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光源氏計画エンディングの倫理的許容性を考える――「養父と養娘の結婚」問題

 

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若紫

 

 

そもそも「光源氏計画」とは?

 

光源氏計画」の定義について、以下のサイトが上手くまとめてあったので引用します。

自分が慕う年下の人物を自分にとって理想的な「大人の女性」に育てようとする計画のこと。そんな思惑や様子を描いた作品に付けられるタグ。 元ネタは世界最古の長編小説と言われる紫式部の古典『源氏物語』。 義母の藤壺を愛していた光源氏が、藤壺と似ていた美少女・若紫に惚れ、彼女を自ら養育して美しい女性に成長させた。そしてある夜、二人は結ばれ、光源氏の妻「紫の上」となった。 〔中略〕現代では主に自分を慕う子供や後輩を、自分の理想の立派な大人に育てる意味で使われる。 その慕う相手は自分にとって年下で、ほとんどが男が年下の女子に対してすることに使われ、年上女性が年下男子に対しての場合、「逆光源氏計画」と呼ぶ。

 光源氏計画 (ひかるげんじけいかく)とは【ピクシブ百科事典】

 

なお、便宜上、ここからは光源氏計画における年上男性を「養父」、年下の女子を「養娘」と呼ぶことにします。

 

ところで、光源氏の場合は、そもそも若紫と結婚することを意図として彼女を養育し始めたのですが、そうではなく、養娘と結婚することを当初から意図しなくても、結果的に結婚した場合もこの記事においては光源氏計画エンディング」に含め、これら両方を考察対象にしたいと思います。

 

さて、ライトノベルや漫画などのフィクションにおいては、この種の光源氏計画エンディングが散見されますが、私自身はこの手の作品を読んだとき直感的にどう思ったのかというと、「う~ん。せいぜいセカンドベストかなあ」でした。つまり、ベストなエンディングは「養娘が同世代の他の男と結婚するのを養父が感極まりながら見送る」であり、光源氏計画エンディングはそれに及ぶことはない、と考えています。とはいえ、「こんなのありえない!作者は頭がおかしい!!」とまで強く否定するつもりはありません。「エンディングの一つとしてはアリっちゃアリなのかなあ」みたいな気持ちなのです。

 

そこで、このような中途半端な気持ちを分析するために、この記事を書こうと思ったのです。

 

 

法律から考える光源氏計画の社会的許容性

 

光源氏計画エンディングに対して一定の忌避感が生まれるのは、そこに何らかの道徳的・倫理的な問題があるのではないか?と直感的に感じてしまうからだと思います。

 

それでは、ここでいう道徳・倫理とはいったいなんなのでしょうか? これを特定・定義する作業は本来難しいことなのかもしれませんが、今回は法律という道具が使えそうです。

 

「法は倫理の最小限」という言葉があるように、社会に数ある規範(ルール)のうち、最低限度の倫理規範を国家権力によって強制的に守らせようとする手段が法律である、という考え方があります。言い換えれば、法律はその社会で広く合意が得られている倫理規範なのです。たとえば、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する」と殺人罪について定める刑法199条は、「人を殺してはならない」という社会倫理規範の現れだと言えます。

 

翻って光源氏計画エンディングについて考えてみましょう。

 

まず、実の親子については、法律は当然に結婚を禁じています。民法734条1項は、「直系血族又は三親等内の傍系血族の間では、婚姻をすることができない」と定めています(太字部分が関係する箇所です)。要するに、この規定の太字部分は、親子間や祖父母孫間といった上下に血のつながりのある者同士の結婚を禁じています。なぜこのような規定があるのかと言うと、優生学上の理由社会倫理上の理由があると言われています。

 

それでは、血縁上(生物学上)のつながりのない養親子ではどうでしょうか? この場合、養父と養娘が結婚して子供をもうけたとしても優生学上の問題は生じません。しかし、「生みの親と育ての親」という言葉があるように、親子関係は、血縁関係のみならず養育関係によっても特徴づけられます

 

