところが「天職」、なんて言われることがあります。

育人にこれを当てはめてみると、現段階の育人は、おおよそこの全てを兼ね備えており、プロのファッションデザイナーになるべく邁進していますね。

それでは、これをに当てはめてみます。心は、デザイナーになりたいけれど、(少なくとも現段階では)デザイナーの才能は見られず、反面、身長181cmという生まれ持った才能によってモデルの仕事ができ、またそれを求められています。モデルという仕事に対して、「才能」「需要」はあるけれど、それは「夢」ではない、ということになります(反面、デザイナーという仕事に対しては、「夢」はあるけれど、「才能」も「需要」も不確かです)。

そして、今度はこれを千雪に当てはめてみます。千雪は、パリコレモデルになることが夢だけれども、158cmという生まれ持った低身長には、モデルとしての才能も需要もありません。モデルという仕事に対して、「夢」はあるけれど、「才能」も「需要」もない、ということになります。

こうしてみると、千雪と心は対照的な存在です。モデルを「夢」として掲げている千雪が欲しくても手に入れられなかった「才能」「需要」を心は生まれ持っていますが、モデルは心の「夢」ではないのです。今後、この2人が「夢」と「才能」「需要」の相克にそれぞれどう向き合ってゆくのか楽しみですね!

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身長181cm、股下93cm。

(2)罪な男

「ランウェイで笑って」は、基本的にお仕事漫画(アニメ)なのですが、長谷川心の登場によって、(メインキャラクターの男女比が不均等という意味で)少しだけ恋愛的な要素が入りました。育人は、千雪にも心にも熱い言葉を投げかけて彼女らの心を動かしてきた女たらしな一面がありますからね(笑)

恋愛的要素を抜きにしても、千雪と心は、それぞれ育人のことをパートナー的存在だと思っていますから、育人に浮気相手がいると知ったときどうなるんでしょうか? しかも、片や158cmのモデル志望、片や181cmのデザイナー志望ですから……。そのうち2人は邂逅することになります。お楽しみに!

 

 

5.セイラについて

セイラが長々と喋っているところを初めて見ましたが、あの喋り方、ローラさんっぽくないですか? というか、彼女の性格も含めて原作者はローラを念頭にキャラ設計したのではないでしょうか?

ところで、この前、「モニタリング」にローラさんが出演していて、マスク姿に女子高生の制服を着ていたのですが、その小顔っぷりとスタイルの良さ(特に股下の長さ)に驚きました。ちょっと調べてみると、あんなに知名度・人気があっても、身長が165cmしかないために、パリコレや東京コレクションへ出演したことはないようでした。改めてモデル業界の厳しさが分かります。

ちなみに、パリコレに出たことがある日本人女性の著名タレントの身長は、たとえば、山田優さんは169cm森泉さんは173cmさんは174cm冨永愛さんは179cm(!)だそうです。

 

 

6.「それぞれの流儀」

東京コレクションでフィッターとして柳田のチームに参加し、千雪らに怒っていたあの女性が再登場しました!

木崎香留は、「あいつの足を引っ張るとか、そういうことをしたいわけではない。ただただ真正面からねじ伏せたいだけ」と、

江田龍之介は、「ここにいる奴ら全員、敵だぞ。なのに平気でお礼言える能天気な神経とか。甘いんだよ、あんた」と、

育人は、「馴れ合いと感謝は違う」「ただ、『かわいそう』って言葉だけは言わせっぱなしにさせない」と、

芸華祭ファッションショーの予選に挑む姿勢は、まさにサブタイトル通り、「それぞれの流儀」でした。予選の結果がどうなるか気になりますね!

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木崎香留と江田龍之介

 

 

7.再会

実は、生地探しの際、原作では育人はある人と再会します。気になる方は原作第3巻第28話をご覧になってください!

 

 

8.千雪の努力

健全な思春期の男子にとって千雪の薄着姿は目に毒だったようですが、千雪の家での過ごし方には彼女の努力が溢れていました。室内でのヒール、日課のトレーニングなど、千雪の努力する姿が具体的な形で見れたのは嬉しかったですね!

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室内でヒールを履く千雪

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目のやり場に困る育人

そして千雪は自身の目指すべき姿について語りました。

デザイナーには作った服を“こういう人が着る”って理想の人物像があって、それをランウェイ上で演じるのがモデルの仕事。もちろん、圧倒的個性で勝負するモデルもいれば、歩幅、手の振り、腰の入り、肩の揺らぎ、場合によっては頭の動きまでコントロールして、デザイナーの理想に近づこうとするモデルもいる。

でもね、セイラさんが本当に凄いのは、その演技をどんな高さのヒールでも全く同じように歩けることなの。山ほどトレーニングして身に着けたんだって。なんでか分かる? 171cm。ショーモデルとしては小柄な身長だからだって。小柄で世界に通用してる。私が目指すべき道はセイラさんにあると思うの。

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「私が目指すべき道はセイラさんにあると思うの」

そう言って千雪が見せたウォーキングを、育人は次のように表現しています。

廊下から伸びた絨毯の中央、何度も刻まれた直線のくぼみを寸分も違わずなぞって行く。モニターに映る一流のモデルと目の前で躍動する158cmのモデルの演技に違いを……見つけられなかった……

このシーンは、オーディションやファッションショーといった特別な場ではなく、また物語上のターニングポイントという訳でもないのですが、このような千雪の努力、そしてそれに感化される育人を見ると、なんだかゾクゾクしました! 

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「違いを……見つけられなかった……」



9.「顔、疲れてる。仕事頑張り過ぎじゃない?」の意図を探る

藤戸家からの帰り際、育人は顔に手を添えられて「顔、疲れてる。仕事、頑張り過ぎなんじゃない?」と千雪に言われました。

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「顔、疲れてる。仕事、頑張り過ぎなんじゃない?」

なんだか見覚え、聞き覚えはありませんか? 実は、それに先立つ病院の場面で、育人は顔に手を添えられて「顔、疲れてる。仕事頑張り過ぎじゃない?」同じセリフを母親に言われていたのです!

ところが、原作では、この母親のセリフは、「育人……クマできてる」でした。ということは、アニメ制作者は何かの意図があって原作のセリフを改変した訳です。しかも、アニメ化に際しては省略が多いのに、特にストーリー展開の上では残す必要性がない病院の場面を省略しなかったという点も指摘できます。この改変の意図は探らねばなりません。

色々な解釈が可能だと断った上で、自分なりの見解を示すとすれば、千雪と母親の言動の共通性からは、千雪にとっての育人との距離感が推し量れます。すなわち、「千雪にとって育人は家族みたいな存在である」と千雪は考えているように思います。これは、薄着で育人と接しても千雪自身は気にしていない様子だったことと整合的です。つまり、千雪は育人のことを男兄弟のごとき存在だと考えているのでしょうか。

しかし、一口に「家族みたいな存在」といっても、「夫婦」という性差に基づく関係性と、「親子」「兄弟姉妹」といった性差に関係のない関係性とがあります。千雪の見せた言動が、「夫婦」のような距離感を示唆しているという解釈も可能なのです。つまり、相手のことを異性として見ているけれども、夫/妻のように当たり前の存在だからあのように接した、とも捉えられるのです(それとは対照的に、育人は薄着姿の千雪を「当たり前」とは思えず、かなり異性として意識していました)。

難しい問題です。皆さんはどう考えますか?

 

 

 

さて、次回は、第6話「優越感と劣等感」です。育人が思いついたアイデアとは? 予選の結果やいかに?

 

第6話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

「荒野のコトブキ飛行隊」の第1話&外伝が無料公開されているのはご存知ですか?

 

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荒野のコトブキ飛行隊

2019年冬に放送されたアニメ「荒野のコトブキ飛行隊」ですが、実は、第1話特別編YouTube上で無料公開されています。

特別編は、本編の解説動画、外伝「大空のハルカゼ飛行隊」「ナツオ整備班長の戦闘機講座」の3種類あります。

放送を見てない人は、まずは第1話から! 以下、あらすじ。

一面に広がる荒れ果てた大地で、 人々は物流・交易を行い、助け合いながら生きていた。 雇われ用心棒の“コトブキ飛行隊”は、 厳しいが美しい女社長、頼りない現場の指揮官、職人気質の整備班長など 個性的な仲間とともに、空賊相手に大立ち回り! 今日も“コトブキ飛行隊”は 隼のエンジン音を響かせて、 大空へと翔けてゆく――。

TVアニメ『荒野のコトブキ飛行隊』公式サイト

 

 

1.第1話

www.youtube.com

 

 

2.解説動画

イジツ見聞録~世界編~

www.youtube.com

 

イジツ見聞録~戦闘機編①~

www.youtube.com

 

イジツ見聞録~戦闘機編②~

www.youtube.com

 

 

 

3.「大空のハルカゼ飛行隊」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座」

「大空のハルカゼ飛行隊01」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座12」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊02」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座13」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊03」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座14」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊04」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座15」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊05」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座16」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊06」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座17」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊07」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座18」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊08」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座19」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊09」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座20」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊10」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座21」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊11」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座22」

www.youtube.com

 

「大空のハルカゼ飛行隊12」&「ナツオ整備班長の戦闘機講座23」

www.youtube.com

 

 

その他、公式チャンネルは動画が充実しているみたいです!

『荒野のコトブキ飛行隊』公式YouTubeチャンネル コトブキちゃんねる - YouTube

 

スマホゲーム「荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ」も配信中!

