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アニメ「ランウェイで笑って」第6話の感想・考察――デザイナーの資質とは?

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第6話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

第5話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第6話「優越感と劣等感」

相当する原作のエピソード:第4巻第30話「等価交換」、第31話「コンセプト」、第5巻第32話「自分を信じろ」、第33話「優越感と劣等感」、第34話「甘美な誘い」、第35話「Just a moment」、第36話「私の“利(メリット)”」

参加者が自分でデザインした服を披露する芸華祭一次予選。育人が選んだモチーフは審査員の予想を大きく裏切るものだった。審査員たちの育人への評価は……!? 一方、夢に向かって突き進む育人に感化された千雪も、自分の力で道を切り開こうと片っ端からモデルの仕事先へ自らを売り込んでいた。

 

 

1.千雪の尊敬する人

同級生との会話の中で、千雪は育人のことをこう評します。

育人のこと、結構、尊敬してるんだ。

私はさ、本気でハイパーモデルになるつもりだから、モデルに必要ないことはほとんど切り捨てちゃうの。でもね、育人は違う。捨てない。全部捨てないの。

きっと私の方が夢に向き合っている時間は長い。それでも育人が頑張っていないって、欠片も思えないのは、きっとそこに何も捨てない、両立するって覚悟があるから。

私にはできない。できないから感心するし、尊敬するし、負けたくないって思うの。

だからね、育人。勝って。勝たないとその努力は証明できない。

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「私にはできない。できないから感心するし、尊敬するし、負けたくないって思うの」

この千雪の言葉に表れているように、育人と千雪の努力の方法は対照的です。

そして「勝たないとその努力は証明できない」という言葉は、千雪自身にも向けられたものでもあります。だって、「私でもパリコレに出るのは無理じゃない、君でもデザイナーになるのは無理じゃないって、私のためにも証明したいんだよ」(第2話)と、千雪は自身も育人も結果がすべての世界に身を置くことを覚悟しているのですから。

ところで、「育人のことを尊敬している」というこの千雪の発言は、前回(第5話)の育人の発言と対になるものです。そこでは育人は、心に対してこのように言葉をかけていました。

えっと、うまく言えないんですけど、やりたいことはやるべきで、認めてもらうには自分から一歩踏み出す。そう、尊敬する人から学びました。

育人のいう「尊敬する人」とは千雪のことです。このように育人と千雪は、叶えたい夢や努力の方法は異なりますが、互いを尊敬し高め合っているのです。

 

 

2.デザイナーの資質――オシャレの問題

一次予選の合格発表の場面がアニメではやや分かりにくかったと思うので、原作ベースで解説してゆきたいと思います(原作第5巻第32話~第33話)。

(1)手直しをすべきか否か

まず、全員の審査が終わった後、予選参加者らは教員から次のように指示されました。

これから私と学園長で二次予選に進む通過者を決める……前に、今から2時間の手直しの時間を与える。審査の段階で散々言われたヤツもいるだろう。挽回するチャンスだ。

デザイナーは、モデルをランウェイに送り出すギリギリまで手直しをする。それは自分が生み出すものに誇りと責任を持ってるからだ。諦めるな!! 自分を信じろ!! それはデザイナーの立派な資質だ!!

手直しをする者は残って作業! しない者は多目的教室Aに移動して作品を提出するように!

このように言われた学生たちの相当数は、布を買い足すために財布を手に教室を出てゆきます(この点、アニメにおける学生らの歩く姿勢からは、手直しをせずにドールを持って多目的教室に移動したように見えます)。

周りの学生らが行動を起こす中、育人は悩みます。そこで育人の頭に思い浮かんだのは、千雪に言われた「欲しいなぁって思って。好きだよ、これ」という言葉でした。この言葉に勇気をもらった育人は、手直しをせずに、当初の状態のままで提出することを決意します。

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「欲しいなぁって思って。好きだよ、これ」

(2)真のテーマ

育人が提出のために向かった先の教室で待っていたのは、学園長の衝撃の言葉でした。少々長いですが、アニメより分かりやすいので原作のセリフをそのまま引用します。

じゃあ審査会で色々言われても自分を信じて“直さず”作品を提出しにきたみんな! これから、がくえんちょーの私から大事なお話と、この予選の本当の審査基準のお話をします。