この点、民法736条は、「養子若しくはその配偶者又は養子の直系卑属若しくはその配偶者と養親又はその直系尊属との間では第729条の規定により親族関係が終了した後でも、婚姻をすることができない」と定めています(太字部分が関係する箇所です)。要するに、この規定は、養親子関係にある者同士は結婚してはならない、と言っているのです。この養親子間には血縁上のつながりはありませんから、この禁止理由は社会倫理上の理由のみに求められます。とすると、この社会においては、「(血縁関係の有無にかかわらず)親子関係=養育関係にある者同士は結婚してはならない」という倫理規範があると言えそうです

 

以上をまとめると、この日本社会においては、光源氏計画エンディングに対するアンチテーゼとしての社会倫理規範が存在することが分かりました。

 

 

それでも光源氏計画エンディングは擁護可能か?

 

ここまでの一応の結論は、「光源氏計画エンディングは反倫理的である」というものでしたが、それでもなおこれを擁護すべき理由はあるのでしょうか?

 

私としては、いくつかの観点からこれを擁護できる可能性があると思います(擁護すべき、とまでは強く言える自信はありませんが)。

 

第一に、現実における社会倫理規範の存在を認めつつ、光源氏計画エンディングはあくまでフィクションだとして割り切る方法があります。しかし、この方法では、創作上のことだから放っておいてくれと社会に主張できる一方、社会の側からは社会倫理規範に反する作品だとラベリングされてしまいます。そこで、第二の方法が考えられます。

 

第二は、光源氏計画エンディングに対するアンチテーゼとしての社会倫理規範の強度や実在性に疑義を呈する方法です。

光源氏計画エンディングは賛否の分かれる方法ですが、たしかに一定数の賛成派もいるのです。そこで、「一定の賛成を集められるとすれば、そもそも問題となる社会倫理規範は存在しない(=この規範については広く社会から合意を得られていない)のではないか? 存在するとしても強い確証をもってそれを主張することはできないのではないか?」という疑問が生まれるのは当然です。

そもそも社会倫理規範は流動的ですし、同様に法律の内容も一定不変ではありません(たとえば、戦前戦後で家族制度は大きく変わりましたし、最近では同性婚の実現可能性だってあります)。

また、「親子は結婚してはならない」という規範の中核として想定されているのは実親子であって、規範の周辺である養親子(疑似親子)については流動的であり得るとも言えそうです(たとえば、近親婚のうち、いとこ婚の可否は国・地域や時代によって変わります)。

 

 

おわりに

 

ここまでは、光源氏計画エンディングの許容性について、その形式的理由――この社会にそれを禁止する規範はあるのか――しか考察できませんでした。その規範の背景にある実質的理由――その規範はなぜ存在するのか――にまでは踏み込めませんでした(むしろ多くの読者はこちらの議論を期待してこの記事を読み始めたのではないかと思います)。が、このような論法もあるのだということを知って頂ければ、(賛否どちらの立場にせよ)光源氏計画エンディングに対する視点が一つ増えたのではないかと思います。

 

異世界転生系ラノベのアイデアを考えたので誰か書きませんか?(後編)――「宗教」で型を破れ!!

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セカイ系

 

この記事は、昨日公開した記事の続編となっています。異世界転生系ラノベのアイデアを考えたので誰か書きませんか?」の前後編あわせた全体の目次は以下の通りです。

(1)異世界転生ファンタジーにおける「型」と「その破り方」

(2)メタ方面における「型破り」の可能性

(3)具体的アイデア

(4)おわりに

 

(1)(2)前編の記事(下記リンク参照)に、(3)(4)後編の記事に載せています。前編を読まなくても後編の趣旨は理解できると思いますが、読んで頂ければ管理人は喜びます!!

irohat.hatenablog.com

 

 

(3)具体的アイデア

 

さて、(1)(2)と、前置きが長くなりましたが、ここで提案して誰かに小説化してもらいたい異世界転生系ラノベのアイデアとは、この「メタ方面への型破り」に属するものです。

 

しかし、「作家である主人公が小説世界に入り込み、その世界を書き直してゆく」という手法は『異セカイ系』で既に使われてしまいました。そのため、(異なるキャラ設定やストーリー展開であっても)同じ手法で書いたとしたら、二番煎じとなってしまいます。

 

そこで私が提案したいのは、異世界転生ファンタジー宗教視する現実世界」を舞台とする方法です。

 

とはいえ、これはまったく独自の観点に基づくものではありません。異世界転生と宗教との関連性を指摘する声は既にあります。たとえば、以下のサイトで言及されています。

p-shirokuma.hatenadiary.com

sinkingdays.blog.fc2.com

 

しかし、彼らはそれをテーマとして小説化しようとする気はないようです。とすれば、ここが狙い目ではないでしょうか?

