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『かげきしょうじょ!!』第11巻の感想・考察――さらさの性分、愛の著しい成長と焦り、志織の夢

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『かげきしょうじょ!!』第11巻

 

この記事は、テレビアニメ絶賛放送中斉木久美子『かげきしょうじょ!!』第11巻(2021年7月5日発売)感想・考察を書き連ねた記事です(過去記事はこちら)。ネタバレにはご注意ください!

 

 

オルフェウスとエウリュディケ」の配役と組み合わせ

第11巻の本編はずっとオルフェウスとエウリュディケ」で、カタカナの名前が飛び交ってやや混乱したので、まずは配役と組み合わせを整理しておきます(元となった神話のあらすじは9巻28幕24頁を参照)。

起承(10~11巻)の配役と組み合わせ

  • オルフェウス(男役)A:さらさ B:愛 C:薫 D:紗和
  • エウリュディケ(娘役)A:千秋 B:千夏 C:彩子 D:マッスー

転結(11巻~)の配役と組み合わせ

  • オルフェウス(男役)A:さらさ B:薫
  • エウリュディケ(娘役)A:千秋 B:彩子
  • ハーデス王(男役)A:紗和 B:マッスー
  • 妻のペルセポネー 兼 美青年の小悪魔(男役)A:愛 B:千夏

 

 

さらさの性分

 

さらさの性分(その1)

10巻33幕で息の合っていない演技を見せてしまった渡辺さらさ沢田千秋ペアは、さっそく高木先生から講評を受けます(11巻34幕)。役になりきり過ぎて現実との境界線を見失ってはならないこと、そして「全は個にして、個は全なり。個は孤にあらず」という金言も授けられます。

また、さらさの暴走しがちな性分について、紗和は高木先生とは別の角度から深掘りして分析していました(35幕69-71頁)。

さらさは自分の役だけではなく、他の役やストーリー全てをさらさの中で完成させてしまうんだなって。

さらさの言っていたハーデス像は、私の演じるハーデスではなく、さらさの作り上げた「杉本紗和のハーデス」。さすがオタクキング。想像力豊かよね。

でもそれって、さらさの支配下オルフェウスとエウリュディケの世界だから、共演者としてはちょっと迷惑よね。

でも、紗和は次のようにも言っていました(35幕57頁)。

舞台って生物だから予想だにしない状況になる事があって、それを動揺せずに乗り越えなければならない。さらさにどう対応できるか、ためしてみようかなって。

さらさは上記のような自身の性分を十分に自覚・咀嚼している様子はありませんし、それを周りからも伝えられていません。むしろ、紗和などはこれを奇貨として自分の成長につなげようとしています。「オルフェウスとエウリュディケ」の授業で、さらさは自分のそのような性分をどう理解・咀嚼し、どのように向き合っていくのか、今後のさらさの成長が楽しみです。

 

さらさの性分(その2)

その一方で同じく11巻では、さらさの性分を積極的・肯定的に評価している人もいました。

高木先生の授業で特別講師を務めた春組トップの朝比奈流は、緊張の走る現場で怖じることなく手を挙げたさらさについて、「あの子のおかげで100期生達は一つヒントをもらえたね。ああいう子はね、知らず知らずの内に種をまいているんだよ」と評価していました(36幕94頁)。

こういうさらさの怖いものなしに突き進んで行く性分は、まさに主人公気質だなあと感じました。

 

さらさと千秋の関係性

10巻・11巻で深まった人間関係を見せたのは、さらさ千秋です。

「おこぼれライト」(10巻33幕97頁)でさらさと組んだ千秋ですが、さらさの暴走により「起承」の結果は散々でした。「娘役が生きるも死ぬも男役次第かな」と、愛と組んで好演した千夏を見て千秋は落ち込んでいたりもしました(11巻34幕)。

授業後、千秋はさらさから謝罪されます。それを受けた千秋は、前言していた「前に進むための授業じゃないですか」(10巻33幕110頁)というさらさの素直で前向きで有言実行な性分を信じて、さらさと和解し再びさらさと組むことを決意します(34幕)。

それでも、「次は暴走しないでよね!」「三度目はないんだからね!!」「あま―――――――い!!」「発表になったらアレよ!!」「全然面白くなんかないんだよ?」(35幕)と、千秋は経験者としてその後ずっとさらさの暴走を敏感に警戒していますが笑 さらさと千秋のオル×エウのキャラを「陽気なオルフェウスと置いていかれるエウリュディケ」とさらさがネタにしたときは、千秋はさらさに土下座させていました笑(35幕100頁)

