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『かげきしょうじょ!!』第12巻の感想・考察――トップとは? 男役と娘役で悩む愛の結論とは?

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『かげきしょうじょ!!』第12巻

 

 

こちらは、斉木久美子『かげきしょうじょ!!』第12巻(2022年4月5日発売)の感想・考察を書き連ねた記事です(過去記事はこちら)。ネタバレにはご注意ください!

 

 

頂点に立つ者のトップ論

第12巻では、トップに立つ三名からそれぞれのトップ論が語られ、奈良田愛と渡辺さらさに大きく影響を与えました

 

センター・小園桃のトップ論

愛が以前所属していたJPX48のセンター・小園桃は、グループの頂点に立つには人気や実力だけが求められる訳じゃない、と言います(37幕)。さらに、彼女自身は歌も踊りもたいして上手ではなく、自身より優れた容姿の子が他にもいる、とも言います。そんな彼女がセンターになれたことについて、小園桃は自身が「普通」であったからだと分析します。「普通」にもかかわらずセンターになった彼女には、悪意が向けられたとも言います。

しかし他方で、そんな「普通」の彼女であっても、センターとしての責任を背負うことになります。後輩の手本になったり、不真面目な子に対して指導を行ったりもしなければならないのです。そんな彼女の苦労に対しては「天狗になってる」などと叩いてくる人もいます。

小園桃は、こういった責任と苦労をすべて受け止めるのがグループの頂点である、と語ります。

ただ、そんなトップ論を語った小園桃に対して、愛は彼女が「普通」ではない、と言葉をかけます。小園桃には「オーラ」「人を惹きつける何か」があると言うのです。そして「それだけはどんなに努力しても手に入らない」と評して、愛はさらさのことを想起するのでした。きっと愛は、さらさと過ごすうちに、アイドルとして上位の人気があるほどの容姿が自分にあったとしても「オーラ」や「人を惹きつける何か」は自分にはないものだと感じていたのでしょう。

さて、小園桃のトップ論は、男役と娘役の間で悩む奈良田愛にどのような影響を与えたのでしょうか? 娘役になるという愛の結論に対して、小園桃のトップ論は消極的な理由として作用しました。愛曰く、「私…人の中心になって引っ張ってゆくタイプでは無いのが良く解ったので…」と(40幕153頁)。

ところで、小園桃との食事は、他の方面でも愛に影響を与えましたよね。「学校外に友達が出来てしまったかもしれない」のです(37幕39頁以下)。しかも、愛の頑張りに桃も刺激されており、良い相互作用が生まれています(39幕88頁以下)。それにしても、小園桃のラインのアイコンは桃、奈良田愛のアイコンは奈良の大仏なんですね笑

また、小園桃の素の言葉や表情が見られ、ますます彼女のキャラクターの魅力が増しましたね。本科生編の開始とともに男役と娘役の間で揺れる愛に対して、小園桃の存在は間違いなく重要な役割を果たしました。小園桃が再登場してくれることを期待しています!

 

男役トップスター・朝比奈流のトップ論

春組男役トップスター・朝比奈流は、退団会見にてトップ論を語ります(37幕)。最初のうちは一人でトップとしての責任感・使命感を気負っていたものの、「やがて私には春組の仲間がいると、舞台は一人では成り立つものではないという事を、改めて気付かされました」と言うのです。そして、組の下級生たちが育ち朝比奈流トップの春組が完成形に到達したと評して、トップの座を次世代に受け渡すと決意したと語ります。トップになった者は、「トップの始まりと同時に終わりを見据えている」のです。

このような朝比奈流のトップ論は、渡辺さらさに影響を与えました。オルフェウスとエウリュディケ」で暴走したさらさを現実に引き戻してくれたのは、まさに仲間なのでした。つまるところ、「全は個にして、個は全なり。個は弧にあらず」なのです。さらさはそのことを自覚し、自来也bot(白川暁也)に対して「紅華の仲間の皆さんがささえてくれるので、少しずつさらさは成長できてます」と送っています(40幕)。