 

もっとも、実は「異世界転生ファンタジーを宗教視する現実世界」のアイデアは、小説投稿サイトでいくつか小説化されています(私がリサーチした限りでは、書籍化出版されているものはないと思います)。しかし、ざっと読む限り(2本しか見つけられなかったのですが)、ショートショート程度の分量で、しかもあまり設定が作り込まれていませんでした。

 

そこで、異世界転生ファンタジーを宗教視する現実世界」を舞台として、設定をきちんと作り込めば、面白いものができるのではないかと思ったのです(と、言うより、私自身がそういった小説を読みたいだけなのですが)。

 

それでは、ここにおける「作り込んだ設定」とは何か。それというのは、異世界転生ファンタジーにおける『型』『お約束』『あるある』を宗教化・教義化・体系化すること」です。

 

試みに具体的に掘り下げてアイデアを出してみます(【注意!】ここから管理人の妄想が爆発します!ご笑覧ください!

 

①宗教化されるようになった経緯について

身近にありすぎると神聖さや特別さが薄れるため、異世界ファンタジーが現に小説化され続けている状況での宗教化は難しいと思います。ですので、異世界ファンタジーの興隆が終わってその書き手が絶滅して以降、つまり今から50~100年後くらいが舞台としては良いのではないでしょうか(しかし、こうなると少し近未来SF小説っぽくもなりますね)。

その時代においては、かつて興隆した異世界転生ファンタジーが見直されるようになり、実はこれは死後の世界を記録したものではないかと再解釈されます。そして、その異世界への転生を望む者たちがこれを宗教化し信仰するようになります

 

②宗教名について

いささか安直ですが、便宜上、異世界転生教(異転教)」と仮に名付けておきます。小説化するとすれば、もっと中二病方面でこだわった方が良いのかもしれません(たとえば、ゾロアスター教拝火教とも呼ばれています)。

 

聖典について

宗教であれば、「聖典」が必要になります。しかし、「ハイ・ファンタジーといえば『指輪物語』」「魔法学園ファンタジーといえば『ハリー・ポッター』」と言えるように、異世界転生ファンタジーというジャンルにおいて、唯一無二、空前絶後と言えるほどのカリスマ作品はないように思われます。

そこで取り得る策は二つあると思います。一つは、最初期の人気作品である川原礫ソードアート・オンライン』を聖典とする方法。もう一つは、聖典は存在するはずだが未だ発見されていない」という方法

小説化するにあたっては、このどちらかを選ばなければならないという訳ではありません。むしろ、それぞれを宗派として並存させた方が良いでしょう。すなわち、前者は「最初期の人気作品=聖典(第一聖典)」「生殺与奪の権が握られ現実世界への無事な帰還の可能性が制限された世界ならゲームであっても異世界と言って構わない」とする宗派(SAO派)とラベリングすることができます。それに対して後者は、「SAOは『ゲーム世界』を異世界としておりむしろ異端である。その一方で、聖典とすべき作品が発見されている訳でもない。ひとまずは、第二聖典を読解しこれの教義化を深めるべきである」と主張します(第一聖典の発見を目指すと同時に、第二聖典を通じて教義を研究することから、仮に「探究派」と名付けておきます)。

さて、何の断りもなしに「第一聖典」「第二聖典という言葉を使ってきましたが、これはイスラム教における「コーラン」と「ハーディス」の関係と同様です。つまり、第一聖典を教義の基礎としつつ、その解釈の補助として第二聖典が用いられるのです。SAO派においては、SAOが第一聖典、その影響を受けた後続の他作品が第二聖典と見なされます。反対に、探究派においては、SAOもその他の作品も等しく第二聖典に位置づけられ、第一聖典は未だ発見されていないという立場です。

