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アニメ「ランウェイで笑って」第8話の感想・考察――本気が大事なものを奪う

 

 

この記事は、アニメ「ランウェイで笑って」第8話の感想記事です。ネタバレにはご注意ください。

第7話の感想記事はこちらから!

irohat.hatenablog.com

 

 

0.基本情報

原作:猪ノ谷言葉『ランウェイで笑って』(既刊14巻、週刊少年マガジンで連載中)

アニメーション制作:Ezo’la

監督:長山延好

TVアニメ公式HP:https://runway-anime.com/

ミルネージュ公式HP:https://milleneige.com/#

原作漫画試し読み:https://pocket.shonenmagazine.com/episode/13932016480029113175

アニメ第8話「デザイナーの器」

相当する原作のエピソード:第6巻第45話「母からの手紙」、第46話「天秤」、第47話「最適解」、第48話「当然の報い」

母親の容態が悪化したという報せを受け、病院に駆けつける育人。さらには滞納していた治療費がのしかかり、育人はバイトを増やすため苦渋の思いで柳田と遠に「仕事を辞めさせてほしい」と伝える。そんな育人の元に、心のマネージャー・五十嵐がやってきてある提案を持ちかけるのだが……。

 

 

1.手術の先延ばしの理由

育人の母親は、手術の先延ばしを希望していました。これは、デザイナーになりたいという夢を持つ育人のためにほかありません。

もし、芸華祭までに手術をすれば、その時点で手術費用が発生します。そうすれば、育人は金策に走らなければならなくなり、デザイナーになるための好機として逃せない芸華祭に集中できません(それどころか辞退さえもあり得ます)。母親は、息子の夢を応援するからこそ、手術を先延ばしにしていたのです。

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「母さん、僕、ファッションデザイナーになりたいんだ」

しかし、現実は非情で、芸華祭まで2か月前ほどのタイミングで緊急手術という結果になってしまいました。

 

 

2.長男としての責任

病院に駆け付けた育人は、取り乱すほのかをなだめ、今後の対応を示しました。しかし、彼女が帰宅した後は、深く自省し、母親の遺書を読んで動揺して涙まで流してしまいます。

若干高校生に過ぎない育人ですが、ほのかの前では、ギリギリのところで長男(長子)としての責任を果たした、というのが伝わってきます。

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ほのかを抱きしめる育人

 

 

3.育人が辞めた理由

育人は、結局、柳田のスタジオも綾野遠のスタジオも辞めてしまいました。どちらも給料がもらえるにもかかわらず、わざわざ辞めたのは、割りの良いバイトをするためです(原作第6巻110頁)。

これを踏まえ、少々無駄な勘繰りをしてみます(読み飛ばし推奨)。

そもそも育人は高校生なので、どこで働いても一般的には、アルバイトの時給は最低賃金かそれを少し上回る程度しかもらえないと思われます(時給の良い深夜帯については18歳未満が働くことは法律で禁止されています)。

となると、高校生でも雇ってくれる時給の良いバイトを探すのは困難なはずです。実際、育人が行ったバイトは、引っ越し、コンビニ、清掃、工場、新聞配達と、ありふれたバイト先でした。これらの業種は外資系ではないと思われるので、時給は最低賃金程度だと思われます。

すると、ここで一つ疑問が浮かびます。割りの良いバイトを探すために柳田や遠のスタジオを辞めたということは、育人はここで最低賃金を下回る時給しかもらえていなかったのではないのでしょうか?

しかし、それでは雇用主である柳田や遠が法律違反をしていることになってしまいます。そうでない可能性を考えるとなると、そもそも育人は雇用契約を結んでいなかった、という仮説が立てられます。つまり、柳田や遠とは雇用関係にない育人は、最低賃金の適用対象たる労働者の地位にいなかったのです。

それでは、育人はどのような身分で柳田や遠の「お手伝い」をしてお金をおもらっていたのでしょうか? 考えられるのは、育人は徒弟制度類似の発想の下で「お手伝い」し、「お給金」としてお金をもらっていた可能性です。

そもそも、育人は、労働力提供(とその対価の獲得)という目的もありましたが、デザイナーになるための技能習得という目的を持って柳田や遠のスタジオで働いていました。このような専門職においては、弟子が師匠に技を教えてもらうことを目的とした徒弟制度がよく似合いますし、師匠の側も弟子の側もその発想になっていてもおかしくありません。弟子の側からすれば、「師匠に迷惑をかけながら弟子にしてらっている」という考えなのでしょう。