さて、みんな! 今回の課題「セイラちゃんに似合うオシャレな服」をテーマに服を作りましたね。そして中には、「ダサい」って言われた人もいる。“オシャレ”がテーマなら、非難の言葉は“ダサい”だよね~。でもみんな、思わなかった? 「オシャレってなんだよ」「漠然としすぎだろ」……って。

実を言うとね、オシャレかどうかなんてことほど主観的なことはないんだよ。

だって、そうでしょ? ちょっと昔にメンズのショートパンツが流行して、最近は「タックイン」がトレンドになってる。流行だからさ! “オシャレ”が好きは人は注目するわけじゃない。……でもこの中でもいるでしょ? 「ダサい」って思ってる人。そんなもんなのよ。派手なのが“奇抜無理”って言う人もいれば、シンプルなのを“地味つまらない”って言う人もいる。

パリに並ぶトップブランドの服全部をオシャレだと思う人なんていない。あのトップブランド「CHANEL」の創始者、ココ・シャネルは、当時女性の必需品だった“コルセット”を使わないジャージー生地の着やすい服を作り続けた。最初は世間からの苦い言葉の連続だったけど、今では“男性に魅せるための女性服”から、“女性のための女性服”へと女性服の常識を変えた。

日本を代表するブランド「COMME des GARÇONS(コムデギャルソン)」や「Yohji Yamamoto」は、当時タブーとされていた“黒”の服をパリコレで発表。賛否両論降り注いだけど……現在、数多くの黒い服がパリのランウェイを歩いてる。

他人の“好み”に振り回されてはダメ。“ダサい”“タブー”に怯えて70億人に嫌われない服を作るくらいなら、69億人に嫌われても、1億人が「大好き!」って言う服を作りなさい。

ここに集まったみんなは、他人の意見に振り回されず自分の中の個性(オシャレ)を完遂したみんな! そしてそれこそがこの課題の真の合格条件(テーマ)。

デザイナーが服を作る基準に“オシャレかどうか”……なんかよりもっと適した言葉がある。“面白い”か“面白くない”か。よってこの場に来たみーんな! “面白い服”をありがとう! 一次予選突破です!!

さて、これから学園長の言葉を解きほぐしていきます。

ア.デザイナーの資質とは

まず、「オシャレ」「ダサい」の話は分かりやすかったですね。具体例が提示され、「オシャレとは主観的なものであって評価の基準にはならない」ということが説明されました。

そしてデザイナーの資質として大事なのは、「他人の“好み”に振り回されてはダメ」「他人の意見に振り回されず自分の中の個性(オシャレ)を完遂」すること、なのでした。

ただし同時に、学園長は「“ダサい”“タブー”に怯えて70億人に嫌われない服を作るくらいなら、69億人に嫌われても、1億人が「大好き!」って言う服を作りなさい」とも言います。自分自身ではない以上、この1億人だって「他人」のはずです。このままでは矛盾に満ちた発言になってしまいます。

しかし、これを整合的に解釈するならば、「デザイナーは、自分自身のオシャレを、そしてそれを好きだと言ってくれる人のことを信じろ」ということになるでしょう。自分自身のオシャレの基準で作り上げたパジャマに対する自信が揺らいだ際に、千雪の「これ好きだよ」という言葉に励まされた育人は、まさにデザイナーの資質を試されたのでした

イ.学生審査員の役割

ところで、「他人の意見に振り回されず自分の中のオシャレを完遂すること」が真のテーマだったことから、学生審査員の役割が明らかになります。

学生たちは「審査員」という肩書から「オシャレさを審査すること」だと自身の役割を解釈し、競争相手である他人の作品には辛辣な評価を下します。が、真のテーマは「オシャレさ」ではない以上、この評価の内容は関係ありません。もちろん、「審査する側が審査されている」という訳でもありません(したがって、育人が審査員として行った好意的な評価も審査の上では特に意味はありません。人間関係にとっては大事ですが)。

要するに、学生が互いに審査員になるという形式のために「審査会は蹴落とし合いである」という心理状態に陥った上で辛辣な評価を下し、審査される側の「自分の中のオシャレ」を揺らがせることこそが学生審査員の役割だったのです。

