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アニメ「ランウェイで笑って」第4話の感想・考察――好きの先の何か、そして兄妹

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第4話の感想・考察記事です。

 

第3話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#第3弾登場!)

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第4話「若き才能たち」

相当する原作のエピソード:第2巻14話「都村家の日常」、第3巻第15話「好きの先の何か」、第16話「決意のお話」、第18話「無限に広がる世界」、第19話「瞬間」、第20話「楽しくなりそう」、第21話「トップの資質」、第22話「天賦の才」(第17話「シミュレーション」(育人と千雪のデート回)は丸ごと省略されていました)

千雪に出会うまで、家計のためにデザイナーの夢をあきらめ続けてきた育人。いまだに家族に、柳田の元で働いていることを言い出せず悩んでいた。一方、多忙を極める柳田のアトリエに、助っ人としてトップデザイナーの孫・綾野 遠とデザイナー志望の大学生・長谷川 心がやってくる。遠の卓越した技術を見せつけられた育人は……。

 

 

1.兄妹

第4話は、育人とほのか(長女)の間の葛藤が表面化した回でした。

大学進学をほのかに勧めてきた育人がバイトの給料を差し出したとき、ほのかは「そういうの、いいかんげん止めてよ! いいんだよ自己責任で! いつも育人は自分のことを後回しで夢諦めて就職するのに、そのお金で私だけ進学なんてしたくない! 行きたければ自力で行く。だから育人の助けなんて要らないんだよ。誰かの犠牲の上に夢叶えたって、なんにも嬉しくない」と吐露します。育人を責めるような言葉ですが、育人への優しさが溢れています

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「誰かの犠牲の上に夢叶えたって、なんにも嬉しくない」

ところが、ほのかは勘違いをしていました。育人は、たしかにバイトをしているのですが、「プロのデザイナーの下でデザイナーになるためにバイトをしている」のです。つまり、このバイトは、「夢」と「お金」を両立できるのです。

そのことを聞いたほのかは、「それじゃあずっと、私、空回りして……」とこぼします。しかし、育人がバイトの内容を伝えていなかっただけに、この勘違いは仕方のないことです。

第4話の冒頭の場面で、育人は「柳田って人のところで少し手伝いを……」濁した言い方をします。こんな濁した言い方をした理由の一つは、育人がバイトすることをほのかが嫌がることを育人は認識していたからです(原作第3巻第14話参照)。もう一つの理由は、柳田のところでの手伝いに給料が出るか分からなかったからです。この手伝いが「夢」と「お金」を両立できるバイトならば、育人は自信を持ってほのか達にバイトの内容を伝えられたはずです。しかし、給料が出ないのに手伝いだけをしているとなれば、たとえ将来的にプロのデザイナーになれたとしても、しばらくの間は給料の発生しない時間を浪費することになってしまい、兄として家族を支える責任を果たせません。だから、こんな濁った言い方になってしまったのです。つまり、責めるべきは、ほのかでも育人でもなく、最初に育人に対して給料その他勤務条件について説明しなかった柳田なのです!

ところで、この兄妹間のやり取りの場面の最後で、ほのかの育人に対する呼び方が「育人」から「お兄ちゃん」に変わっていました妹なのに「育人」と呼ぶのは、兄から独立的で、まさにほのかの言ったような「自己責任」(育人は自分の夢を追いかける、ほのかも自力で夢を追いかける)を象徴しているようです。それに対して、「お兄ちゃん」と呼ぶのは、ほのかが自分の夢を追いかけることを妹として兄に支えてもらうことを受け入れたからにほかありません。

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「……お兄ちゃん」

 

 

2.好きの先の何か

デザイナーになりたい理由を問われた育人は、「服を作ることが好きだから」と答えますが、柳田にプロの世界の心得を教えられます。

一度諦められるような「好き」じゃ、この業界続けていけねぇぞ。デザイナーにはお前がまだ知らない仕事が山ほどある。そこに締切、クオリティー、自分のセンスとの闘い。負ければ理不尽な扱いすら受ける。確実に「好き」じゃなくなる日が来る。「好き」の先に何か見つけれねぇと待ってるのは挫折だけだぞ。

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「『好き』の先に何か見つけれねぇと待ってるのは挫折だけだぞ」

まったくもって身に染みる言葉です。そういえば、どこかで「心理学的には趣味を仕事にしない方が良い」なんて言葉を聞いたこともあります。

柳田は、「好き」の先に「野望」が必要だと説きました。柳田の野望は、パリファッションウィーク(パリコレの正式名称)に出ること、そして自身のブランドを世界に定着させることです。その大きな野望を聞いた育人は、パリコレに出ると決意している千雪の姿を見ます。

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育人の野望は……?

そして、家族との葛藤が解消された後、育人は柳田に決意表明します。

僕がデザイナーになりたいのは、やっぱり服を作るのが好きだからです。たしかに僕は世界を掲げられるほどまだ夢を見れない。だけど、僕になって欲しいって言ってくれる人がいる。なりたいって思える僕がいる。着てほしいって思う人たちがいる。僕の原点はやっぱり「服を作ることが好き」なんです。着た人が笑顔になる、そんな服を作れるデザイナーになりたい。そんな願いじゃ野望になりませんかね?