このような徒弟制度の下では、「労働力提供の当然の対価として使用者は労働者に給料を支払わなければならない」という労使関係の原則が通用しません。むしろ、「弟子は当然にタダ働き」が原則で、「師匠からの恩恵として弟子にお給金が支給される」ことが例外なのです(そもそも、私は詳しくないので確定的なことは言えないのですが、現在の日本において無給や最低賃金以下の徒弟制度が合法なのかは相当に疑わしいです)。

とまあ、色々述べてきましたが、要するに、柳田や遠のところで「お手伝い」をしていた育人は、それなりに安いお給金しかもらえていなかった可能性があるのです。

 

 

4.本気が大事なものを奪う

 

(1)綾野遠の本気

スタジオを辞めたいと言ってきた育人から事情を聞き出した遠は、育人に対してパタンナーとして遠のチームに入れば、母親の入院費用は遠が負担する」ことを提案します。

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「育人、悪いことは言わない。僕のチームに入りなよ。そしたら、育人の親御さんの入院費は僕が払うから」

しかし、遠のチームに入って芸華祭のショーに出場するということは、育人は自分自身の出場を辞退しなければならないことを意味します。

入院費を捻出するために多数のバイトをこなしながら芸華祭に出場しようとする育人に対して、遠は「24時間、頭も身体も全て作品に捧げている人間の前で、あんまり舐めたこと言わないでよ」と厳しい言葉を投げかけます。さらには、育人にはデザイナーになれるほどの才能はない、とまで言います。

このように遠の言動を振り返って見ると、彼が嫌なヤツに見えるかもしれません。が、遠は“本気”なのです「24時間、頭も身体も全て作品に捧げている」綾野遠は、芸華祭のショーで綾野麻衣を超えるために本気なのです

そのためには、彼は手段を選ばない人間のようです。ベストな布陣で芸華祭に挑みたいからこそ、育人のパタンナーのとしての才能を評価しているからこそ、遠は育人を自分のチームに引き入れたいのです。たとえそれが育人のデザイナーになりたいという夢を壊すようなことがあっても

前回第7話にてモデルに対して本気な千雪が心に怒ったのと同様に、綾野遠もデザイナーに対して本気なのです。

 

(2)五十嵐優の本気

綾野遠から厳しい選択を突き付けられた育人に、今度は長谷川心のマネージャーの五十嵐が襲来します。五十嵐は、育人に対し、「心にデザイナーを諦めるよう説得すれば、お金(100万円程?)をあげる」と提案します。

遠と同じく、五十嵐もただの嫌なヤツではありません。五十嵐も“本気”なのです五十嵐は「長谷川の将来に責任を持つ立場にある」からこそ本気なのです

そして、五十嵐もそのためには手段を選ばない人間のようです。「人は才のある場所で活躍すれば幸せになれる」(第7話)という信条を持つからこそ、心のモデルとしての才能を評価しているからこそ、五十嵐は心にデザイナーを諦めさせたいのです。たとえそれが本心とは裏腹に心にデザイナーを諦めるよう説得させるような状況に育人を追い込んだとしても

デザイナーに対して本気な綾野遠と同じく、五十嵐も心のマネージャーとして本気なのです。

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「こう言えば全員幸せだ。『僕のショーにモデルとして出てください』って」

 

(3)理想主義と現実主義

母親の入院・手術のために金欠の育人には、これ幸いとばかりに手段を選ばない遠と五十嵐の“本気”が襲ってきました。

育人はこの状況を「なんで、みんなそうやって、僕の大事なものと大事なものを天秤にかけて奪おうとするんだ」と憤っていました。

遠は、「育人の母親(入院費)」「育人のデザイナーになりたいという夢」を天秤にかけました。五十嵐は、「育人の母親(入院費)」「心のデザイナーになりたいという夢」を天秤にかけました。いずれも育人にとっては大事なものです。大事なものだからこそ、奪われるわけにはいかないのです。

ところで、この状況は第6話における千雪による育人の評価を思い出します。

育人のこと、結構、尊敬してるんだ。

私はさ、本気でハイパーモデルになるつもりだから、モデルに必要ないことはほとんど切り捨てちゃうの。でもね、育人は違う。捨てない。全部捨てないの。

きっと私の方が夢に向き合っている時間は長い。それでも育人が頑張っていないって、欠片も思えないのは、きっとそこに何も捨てない、両立するって覚悟があるから。

千雪が尊敬していた育人の「全部捨てない」という努力手法が、危機に晒されているのです。

しかし、こうして育人の心情を慮ってみると、彼は多分に理想主義的です。「全部捨てない」という生き方は、おそらく誰もが目指すところですが、簡単には実現できません。実際、育人には母親の入院・手術による金欠という非情な現実が襲い、育人はそれに上手く対処できませんでした。