ウ.面白い服

上記の発言の最後の方で、学園長は、「デザイナーが服を作る基準に“オシャレかどうか”……なんかよりもっと適した言葉がある。“面白い”か“面白くない”か」と言っています。

同じく「69億人に嫌われても、1億人が「大好き!」って言う服を作りなさい」との発言の中で「好き」という基準も言及されているので、「好き」と「面白い」の違いが気になるところです。

ところで、先ほどの解釈によれば、「自分自身のオシャレを、そしてそれを好きだと言ってくれる人のことを信じること」がデザイナーの資質でした。「オシャレ」主観的なものである以上、それについて「好き」と言うことも主観的なはずです

そうすると、「オシャレ」や「好き」の内容が主観的である以上は評価の基準になり得ません。しかし、それとは裏腹に、教師陣は18名の中から1~3位の順位付けを行っているのです。ということは、順位付けには何らかの客観的な基準があったはずであることからすれば、この順位付けは「面白い」の程度によって決められたものだったのです。

そう考えてみると、学生審査員の役割審査される側の「自分の中のオシャレ」を攻撃してそれを揺らがせること教員審査員の役割「面白い」の順位を付けること、ということになります(遠は両方を兼ねていましたね)。

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育人は3位に

(3)育人の資質

育人は、手直しをせずに他の一次予選通過者と同じく「自分の中のオシャレ」を貫いた点、そして育人の「オシャレ」を「好き」と言ってくれた千雪を信じた点において、デザイナーの資質を持っていることが評価された訳ですが、学園長は彼についてこう言っていました。

セイラちゃん、ストライプ好きなのよねぇ。だから、もし狙ってたとしたら、彼、着る相手の嗜好を読み取る素晴らしいものがあると思うの。

 

 

3.デザイナーの資質――お金の問題

ところが、デザイナーの資質について、育人は綾野遠から厳しい言葉を投げかけられてもいます。

「ねぇ、育人はさ、予選の結果、満足してる?」

育人「どう……なんですかね。満足はしてないと思います。でも……」

「甘いよ。材料費、なんでちゃんと使わなかった? そんなの生地を見ればすぐに分かるよ。だから育人は負けたのが仕方がないって思ってる?」

育人「それは絶対違います!」

「仮に違ったとしても、よろしくないね。個人の都合でデザインを最高の状態で再現することを後回しにしたのは、服を作る者として真摯じゃない。はっきり言う。今回の敗因は、生地選びを渋ったからだ。そこにたとえどんな理由があったって、客には一切関係ない」

育人「仕方ないじゃないですか。だって、あのお金は妹たちの……。僕は長男だ! 妹たちのお金に手を付けなきゃならないくらいなら、僕は……!!」

「『僕は』ね。その続きを言わないところは偉いよ。ごめんね。こんな説教をするつもりじゃなかったんだ」

(1)遠の言葉の意図

このようにデザイナーの資質について育人を責める遠の意図は、もちろん自身が立ち上げるブランドに育人をリクルートするためということもあるはずですが、やはりそれ以上に、育人に対して発破を掛けることにあったはずです。

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「負けちゃった、か……」

育人は、順位が発表されたとき「負けちゃった、か……」とつぶやき、心に「おめでとうございます!」と祝われた際には、「ですよね。こんなにいい結果になるなんて思ってもみませんでした」と、あまり悔しそうな様子ではありませんでした。木崎香留や江田龍之介が順位発表の際に感情を露わにしたのとは対照的です。

きっとこのような悔しさや向上心があまり見られない育人を見て、遠は上記のようにデザイナーの資質を説き、育人から悔しさと向上心を引き出したのだと思われます。

(2)「僕は……!!」の続き

育人の「僕は……!!」の続きが気になるところです。「妹たちのお金に手を付けなきゃならないくらいなら」という前からの続きを踏まえれば、「僕はデザイナーになることを諦める!」みたいな感じになるのでしょうか。

