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アニメ「ランウェイで笑って」第3話の感想・考察――服は人を変えられる

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第3話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

見逃した方は、毎翌月曜深夜26:55から最新話がTVer無料配信されていますので(https://tver.jp/anime)、是非ご覧ください!

第2話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#新衣装登場!)

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第3話「ランウェイで笑って」

相当する原作のエピソード:第2巻第7話「得意でしょ?」、第8話「東京コレクション@バックステージ/都村育人」、第9話「東京コレクション@オーディエンス/新沼文世」、第10話「東京コレクション@ランウェイ/藤戸千雪」、第11話「東京コレクション@ランウェイじゃ笑っちゃいけない」、第12話「東京コレクション@フィナーレ/都村育人&藤戸千雪」、第13話「今日が始まりの日」

育人は柳田に同行し、日本最大のファッションの祭典「東京コレクション」に参加することになる。急遽来られなくなったモデルの代わりとしてやってきたのは、千雪だった――。重なるトラブルの結果、育人が千雪の衣装を縫うことになる。緊張で焦る育人に、千雪は語りかける。二人の初めての「ショー」が、今始まる!

 

 

1.「私を見て」

仕立て直す衣装のアイデアが浮かばずパニックになる育人を振り向かせ、千雪は「私を見て。ねっ、得意でしょ? 私に似合う服作るの」と語りかけます。

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「私を見て。ねっ、得意でしょ? 私に似合う服作るの」

この千雪の言動に二人の関係性が詰め込まれています。「信頼関係」、「相棒」、「ライバル」、「運命の相手」……この関係性を何と言うべきか迷いますが、とにかく、「私でもパリコレに出るのは無理じゃない、君でもデザイナーになるのは無理じゃないって、私のためにも証明したいんだよ」「きっと千雪さんは、すごいモデルになると思います!!」「私も頑張るから、頑張りなよ」と言い合った二人の関係性(第2話参照)が、この危機的な状況になって、千雪により育人を励ます言葉となって表出したのです。

そして、この「二人の関係性」が大事だからこそ、千雪はわざわざ育人を振り返らせて自分の方を見させたのではないでしょうか。育人ではない他の誰かだったら、千雪はその人の肩に手をかけて「頑張れ」と言っただけかもしれません。しかし、千雪は、育人が運命の相手であると確信しているからこそ、育人を振り返らせて、その顔に向かって言葉を掛けたのではないでしょうか。

さらにもう一つ特筆すべきは、そのように育人を励ました千雪の手が震えていたことです。千雪自身も追い詰められているのに、そんな状況下でも育人を励ませる千雪の強さは魅力的というほかはありません。そして格好いいことに、育人は、手を震えさせながらも励ましてくれた千雪の手を握り返して「もう大丈夫です。僕に任せてください」と言うのです。まさに互いが互いを支え合っている状況です。

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「もう大丈夫です。僕に任せてください」

 

 

2.「藤戸さんの緊張が解けるような服にしたいな」

千雪に励まされ持ち直した育人は、千雪の衣装を仕立て直しすべく色々と思案します。その際、最後に、ポツリと「藤戸さんの緊張が解けるような服にしたいな」と独白しています。

育人がどれだけ自覚的に言ったのかは分かりませんが、このセリフには育人の信条が表れています。つまり、第2話で育人は、「服は人を変えられる。僕が服作りを好きな理由の一つです。もう一度、藤戸社長に会うのは怖い。けど、そんな弱さが勇気に変わる服を作ります」と言っていたように、「服は人を変えられる」のです。

アニメ第2話では省略されてしまいましたが、原作ではこの点について育人は次のように言っています(原作第1巻第2話)。

藤戸さん、こんな経験ありませんか? 小学校の入学式の時、親が用意していくれたスーツを着た途端、少し大人になった気がして胸が自然に張れたり、ずっと恥ずかしかったのにドレスを着たら、本物のお姫様みたいに笑って動いて最後まで演じきれたり。そういう服が心を引っ張ってくれる感じ、僕が服を大好きな理由の一つなんです。服は人を変えられる。だから作ってるんです。この震えが止まるような、勇気が、根気が、負けん気が、湧いてくる服を。