荒野のコトブキ飛行隊 大空のテイクオフガールズ!(コトブキ) | バンダイナムコエンターテインメント公式サイト

 

そして、つい先日発表されたところによれば、2020年秋「荒野のコトブキ飛行隊 完全版」劇場公開されるそうです!! 「TVアニメ全12話を再構成した総集編に、新作エピソードを加えた完全版」だそうです! 楽しみです!!

https://kotobuki-anime.com/news/detail/?p=1345

 

 

アニメ「ランウェイで笑って」第4話の感想・考察――好きの先の何か、そして兄妹

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第4話の感想・考察記事です。

 

第3話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#第3弾登場!)

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第4話「若き才能たち」

相当する原作のエピソード:第2巻14話「都村家の日常」、第3巻第15話「好きの先の何か」、第16話「決意のお話」、第18話「無限に広がる世界」、第19話「瞬間」、第20話「楽しくなりそう」、第21話「トップの資質」、第22話「天賦の才」(第17話「シミュレーション」(育人と千雪のデート回)は丸ごと省略されていました)

千雪に出会うまで、家計のためにデザイナーの夢をあきらめ続けてきた育人。いまだに家族に、柳田の元で働いていることを言い出せず悩んでいた。一方、多忙を極める柳田のアトリエに、助っ人としてトップデザイナーの孫・綾野 遠とデザイナー志望の大学生・長谷川 心がやってくる。遠の卓越した技術を見せつけられた育人は……。

 

 

1.兄妹

第4話は、育人とほのか(長女)の間の葛藤が表面化した回でした。

大学進学をほのかに勧めてきた育人がバイトの給料を差し出したとき、ほのかは「そういうの、いいかんげん止めてよ! いいんだよ自己責任で! いつも育人は自分のことを後回しで夢諦めて就職するのに、そのお金で私だけ進学なんてしたくない! 行きたければ自力で行く。だから育人の助けなんて要らないんだよ。誰かの犠牲の上に夢叶えたって、なんにも嬉しくない」と吐露します。育人を責めるような言葉ですが、育人への優しさが溢れています

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「誰かの犠牲の上に夢叶えたって、なんにも嬉しくない」

ところが、ほのかは勘違いをしていました。育人は、たしかにバイトをしているのですが、「プロのデザイナーの下でデザイナーになるためにバイトをしている」のです。つまり、このバイトは、「夢」と「お金」を両立できるのです。

そのことを聞いたほのかは、「それじゃあずっと、私、空回りして……」とこぼします。しかし、育人がバイトの内容を伝えていなかっただけに、この勘違いは仕方のないことです。

第4話の冒頭の場面で、育人は「柳田って人のところで少し手伝いを……」濁した言い方をします。こんな濁した言い方をした理由の一つは、育人がバイトすることをほのかが嫌がることを育人は認識していたからです(原作第3巻第14話参照)。もう一つの理由は、柳田のところでの手伝いに給料が出るか分からなかったからです。この手伝いが「夢」と「お金」を両立できるバイトならば、育人は自信を持ってほのか達にバイトの内容を伝えられたはずです。しかし、給料が出ないのに手伝いだけをしているとなれば、たとえ将来的にプロのデザイナーになれたとしても、しばらくの間は給料の発生しない時間を浪費することになってしまい、兄として家族を支える責任を果たせません。だから、こんな濁った言い方になってしまったのです。つまり、責めるべきは、ほのかでも育人でもなく、最初に育人に対して給料その他勤務条件について説明しなかった柳田なのです!

ところで、この兄妹間のやり取りの場面の最後で、ほのかの育人に対する呼び方が「育人」から「お兄ちゃん」に変わっていました妹なのに「育人」と呼ぶのは、兄から独立的で、まさにほのかの言ったような「自己責任」(育人は自分の夢を追いかける、ほのかも自力で夢を追いかける)を象徴しているようです。それに対して、「お兄ちゃん」と呼ぶのは、ほのかが自分の夢を追いかけることを妹として兄に支えてもらうことを受け入れたからにほかありません。

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「……お兄ちゃん」

 

 

2.好きの先の何か

デザイナーになりたい理由を問われた育人は、「服を作ることが好きだから」と答えますが、柳田にプロの世界の心得を教えられます。

一度諦められるような「好き」じゃ、この業界続けていけねぇぞ。デザイナーにはお前がまだ知らない仕事が山ほどある。そこに締切、クオリティー、自分のセンスとの闘い。負ければ理不尽な扱いすら受ける。確実に「好き」じゃなくなる日が来る。「好き」の先に何か見つけれねぇと待ってるのは挫折だけだぞ。

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「『好き』の先に何か見つけれねぇと待ってるのは挫折だけだぞ」

まったくもって身に染みる言葉です。そういえば、どこかで「心理学的には趣味を仕事にしない方が良い」なんて言葉を聞いたこともあります。

柳田は、「好き」の先に「野望」が必要だと説きました。柳田の野望は、パリファッションウィーク(パリコレの正式名称)に出ること、そして自身のブランドを世界に定着させることです。その大きな野望を聞いた育人は、パリコレに出ると決意している千雪の姿を見ます。

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育人の野望は……?

そして、家族との葛藤が解消された後、育人は柳田に決意表明します。

僕がデザイナーになりたいのは、やっぱり服を作るのが好きだからです。たしかに僕は世界を掲げられるほどまだ夢を見れない。だけど、僕になって欲しいって言ってくれる人がいる。なりたいって思える僕がいる。着てほしいって思う人たちがいる。僕の原点はやっぱり「服を作ることが好き」なんです。着た人が笑顔になる、そんな服を作れるデザイナーになりたい。そんな願いじゃ野望になりませんかね?

こうして文字に起こしてみると、一回目の回答も二回目の回答も、結局は「服を作ることが好きだから」です。それでは両者の違いとは? 二回目の回答では、「誰かのために服を作ることが好きだから」が意識されてる――のではないでしょうか。

「僕になって欲しいって言ってくれる人がいる。なりたいって思える僕がいる。着てほしいって思う人たちがいる」と言ったシーンで、育人は家族や千雪を思い浮かべていました。単に漠然と「服を作ることが好き」ではなく、「家族や千雪のために服を作ることが好き」なのです。

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「着てほしいって思う人たちがいる」

具体的な誰かを思い浮かべて服を作ることは、とりわけ厳しい状況に置かれたときに、前に進む力をくれます。実際、育人はそうやって数々の場面を乗り越えてきました。ミルネージュのオーディションを受ける千雪のために(第1話)、藤戸社長に再度面会する自分自身のために(第2話)、東京コレクションにて衣装を仕立て直したときは千雪のために(第3話)、育人はそれぞれ具体的な誰かを思い浮かべて、その人のために服を作ってきたのです。

 

 

3.展示会に集う人々

展示会には様々な人が集っていました。

人気モデルのセイラは、千雪の街角スナップをインスタに取り上げた人です(第1話)。

芸人兼映画監督の北谷つとむ

ブランド「Aphro I dite(アプロアイディーテ)」の代表取締役兼デザイナーの綾野麻衣

服飾芸華大学学園長の高岡祥子

百貨店「三ツ峰」銀座本店のバイヤーの柏原史郎

そして、アニメでは登場しなかったのですが、実は原作では、ファッション誌編集者の新沼文世も来ていました!

 

 

4.デザイナーと奴隷

特注生地が使えなくなり柳田が代替案を練っているときの育人と遠の会話です。

育人「シルクであの服を作れるものなんですか?」

「作れるよ。2つやり方がある」

育人「それなら、相談して決めた方が……」

「いや、僕のポリシーでねぇ、デザイナーはトップでいてほしいんだよ。デザイナーが考えるからデザインはデザインたり得る。僕らはデザインの奴隷だから、デザイナーが考えるデザインにスタッフが口を挟むなんて許されない」

遠がデザイナーとスタッフ両方の側面を持っているため少々分かりにくいですが、ここでの遠は――デザイナーとしてではなく――デザイナーの下で働くスタッフとしての心得を説いています。つまり、ここにはトップたるデザイナーと、奴隷たるスタッフしかいない、と。

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「僕らはデザインの奴隷だから、デザイナーが考えるデザインにスタッフが口を挟むなんて許されない」

 

 

5.育人の才能

育人が芸華大でチュニックのシルエットの変化に気付いたことほぼ完璧にパターン(型紙)起こしを行ったことを見て、遠は育人の才能に気付きました。アニメでは省略部分があったので、原作における遠の独白を紹介します(第3巻第22話)。

さっきまでショーゼット(シルク)のバイアス使いにあんなに苦労してた子が、完成形を目にしたら誤差をここまで縮めてきた。あの裁縫スキルじゃ経験値はそこまで積んでない。だとしたら先天性のものだと考えた方がいい。見て――脳でパターン化(設計)できる。ボクが綾野麻衣のもとで20年かけて身に付けた「目」を、彼はすでに持ち合わせつつある。

実は、育人が「見て――脳でパターン化(設計)できる」才能を持っていることについては、原作では既に示唆されていました(原作第1巻第4話。アニメ第2話では省略されていました)。その才能について詳しく説明されているので、ぜひ原作をご覧になってください!

 

 

6.千雪の出番

第4話における千雪の出番はたったの一度だけでした。

しかし、「都村くん」から「育人」へ、「藤戸さん」から「千雪さん」へ、という名前の呼び方変更という青春モノには重大なイベントでした。人の呼び方を変えることは、なかなかにセンシティブで、実際するとなればそれなりの勇気が必要です。

これは愚痴なんですが、ブコメその他学園モノの男キャラって、女性に対して、「お前」呼び、あるいは出会ってすぐに下の名前呼びが異常に多くないですか? (少なくとも私の経験では)現実にはそんな不躾な人は少数派にもかかわらず、フィクションではこういった男キャラが幅を利かせていることに常々違和感を抱いていました。

その点、「ランウェイで笑って」は、丁寧な作品です。「最初からその呼び方だった」とか「なんとなく呼び方が変わった」ではなく、ちゃんと変わったきっかけが描かれていたのです。しかも、シャイボーイの育人からではなく、男気ある千雪の方から提案したっていうのも、キャラに合ってて素敵です。

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シャイボーイの育人と、男気ある千雪

 

 

さて、次回は、第5話「それぞれの流儀」です。育人の引き抜きを提案した遠に対して、柳田はどう答えるのでしょうか? そして育人は? 千雪の出番は?