ここまで、SAO派、探究派という二大宗派を作ってきましたが、他にも中堅宗派として「転スラ派」「賢孫派」などもあってよいと思います。また、探究派が第二聖典とみなす作品群を第一聖典とする宗派もありだと思います(複数の第一聖典を崇拝することから「複典派」と名付けておきます)。

 

④宗派対立、正統と異端について

③で挙げた聖典を巡る宗派対立のほか、細かいところではもっと「正統」と「異端」の紛争を繰り広げ得ると思います。たとえば、以下のような点において対立があるのではないでしょうか。

  • 転生(人格を維持した別の人物への生まれ変わり)だけでなく転移(人格も外見も維持する)も転生に含めるのか。
  • 最上の転生方法は何か(トラック事故か、通り魔か、など)。
  • 事故や他殺ではなく、自殺や老衰や病死で異世界に転生することはできるのか。
  • ゲーム世界も異世界に含めるのか。
  • 転生先は人間が正統にして最上なのか、魔王や魔物や剣などは異端なのか。
  • たとえ転生時にチート能力を授けられなくとも、少なくとも現世の知識でチートするために現世で研鑽を積んでおくべきか。
  • 異世界に転生して最強の能力を手に入れたのに、世界を救うことなくスローライフを送ることは許されるのか。
  • 主人公に惚れるべきヒロインは一人か複数か。

とりあえずいくつか挙げてみましたが、異世界転生ファンタジーには一定の「型」を基本として様々なバリエーションがありますので、上記以外にも数多くの論点を設定できると思います。

いずれにせよ、小説化するに際しては、③の宗派対立や④の正統と異端の対立をストーリーの軸にした方が書きやすいと思われます。

 

⑤主人公の立場について

その小説における主人公の立場は、様々なパターンが考えられると思います。たとえば、そもそも異転教の教徒か否か(教徒でない場合、他教徒か無宗教か)、教団の幹部なのか下っ端教徒なのか、一般社会で働いているのか聖職者として教団の中で働いているのか、家族や友人と同じ宗派か否か、などです。

 

⑥その他の点について

以上のアイデアを小説化するには、このほかに具体的なストーリー展開キャラ設定などについても詰めていく必要があります。しかし、これらの点については、思いつきませんでしたこの記事を読んでこのアイデアを小説化しようと思った奇特な方にお任せします。また、上記のアイデアはあくまでたたき台なので、改善の余地は大いにあると思います(特にSAOの位置づけが難しそうです)。

 

 

(4)おわりに

 

最後に、いくつか付言(もとい言い訳)させていただきます。

 

第一に、プロの作家でも編集者でも評論家でもないのに、ここまで偉そうに語ってきましたが(申し訳ございませんm(_ _)m)、もしかしたら私のリサーチ能力不足により、既に世に出されている同種の発案や小説を見落としているかもしれません(!)。その場合にはご容赦頂ければと思います。。。そのときにはお知らせ頂ければ助かります!

 

第二に、「独自性を出すには?」みたいなことを書きつつ、そのためのアイデアをこのような形でインターネットに公開するという、この矛盾する姿勢について違和感があるかもしれません。しかし、当ブログのアクセス数は(謙遜などではなく本当に)微々たるものですのでご安心ください。また、そもそも、これから小説を書こうとする人がこの記事を読んでこのアイデアを小説化させようと思うような事態が発生することに対しては、むしろ私自身が懐疑的です(その意味で、この記事は利他的なものと言うより、自分のアイデアを開陳して終わるだけの自己満足的なものです)。

 

第三に、私がこのアイデアを公開したのは、こんな小説を読みたい!という気持ちがあったからです。つまるところ、悪く言えば、この種の小説が新人賞をとったり人気になったりすることを(無責任かもしれませんが)私自身は保証しかねます。再び申し訳ございませんm(_ _)m その一方で、良く言えば、少なくとも私自身が既にファンなのでご安心(?)ください!!