ところで、10巻に引き続き11巻でも、表情の豊かな千秋が見られましたね! 「エウリュディケは渡さない!!」の警戒した表情(35幕49頁)、「ちょっと、さらさ!!  思いつきでアレンジするなっちゅーの!!」の鬼の表情(36幕110頁)、「『おたくらよりセリフ長く喋れたグループですが何か?』って登場の仕方よね」のやさぐれた表情(36幕112頁)等々。千秋は作者に愛されているなあって感じます。

 

 

愛の著しい成長と焦り

 

愛の著しい成長

伸び悩んでいるさらさとは対照的に、文化祭の舞台での代役経験や先輩の役割を担うようになってから、成長著しい様子を見せているのは奈良田愛です。

愛の解釈するオルフェウスとエウリュディケは、「愛し方を、愛され方も解らなくて、壊してしまいそうで怖い」「オルフェウスがエウリュディケを素直に見つめられるのは、彼女と視線が交わらない時だけ」でした(11巻34幕)。

この「失ってから気づくオルフェウス(10巻32幕86頁)は、もちろん自身が陽キャを演じられないという事情もありますが、しかし、愛は自分の経験を踏まえてきちんと自分なりのオルフェウスのキャラを作り上げたのです。

後輩の伊賀エレナの指導を担当し、またオルフェウスの役づくりを考えるようになってから、愛はJPX48時代の自分とチームリーダーの関係性を思い返していました。そして、カップルの突然の別れ話を目撃したことをきっかけに、チームリーダーが自分のことを大切に想ってよく見てくれていたこと、自分はそれに正面から向き合えず逃げていたこと、そして今さら彼女の想いを手離していたことに気付いのでした(10巻32幕)。

このような自分の経験と自分なりの解釈、さらには大舞台での経験を踏まえて、愛と千夏は「オルフェウスとエウリュディケ」を演じきったのでした。

余談ですが、そもそも、全寮制、本科生・予科生のヒエラルキー、指導担当制度などの紅華の制度は、特に思春期において濃密な人間関係を形成しやすいシステムであり、ここから演劇に活かせる気づきは多々あると思われます。紅華の舞台に相応しい想像力と演技力を身に着けて送り出す上手いシステムだと感じました。

ところで、オルフェウスを好演した愛は、各所で褒められていましたね。同期からも「奈良っちのオルフェウスもなかなかだったよね」「悔しいけど異彩を放ってたわよね」(薫)、「あんなに素敵なオルフェウスだったのに…」(さらさ)、「私も個人的に奈良オルの続きが見れないのが残念…」(紗和)と褒められていましたし、高木先生からも舞台の奥行に対する想像力について評価されていました。褒められた愛はかなり嬉しそうでしたね笑

 

愛の焦り

上記のように高評価の愛ですが、もちろんそれには愛の高い意識があったからです。紅華に入学した頃とはまったく違います。「音校生でいる残りの1年間、何にでもチャレンジしようって決めた」り、そのためにペルセポネーに挑戦したり(35幕)、「セリフを喋りたい。私には時間がないの」と授業でセリフを言えなかったことに対して焦燥を露わにしていたりもしました(36幕)。しかし、意識の高さと表裏一体のこの焦りが悪い方に向かわなければ良いのですが。

そして、11巻36幕は、愛とJPX48の現役メンバーである小園桃による興味深い会話の途中で幕切れとなってしまいました。男役トップを目指す愛に対して、小園桃は「グループの頂点に立つって、人気や実力だけが求められる訳じゃないんだからね」と愛の覚悟を問いますが……?

 

 

印象に残った小ネタ集

 

「萌え」が多い

11巻は「萌え」が頻発していましたね!

愛のオルフェウスのラストシーンを解釈して萌える100期生たち(34幕43頁)、「玉座にドヤ顔でふんぞり返る、けれども気品を感じさせる杉本ハーデス」を想像して萌えるさらさ(35幕62頁)、授業への春組トップの登場にサイレント歓天喜地する100期生(35幕61頁)などなど。

特に、紗和のオタクっぷりが目立っていましたね! 授業への春組トップの登場に鼻血を出したり(35幕77頁)、その授業後に一人でオタク語りしていたり(36幕91頁)、朝比奈流の退団会見の知らせを見て倒れたりしていました(36幕125頁)。

とはいえ、重度の紅華オタクの紗和ですが、さらさのいる組に入って自分を試そうとするなど、成績トップとしての矜持を見せる側面も見せていましたね! さらさと同組になった紗和がいかに成長していくか楽しみです!