このように、育人の服作りの根底には「服は人を変えられる」という信条があり、「藤戸さんの緊張が解けるような服にしたいな」というセリフにはこの想いが溢れているのです。

 

 

3.「早くしてよね」

衣装の仕立て直しが最終段階に入ったときの育人と千雪の会話です。

育人「藤戸さん、この前、僕が言った夢、叶っちゃいましたね」

千雪「えっ、何が?」

育人「藤戸さんにもう一度、僕の服を着てほしいってやつ」

千雪「はあ? 何言ってんの? 叶ってないでしょ? ここは都村君のブランドじゃないじゃん。早くしてよね。あんまり遅いと駆け出しのデザイナーじゃ雇えないくらいのハイパーモデルになっちゃってるから、私」

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「早くしてよね」

実はこの会話、育人の夢にとって重要なポイントになっています。もちろん、「プロのファッションデザイナーになる」ことは、既に育人自身も自覚しそのために努力しているところです。

とはいえ、実は、一口に「プロのファッションデザイナー」と言っても、いろいろな種類があるのです。アパレルメーカーに勤務しそのメーカーの製品をデザインする企業内デザイナー(多くのデザイナーはこれに該当する)、顧客一人ひとりに合わせてオーダーメイドでデザインし縫製を行うオートクチュールのデザイナーなどありますが、やはり花形は、自身の名を冠したブランドを立ち上げ自分自身で経営を行うブランド持ちのデザイナーです(柳田さんも「HAZIME YANAGIDA」という自身のブランドを持っています)。

育人自身は、ぼんやりと「プロのファッションデザイナーになりたい」としか考えていなかったようですが、千雪との会話によって、「自身のブランドを持つファッションデザイナーになりたい」と考えるようになったと思われます。そして、だからこそ、「次ここに来るときは拍手全部もらおうよ。半分じゃなくてさ」なのです。

それにしても、この「早くしてよね」というツンな感じなのにその内実すごくデレてるここの千雪、可愛いですよね。

 

 

4.「都村君には負けたくないでしょ」

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「都村君には負けたくないでしょ」

千雪は、ランウェイを歩きながら、「都村君には負けたくないでしょ」と自信を励まします。ここでも千雪は、自身のライバルである育人のことを考えています

第2話で柳田に追い出されそうになった時に育人が千雪のことを思い出して励まされたように、今度は、千雪が育人のことを思い出して励まされています。まさに、互いが互いを励まし合っています。

あと、原作におけるここの千雪はもっと色々なことを考えているのですが、アニメでは省略されているので、原作を是非読んでみてください!(原作第2巻第10話参照)

 

 

5.「ランウェイじゃ笑っちゃいけない」

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「蝶が舞っているみたい……」

千雪の衣装に込められた仕掛けが露わになった際、それについて育人は「ただ、緊張してたから、楽しい服にしたくて。途中で形が変わったら面白いかなって、最後の糸は止めなかったんです」と言います。

その仕掛けに気付いた千雪は「こんな仕掛けしちゃって。あいつめ、ヘタレのくせに。私が引っ張って助けなきゃ、心もとない男子のくせに」「都村君のくせに、君ってヤツは、ムカつくくらい私の窮地を救っちゃうんだ」と、再び立ち上がり、ランウェイで笑ったのです! ショーはあくまで服を見せるものであり顔に視線が行くのは好ましくないため、モデルはランウェイで笑っちゃいけないにもかかわらず、です。

それなのに、千雪がランウェイで笑ってしまったのは、育人のせい/おかげです。だって、育人は「楽しい服にしたくて」と想いを込めて、千雪の衣装に仕掛けを施したのですから。楽しい服だからこそ、千雪は思わず笑ってしまったのです。まさに「服は人を変えられる」という育人の服作りにかける想いが、ランウェイを歩く千雪の上で表れたというほかありません。

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ランウェイで笑って

 

 

6.三人目の主人公

既にお気づきかもしれないが、この「東京コレクション編」には、育人・千雪のほかに、三人目の主人公がいました。東京コレクションの取材のために会場に来ていたファッション誌編集者の新沼文世です。

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新沼文世

アニメでは省略されていたのですが、実は原作ではアニメ以上の出番がありました。アニメでも分かるように、彼女はファッションにあまり興味がなく、モデルやデザイナーばかりが登場するこの作品においては一般人代表的なポジションにいます。

原作では、彼女がファッションに対して思っている屈折した感情が、あるいはファッションに疎い一般人の感覚が新沼文世を通じて具に語られ、そしてそれが千雪のランウェイを見て変容する様をより詳しく感じることが出来ます(特に原作第2巻第9話~第12話)。ぜひ原作をご覧になることをお勧めします!