 

 

この後編の記事を読んで、前編の記事を読みたくなった方は以下のリンクから読めます。

irohat.hatenablog.com

 

 2019年8月17日修正:SAOの位置づけに関する記述の趣旨をより明快にするため、一部加筆を行いました。

 

異世界転生系ラノベのアイデアを考えたので誰か書きませんか?(前編)――いかにして「型」を破るのか考察してみた

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セカイ系

異世界転生系ラノベのアイデアを考えたので誰か書きませんか?」と銘打ったものの、これは少々ミスリーディングなタイトルです。というのも、詳しくは読み進めてもらえば分かると思いますが、一般に「異世界転生系ラノベ」として皆さんがイメージするものと、私がここで提案するものには少しズレがあるからです。しかし、「アイデアを提供する」という点では間違っていませんのでご安心を!

 

以下、目次です。

(1)異世界転生ファンタジーにおける「型」と「その破り方」

(2)メタ方面における「型破り」の可能性

(3)具体的アイデア

(4)おわりに

 

長くなるので記事を前後編に分割し、この記事では(1)(2)を、明日の記事では(3)(4)を扱います。

 

 

(1)異世界転生ファンタジーにおける「型」と「その破り方」

 

異世界転生(転移)系のライトノベルは、既に「型」「お約束」「あるある」のようなものが出来上がっています。

つまり、「①現世において何か問題を抱える主人公が、②事故死をきっかけに異世界に転生し、③そこで最強の能力を手に入れ、④その世界を救い、⑤ついでにヒロインにモテまくる」というサクセスストーリーが典型的展開ではないでしょうか(下記サイトも参照)。

異世界転生 (いせかいてんせい)とは【ピクシブ百科事典】

 

そして、大量供給がなされるこのジャンルにおいては、他作品との違い=自分の作品の特徴を出すために、この「型」からいかにはみ出すかが重要になります(これを「大喜利」に例える人もいます)。

 

その結果、次のような「型の破り方」の作品が出てきています。

「転生したら人間ではなくスライム/魔王/剣だった」

「一人ではなくクラス全員で異世界転移」

「転生してくれる女神ごと転生」

「与えられた能力が(一見すると)役立たず」

「剣や魔法ではなくスコップで無双」

異世界を救わずスローライフ

 

みなさんは、どの作品を指しているか分かりましたか?

 

しかし、いずれにせよ、大多数の作品は、こういった方面での型の破り方しかしていません。それでは、他にどのような方面での型破りがあるのでしょうか?

 

 

(2)メタ方面における「型破り」の可能性

 

型破りの方法のもう一つは、メタ方面での方法です。

 

その良い例があるので、ここで紹介します。その作品とは、名倉編『異セカイ系』(講談社タイガ、2018年)です。この作品は、第58回メフィスト賞受賞作です(メフィスト賞は、エンターテインメント小説=細かいジャンルは不問の講談社の新人賞です)。

 

あらすじは以下の通りです。

小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。小説の通り黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に……♪ ってボケェ!! 作者(おれ)が姫(きみ)を不幸にし主人公(おれ)が救う自己満足。書き直さな! 現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや! あれ、何これ。「作者への挑戦状」って……これ、ミステリなん? 

 『異セカイ系』(名倉 編):講談社タイガ|講談社BOOK倶楽部

 

さて、あらすじを読んでみてどうですか? メタ方面への型破りというものがどんなものか分かりましたか?

 

より一般的な言い方をすれば、異世界転生ファンタジーにおけるメタ方面での型破りとは、異世界転生ファンタジーにおける世界観やストーリー展開などの設定のあり方(=『型』)を作品のメインテーマとする型破りの方法」と言えるでしょう。

 

通常の型破りの場合(異世界転生ファンタジーの多くの場合)は、世界観やストーリー展開などの設定のあり方(=「型」)を主人公が問題にすることはありません。

もちろん、「俺がよく読んでいるラノベでは、こんな展開にはならないはずなのに!!」「この異世界は、俺がかつて作ったゲームの世界だ!」のような一種のメタ発言を主人公が行うことはあります。しかし、主人公はそう言及するだけで、「型」そのもののあり方を変えようとはせず、「型」の中で主人公は行動していくことになります。