こうして文字に起こしてみると、一回目の回答も二回目の回答も、結局は「服を作ることが好きだから」です。それでは両者の違いとは? 二回目の回答では、「誰かのために服を作ることが好きだから」が意識されてる――のではないでしょうか。

「僕になって欲しいって言ってくれる人がいる。なりたいって思える僕がいる。着てほしいって思う人たちがいる」と言ったシーンで、育人は家族や千雪を思い浮かべていました。単に漠然と「服を作ることが好き」ではなく、「家族や千雪のために服を作ることが好き」なのです。

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「着てほしいって思う人たちがいる」

具体的な誰かを思い浮かべて服を作ることは、とりわけ厳しい状況に置かれたときに、前に進む力をくれます。実際、育人はそうやって数々の場面を乗り越えてきました。ミルネージュのオーディションを受ける千雪のために(第1話)、藤戸社長に再度面会する自分自身のために(第2話)、東京コレクションにて衣装を仕立て直したときは千雪のために(第3話)、育人はそれぞれ具体的な誰かを思い浮かべて、その人のために服を作ってきたのです。

 

 

3.展示会に集う人々

展示会には様々な人が集っていました。

人気モデルのセイラは、千雪の街角スナップをインスタに取り上げた人です(第1話)。

芸人兼映画監督の北谷つとむ

ブランド「Aphro I dite(アプロアイディーテ)」の代表取締役兼デザイナーの綾野麻衣

服飾芸華大学学園長の高岡祥子

百貨店「三ツ峰」銀座本店のバイヤーの柏原史郎

そして、アニメでは登場しなかったのですが、実は原作では、ファッション誌編集者の新沼文世も来ていました!

 

 

4.デザイナーと奴隷

特注生地が使えなくなり柳田が代替案を練っているときの育人と遠の会話です。

育人「シルクであの服を作れるものなんですか?」

「作れるよ。2つやり方がある」

育人「それなら、相談して決めた方が……」

「いや、僕のポリシーでねぇ、デザイナーはトップでいてほしいんだよ。デザイナーが考えるからデザインはデザインたり得る。僕らはデザインの奴隷だから、デザイナーが考えるデザインにスタッフが口を挟むなんて許されない」

遠がデザイナーとスタッフ両方の側面を持っているため少々分かりにくいですが、ここでの遠は――デザイナーとしてではなく――デザイナーの下で働くスタッフとしての心得を説いています。つまり、ここにはトップたるデザイナーと、奴隷たるスタッフしかいない、と。

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「僕らはデザインの奴隷だから、デザイナーが考えるデザインにスタッフが口を挟むなんて許されない」

 

 

5.育人の才能

育人が芸華大でチュニックのシルエットの変化に気付いたことほぼ完璧にパターン(型紙)起こしを行ったことを見て、遠は育人の才能に気付きました。アニメでは省略部分があったので、原作における遠の独白を紹介します(第3巻第22話)。

さっきまでショーゼット(シルク)のバイアス使いにあんなに苦労してた子が、完成形を目にしたら誤差をここまで縮めてきた。あの裁縫スキルじゃ経験値はそこまで積んでない。だとしたら先天性のものだと考えた方がいい。見て――脳でパターン化(設計)できる。ボクが綾野麻衣のもとで20年かけて身に付けた「目」を、彼はすでに持ち合わせつつある。

実は、育人が「見て――脳でパターン化(設計)できる」才能を持っていることについては、原作では既に示唆されていました(原作第1巻第4話。アニメ第2話では省略されていました)。その才能について詳しく説明されているので、ぜひ原作をご覧になってください!

 

 

6.千雪の出番

第4話における千雪の出番はたったの一度だけでした。

しかし、「都村くん」から「育人」へ、「藤戸さん」から「千雪さん」へ、という名前の呼び方変更という青春モノには重大なイベントでした。人の呼び方を変えることは、なかなかにセンシティブで、実際するとなればそれなりの勇気が必要です。

これは愚痴なんですが、ブコメその他学園モノの男キャラって、女性に対して、「お前」呼び、あるいは出会ってすぐに下の名前呼びが異常に多くないですか? (少なくとも私の経験では)現実にはそんな不躾な人は少数派にもかかわらず、フィクションではこういった男キャラが幅を利かせていることに常々違和感を抱いていました。

その点、「ランウェイで笑って」は、丁寧な作品です。「最初からその呼び方だった」とか「なんとなく呼び方が変わった」ではなく、ちゃんと変わったきっかけが描かれていたのです。しかも、シャイボーイの育人からではなく、男気ある千雪の方から提案したっていうのも、キャラに合ってて素敵です。

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シャイボーイの育人と、男気ある千雪

 

 

さて、次回は、第5話「それぞれの流儀」です。育人の引き抜きを提案した遠に対して、柳田はどう答えるのでしょうか? そして育人は? 千雪の出番は?

 

第5話の記事はこちらから!

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