そんな育人に対して、遠や五十嵐は現実主義的です。遠は育人に対してデザイナーよりもパタンナーとしての方が将来性があると説き、五十嵐は心にはデザイナーなんかよりもモデルとしての才能があると確信しています。遠や五十嵐からしてみれば、育人や心(それに千雪)の夢は子供っぽい理想に過ぎず、大人として現実的な方向に進路を転換して欲しいのです

しかも、遠や五十嵐は現実主義的なだけでなく、狡猾でもありました。遠は、厳しい言葉も言いましたが、育人のパタンナーとしての才能を評価し、そこに逃げ道(進路転換の余地)を用意しているのです。五十嵐は、育人に対して、心にデザイナーを諦めるよう説得する際には、心の育人に対する信頼を利用して、「僕のショーにモデルとして出てください」と言うように提案するのです。「こう言えば全員幸せだ」と。

育人の窮地を利用して自らの利益を最大化しつつ、育人も母親も心もそれなりの幸せを掴める余地を提案する手法は、狡猾というほかはありません。

 

 

5.長谷川心の支え

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「先輩が……カラメル?」

育人がスタジオを辞めることを柳田から聞いた心は、「私で先輩の力になれるの?」「助けられてばっかなのに」「あんなに強い先輩が辞めたがるってことは、それくらい大きな問題で」と躊躇します。

しかし、今度は心が育人を支える番であると心は決心しました。芸華祭のショーに出ると決心したとき(第5話)、柳田のスタジオを追い出されそうになったとき(第7話)など、育人は心を支えてくれたのでした。

今の育人には支えてくれる人はいません(千雪はパリです)。だからこそ、心は柳田や遠に働きかけ、ひいては藤戸社長にまで心の想いが届いたのです。

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「千雪に作った服のデザインを買い取らせてほしい」

 

 

6.育人に対する評価

第8話ではファッションデザイナーを目指す育人に対して2人の人物から評価が下されました。

一方では、綾野遠は、「育人にそこまでの才能はない。この際だから勘違いしないように事実を告げるけど、育人のデザイナーとしての才能は、並か、並以下だよ。デザイナーになれたところで、食っていける器じゃない。これを機に諦めてパタンナーを目指した方がいい」と言いました。

他方では、「僕、ファッションデザイナーになれると思いますか?」と育人に問われた藤戸社長は「私からしたら、ならない方が驚きだよ」と答えました。

この2人の発言をどう評価するのかは難しいところです。

一見すると、遠の言葉の厳しさと藤戸社長の言葉の優しさが対比されます。しかし、藤戸社長の言葉も、「並程度のデザイナーにならなれる」というように解釈すれば、遠の言葉と変わりません。

とはいえ、2人の言葉は相当に文脈依存的です。つまり、遠には育人にパタンナーとして自分のチームに入って欲しいという下心があったので、わざと厳しい言葉を言ったという可能性も考えられますし、藤戸社長には息子ほどの年代の少年が涙を流しているのを見て同情で優しい言葉を言ったという可能性も考えられるのです。

しかし、いずれにせよ育人が藤戸社長の言葉に救われたのは間違いありません。

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「私からしたら、ならない方が驚きだよ」

 

 

7.ラストの千雪の独白がグッとくる

この部分はもしかしたら次回第9話の冒頭に使われるかもしれないのでネタバレみたいになってしまうかもしれないのですが、第8話のラストシーンで、育人に「僕のショーに出てくれませんか?」と聞かれた千雪が「もう、しょうがないなぁ」と言った場面のことです。

この千雪のセリフの前には、原作では独白があって、これがグッときたので以下に引用します(原作第6巻第48話)。

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パリでのオーディションが上手くいかず失意の表情の千雪

ファッションウィークは、パリだろうがミラノだろうが、誰でも受けられるオーディションを開くブランドが多い。極端なことを言えば、デザイナーに認められれば素人だって出られる。でも、それが重要なのは“身長(スタイル)”だから。

オーディションは10mくらいの距離をデザイナーの前で往復するだけ。私は数十社受けて、結局1mも歩かせてもらえなかった。

藤戸千雪というモデルを必要としてくれる場所はない。現場も、実の父親も、憧れの人からだって、一度見放された。

それなのにどうして、どうして君は、いつだって、いてほしい時に現れて、わたしは君の言葉に救われちゃうんだ。

 このような独白があってからの、「僕のショーに出てくれませんか?」「もう、しょうがないなぁ」なのです。最高の流れじゃないですか?

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「もう、しょうがないなぁ」

 

 

 

第9話の記事はこちらから!

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