 

その点、『異セカイ系』の場合は、小説世界の中では「神」である作家の主人公が、その作中世界に出たり入ったりすることで、メタ方面での型破りを可能としました。

 

なお、以上の(1)(2)の一部は、2018年11月13日日本経済新聞夕刊を参考としています。

style.nikkei.com

 

以降の内容は後編の記事に続きます(下記リンク参照)。

irohat.hatenablog.com

 

 

2019年9月8日追記:異世界ファンタジーにおけるメタフィクションの例は、『異セカイ系』以外にも、波摘〔原作〕/燐人〔漫画〕『獣耳ロリ勇者はえっちな修正に困っている』(電撃コミックスNEXT、全1巻)という作品があります。こちらも『異セカイ系』と同じく、主人公は自らの書いた作中世界へと転移しますが、勇者ヒロインに降りかかる災難を主人公は原作を修正する能力で救ってゆきます。

www.kadokawa.co.jp

 

2019年11月19日追記:さらに最近刊行された例として挙げられるのは、伊藤ヒロ異世界誕生2006』(講談社ラノベ文庫、2019年11月現在既刊2巻)です。この作品においては、2010年代における異世界ファンタジーの流行・興隆の様子を、ゼロ年代の書き手の周辺を舞台としてフィードバックさせることによって、メタ的な視点から現在の異世界ファンタジーが描写・分析されています。詳しくは下記の紹介記事をご覧ください。

irohat.hatenablog.com

 

 

これから放送される予定の「女性が主人公」のラノベ原作アニメ一覧――秋2本、冬1本、時期未定3本

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痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。


さて、先日は「2019年秋に放送予定のラノベ原作アニメ一覧」という記事を作成しましたが、今回は、2020年冬以降も含めて今後放送される予定の女性が主人公ライトノベル原作アニメを紹介したいと思います!

irohat.hatenablog.com

 

なお、「ライトノベル」原作と銘打っているものの、ライトノベルと近い関係にあるライト文芸(キャラクター小説)レーベルを原作とする作品や、ライトノベルでなくてもそのお家芸ジャンルである異世界ファンタジーを内容とする作品もここで取り上げます。

 

以下、目次です。

(1)2019年秋に放送予定(2作品)

(2)2020年冬に放送予定(1作品)

(3)放送時期未定(3作品)

 

 

 (1)2019年秋に放送予定

 

本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~

原作:香月美夜(TOブックス、2019年8月現在既刊20巻)

制作:亜細亜堂

あらすじ 現代の日本で生活している「本須麗乃(もとすうらの)」 は、 念願である図書館への就職が決まったその日に亡くなってしまう。 もっと多くの本が読みたかった、そんな未練を抱いたままの彼女は 気が付くと異世界の幼女マインとしての身体を持って意識を取り戻した。 物語の舞台となるのは 魔法の力を持つ貴族たちに支配された 中世のような異世界の都市エーレンフェスト。 厳格な身分制度の中、現代日本の知識を持つ少女マインが、 本を手に入れるために奮闘する。 

booklove-anime.jp

 

私、能力は平均値でって言ったよね!

原作:FUNA(アース・スターノベル、2019年8月現在既刊11巻)

制作:project No.9

あらすじ とある事故をきっかけに異世界へ転生してしまった人よりちょっとだけ「できる子」だった女子高生・栗原海里(くりはらみさと)彼女がその新しい世界で望んだものは… 「わたし、普通に友達をつくって、普通の生活を送りたい―」 

noukin-anime.com

 

 

(2)2020年冬に放送予定

 

虚構推理

原作:城平京講談社タイガ、2019年8月現在既刊3巻)

制作:レインズ・ベース

あらすじ 幼い頃、神隠しに遭い、片眼・片脚と引き換えに“怪異”や”妖怪”たちの知恵の神となった主人公:岩永琴子。また、幼い頃に“妖怪”である“件(くだん)”と“人魚”の肉を食べ「未来を掴む力」と「不死の身体」を手に入れ人ならざる者となった桜川九郎。二人が、ミステリアスな事件に立ち向かってゆく、予測不可能な物語『虚構推理』。

kyokousuiri.jp

 

 

(3)放送時期未定

 

痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。

原作:夕蜜柑(カドカワBOOKS、既刊7巻)

制作:SILVER LINK.

