アニメ「ランウェイで笑って」第9話の感想・考察――千雪流の本気の実行方法と育人の本気
この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」の第9話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。
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第8話の感想記事はこちらから!
0.基本情報
原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)
アニメーション制作:Ezo’la
監督:長山延好
TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/
ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#
原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175
アニメ第9話「好敵手(ライバル)」
相当する原作のエピソード:第6巻第49話「まるで台風」、第50話「今日から君は」、第7巻第51話「本気でやらなきゃ」、第52話「嫌な性格」、第53話「ぶっ潰す」、第54話「タイムフライズ」
パリから帰国した千雪に「芸華祭で自分のショーに出てほしい」と誘う育人だったが、柳田との関係を修復するため、アトリエに連行されてしまう。そこで、モデルの仕事に向かおうとしていた心に出くわす。心が本気でデザイナーを目指していると知った千雪は、マネージャーの五十嵐と対峙するのだった。
1.弱っている千雪
第9話の冒頭は、育人が自分のショーに出てくださいと千雪を誘うシーンから始まります。第8話の記事でも書きましたが、ここの千雪の独白からの流れが良かったですよね!
「藤戸千雪というモデルを必要としてくれる場所はない。現場も、実の父親も、憧れの人からだって、一度見放された。それなのにどうして、どうして君は、いつだって……いてほしいときにそこに現れて……私はそんな君の言葉に救われちゃうんだ」の流れからの育人のオファーは最高です!
そんなことがあったものですから、千雪は思わず涙を流し、弱音をこぼしてしまいます。そんな千雪を育人は「しおらしくて可愛い」と形容します。アニメではここで千雪がビンタをしてこのシーンは終わったのですが、原作では千雪のもっと「調子が狂う」様子が見られます(第6巻第49話)。ここは是非読んでみてほしいところです!
2.相変わらずの育人
育人にショーに出てほしいと言われた千雪ですが、他のモデルとのバランスを心配し、「他のモデルはどうするの?」と問いかけます。
これに対して育人は、「風ってコンセプトは千雪さんから連想したんですよ。台風の風は中心気圧の数字が小さいほど、強く吹くらしいんです。台風みたいに人の迷惑を考えずに突き進んだり、ときには背中を押されたり、暖かくて心地よかったり。ねっ? 千雪さんっぽくないですか? 僕のショーのメインは千雪さんです」と答えました。
100点満点の回答です。もちろん、ここには育人と千雪の支え合ってきた関係が基礎にあります。でも、この言葉は、相変わらずの女たらしです。
3.千雪流の本気の実行方法
育人とともに柳田のスタジオに訪れた千雪は、長谷川心と出会い、育人が話していた人物は千雪が既に会っていたあのモデルであることが判明します。修羅場にこそなりませんでしたが、双方とても驚いたようです。
さて、再会したのも束の間、心は撮影の予定があるためすぐに出発しました。が、千雪は心を追いかけ、「本気なら、今、抵抗しろー!」と叫びます。
原作ではここに千雪の独白がありました(第6巻第50話)。
ムカつくな。わたしが望んでも手に入らないもの全部持つ才能も、それを全部捨てようとしている浅はかさも、本気とか言いながら中途半端に従ってるところも。……ただ、わたしも大概、たったひとつのために全てを捨ててる人間だからね。浅はかなバカは嫌いじゃないんだ。
ここから、千雪が自分と心と重ね合わせていることが分かります。
心は、初めて千雪に出会った撮影の帰りに、千雪のモデルに対する本気に触発され、「五十嵐さん、モデルを辞めさせてください!」「私は本気で服を作る人になりたいんです!」とデザイナーになりたいという夢に対する本気を宣言しました。このときから千雪は、心が自分と同じく、本人の意思に反して境遇が夢を許してくれない状況にいることに気付いていたはずです。
千雪は、自分と同じ状況にいる心が五十嵐に押し流されて中途半端にモデルとデザイナーの両立をしていることにムカつきます。そして、そんな心に対して千雪は、「モデルに必要ないことはほとんど切り捨てちゃう」(第6話)という千雪流の本気を実行する方法を教えたのです。