 

第5話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

アニメ「ランウェイで笑って」第3話の感想・考察――服は人を変えられる

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第3話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

見逃した方は、毎翌月曜深夜26:55から最新話がTVer無料配信されていますので(https://tver.jp/anime)、是非ご覧ください!

第2話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#新衣装登場!)

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第3話「ランウェイで笑って」

相当する原作のエピソード:第2巻第7話「得意でしょ?」、第8話「東京コレクション@バックステージ/都村育人」、第9話「東京コレクション@オーディエンス/新沼文世」、第10話「東京コレクション@ランウェイ/藤戸千雪」、第11話「東京コレクション@ランウェイじゃ笑っちゃいけない」、第12話「東京コレクション@フィナーレ/都村育人&藤戸千雪」、第13話「今日が始まりの日」

育人は柳田に同行し、日本最大のファッションの祭典「東京コレクション」に参加することになる。急遽来られなくなったモデルの代わりとしてやってきたのは、千雪だった――。重なるトラブルの結果、育人が千雪の衣装を縫うことになる。緊張で焦る育人に、千雪は語りかける。二人の初めての「ショー」が、今始まる!

 

 

1.「私を見て」

仕立て直す衣装のアイデアが浮かばずパニックになる育人を振り向かせ、千雪は「私を見て。ねっ、得意でしょ? 私に似合う服作るの」と語りかけます。

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「私を見て。ねっ、得意でしょ? 私に似合う服作るの」

この千雪の言動に二人の関係性が詰め込まれています。「信頼関係」、「相棒」、「ライバル」、「運命の相手」……この関係性を何と言うべきか迷いますが、とにかく、「私でもパリコレに出るのは無理じゃない、君でもデザイナーになるのは無理じゃないって、私のためにも証明したいんだよ」「きっと千雪さんは、すごいモデルになると思います!!」「私も頑張るから、頑張りなよ」と言い合った二人の関係性(第2話参照)が、この危機的な状況になって、千雪により育人を励ます言葉となって表出したのです。

そして、この「二人の関係性」が大事だからこそ、千雪はわざわざ育人を振り返らせて自分の方を見させたのではないでしょうか。育人ではない他の誰かだったら、千雪はその人の肩に手をかけて「頑張れ」と言っただけかもしれません。しかし、千雪は、育人が運命の相手であると確信しているからこそ、育人を振り返らせて、その顔に向かって言葉を掛けたのではないでしょうか。

さらにもう一つ特筆すべきは、そのように育人を励ました千雪の手が震えていたことです。千雪自身も追い詰められているのに、そんな状況下でも育人を励ませる千雪の強さは魅力的というほかはありません。そして格好いいことに、育人は、手を震えさせながらも励ましてくれた千雪の手を握り返して「もう大丈夫です。僕に任せてください」と言うのです。まさに互いが互いを支え合っている状況です。

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「もう大丈夫です。僕に任せてください」

 

 

2.「藤戸さんの緊張が解けるような服にしたいな」

千雪に励まされ持ち直した育人は、千雪の衣装を仕立て直しすべく色々と思案します。その際、最後に、ポツリと「藤戸さんの緊張が解けるような服にしたいな」と独白しています。

育人がどれだけ自覚的に言ったのかは分かりませんが、このセリフには育人の信条が表れています。つまり、第2話で育人は、「服は人を変えられる。僕が服作りを好きな理由の一つです。もう一度、藤戸社長に会うのは怖い。けど、そんな弱さが勇気に変わる服を作ります」と言っていたように、「服は人を変えられる」のです。

アニメ第2話では省略されてしまいましたが、原作ではこの点について育人は次のように言っています(原作第1巻第2話)。

藤戸さん、こんな経験ありませんか? 小学校の入学式の時、親が用意していくれたスーツを着た途端、少し大人になった気がして胸が自然に張れたり、ずっと恥ずかしかったのにドレスを着たら、本物のお姫様みたいに笑って動いて最後まで演じきれたり。そういう服が心を引っ張ってくれる感じ、僕が服を大好きな理由の一つなんです。服は人を変えられる。だから作ってるんです。この震えが止まるような、勇気が、根気が、負けん気が、湧いてくる服を。

このように、育人の服作りの根底には「服は人を変えられる」という信条があり、「藤戸さんの緊張が解けるような服にしたいな」というセリフにはこの想いが溢れているのです。

 

 

3.「早くしてよね」

衣装の仕立て直しが最終段階に入ったときの育人と千雪の会話です。

育人「藤戸さん、この前、僕が言った夢、叶っちゃいましたね」

千雪「えっ、何が?」

育人「藤戸さんにもう一度、僕の服を着てほしいってやつ」

千雪「はあ? 何言ってんの? 叶ってないでしょ? ここは都村君のブランドじゃないじゃん。早くしてよね。あんまり遅いと駆け出しのデザイナーじゃ雇えないくらいのハイパーモデルになっちゃってるから、私」

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「早くしてよね」

実はこの会話、育人の夢にとって重要なポイントになっています。もちろん、「プロのファッションデザイナーになる」ことは、既に育人自身も自覚しそのために努力しているところです。

とはいえ、実は、一口に「プロのファッションデザイナー」と言っても、いろいろな種類があるのです。アパレルメーカーに勤務しそのメーカーの製品をデザインする企業内デザイナー(多くのデザイナーはこれに該当する)、顧客一人ひとりに合わせてオーダーメイドでデザインし縫製を行うオートクチュールのデザイナーなどありますが、やはり花形は、自身の名を冠したブランドを立ち上げ自分自身で経営を行うブランド持ちのデザイナーです(柳田さんも「HAZIME YANAGIDA」という自身のブランドを持っています)。

育人自身は、ぼんやりと「プロのファッションデザイナーになりたい」としか考えていなかったようですが、千雪との会話によって、「自身のブランドを持つファッションデザイナーになりたい」と考えるようになったと思われます。そして、だからこそ、「次ここに来るときは拍手全部もらおうよ。半分じゃなくてさ」なのです。

それにしても、この「早くしてよね」というツンな感じなのにその内実すごくデレてるここの千雪、可愛いですよね。

 

 

4.「都村君には負けたくないでしょ」

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「都村君には負けたくないでしょ」

千雪は、ランウェイを歩きながら、「都村君には負けたくないでしょ」と自信を励まします。ここでも千雪は、自身のライバルである育人のことを考えています

第2話で柳田に追い出されそうになった時に育人が千雪のことを思い出して励まされたように、今度は、千雪が育人のことを思い出して励まされています。まさに、互いが互いを励まし合っています。

あと、原作におけるここの千雪はもっと色々なことを考えているのですが、アニメでは省略されているので、原作を是非読んでみてください!(原作第2巻第10話参照)

 

 

5.「ランウェイじゃ笑っちゃいけない」

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「蝶が舞っているみたい……」

千雪の衣装に込められた仕掛けが露わになった際、それについて育人は「ただ、緊張してたから、楽しい服にしたくて。途中で形が変わったら面白いかなって、最後の糸は止めなかったんです」と言います。

その仕掛けに気付いた千雪は「こんな仕掛けしちゃって。あいつめ、ヘタレのくせに。私が引っ張って助けなきゃ、心もとない男子のくせに」「都村君のくせに、君ってヤツは、ムカつくくらい私の窮地を救っちゃうんだ」と、再び立ち上がり、ランウェイで笑ったのです! ショーはあくまで服を見せるものであり顔に視線が行くのは好ましくないため、モデルはランウェイで笑っちゃいけないにもかかわらず、です。

それなのに、千雪がランウェイで笑ってしまったのは、育人のせい/おかげです。だって、育人は「楽しい服にしたくて」と想いを込めて、千雪の衣装に仕掛けを施したのですから。楽しい服だからこそ、千雪は思わず笑ってしまったのです。まさに「服は人を変えられる」という育人の服作りにかける想いが、ランウェイを歩く千雪の上で表れたというほかありません。

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ランウェイで笑って

 

 

6.三人目の主人公

既にお気づきかもしれないが、この「東京コレクション編」には、育人・千雪のほかに、三人目の主人公がいました。東京コレクションの取材のために会場に来ていたファッション誌編集者の新沼文世です。

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新沼文世

アニメでは省略されていたのですが、実は原作ではアニメ以上の出番がありました。アニメでも分かるように、彼女はファッションにあまり興味がなく、モデルやデザイナーばかりが登場するこの作品においては一般人代表的なポジションにいます。

原作では、彼女がファッションに対して思っている屈折した感情が、あるいはファッションに疎い一般人の感覚が新沼文世を通じて具に語られ、そしてそれが千雪のランウェイを見て変容する様をより詳しく感じることが出来ます(特に原作第2巻第9話~第12話)。ぜひ原作をご覧になることをお勧めします!