 

 

7.最大限の誉め言葉

ショーが無事に閉幕したことに感動している育人に向かって柳田さんはこう声を掛けました。

まあ、半分だな。この拍手の半分はお前にやる。ここは俺のブランドだ。やれても半分、二度は言わん。たしかに作りとしては簡素。丈を詰めて不格好になった部分を前掛けで覆い隠しただけ。だが、それでも形にした。拍手を誘った。何より、着るモデル……あいつのために作り上げた。まっ、かけらほどは向いているんじゃねぇか、デザイナー。

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「まっ、かけらほどは向いているんじゃねぇか、デザイナー」

柳田さんには珍しい、だけど柳田さんらしい褒め言葉です。しかも最大限の褒め言葉ではないでしょうか? ベリーショートの女性フィッターが言ったように、育人が手掛けたのは、全40着のうちのたった1つです。それなのに、半分も拍手をくれると言ってくれたのです。最高の誉め言葉というしかありません。

 

 

8.服が人生を変える

ショーが終わった後、育人と千雪はこんな会話をしていました。

育人「藤戸さん、ありがとうございます。ここまで連れてきてくれて。出会ってから、いろんなことが起こって、変わって、まるで別の人の人生を歩いているような……。あっ、すみません、上手く言葉にできないんですけど」

千雪「ふ~ん。要は人生が変わったってことでしょ? 私のおかげで」

育人「そう……なんだとうけど、そう言われると気恥ずかしい」

千雪「何言ってんの? 誰かさんのせいで人生が変わった人がここにいるんだけど」

育人「えっ?」

千雪「服ってさ、いつでも着ているでしょ? だから人生の分岐点をいつも本人と一緒に迎えるんだよ。それで、その日着てた服に特別な思い入れができたり、それこそ服そのものに人生を変えられる人もいる。たしかに、お互いミスはあったし、あのフィッターさんが言うように力不足だったのかもしれない。それでもあのとき拍手は起きたんだよ? きっと都村君の服に、それを着た私に、感動してくれた人がいる。それこそ、人生を変えられた人いるかもよ!」

既にこの記事で書いてきたように、育人の服作りの根底には「服は人を変えられる」という想いがあります。これは「服の作り手が服を着る人の心を動かす」という意味でした。しかし、この千雪と育人の会話で明らかになったように、「服は人を変えられる」という育人の想いは、もっと広くてもっと豊かな意味を持っていることが明らかになります。

つまり、「服は人を変えられる」とは、「服の作り手が服を着る人の心を動かす」という「作り手→着る人」の一面的な関係のみに妥当するのではありません

ある一面からすれば、「作り手」である育人がミルネージュのオーディションや東京コレクションのために千雪に衣装を作ったのは、「着る人」である千雪の人生を変えました。そして別の一面からすれば、育人はこれらの衣装を「着る人」である千雪のために作ったことによって、「作り手」である育人自身の人生が変わったのです。さらにまた別の一面からすれば、「作り手によって作られた服を着る人」を見て、新沼文世のような「見る人」が感動し、その人の人生が変わることもあるのです。

このようにして見ると、服というのは、「着る人」「作り手」「見る人」それぞれの人生の相互作用の中にあってまさにあらゆる面から「服は人生を変える」のです。原作者の服に込める想いが伝わってくるシーンでした。

 

 

9.白と赤

千雪や育人の独白のシーン――心象風景――など、白を基調とする背景が多用されていました。特にランウェイにおける千雪の独白の場面では、赤色の衣装と相まって、かなり綺麗なシーンになっていませんでしたか?

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ランウェイの千雪①

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ランウェイの千雪②

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ランウェイの千雪③




 

さて、次回は、第4話「若き才能たち」です。サブタイトルからして、メインキャラクターである長谷川心綾野遠がついに登場するのでしょうか?

 

第4話の記事はこちらから!

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