そんな千雪の言葉に触発された心は、「低身長モデルの千雪というハンデを背負ってショーでトップを獲れば心はモデルを辞める、トップを獲れなければ心は大学を辞めてモデルに専念する」ことを五十嵐と約束しました。まさに千雪流の本気を実行する方法です。
4.千雪と育人の関係――「好敵手(ライバル)」
同じ場面なんですが、千雪が「育人、いい?」と、心のショーに出ることについて育人にきちんと尋ねているのが何か良いですよね。千雪のキャラならこういうシーンなしに押し切れることもできたはずですが、きちんと描かれているのが嬉しいところです。
そして、心や五十嵐と別れた後、育人は千雪から「育人、負けてあげようとか変なこと考えてないよね。私は、本気の育人と戦いたい。育人は私の中で一番の好敵手(ライバル)だから。遠慮しないで」と言われます。
千雪が育人との関係性を育人に伝えたのは(たぶん)初めてです。今までは、独白であったり育人以外の人には言っていたりしていましたが、今度は本人に伝えました。
「都村君には負けたくないでしょ」(第3話)
「こんな仕掛けしちゃって。あいつめ、ヘタレのくせに。私が引っ張って助けなきゃ、心もとない男子のくせに」「都村君のくせに、君ってヤツは、ムカつくくらい私の窮地を救っちゃうんだ」(第3話)
「育人のこと、結構、尊敬してるんだ」(第6話)
「友達が作ってくれました」(第6話)
「どうして君は、いつだって……いてほしいときにそこに現れて……私はそんな君の言葉に救われちゃうんだ」(第9話)
「育人は私の中で一番の好敵手(ライバル)だから」(第9話)
千雪が育人に対して「好敵手(ライバル)」と伝えたのは、育人に手を抜いてほしくなかったためです。もちろん、育人のことを「友達」だと思っていない訳ではありません(実際そうであると言っていますし)。しかし、仮に2人の関係性が「友達」であると育人に伝えていれば、そこに馴れ合いが生じかねないからこそ、千雪は「好敵手(ライバル)」だと伝えたのです。千雪も心も夢に向かって本気だからこそ、「私は、本気の育人と戦いたい」からこそ、「好敵手(ライバル)」だと伝えたのです。
5.育人の本気
しかし、千雪が「好敵手(ライバル)」だと伝えたにもかかわらず――むしろ伝えた理由がそこにあったと言うべきですが――育人は(ある種良い意味で)本気でショーに挑めるような心理状態になっていませんでした。育人はこんなことを独り言ちていました。
「遠慮なんかじゃないんですよ。僕は最初から心さんに、千雪さんに、報われてほしいんです」
「綾野さんに才能ないって言われて、悔しいって思った。デザインを買わせてほしいの言葉に、もっともっとデザイナーになりたいって思った。『見返したい人いる?』『じゃあやってやろうよ』って問いかけに、ワクワクした。でもそのどれもが、心さんの将来と天秤にかけるには軽すぎる。だって今は無事にショーに出られるだけでこんなにも嬉しい」
このように、ショーに挑むには優しすぎる、あるいは闘争心に欠ける育人は、母親から遺書を見せられます。そこには母が死ぬまでにしたいこととして、「育人のファッションショーを見に行きたい」と書いてありました。
これを見て、育人は「負けられないな。本気でやらなきゃ」と覚悟を決めました。この母親の言葉によって、育人は千雪や心の「好敵手(ライバル)」として戦う気持ちになれましたし、また、綾野遠に対して「僕は綾野さんにも勝つつもりでいますよ」と遠を見返す旨の宣言をし、さらには、遠とショーのテーマが被っても真っ向勝負する気になれたのでした。
6.育人の才能
実は、第9話では育人の非凡な才能が描かれていましたが、気付きましたか?
ファッションショーまでの流れは、以下のようになっています(原作第6巻第49話171頁以下参照)。
① テーマ決め
② 本番までの制作スケジュールの策定
③ デザイン画の作成
④ パターン作成、素材・付属物の考案
⑤ サンプル作成
(④~⑤の繰り返し)
⑥ 素材手配
⑦ 服完成
という感じになります。
しかし、育人は、江田龍之介に対して「僕とチームは組んでくれないんですよね?」と確認した上で、「一人で作るからデザイン画なんていらないっか!」とデザイン画を作らない旨の発言をしたのです。
普通なら、④デザイン画を基にパターンを作成し、⑤それに沿ってサンプルを作成する、を繰り返す試行錯誤が必要なはずです。しかし、育人は、このような試行錯誤は必要なく、あとは脳内デザイン/脳内パターンを基に、⑥素材を手配し、⑦服を完成させるだけだと言っているのです。試行錯誤に人手と時間を取られる必要が無いからこそ、育人はチームメイトがいなくても一人でショーに挑むことができたのです。とんでもない才能です。
さて、次回第10話「負けられない」は、いよいよ芸華祭ファッションショーの本番です。いったいどのようなショーになるのでしょうか?