また、朝比奈流のトップ論とシンクロするのは、小園桃のアイドルとしての生き様です。彼女は、「私、もう完成しちゃったのかな。JPXとして、アイドルとして、もう伸びしろが無いって事なのかなって思うんだよね」と一度は弱音を吐きつつも、「卒業するのは次にセンターを奪取してから」「私がJPXを去るときは華々しく」と宣言します(37幕)。トップになれば後は退団とセレモニーしかない紅華とは対照的に、アイドルはトップからの陥落もあり得ます。実際、直近の総選挙で小園桃はセンターから陥落しました。しかし、センター奪還を自身のアイドルとしての完成形として据えてこれを卒業条件とする小園桃の生き様は、自らの組の完成形の到達を見届けて退団を決意した朝比奈流と通ずるところがあると言えるのでないでしょうか。

 

娘役トップスター・城花るりのトップ論

冬組娘役トップスター・城花るりも、奈良田愛に尋ねられて、娘役トップのあり方を語ります(40幕)。曰く、

まず娘役として自分の個性を見失わず、男役トップの傍らにつねに寄り添いながら、男役トップのファンの皆様に嫌われないこと。

後は――これは私の持論なんだけれど、「娘役トップスターは美しき矢印たれ!」

私が差し出した手の美しさによって、それを受け取る星〔男役トップ・里美星〕の手が色気を増し! 星を見つめる私の首筋のラインが美しくあればある程、見つめ返す星の瞳の煌めきが増して見えるのよ!!

組の頂点に居る男役トップスターをより輝かせてみる、それが私達。

娘役になると決意した奈良田愛に対して、上記の小園桃のトップ論が消極的な理由として作用したのに対して、城花るりのトップ論はむしろ積極的な理由として作用したと見るべきでしょう。

しかしながら、愛が男役ではなく娘役を目指すと決意した要因は、上記のトップ論だけではあり得ません間違いなく、「オルフェウスとエウリュディケ」の授業でさらさの暴走とそれを引き戻すことを経験したからこそ、愛は「娘役トップになってさらさと銀橋を渡る」と宣言するに至ったのです

 

 

娘役を目指す愛の決意

 

暴走したさらさを引き戻す愛

12巻の見どころの一つは、あるいは9巻から始まった「オルフェウスとエウリュディケ」の授業のハイライトは、暴走したさらさを引き戻す愛でした。

さらさ・愛・紗和・千秋の組は、練習で上手くいっても、授業本番になると、さらさが暴走しゾーンに入って演劇に不可欠なチームの統制を崩します。実際に、最後の授業では皆が危惧した通りにさらさは一人で突っ走ります(39幕)。

役になりきり過ぎて現実との境界を見失ったさらさについて、愛は次のように独白します(39頁98頁以下)。

今ここに、渡辺さらさは居ない。存在するのは、焦りと憎しみにかられたオルフェウスのみ。

イラつく。息が合わない。苦しい。

さらさの演技に私はいつも魅了されつづけて来た。あの時も、あの時も。一緒の舞台に立ちたいと、銀橋を渡りたいと、天才とはこういう人の事を言うのかと、人のこころを掴んで離さない。

でも、実際に演技をしてみると――

このように愛はさらさを「天才」「とても才能ある人」と評しますが、必ずしも周りの人に益するような演技法ではありません。奈良田君子は端的にこれを「才能」ではなく「特異体質」「座組の失敗」と表現しました(39幕108頁)。

さらさが「弧」「独りよがり」になってしまったことは、鏡の前に立つさらさが自分自身としか向き合っていない心象風景によって象徴的に描写されます(39幕118頁)。

暴走するさらさを愛は何とかして引き戻そうとします。このときヒントになったのは、母親の経験談でした。愛は「ここには誰もいない!!」と叫んでさらさの口元を掴み、現実へと引き戻したのでした(39幕119頁以下)。