あらすじ ゲームなどの知識に乏しく、ステータスポイントを全て防御力(VIT)に振ってしまったメイプル。動きも遅く、魔法も使えず、挙句の果てには兎にすらどつき回される始末。あれ、でも全然痛くない……っていうか、ダメージゼロ? 極振りの結果、手にしたスキルは【絶対防御】。さらには一撃必殺のカウンタースキルまで取得して——!? あらゆる攻撃を無効化し、致死毒スキルで障害を蹂躙していく『移動要塞型』新人、自分らの異常さに気づくことなく、いざ出陣!

kadokawabooks.jp

bofuri.jp

 

乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…

原作:山口悟(一迅社文庫アイリス、2019年8月現在既刊8巻)

制作:

放送時期:2020年

あらすじ 頭をぶつけて前世の記憶を取り戻したら、公爵令嬢に生まれ変わっていた私。え、待って! ここって前世でプレイした乙女ゲームの世界じゃない? しかも、私、ヒロインの邪魔をする悪役令嬢カタナリなんですけど!? 結末は国外追放か死亡の二択のみ!? 破滅エンドを回避しようと、まずは王子様との円満婚約解消をめざすことにしたけれど……。悪役令嬢、美形だらけの逆ハーレムルートに突入する!? 恋愛フラグ立てまくりの破滅回避ラブコメディ★

www.ichijinsha.co.jp

www.ichijinsha.co.jp

 

蜘蛛ですが、なにか?

原作:馬場翁カドカワBOOKS、2019年8月現在既刊11巻)

制作:

あらすじ 女子高生だったはずの「私」は目覚めると……なんと「蜘蛛」に転生していた! 周囲は毒カエルや猿の化け物、果ては龍まで……ってコレもう詰んでいない!? 種族底辺・メンタル最高女子の、迷宮サバイバル開幕!

kadokawabooks.jp

kadokawabooks.jp

 

 

以上はこれから放送される予定の女性が主人公のラノベ原作アニメでしたが、過去作品にも女の子が主人公の良作アニメがあります! 下記記事もぜひご覧ください!!

irohat.hatenablog.com

 

2019年秋に放送予定のラノベ原作アニメ一覧――女性が主人公のアニメは2本!

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本好きの下剋上

ブログを始めた当初は、こういう記事を書く予定はなかったのですが、「女性が主人公のライトノベルはおもしろい!」なんて記事を書いたら、女性主人公ラノベの振興の一端を担おうとする者としての使命感(?)が私を突き動かしていたのです!!

irohat.hatenablog.com

 

さて、この記事では、2019年秋(10月~12月)放送予定の注目アニメのうち、

(1)女性が主人公のラノベ原作アニメ

(2)その他のラノベ原作アニメ

(3)ラノベ原作ではないが注目の女性が主人公のアニメ

を一覧にしてまとめたいとおもいます(ただし、シリーズものの続編は原則として掲載していませんが、気分によって掲載している場合もあります。)

 

 

(1)女性が主人公のラノベ原作アニメ

 

本好きの下剋上~司書になるためには手段を選んでいられません~

原作:香月美夜(TOブックス、2019年8月現在既刊20巻)

制作:亜細亜堂

あらすじ 現代の日本で生活している「本須麗乃(もとすうらの)」 は、 念願である図書館への就職が決まったその日に亡くなってしまう。 もっと多くの本が読みたかった、そんな未練を抱いたままの彼女は 気が付くと異世界の幼女マインとしての身体を持って意識を取り戻した。 物語の舞台となるのは 魔法の力を持つ貴族たちに支配された 中世のような異世界の都市エーレンフェスト。 厳格な身分制度の中、現代日本の知識を持つ少女マインが、 本を手に入れるために奮闘する。 

booklove-anime.jp

 

私、能力は平均値でって言ったよね!