 

 

7.最大限の誉め言葉

ショーが無事に閉幕したことに感動している育人に向かって柳田さんはこう声を掛けました。

まあ、半分だな。この拍手の半分はお前にやる。ここは俺のブランドだ。やれても半分、二度は言わん。たしかに作りとしては簡素。丈を詰めて不格好になった部分を前掛けで覆い隠しただけ。だが、それでも形にした。拍手を誘った。何より、着るモデル……あいつのために作り上げた。まっ、かけらほどは向いているんじゃねぇか、デザイナー。

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「まっ、かけらほどは向いているんじゃねぇか、デザイナー」

柳田さんには珍しい、だけど柳田さんらしい褒め言葉です。しかも最大限の褒め言葉ではないでしょうか? ベリーショートの女性フィッターが言ったように、育人が手掛けたのは、全40着のうちのたった1つです。それなのに、半分も拍手をくれると言ってくれたのです。最高の誉め言葉というしかありません。

 

 

8.服が人生を変える

ショーが終わった後、育人と千雪はこんな会話をしていました。

育人「藤戸さん、ありがとうございます。ここまで連れてきてくれて。出会ってから、いろんなことが起こって、変わって、まるで別の人の人生を歩いているような……。あっ、すみません、上手く言葉にできないんですけど」

千雪「ふ~ん。要は人生が変わったってことでしょ? 私のおかげで」

育人「そう……なんだとうけど、そう言われると気恥ずかしい」

千雪「何言ってんの? 誰かさんのせいで人生が変わった人がここにいるんだけど」

育人「えっ?」

千雪「服ってさ、いつでも着ているでしょ? だから人生の分岐点をいつも本人と一緒に迎えるんだよ。それで、その日着てた服に特別な思い入れができたり、それこそ服そのものに人生を変えられる人もいる。たしかに、お互いミスはあったし、あのフィッターさんが言うように力不足だったのかもしれない。それでもあのとき拍手は起きたんだよ? きっと都村君の服に、それを着た私に、感動してくれた人がいる。それこそ、人生を変えられた人いるかもよ!」

既にこの記事で書いてきたように、育人の服作りの根底には「服は人を変えられる」という想いがあります。これは「服の作り手が服を着る人の心を動かす」という意味でした。しかし、この千雪と育人の会話で明らかになったように、「服は人を変えられる」という育人の想いは、もっと広くてもっと豊かな意味を持っていることが明らかになります。

つまり、「服は人を変えられる」とは、「服の作り手が服を着る人の心を動かす」という「作り手→着る人」の一面的な関係のみに妥当するのではありません

ある一面からすれば、「作り手」である育人がミルネージュのオーディションや東京コレクションのために千雪に衣装を作ったのは、「着る人」である千雪の人生を変えました。そして別の一面からすれば、育人はこれらの衣装を「着る人」である千雪のために作ったことによって、「作り手」である育人自身の人生が変わったのです。さらにまた別の一面からすれば、「作り手によって作られた服を着る人」を見て、新沼文世のような「見る人」が感動し、その人の人生が変わることもあるのです。

このようにして見ると、服というのは、「着る人」「作り手」「見る人」それぞれの人生の相互作用の中にあってまさにあらゆる面から「服は人生を変える」のです。原作者の服に込める想いが伝わってくるシーンでした。

 

 

9.白と赤

千雪や育人の独白のシーン――心象風景――など、白を基調とする背景が多用されていました。特にランウェイにおける千雪の独白の場面では、赤色の衣装と相まって、かなり綺麗なシーンになっていませんでしたか?

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ランウェイの千雪①

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ランウェイの千雪②

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ランウェイの千雪③




 

さて、次回は、第4話「若き才能たち」です。サブタイトルからして、メインキャラクターである長谷川心綾野遠がついに登場するのでしょうか?

 

第4話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

今さらながら映画「屍人荘の殺人」を観てきたので感想を

 

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映画「屍人荘の殺人」

 神紅大学のミステリー愛好会に所属する葉村譲(神木隆之介明智恭介(中村倫也は学内の事件を推理する自称【ホームズ】と【ワトソン】。しかし葉村はミステリー小説オタクなのに全く推理が当たらない万年助手。事件の匂いを嗅ぎつけては首を突っ込む会長の明智に振り回される日々を送っていた。

 そんなある日、2人の目の前に剣崎比留子(浜辺美波という謎の美人女子大生探偵が現れ、ロックフェス研究会の合宿への参加を持ちかける。部員宛てに謎の脅迫状が届いたこと、去年の参加者の中に行方知れずの女子部員がいることを伝え、葉村と明智の興味を引く。

 3人が向かった先は、山奥に佇むペンション【紫湛荘(しじんそう)】。そこに次々と現れるクセモノだらけの宿泊者。しかし葉村たちは想像を絶する異常事態に巻き込まれ、立て籠もりを余儀なくされる。一夜が明け、一人の惨殺死体が発見される。それは死因もトリックも全てが前代未聞の連続殺人の幕開けだった――

映画『屍人荘の殺人』公式サイト

www.youtube.com

 

 この記事は、映画「屍人荘の殺人」感想記事です。ネタバレにはご注意ください。ちなみに、2021年6月現在、この作品はAmazon Prime Videoで観られます(追記)。

 原作未読・映画未観劇の方がいらっしゃれば、「1.はじめに」までで読み止めてください。その時点で興味が湧き、映画を見たくなったり原作やコミカライズを読みたくなったりした場合には、重大なネタバレを被ることになるので、「2.キャスティングとキャラクター設定」以降は読まないようお勧めしておきます。

 

 

1.はじめに

 

1)タイミングを逃したけれども

 さて、この映画は、2019年12月13日が公開日なので、封切から1か月以上経ってから観るのはもちろん、わざわざ感想記事を書くのも時宜を逸した感はあります。

 しかし、映画館に足を運んで映画を見たのは1年半ぶり(2018年夏の「カメラを止めるな!」以来)だったので、せっかくの機会ということで、記事を書く次第です。

 

2)原作小説について

 映画「屍人荘の殺人」は、同名の小説(今村昌弘著、創元推理文庫)を原作としており、最近、書店でその帯を見かけたところによれば、シリーズ累計50万部が売れているらしいです。推理小説としては異例の売れ行きです。

 そもそも、この作品は、原作小説の段階から非常に高い評価を受けていました。この原作小説は、本格ミステリ(トリックやロジックを主眼とする推理小説)を募集する鮎川哲也賞という新人賞の正賞受賞作で、刊行されるやいなや、その年のこのミステリーがすごい!」「週刊文春ミステリーベスト10」「本格ミステリ・ベスト10」「本格ミステリ大賞の4つで第1位を獲得しました。

原作試し読み(PC版):https://binb.bricks.pub/contents/31ec98d6-8805-4fcc-95ce-c31d881bdefb_1568772888/reader

 

 

3)本格ミステリの映画化について

 そもそも、本格ミステリは、広い意味のミステリー(サスペンスや警察小説などを含む)に比べると、映像化されにくい傾向にあると思われます。

 というのも、本格ミステリは、トリック(謎)とロジック(謎解き)を主眼とするので、物語の序盤に殺人が起き、それ以降はずっと、あーでもないこーでもないと証拠探しと脳内思考による犯人捜しが行われることが少なくありません。つまり、アクションや冒険といった派手な動きや、ヒューマンドラマ・恋愛モノのように喜怒哀楽ある心の動きは重視されませんので、どうしても物語の大部分が「地味な画」かつ「ドライな印象」になりやすく、映像化に向いていないのです(たとえば、SPドラマ「がん消滅の罠」は映像化にあたり大幅に脚本に手が加えられ、文字通り「ドラマチック」な仕上がりになっていました。反対に、原作に忠実に、殺人などの重大事件が起こらず日常の謎をテーマとしたにもかかわらず、多大な人気を博したアニメ「氷菓」はその例外と言えるでしょうね。ドラマ「アリバイ崩し承ります」についても、原作小説では安楽椅子探偵でしたが、ドラマでは探偵(浜辺美波さん)が現場に出かけていました)。

 しかし、本格ミステリであっても、ハラハラドキドキする緊張感が生まれるパターンがあります。その王道パターンは、ずばり「連続殺人」です。メインキャラクター(だと思っていた人物)が次に死ぬかもしれないという緊張感、そして繰り返される殺人それ自体は、まさに映像化向きです。この「屍人荘の殺人」も連続殺人が起きるので、この王道パターンに従っていると言えます。

 とはいえ、この作品は、それ以外の「仕掛け」によっても「緊張感」と「映像映え」を生み出しています。この「仕掛け」が何なのかは、この作品の魅力の一つなのでここでネタバレする訳にはいきませんが、しかし、その「仕掛け」が作品に緊張感と映像映えを生み出し、また犯人の用いたトリックにも活用されています。

 原作小説に対する高評価はもちろん、この「連続殺人」と「仕掛け」の映像映えという点も考慮されて映画化に至ったのではないかと思っています(もちろん、「映像映え」という点では、ルックスと人気に優れた役者を用意できるか否かというキャスティングの観点も重要なのですが)。

 

4)小説→映画

 もう少しだけ個人的な話を。本当にどうでもよい話なので5)にスキップしても大丈夫です。

 上述の通り、原作小説『屍人荘の殺人』は非常に評価の高い作品なので、本格ミステリファンの末席の端っこに小指を引っかけている身としては、原作小説は読まなければならないと思っていました。しかし、私は購入する本は文庫と決めているので、2017年の単行本の刊行から待つこと2年、2019年9月に文庫化されてようやく原作小説を手に入れました。

 しかし、本業だったり、アニメだったり、漫画だったり、このブログが忙しくて、また何より心の余裕がなくて、ここしばらくは小説自体から離れており、『屍人荘の殺人』もその例外ではありませんでした。

 そんな折、2019年12月13日に映画が公開されました。「公開初日、少なくとも公開から1週間以内には観に行きたい!」と思っていたのですが、原作小説を読んでいなかったので、どうしても観に行けませんでした。というのも、私は「原作小説より先に映画を観ると、その後に原作小説を読む気を失くす」病気(?)なのです。そのため、先に原作小説を読みたかった私は、ズルズルと原作小説を読まないまま、すなわち映画を観に行かないまま、年を越してしまいました。

 しかし、先日、ようやく時間と気持ちに余裕ができた日ができました。そこで、朝に原作小説を読み、昼に映画を観に行くという計画を立て実行しました。今振り返れば強行日程だったなあと思うのですが、読んだ記憶が鮮明なうちに観に行けたのは面白い体験でした。

 

5)何を書く?