この「ここには誰もいない!!」は、ダブルミーニングとなっています。一方では、演劇上のセリフ通りにオルフェウスの後ろには誰もいない」ことを意味し、他方では、暴走して自分以外に誰も見えていないさらさ本人に対して「さらさの演技の周りには誰もいない」ことを意味しているのです。

愛がさらさの口元を掴んだ行為は、結果的にさらさを現実へと引き戻すことに成功しました。のちに高木先生は愛の行動について「実に勘がいい」「意識が飛んじゃった役者には、触ってあげて感触で引き戻すのがいいんだよねぇ」と評価しています。

 

愛の憧れと願いは一貫して……

12巻の見どころのもう一つは、さらさに対して愛が娘役を目指すことを宣言したシーンでした(40幕148頁以下)。

城花るりのトップ論が最後のきっかけとなったのは間違いありませんが、むしろこれは、ほとんど出来上がっていたパズルの最後のピースに位置付けられるでしょう。愛が娘役を目指すという結論を導くためのピースの大部分は、「オルフェウスとエウリュディケ」の最後の授業での経験でした

暴走したさらさを引き戻すとき、愛は次のように決意しています(39幕116頁)。

あの日、星を見た。私はそれを再生する。何度も、何度でも。その星が一番高い宇宙で輝きを放つまで追いかける。私はその星を決して見失いはしない。

この「あの日」というのは、予科生の観劇日の後に、「見よ!真っ暗な夜の帳の中、燦然と輝くあの星々!!」などのロミオのセリフをひとり演じたさらさを見た日のことです。このとき愛は次のように独白していました(『シーズン0』12幕363頁以下)。

みんなは気付いていただろうか。思わずつられて空を仰ぎ見る、自分たちの姿を。

みんなには見えたのだろうか。夜空に浮かんだ眩い星々が私には見えた。あの星、あの一番高く大きく輝く星。

あれは、渡辺さらさ。あの人はあそこへ行くべき人だ。私もそこへ、その場所へ、同じ高さであの世界を、見てみたい。

このように愛はずっと前からさらさに強烈な憧れを抱き、そして自分もその隣にいたいと思っていたのです。そう、「娘役トップになってさらさと銀橋を渡る!」(40幕154頁)ことを愛はずっと一貫して願っていたのです。

愛は、男役か娘役かで悩み、「オルフェウスとエウリュディケ」の経験を通して、さらさという「組の頂点に居る男役トップスターをより輝かせてみる」自分自身に気付いたからこそ、愛は自身のさらさに対する一貫した憧れと願いを自覚することができたのでした。

そして、象徴的なのが、愛の表情です(40幕151頁、154頁)。おそらく過去一番の晴れやかな笑顔をしていますね!

 

 

印象に残った小ネタ集

12巻でも様々な見どころがありました。

 

黒塗り背景の使い方

この作品は黒塗り背景の使い方が非常に上手だと感じるのですが、12巻でも「私達のこと、忘れないでね」のコマは印象的でした(38幕68~69頁)。

 

中学時代のさらさ

38幕では中学時代のさらさのシーンがありましたね! 178cmもあれば中学生女子のスポーツでは無双できるのはもちろん、中学生男子の中でだって大活躍できますよね笑

 

「ごめんねLOVE」

テレビアニメでは第1話から使用されていた「ごめんねLOVE」ですが、(全巻調べられていないので確言はできませんが)原作でこの歌詞が登場したのは初めてではいないでしょうか(39幕88頁)。ここにアニメと原作の相互作用が見られますね。

 

好戦的な紗和

さらさ・愛・紗和・千秋の4人で「オルフェウスとエウリュディケ」を演じるに際して、紗和はさらさに対して好戦的になっていましたね。愛の前で暴走のスイッチが入ったさらさを見て、紗和は「残念。『当番』は奈良っちだったか」と独白しています(38幕86頁)。

文化祭のティボルトオーディション(5~7巻)のように、いつか、さらさと紗和、それに薫の男役対決を再び見てみたいですね!