 

その他の可笑しかった小ネタたち
  • 愛のオルフェウスのラストシーンに気付いてしまった紗和(34幕42頁)、練習中なぜかその顔になているさらさ(35幕64頁)など、『ガラスの仮面』の有名な「おそろしい子!」の表情が何度か見られましたね笑
  • トイレで手を合わせていたさらさ・愛・千秋の三人に対して「無言で手重ねて何か呼び出しでもしてる訳?」と薫がツッコんだ際、足元に魔法陣が描かれていました笑(35幕51頁)
  • 11巻では101期生がまったく登場しなかったと思いきや、さらさ・愛・千秋・紗和の四人組が和室で練習する後ろで伊賀エレナが掃除をしています!(35幕63頁) この場所は、エレナが愛から掃除担当を引き継いだところですね。
  • 18歳の年にもなっても着ぐるみパジャマの千秋が可愛かったですね!(35幕65頁)

 

 

丁嵐志織の夢

9巻の番外編「白川宗家の娘・丁嵐志織編」に引き続き、11巻でも番外編「さらさの異母姉・丁嵐志織編 その2」が収録されました。ここでは、志織が異母妹のさらさを応援するようになった経緯が描かれています。

まずは白川家・渡辺家の家系図を再掲しておきます。

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白川家・渡辺家の家系図

9巻の番外編にて、志織は次のように語っていました。

「何でもできるけど何者にもなれない」

「何もない自分にがっかりするんだ」

「何もないのは私で、私はあの場所に選ばれて無いんだ。……ずっと探してる。なんでもいいんだ。自分の存在を……透明な自分の輪郭を辿ってくれる何かを」

そして、今回の番外編で明らかになったことによれば、音楽とバンドを辞め、白川福二郎との別れと白川煌三郎との結婚を経た後、志織は清水姓になって一般企業で働いていました。そこで後輩から「推しのいる生活」について教えられます。これを聞いたとき、志織はまず美里屋の御贔屓さんを想起したのでした。

上司とのトラブルの後、退職した志織は、母親に「お前は助六になれません!!」と言われるさらさ、そして復活してオスカル様を目指すさらさに出会います。そして気付いたのでした。「私は!私の妹の夢を叶えさせてあげたい!!」ことを。そして次のように独白します。

あなたはあなたの新しい道へ、そして私は憧れと期待と母の後悔を抱きしめて、夢を支えてあげる。なんてったって私が一番あの子の事を理解できるんだから。最高だ。舞台の中央に立つその日までズッ推しだ

志織は、何もない自分にずっと悩んで生きていました。しかし、夢のない自分と夢の絶たれたさらさを重ね合わせた志織は、復活して二度目の夢を掴んださらさを応援せずにはいられませんでした煌めく推しの姿を見たいと思ったのでした。

 

そして志織は、さらさの祖父が営む畳屋に発注することによってさらさを間接的に資金援助することを提案し、その説得に成功します。これこそが「父にもアレ〔白川煌三郎〕にもコレ〔白川暁也〕にも出来なかったこと」(11巻154頁)なのです。

ここで8巻の答え合わせです。以前、志織は「何も知らないで二人〔煌三郎と暁也〕でナイトきどっちゃってさ。ふふっ、ちょっと優越感に浸れるわ。あのこ〔さらさ〕を一番ささえて居るのは私……って」と意味深に語っていましたが(8巻26幕127頁)、これは志織のさらさに対する間接的な資金援助を意味していたのです。

暁也(と煌三郎)がさらさの精神的な支えになっているとすれば、志織はさらさの経済的な支えになっているのです。どちらが一番の支えになっているかは決めかねますが、しかし、志織の支えがあったおかげで、さらさが夢だった紅華を目指すことができたことは間違いなく、それがなければ、さらさは近所の都立高校にでも進学していたでしょう(36幕155頁)。

おそらく、さらさは志織と面識はありません(というより、異母姉の存在を知っているかさえも怪しいです)。今後、さらさと志織の物語がどう交錯してゆくのか楽しみです!

 

 

 

第8巻~第12巻の記事はこちらから!