 私は映画のレビュー記事は事前に見ない主義なので把握していませんが、公開直後から相当数の記事がネット上には溢れていると思われます。

 そんな中、公開からしばらく経って何番煎じになるかは分かりませんが、原作と映画の比較を中心に感想を書いていきたいと思います。その際、原作原理主義者にならないことに注意しつつ、映画製作者の脚本構成や演出の意図を探ってみようと思います。

※ 映画は1回しか見ておらず記憶が朧気なので、誤りや不正確な記述があるかもしれませんので、ご注意ください。

※ 原作小説も1回しか通読しておらず、いちいちチェックできていないので、誤りや不正確な記述があるかもしれませんので、こちらもご注意ください。

 

 

 

*****以下、ネタバレ注意!!*****

 

 

 

2.キャスティングとキャラクター設定

 

1)メインキャラクターのキャスティング

 葉村譲(演:神木隆之介明智恭介(演:中村倫也剣崎比留子(演:浜辺美波のキャスティングについては、なんの違和感もありませんでした(強いて言えば、比留子の髪はもう10cmくらい長い方が原作に忠実だったと思いますが)。

 違和感がなかった要因として一番大きのは、間違いなく、原作小説を読む前に既に映画のキャスティングを把握していたからだと思います。そのため、宛書のような状態で原作小説を読んでいました。とはいえ、仮に、原作小説を読む際にキャスティングを把握していなかったとしても、人気と実力を兼ね備えたこの3人のキャスティングには賛成です。

 ところで、映画を観た人の一部には、中村さんの扱いに不満を感じた人がいるように見受けられます。たしかに、原作・あらすじや監督・脚本家ではなく、役者をきっかけとして映画を観に行くタイプの人たち(つまり俳優の熱心なファン)は、この映画の展開には不満を感じたに違いありません。しかし、私はそういう人ではないので、まったく問題ありませんでした。

 

2)メインキャラクターのキャラ設定

 3人のキャラ設定については、少々指摘しておくべきことがあると思われます。

葉村譲(演:神木隆之介

 

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葉村譲(演:神木隆之介

 葉村は、原作に比べると、少々コミカルなキャラになっていました(『このミス』のインタビューか何かで神木さん本人も言及していました)。

 葉村は、原作小説においては、キャラクターと言えるほどの強いキャラはないように見受けられましたが、それでも物語の語り手(一人称視点)として存在感があります。しかし、三人称視点の映画化に際しては、原作小説のままだとキャラが弱くなってしまいます。そのため、コミカルなキャラ設定になったのだと思います。

 また、同様の理由から、映画の葉村は、ことあるごとに比留子を見て「可愛い」と心の中で連呼してたり、気絶中の比留子から唇を奪おうとしていました。語り手を葉村とする原作小説の書き方から見れば、妥当な方向へ膨らませたキャラ設定かと思われます。「死体を運んだらキスしてあげる」のフリにもなっていましたしね(しかし、映画では、意図せずエレベーターが1階に降りてしまった混乱のために、約束を果たしたにもかかわらずキスが有耶無耶にされてしまいました)。

 そして、映画では「推理ベタな万年助手」というキャラ付けまでされていました。原作では葉村は、探偵をやりたいなんて言っていなかったと思います。

 さらに、原作小説では葉村は経済学部でしたが、映画では毒(ウイルス)の説明をするために、理学部という設定になっていました(その分、原作でその役割を担っていた重元の出番が減りましたね笑)。

明智恭介(演:中村倫也

 

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明智恭介(演:中村倫也

 この映画について個人的にベストアクター賞を贈呈するとしたら、中村さんに差し上げます。一番、原作に忠実な、そしてそれを適切に発展させたキャラ設定と演技だったと思います。

 明智は葉村と同じく映画化に際してコミカルなキャラになっていたのですが、原則小説において既にコミカルな側面があったため、これはむしろ歓迎すべきことでした

 映画オリジナルで追加された、「事件はまだ起きていないのに犯人が分かった」という明智の最期の推理も、「いざ事件になるとこの人は鋭い閃きを発揮する――ことがある。発揮しないこともある」(文庫25頁)という彼の特質に沿ったものでした。

 原作では3回生なのに、映画では7、8回生くらいとなっていたのは、中村さんの年齢(公開日時点で32歳)に近づけたからだと思います。それに、そうした方が、ミステリー愛好会なんて立ち上げて事件に首を突っ込むような変人には合っています。

剣崎比留子(演:浜辺美波

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剣崎比留子(演:浜辺美波

 メインキャラクターの中で一番評価に困ったのが、比留子です。

 そもそも、原作小説においても、比留子のキャラは最後までフワフワと不安定で、掴みどころがないように見えました(公開前テレビ特番で浜辺さん自身もそのような旨を語っていました)。仮に原作小説に忠実に演じるとしても、役者は苦労するだろうなと思うキャラクターです。

 そして、比留子は、映画化に際しては、より変人なキャラ設定になっていました。白目を向いたり、相撲の型をしたり……。原作のキャラは不安定でしたが、むしろ常人寄り、社会的に描かれていたので、思い切った方針転換です

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雲竜型

 しかし、探偵役の典型的なキャラは、エキセントリックな変人というのがミステリの相場です。そのため、映画しか見ていない人は、「探偵とはこんなものだ」としか思わないでしょうし、原作既読者から見れば、映画の比留子は、妥当と言えばまあ妥当な、許容できる範囲内のキャラ設定だったのではないかと思います。

 

3)その他の主要登場人物のキャスティングとキャラ設定

 その他の主要登場人物の設定については、大きな変更がありましたね。私自身は、メインキャストの3人とは違って、その他の主要登場人物のキャスティングについては、原作小説を読んだ時点では把握していませんでした。

進藤歩(演:葉山奨之)、星川麗花(演:福本莉子

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進藤歩(演:葉山奨之

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星川麗花(演:福本莉子

 この2人については、ピッタリなキャスティングとキャラ設定だったと思います。

名張純江(演:佐久間由衣)、下松孝子(演:大関れいか)

 

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名張純江(演:佐久間由衣

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下松孝子(演:大関れいか)

 この2人が最初に登場したときは、大変驚きました。だって、原作小説では、「俺は女性陣があまりにも美人に偏り過ぎているのが密かに気になった。今日は美人としか会っていないような気がする」(文庫61頁)、「〔名張について〕鋭い空気をまとった、理知的な印象の美人」(文庫48頁)、「下松もまた美人だった」(文庫65頁)なんですよ! もちろん、美醜に関する価値観は個人的なものですが、少なくとも下松については、映画上で明らかに七宮に邪険にされていたじゃないですか!?

 とはいえ、映画では合宿参加者には(フリーの身の)美人がいないために、七宮と立浪がロックフェスにて女漁りをして静原に会うという流れになるので、彼らの行動を理由付けるためには、必要なキャスティングでしたが

 あと、名張については、たしか原作では眼鏡をかけていたという情報がなかったはずなので、映画オリジナルですよね?

重元充(演:矢本悠馬

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重元充(演:矢本悠馬

  なんというべきか、もっと汚いオタクを想像していました(無精ヒゲを生やして汗を大量に流しているような……)。しかし、映画では中国の坊ちゃまみたいなぽっちゃり君(偏見)でした。とはいえ違和感はありませんでした。部屋に籠ってゾンビ映画を観ながら武器を振り回すシーンなんかは良かったです。

静原美冬(演:山田杏奈)

 

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静原美冬(演:山田杏奈)

 原作では同じサークル内の合宿参加者でしたが、映画では、ゾンビから逃れて偶然ペンションに留まることになったロックフェス参加者に改変されていました。

 彼女は、原作では遠藤沙知の幼馴染という設定でしたが、映画では遠藤沙知の妹(高校生?大学生?)という設定でした。「沙知さんと私は近所に住んでいて、子供の頃から本当の妹のように可愛がってもらいました」(文庫350頁)という原作における関係性は、彼女の動機を基礎付けるには少し弱いかなと感じていました。

 私にそのような関係の人物がいないだけでピンと来ないだけなのかもしれないですが、やはり一般的には、「幼馴染」よりも、「血肉を分けた姉妹」の方が、動機として共感を得やすいのではないかと思います。その意味で、良い方向の原作改変だったと思います(そして、彼女も含めたキャラ設定の変更とストーリー展開の変更は、すべてはこの改変に起因するとも言えるかもしれませんね)。

 ところで、映画にて、ゾンビの発生を予期し得なかった静原は、ゾンビ発生による立て籠もりに乗じなくても事件を実行するために、ロックフェスにて七宮らにナンパされ、ペンションにお持ち帰りされる必要がありました。ここには、いくつかの前提条件が必要になります。とりあえず、ロックフェス研究会が紫湛荘にて合宿を行うことを静原は把握していたこと、合宿参加者の女性が魅力的でないまたは彼氏持ちなために、七宮らはロックフェスにて女漁りをすること、静原は自身が七宮らにお持ち帰りされる自信があったこと、の3つが挙げられます。

 ①については、例年、ロックフェスが開催されるタイミングで同じペンションにて合宿が行われることを姉から聞いていたら十分予測が立てられますについては運任せですが、については、昨年「弄ばれた」遠藤沙知と姉妹関係にあるならば、静原冬美は七宮らの好みに適っている可能性が相当程度あります。もっと言えば、静原は自分自身の容姿に自信があったのかもしれませんし、一般的に言っても静原役の山田杏奈さんは優れた容姿を持っていると言えるでしょう。その意味で、山田さんのキャスティングについては、文句はありません。原作に照らしても、「清楚という表現がしっくりくる黒髪の少女」(文庫49頁)にピッタリです。

高木凛(演:ふせえり)、出目飛雄(演:塚地武雅

 

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高木凛(演:ふせえり

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出目飛雄(演:塚地武雅

 この2人については、一番驚いたキャスティング(というかキャラ設定の変更)でした。

 この2人が登場する前から、その兆しはありました。バーベキュー時の記念写真の撮影時に気付いたのですが、やはり原作に比べると人数が少ない。登場人物を減らす方向で改変したのかな?と思って見ていたら、なにやら合宿参加者とは別に、3人もペンションに逃げてきたではありませんか。自己紹介によれば、それぞれ、静原美冬高木凛出目飛雄と名乗るではありませんか!