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「『僕は』ね。その続きを言わないところは偉いよ」

しかし、その後の「『僕は』ね。その続きを言わないところは偉いよ」という遠の言葉との繋がりが難しいところです。いったい何が「偉い」のでしょうか? 「育人自身の夢であるデザイナーという職業を否定することはしなかった」ことが「偉い」ということなのでしょうか

あるいは、言霊信仰の観点から言えば、「妹たちのお金に手を付けなきゃならないくらいなら、僕はデザイナーになることを諦める!」と言葉に出してしまえば、「たとえ妹たちが許してくれても、そういう状況に陥ったときにデザイナーになることを諦めなければならなくなる」と自分自身を縛る言葉を育人が言わなかったことが、デザイナーになるためならば何でもする遠にとっては「偉い」ということだったのでしょうか

皆さんはどう解釈しましたか?

(3)柳田の回答

ところで、第4話の最後で、遠が育人の引き抜きを柳田に提案していましたね。どうやらアニメでは省略されたようなので、ここで原作の柳田の回答を紹介すると、以下のような返答でした。

あいつはあいつだ。俺の物でも……ましてやテメェの物にもならん。

 

 

4.千雪の努力

前回(第5話)では、室内でヒールを履いたりストレッチをするなど千雪が家で努力を重ねる様が見られましたが、今回は、宣材写真を撮ったり営業を掛けたりする様が見られました。

宣材写真の費用が自分持ちというのは(モデルをしているとはいえ)高校生にとってなかなか厳しい世界です。

また更に凄いのが、書類審査に全落ちしても直営業を行い、ようやく取り付けたアポでも、新沼の代わりの赤坂から「向けられない視線、冷たい言葉」を浴び、それでも自己アピール攻勢を続ける千雪のメンタルの強さには脱帽するしかありません

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「向けられない視線、冷たい言葉……いつも通り……引き締めろ!」

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身体を傷つける可能性があるためにモデルが忌避する場所であっても、自分なら撮影できることをアピールする千雪

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「また電話してください」

 

 

5.「友達」

宣材写真を撮る際、千雪は衣装の一つとして、育人がミルネージュのオーディションを受ける千雪のために作った服を着ます。

「その服、どうしたの?」と問われた千雪は、それまでの撮影時とは異なり、モデルらしからぬ笑顔を浮かべて「友達が作ってくれました」と答えました。やはりこれは「ランウェイで笑って」に通じる笑顔ですよね。

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「友達が作ってくれました」

さて、この笑顔もですが、「友達が作ってくれました」という言葉も興味深いところです。第6話の冒頭で、千雪は同級生に対して育人のことを「友達ではないけど」と説明していました。おそらくこの矛盾は、千雪の同級生に対する変な意地ないしはプライドのためです(そのわりには育人は「尊敬する人」であるなどと、わりと恥ずかしいことを言っていましたが)。

アニメでは省略されたのですが、原作では、カメラマン(美和っち)に「その服、どうしたの?」と問われた千雪は、「なんて答えよう。宿敵? 戦友? 〔同級生の〕2人には否定しちゃったしなぁ。でも、美和っちだし、変な伝え方できないし――まぁいっか」と考えをめぐらせた後、「友達が作ってくれました」と答えたのでした。

ここからは、千雪が育人との関係をどう捉えているのかを伺えます。すなわち、千雪にとって育人は、「宿敵」でも「戦友」でもなく、「友達」なのです。とはいえ、重要なのは、千雪がこの「友達」の中にどのような意味を込めているかです。たとえば、

「都村君には負けたくないでしょ」(第3話)

「こんな仕掛けしちゃって。あいつめ、ヘタレのくせに。私が引っ張って助けなきゃ、心もとない男子のくせに」「都村君のくせに、君ってヤツは、ムカつくくらい私の窮地を救っちゃうんだ」(第3話)

「育人のこと、結構、尊敬してるんだ」(第6話)

など、千雪による育人評はそれなりにあります。これを見ると、やはり「友達」の中にはその言葉以上に豊かな意味合いが込められていそうです。これからの千雪による育人評、そして育人による千雪評が気になるところです。

 

 

 

さて、次回は、第7話「存在感(オーラ)」です。ついに藤戸千雪と長谷川心が邂逅することになりました! 果たして、撮影はいったいどうなるのでしょうか?

 

第7話の記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com