 

奈良田君子の経験談

さらさの暴走を止めるためのヒントを愛に与えることになった奈良田君子の経験談ですが、彼女はその独りよがりの売れっ子を「ひっぱたいたの。もちろん軽くよ」と言うのです(39幕114頁)。

しかし、「スパーーーーーン」は「軽くひっぱたいた」と言うにはあまりにも良い音が出ていますよね笑

 

小悪魔の身体つき

12巻を読んでいて、「オルフェウスとエウリュディケ」における小悪魔の身体つきの描き方が目に留まりました。12巻の数か所で、オルフェウス役のさらさ、エウリュディケ役の千秋、ハーデス役の紗和、小悪魔役の愛の4人が横並びになっているコマがあります(37幕46頁、38幕48~49頁、40幕136頁)。

当然、男役のオルフェウスとハーデスは男性らしい身体つきで、娘役のエウリュディケは女性らしい身体つきで描かれているのに対して、愛の演じる美青年の小悪魔は女性らしい身体つきで描かれています。男性役にもかかわらず女性らしい身体つきのまま描かれたのは、この小悪魔がハーデス王の妻ペルセポネーの化けた姿だったからという理由があると思われます(9巻28幕24頁以下を参照)。ペルセポネーが化けたことを表すために、小悪魔の身体つきは女性らしいままだったのでしょう。

それにしても、女性ばかりの劇団で、男役が女性(ペルセポネー)を演じ(=女装)、これが男性(小悪魔)に化けるというのは、複雑怪奇な構造になっていますね笑

 

裏表紙の二人

12巻の裏表紙の見つめ合う二人は、冬組トップコンビの里美星と城花るりでしょうか。城花るりが「星を見つめる私の首筋のラインが美しくあればある程、見つめ返す星の瞳の煌めきが増して見えるのよ!!」と語ったシーンが再現されています。

 

絶対に無いことは無い

「同期生同士でトップコンビになれる事ってあるのでしょうか」と尋ねた愛に対して、里美星と城花るりは、「絶対に無いって事は無いんじゃないかな」と答えています(40幕146~147頁)。

これは、予科生の頃にオスカル様を目指すと宣言しているさらさに中山リサ先輩が「あんたじゃオスカルになれないよ」と言い放ったのに対して、さらさが「絶対なれると同様に絶対なれないなんて事はないと思うんです」と語ったことを想起させます(『シーズン0』4幕)。

 

聖地・メリケンパーク!

モデルとなった宝塚歌劇団がある宝塚市、さらさの地元である浅草に次いで、もはや第三の聖地と言ってよいメリケンパーク(と周辺施設)がまたもや登場しましたね!(40幕)

円形ステージで愛がキモオタさんに助けられた場面(『シーズン0』11幕)、オリエンタルホテルの見える公園に仲良し7人組で初めておでかけした場面(『シーズン0』おまけマンガその1・2)、「BE KOBE」モニュメントの前で愛が伊賀エレナにアドバイスを送った場面(10巻32幕)などで、この辺は登場しています。いつか神戸に行く機会があったら訪れてみたいのですが。

 

沢田姉妹と薫のリアクション

さらさにしか娘役を目指すと語っていない愛ですが、彼女がキレイ系のワンピースなどを今のうちに着慣れておきたいと言ったとき、皆は事情を察して、娘役志望の沢田姉妹は「強敵が戻ってきた!?」と焦り、男役志望の薫はニコニコしていましたね笑(40幕157~158頁)

 

101期生の登場なし?

私の見たところ、おそらく12巻に101期生は一切登場しませんでした。11巻についても、35幕63頁に伊賀エレナが背景にひっそりと登場した1コマだけでした。

オルフェウスとエウリュディケ」編が終わったので、伊賀エレナや澄栖杏といった101期生も再登場してほしいですね!

 

 

 

第13巻は、2022年冬ごろ発売だそうです! 年内ということですね!

また、メロディ本誌2022年4月号(紙版)には、『かげきしょうじょ!!』を含むカレンダーが付録されているようです!

 

このようなキャンペーンも行っているようですね!

 

 

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