 静原は措くとしても、高木と出目はオバサン・オジサンじゃないですか! 思い切った原作改変です。……もちろん、ふせえりさんが「ボーイッシュなショートヘアとくっきりとした目鼻立ちが印象的な美女」(文庫49頁)かどうかについては、極めて主観的な事柄ですが。

 ふと映画を観ながら思ったのですが、初登場時にたしかに2人は自己紹介をしたのですが、大学生ばかりのペンションに中年男女が飛び込んできた、という展開からすれば、まるで2人は夫婦のようでした。原作読者の私も映画を観ながらそう思ったので、原作未読の方もある程度の人が勘違いしたのではないのでしょうか?

 ところで、出目は、原作小説では肝試し時にゾンビ化したとみられ、そこで物語から退場します。一方、映画では、ロックフェスから命からがら逃げてペンションに立て籠もることができたのですが、実はゾンビに噛まれていて、数時間後にペンション内にてゾンビ化し殺されてしまいます。(映画にて比留子や静原が言及していたかどうかは覚えていませんが)この出目のゾンビ化は、ゾンビ化するまでの時間の目安を彼女らに提供する役割を担っていますね。

七宮兼光(演:柄本時生)、立浪波流也(演:古川雄輝

 

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七宮兼光(演:柄本時生

 七宮については、ピッタリなキャスティングとキャラ設定だったと思います。「女漁りをする嫌なOB」という役どころが出来ていたと思います。ちなみに柄本さんは個人的に好きな役者さんです。

 原作では幾分か爽やかな見た目だった七宮ですが(文庫57頁)、映画ではOBとしての出目が登場しなかった分、映画の七宮は、原作における七宮と出目の2人分のキャラを背負っていましたね

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立浪波流也(演:古川雄輝

 立浪については、原作では日焼けしていたはずですが(文庫57頁)、映画ではそうなっていませんでした。ストーリー上必要のない設定なので、この点に不満はないのですが。

管野唯人(演:池田鉄洋

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管野唯人(演:池田鉄洋

  管野については、原作よりもキッチリとした感じになっていましたね。原作では「30歳前後のペンション管理人」だったので、もっとラフな格好をしているのかなと想像していたのですが、映画では「50歳前後の執事服に身を包んだ執事」になっていました。とはいえ、この程度の変更も、特に目くじらを立てるべきものではないのですが。

 

 

3.ストーリー展開

 

1)原作小説におけるストーリー展開

「食堂における葉村と明智の推理合戦」→「喫茶店における比留子との出会いと取引」→「ペンションへの旅と到着」→「廃墟にて映画撮影」→「ペンションにてバーベキュー」→「肝試し、ゾンビとの遭遇、ペンションへの立て籠もり」→「事件と謎解き」→「脱出」

 

2)映画のストーリー展開

「葉村と明智による食堂での調査依頼遂行」→「試験問題盗難事件における比留子との出会い」→「喫茶店における比留子との取引」→「ペンションへの旅と到着」→「バーベキュー」→「ロックフェスへの参加、ゾンビとの遭遇、ペンションへの立て籠もり」→「事件と謎解き」→「脱出」

 

3)斑目機関

 まず言及しておかなければならないのは、原作ではサブストーリーとして描かれ事件の原因を作った斑目機関は、映画では一切言及されていないことです。

 映画の尺の都合上、斑目機関に関わる部分はカットされたのだと思います。

 

4)比留子との出会い

 上記1)2)を比べたときにまず目につくのは、「食堂における葉村と明智の推理合戦」→「喫茶店における比留子との出会いと取引」という原作の流れと、「葉村と明智の食堂での調査依頼遂行」→「試験問題盗難事件における比留子との出会い」→「喫茶店における比留子との取引」という映画の流れの違いです。

 映画では、葉村・明智と比留子との出会いを印象的にすべく、比留子の登場シーンが増えています。

 まず、どちらも食堂にて、「白い長袖を着た女子大生」を巡って推理合戦をしているのですが、原作ではこの女子大生が赤の他人なのに対し、映画ではその人物は比留子になっていました。

 そして、映画オリジナルとして、葉村と明智は、この食堂である調査依頼を遂行、不振に終わったのち、大学の廊下で試験問題盗難事件に遭遇します。明智はこの事件を解決できなかったのですが、代わりにそこに現れた比留子によって事件は解決されます。

 このような流れの変更は、比留子との出会いと彼女の能力を印象付けるものになっています。

 ところで、試験問題盗難事件の犯人は、食堂のあの席に葉村と明智を座らせておくのは良いとしても、廊下の人通りが少ないからと言って10分間も錠を開けようとドアの前で格闘するというのは、あまりにも幸運に頼り過ぎで、犯行方法としてはお粗末な気がします

 

5)「廃墟にて映画撮影」と「ロックフェスへの参加」

 原作では廃墟にて映画撮影をした場面では、斑目機関の手帳が発見されるのですが、映画では斑目機関が一切言及されないことに伴い、このシーンは全カットでした。

 そのため、原作では、ペンションに泊ったのは映画研究部だったのですが、映画では、廃墟にて映画撮影を行わない関係上、ロックフェス研究会の合宿という設定に変更されていました。そして、ロックフェス研究会なので、合宿参加者はロックフェスに参加していました(原作では参加していません)。

 

6)立て籠もりの経緯の相違

 バーベキュー後からペンションへの立て籠もりまでの流れも、原作と映画は異なります。原作では、バーベキュー後、肝試しをしている最中にゾンビに遭遇し、命からがら逃げてペンションへ立て籠もった、という流れなのに対し、映画では、バーベキュー後、ロックフェスに参加したところ、ゾンビと遭遇し、命からがら逃げてペンションへ立て籠もった、という流れになっています。

 原作では、主要登場人物は、合宿開始時からフルメンバーが揃っていたのに対し、映画では、ロックフェスに参加したところ、ゾンビに遭遇して命からがらペンションに逃げ込んできた静原・高木・出目が途中で揃うことになります。映画では、彼ら3人はもともとは合宿参加者ではありませんでした。

 

 

4.舞台

 

1)ロックフェス

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ロックフェス

 既に指摘したとおり、原作における合宿参加者はロックフェスに参加しなかったのに対し、映画における合宿参加者はロックフェスに参加しています。そのため、映画ではロックフェスのシーンがそれなりに映されましたカラフルかつ派手な映像と音楽となり、まさに映画向きな脚本構成でした

 原作ではロックフェスの参加者は5万人でしたが、映画ではそこまでの人数はいないようでした(せいぜい数千人規模?)。たしかに、最低限、ペンションを囲むだけのゾンビ(200人程度?)だけがいれば良いので、大規模なロックフェスにする必要はないとは言えます。

 

2)ペンション

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紫湛荘

 ペンションは、原作では3階建てなのに対し、映画では2階建てでした。たしかに、映画では1階はすぐにゾンビに占拠されてしまいますから、そもそも1階をないものとして、3階建てを2階建てに変更しても話は成り立ちます

 映画では、客室ベランダ側(南側)は、崖になっていたので、そちら側にはゾンビは近づけない構造になっていましたが、1階の廊下側(北側)はゾンビが窓を叩くような構図になっていました。1階の宿泊者は非常に不安なはずです。

 ところで、映画を観るに際して注目すべきは、ペンションの内部です。なんと、実在するどこかの洋館を使ったのではなく、紫湛荘の特殊な形を再現すべく、スタジオにセットを組んで再現したそうなんです!(https://shijinsou.jp/productionnote.html

 こんな構造の洋館がよく見つかったな~と映画を観ながら思っていたのですが、まさか、わざわざ予算を掛けてセットが組まれているとは思いませんでした。嬉しい誤算でした。

 紫湛荘の構造はもちろん、その内装にも力が入れられていましたゾンビ撃退のために活躍する武具類はもちろん、家具・調度類も本格ミステリらしい大変雰囲気のあるものでした

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武具類

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家具・調度類

 ペンションについて一つ指摘するとすれば、劇中にペンションの図面をもっと高頻度で映さないと、映画観劇者はどこがどうなっているのか分からないのではないでしょうか?(私は当日の朝に原作小説を読んでいたのでしっかりと頭に入っていましたが)

 

 

5.トリック&ロジック

 トリック&ロジックは、多少の省略はあったものの、基本的に原作小説に忠実でした(下手に改変すると辻褄合わせが大変になりますからね……)。以下、気付いたことを何点か記したいと思います。

 

1)外界との遮断

 これはむしろ原作小説の感想なのですが、この作品の提示した「クローズド・サークル」の作り方は新奇なものでした。各所で絶賛されているように、「ゾンビに囲まれて外界から隔離される」という手法は言うまでもありませんが、「テロの可能性を考慮した政府が通信事業者に要請して通信を遮断した」という現代的な情報的隔離手段はもしかしたら前例がないのではないでしょうか。

 そういえば、原作ではペンションにテレビがあったのに、映画では代わりにラジオとなったのは、「外界からの隔離」感をより強く演出するためでしょうか。

 

2)猶予時間

 以下は、原作をしっかり振り返れていないし、映画もうろ覚えなので、間違った指摘かもしれません。

 原作小説では、「ウイルスが傷口や粘膜を介して感染した場合、通常の脳機能を破壊されいわゆる錯乱状態〔ゾンビ〕になるまで、3ないし5時間かかるものと思われます」とされています(文庫287頁)。つまり、ゾンビに噛まれても――傷痕こそできますが傷が深くなければ――しばらくの間は人間として通常の活動を行える訳です。

 ところが、映画では、この猶予時間が曖昧になっていたように思えます。注射によりゾンビウイルスに感染させられたロックフェス参加者が、そのままロックフェスに参加し続けることなく、「体調不良」として救護スペースにて休養するのは変です(傷痕はせいぜい注射痕だけです)。注射後、しばらく経ってから「体調不良」になり、さらにしばらく経ってからゾンビ化したというのでしょうか? しかし、何より、映画では、下松はほとんど猶予時間もなくゾンビ化していました出目がゾンビ化までにしばらく時間がかかり、その間通常の人間活動をしていたのと比べると、即時的すぎます

 ということは、映画では、ゾンビ化までの時間には即時~数時間の幅があると設定変更したのでしょうか? しかし、そのように幅があると、ゾンビ化までの時間を基に進藤殺害事件の謎を解いた推理(および立浪殺害事件、七宮殺害事件のトリック)が成り立たなくなってしまいます。映像映えを優先したため、トリック&ロジックの厳密さを後退させたのでしょうか?

 

3)星川の部屋の荷物

 原作では、肝試しのときに行方不明になった星川の部屋は、1階の管理人室がゾンビに占拠されてしまった管野が使用するために、星川の荷物を移動させる必要があり、恋人の進藤がこれを自室に移動させました(文庫137頁)。

 しかし、映画では、特に何の説明もなく、進藤はあっさりと星川の荷物を自室に移動させました。重要な伏線なのに、特に理由の説明のない荷物移動は、伏線の隠し方として荒かったと思います(し、「新たな宿泊客が使うから星川の荷物を移動させてほしい」という会話を少し挟むだけで済むはずです)。

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星川の荷物

 

4)扉の開閉

 映像化に際して何気に感動したのが、ロックされた扉の施錠・開錠方法です。

 錠とドアガードを扉の外から開閉する古典的な方法は、ミステリではよく登場するトリックですが、実は映像として見たのは初めてでした。今度どこかで試してみたい、と思いましたが、不審者に思われたくないので止めておきます……。

 

5)頭のキズと二度の殺人

 エレベーターで見つかった立浪の遺体ですが、映画では、パッと見、頭部にゾンビとしての致命傷が見えませんでした(私が見逃していただけなのか、そういう演出だったのかは、うろ覚えなので分かりませんが)。映画では「原作改変の結果、あの立浪の遺体はゾンビとしてはまだ生きているのでは!?」と冷や冷やしながら見ていたのです。が、結局、額にしっかりとした致命傷がありましたね。

 よくよく考えれば、立浪に対する「二度の殺人」は、立浪殺害事件の肝ですから、当然に頭部に致命傷がなければおかしいはずです。

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二度殺された立浪の遺体

 そして、上手い改変だなあと思ったのが、七宮に対する二度の殺人です。原作小説では遠藤沙知は立浪だけに弄ばれたのですが、映画では、立浪と七宮の2人に弄ばれたことになっていました。原作小説では七宮には一度の殺人しか行われなかったのですが、映画では、七宮と立浪のバランスをとるために、犯人の手により七宮は二度殺されました。立浪の殺し方に比べると、七宮の二度目の殺人は、特にトリック的なものは何もなかったのですが、扉が突破されそうになりゾンビが迫ってくるという犯人自身も予測し得ない状況下なら、そうなっても仕方なかったのかと思います(より好意的に解釈すれば、「彼女は七宮の二度の殺人についてきちんと策を用意していたが、ゾンビに扉を突破されそうになったことにより、咄嗟の判断であのように殺した」とも考えられます)。

 

6)九偉人の像

 立浪殺害事件に際して犯人に使われた九偉人の像ですが、原作小説では青みがかった鈍色のブロンズ製の全身像(文庫69頁)だったのに対し、映画では、白色の石膏製の胸像(土台は木製)でした。そのため、映画では分かりやすい形で血痕が見つかってしまいました。犯人の凡ミスということでしょうね。

 ところで、像をエレベーターまで運ぶ方法は、映画ではまったく説明されていませんでした。原作の説明もあっさりとしたものでしたが(文庫328頁)、映画しか見ていない人の中には疑問に思った方もいるのではいのでしょうか。それに、1mほどの全身像(原作)と土台付きの1m60cmほどの胸像(映画)が原作小説と同じ方法で運べるのか疑問です(そもそも、映画では土台ごとエレベーターに運び込まれていましたっけ? 記憶が曖昧です)。

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石膏製の九偉人の像

 

7)トリック&ロジックの省略・改変

 映画化に際するトリック&ロジックの最も重大な省略・改変は、①立浪の遺体発見に際するゾンビ突破時の比留子と高木の部屋への電話の省略と、②立浪殺害事件の犯人絞り込み方法の省略・改変です。

 ①については、省略されても原作を読んでいない人は戸惑うことはありません。「犯人は、動機とは無関係の人物がゾンビに襲われたとしても、しょうがないと考える人――そもそも殺人鬼――だった」と納得できますから。

 ②については、原作では、㋐音楽が鳴りやんだ際のアリバイと、㋑自室カードキーの使用の二段階で犯人が絞り込まれましたが、映画では、㋑は省略して㋐のみで犯人絞り込みがなされました(この辺はちょっと記憶が曖昧ですが)。そのため、爆音で音楽が流されている(そして一旦止まる)シーンは、原作読者にとっては露骨な伏線の提示でした。カードキーが室内の電気のスイッチになっていることの伏線って、ちゃんと提示されていましたっけ?

 いずれにせよ、②についても、トリック&ロジックを単純化させたのは、映画観劇者の理解のためだと思われます。原作は、小説なので何度も立ち返って自分のペースで読み直すことが出来ますが、映画では、物語は自動的・強制的に進んで行き、見直すのにもお金がかかりますからね

 これは原作小説の話なのですが、②の㋑について、比留子は「どちらが先に部屋に入ったのか?」と問うことによって犯人を絞り込んでいました(文庫337頁)。しかし、よくよく考えてみれば、この絞り込み方法は、回答者の正直さに依存し過ぎていて回答の客観性が確保できません。両者が「自分が先に部屋に入った」もしくは「自分が後に部屋に入った」と主張すれば、比留子はそれぞれの主張の真否を確認しようがないのです。

 そこで、活用されるのが、葉村の腕時計です。葉村が別の動機をもって嘘をついたことを論証するために、腕時計に関するエピソード(重元によって拾われた手帳、バーベキュー時に紛失した腕時計、葉村が嘘をついた理由……)が挿入されたのではないでしょうか。勝手に勘繰ると、原作者は、腕時計に関するエピソードを最初から用意していたのではなく、比留子の論証の厳密さに対する不足を感じ、後になってこのエピソードを挿入したのではないでしょうか。

 

 

6. おわりに

 

 ……とまあ、ここまで1万4000字以上にわたって長々と映画「屍人荘の殺人」の感想を書いてきました。久しぶりに劇場で見た映画に興奮してしまって、こんなにも長くなってしまいました。

 映画を観ていない人は映画を観ることを、原作小説を読んでいない人は原作小説を読むことを、それぞれお勧めします!!(原作は3作目まで刊行されています)

 

 

 ところで、この映画のメインキャストの一人、浜辺美波さんはドラマ「アリバイ崩し承ります」で主役を演じています。さらに、七宮役を演じた柄本時生さんも、検視官役としてレギュラー出演しています。

 この作品は、同名の小説(大山誠一郎著、実業之日本社文庫)を原作としており、原作小説は2019年の本格ミステリ・ベスト10」第1位を獲得しています(前年の第1位は『屍人荘の殺人』でした)。『アリバイ崩し承ります』も、本格ミステリとして高評価な作品ですので、ぜひドラマ/原作をご覧になってはいかがですか?(この作品もAmazon Prime Videoで観られます)

  

 

 

アニメ「ランウェイで笑って」第2話の感想・考察――千雪の身勝手と育人の覚悟

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第2話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

見逃した方は、毎翌月曜深夜26:55から最新話がTVer無料配信されていますので(https://tver.jp/anime)、是非ご覧ください!

第1話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第2話「プロの世界」

相当する原作のエピソード:第1巻第2話「これは僕の物語」、第3話「期待の逸材」、第4話「なりたがり」、第5話「何者でもない」、第2巻第6話「プロの現場」、第7話「得意でしょ?」の冒頭まで

ファッションデザイナーになる夢を秘めてきた育人。千雪の父で、ファッションブランド・ミルネージュ社長の研二から働き先を紹介され、新進気鋭のデザイナー・柳田一の職場を紹介される。アトリエを訪ねた育人は、柳田の厳しい態度と過酷すぎるプロの現場に驚くのだが……。

 

 

1.OP初披露!

(1)OP曲は坂口有望「LION」

第1話では挿入歌として使用されていましたが、シンガーソングライターの坂口有望さんによる「LION」がついにOP曲として使用されましたね! やっぱり良い曲ですね!!

TV Size版は既に配信中、フル版は2月5日発売だそうです!

www.youtube.com

(2)千雪の努力

飄々かつ勝気な面が目立つ千雪ですが、OPでしっかりと「努力の人」であることの描写がされていたのが、個人的にちょっと嬉しかったです。

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汗を流す千雪

(3)OP最後のカット

OP最後のカットは、やはりパリの描写なんですかね? エッフェル塔っぽい建物が見えますし。

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やっぱりパリ?

 

 

2.ED初披露!

EDも初披露でしたね! ED曲は、ジェジュンさんによる「Ray of Light」です!

EDアニメーションは、アニメとしては珍しく、男性目線――育人の記録――でしたね!!

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育人が主人公のED

 

 

3.テンポの速い展開

第1話もテンポの速い展開だったのですが、第2話はそれ以上に速い展開でした。

どれくらい早い展開かと言うと、アニメ第1話が原作の1話分を消費したのに対し、アニメ第2話は原作の1巻分(第1巻第2話~第2巻第7話の冒頭)を消費しているのです!

しかもそれでいて、会話のやり取りの少々の省略はあるものの、エピソードの基本線はきっちりと押さえられているから見事な脚本構成と言うしかありません

 

 

4.千雪の身勝手と高いプライド

第2話の冒頭、千雪は父親から、「千雪、復帰してプロ気取りかもしれないが、全部、都村君におんぶにだっこの結果だろう。そんなヤツが他人を軽んじてやっていけると思うな。自分に才能がないことを自覚しろ」と厳しい言葉を投げかけられます。

ハイパーモデルになる身としては、どうせ素人の作った服ならば格好がつく芸華大生の方が良いと、育人の身分を偽った千雪を叱っているのです。たしかに、ここでの千雪はプライドが高く身勝手でした。しかし、だからといって千雪を責める気になれないのが彼女の魅力です

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服を返却する千雪

千雪は「私、素人が作った服、着るつもりないから」と言って、育人が作ってミルネージュのオーディションに合格したときの服を育人に返却しました。

その言葉に育人は、「藤戸さんは勝手ですよ! 作れって言ったんじゃないですか! なのにいらない? はあ!? 変に見栄張って、完全に僕、振り回されただけなのに、なのに、なんなんですか!? まるで僕が悪いみたいに!」と柄にもなくキレてしまいます。まったくの正論です。この点については、千雪も「悪いとは、思ってるってば。そりゃ身勝手でわがままな話だよ」と認めています。

しかし、ここで終わらないのが藤戸千雪です。「それでも、諦めてほしくない。私はね、自分で言った言葉を払拭したいの。私でもパリコレに出るのは無理じゃない、君でもデザイナーになるのは無理じゃないって、私のためにも証明したいんだよと言うのです。

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「私のためにも証明したいんだよ」

そもそも、育人に「デザイナーになるのは無理なんじゃないの?」と言ったのは千雪ですし、彼の境遇に自分自身の境遇を重ね合わせたのも千雪です。つまり、これらは、まったくもって千雪の脳内で完結している出来事であって、おそらく「私のためにも証明したいんだよ」と言われるまでは、育人は彼女の心の中の激烈と葛藤を伺い知ってはいないはずです。その意味で、まさに「私のために」と、千雪は育人を身勝手に振り回しているのです。

しかしながら、千雪は、育人がファッションデザイナーになりたいことを確信しています。だからこそ、「私のために=あなたのために」と、彼女の身勝手は、育人を後押しして止まないのです。そして彼女の身勝手と高いプライドは、「僕がプロになれたら、また着てくれますか?」と、育人を間違いなく後押ししました。だからこそ、千雪を責める気になれず、むしろ身勝手と高いプライドは彼女の魅力とさえ言えるのです

そして、藤戸社長と面前したとき、育人はこう宣言しました。

僕はモデルのことはよく分かりません。ただ、僕の服を着た千雪さんを見たとき、こんなにも着る人で変わるんだって思いました。今、こうして社長とお話しできているのも、千雪さんの写真が有名な人の目に留まって、話題になったからで、きっと着てくれたのが千雪さんじゃなければ、見向きもされなくて……。だから、きっと千雪さんは、すごいモデルになると思います!!

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「きっと千雪さんは、すごいモデルになると思います!!」

育人に「無理なんじゃないの?」と言い、その姿に自分自身の境遇を重ね合わせたときから、千雪にとって育人は運命の相手でした。しかし、育人にとって千雪が運命の相手になったのは、きっと藤戸社長にこのように宣言したときからだと思います。

最初に藤戸社長に会ったときは反論できなかったのに、また、自分がミルネージュに雇ってほしいことはまともに言えないのに、「きっと千雪さんは、すごいモデルになると思います!!」と千雪のために宣言したのは、育人が千雪を運命の相手であると認めたからこその行動だからではないでしょうか。

 

 

5.育人の覚悟

(1)蛮族の象徴

千雪との会話の中で、育人は「服は人を変えられる。僕が服作りを好きな理由の一つです。もう一度、藤戸社長に会うのは怖い。けど、そんな弱さが勇気に変わる服を作ります」と言っていました。

アニメでは省略されてしまいましたが、育人が藤戸社長に会うために作り着ていった服には、「育人の覚悟」が込められていました(原作第1巻第2話参照)。

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蛮族の象徴としての縞模様

この服にワンポイントで使用されている縞模様(ボーダー)は、「元々、囚人や道下が纏う忌み嫌われた模様」でした。これは、「蛮族の象徴」であり、育人にとっては、藤戸社長に対して「きっと千雪さんは、すごいモデルになると思います!!」とケンカ腰に宣言するための勇気をくれるための服でした。

(2)厳しい現実

藤戸社長は、「正直言うとね、高校生でこれだけのクオリティー、鳥肌が立ったよ。確実に才能がある」と育人のことを褒めつつも、「だが、君には学ぶべき知識と経験が足りてない」と厳しい言葉も投げつけます。

アニメでは省略されてしまったのですが、原作ではもっと厳しい言葉でした(原作第1巻第2話参照)。

確実に才能がある。だが、君くらいの力量、大学や専門〔学校〕を探せば、特別珍しくもない。学ぶべき知識と経験を得ていない分、こちらとしてはリスクが大きい。もう一つは単純に、すでに代わりのデザイナーを雇ってしまったんだ。わざわざ無い席を用意してまで雇いたいと思えるほど、君に価値を見出していないんだ。

(3)垣間見えた親子愛

しかし、続けざま、藤戸社長は「ただ、無理と言われても折れない心は、最高の資質だ」とも言います。このとき、一瞬だけ、モデルの練習に励む千雪を陰で見守る藤戸社長のカットが見られました。

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千雪を陰で見守る藤戸社長

原作では、「その点で言えば、俺も千雪はいいモデルになると思ってる」という藤戸社長の言葉でした(原作第1巻第2話参照)。

垣間見える直接的でない親子愛が、じれったくも最高です!

 

 

6.手を振っている!

育人を柳田さんのアトリエに案内した際の帰り際、原作では私は見逃してしまっていたのですが、「私も頑張るから、頑張りなよ。ありがと」と言いながら、右手で小さく手を振っていました! 千雪らしい仕草ですね!!

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小さく右手を振る千雪

 

 

7.やっぱりカラー化!

原作漫画では特に意識していなかったのですが、柳田さんの服は赤系(深紅?緋色?スカーレット?クリムゾン?)だったんですね!

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赤系の何色?

 

 

8.厳しい現実・再び

度々才能があることを指摘される育人ですが、現実はそう上手くいきません。育人は、「目立たないように星縫い」と指示されたところを、両星縫いではなく、普通の星縫いをしてしまったのです。まさに藤戸社長の予言していたとおり、「学ぶべき知識と経験が足りてない」ことが露呈したのです。まったくもって厳しい現実を突きつけられた育人でした。

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CMに入るタイミングが最高でしたね!

 

 

9.背中合わせの二人

星縫いに失敗してアトリエを追い出されそうになったとき、育人は「私も頑張るから、頑張りなよ」と千雪の言葉を思い出し、柳田さんに食い下がりました。この背中合わせの二人の演出、最高じゃないですか? まさに育人と千雪は互いを支え合っていることがよく分かります。

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中合わせの二人

 

 

10.千雪の体型

森山さんが千雪の体型を褒めていましたけど、ここで言いたいのはそれではありません。

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千雪の横姿

この千雪の真横姿のカット(アニオリ)、女性の脚のスタイルや肉感をかなりリアルに描写しているように見えます。

思い返せば、アニメでは必ずしも正確に人の姿形が描かれるわけではないし、体型が分かりやすく出るパンツスタイルの真横姿のカットなんてあまりありません。

そこで思い至ったのですが、ファッションモデルを題材とするこの作品においては、頭身・体型のリアリティが大切にされています。意識的に見てみると原作漫画はもちろんそうですし、このカットでも分かるように、アニメでも大切にされています。

 

 

11.プロの現場

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「ごめんなさい。急いで来たからブラ着けっぱなしで」

千雪が「ごめんなさい。急いで来たからブラ着けっぱなしで」と謝ったのは、おそらく、首元~肩を露出させる衣装の場合には、ブラの肩紐の跡が出てしまうため、モデルをする際には、直前でなくそれなりの余裕をもって事前にブラを外しておくべきことを意味しているのだと思われます。

また、アニメでは説明されていませんでしたが、原作によると、モデルは、上はニップレスを、下はTバックだそうです(原作第2巻第6話参照)。

 

 

 

いろいろ詰め込まれたあまりにもテンポの速い展開なので、まさか11項目にわたって感想を書き連ねることになるとは思いませんでした。

次回第3話「ランウェイで笑って」は、倒れた森山さんの代わりに育人が千雪の衣装を仕立て直すことになります。ショーの時刻が迫る中、果たして育人は上手く千雪のために仕立て直しできるのでしょうか? 千雪はランウェイを歩くことができるのでしょうか?

まるで最終話のようなサブタイトルですが、もちろん物語は続いて行きますよ!(ちなみに、1月17日に原作最新刊の第14巻が発売されました!)

 

 

第3話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com