原作:FUNA(アース・スターノベル、2019年8月現在既刊11巻)

制作:project No.9

あらすじ とある事故をきっかけに異世界へ転生してしまった人よりちょっとだけ「できる子」だった女子高生・栗原海里(くりはらみさと)彼女がその新しい世界で望んだものは…「わたし、普通に友達をつくって、普通の生活を送りたい―」 

noukin-anime.com

 

 

(2)その他のラノベ原作アニメ

 

アサシンズプライド

原作:天城ケイファンタジア文庫、2019年8月現在既刊10巻)

制作:EMTスクエアード

あらすじ マナという能力を持つ貴族が、人類を守る責務を負う世界。能力者の養成校に通う貴族でありながら、マナを持たない特異な少女メリダ=アンジェル。彼女の才能を見出すため、家庭教師としてクーファ=ヴァンピールが派遣される。 『彼女に才なき場合、暗殺する』という任務を背負い--。能力が全ての社会、報われぬ努力を続けるメリダに、クーファは残酷な決断を下そうとするのだが……。 「オレに命を預けてみませんか」暗殺者でもなく教師でもない暗殺教師の 矜持(プライド)にかけて、少女の価値を世界に示せ!

assassinspride-anime.com

 

俺を好きなのはお前だけかよ

原作:駱駝(電撃文庫、2019年8月現在既刊11巻)

制作:CONNECT

あらすじ 俺はパンジーこと三色院菫子が大っ嫌いだ。なのに……俺を好きなのはお前だけかよ。もし、気になる子からデートに誘われたらどうする? 当然意気揚々と待ち合わせ場所に向かうよね。そこで告げられた『想い』から、とんでもない話が始まったんだ。

oresuki-anime.com

 

慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~

原作:土日月(カドカワBOOKS、2019年8月現在既刊5巻)

制作:WHITE FOX

あらすじ 超ハードモードな世界の救済を担当することになった駄女神リスタ。チート級ステータスを持つ勇者・聖哉の召喚に成功したが、彼はありえないほど慎重で……?「鎧を三つ貰おう。着る用。スペア。そしてスペアが無くなった時のスペアだ」異常なまでのストック確保だけに留まらず、レベルMAXになるまで自室に篭もり筋トレをし、スライム相手にも全力で挑むほど用心深かった!そんな勇者と彼に振り回されまくる女神の異世界救済劇、はじまる! 

shincho-yusha.jp

 

超人高校生たちは異世界でも余裕で生き抜くようです!

原作:海空りくGA文庫、2019年8月現在既刊)

制作:project No.9

あらすじ 飛行機事故に巻き込まれた七人の高校生。彼らが目を覚ますとそこは魔法や獣人のいる異世界だった。 突然の事態に彼らは混乱――することもなく(!?)電気もない世界で発電所を作ったり、ちょっと出稼ぎに出ただけで大都市の経済を牛耳ったり、あげく悪政に苦しむ恩人たちのために悪徳貴族と戦争したり、やりたい放題!? そう。彼らは誰一人普通の高校生ではなく、それぞれが政治や経済、科学や医療の頂点に立つ超人高校生だったのだ! これは地球最高の叡智と技術を持つドリームチームによる、オーバーテクノロジーを自重しない異世界革命物語である! 

choyoyu.com

 

ソードアート・オンライン アリシゼーション War of Underworld

原作:川原礫電撃文庫、2019年8月現在既刊21巻)

制作:A-1 Pictures

あらすじ 「ここは......どこだ......?」気づけばキリトは、なぜか壮大なファンタジーテイストの仮想世界にフルダイブしていた。ログイン直前の記憶があやふやなまま、手がかりを求めて辺りを彷徨う。そして、漆黒の巨木《ギガスシダー》のもとにたどり着いた彼は、一人の少年と出会う。「僕の名前はユージオ。よろしく、キリト君」少年は、仮想世界の住人――《NPC》にもかかわらず、人間と同じ《感情の豊かさ》を持ち合わせていた。ユージオと親交を深めながら、この世界からのログアウトを模索するキリト。そんな彼の脳裏に、ある記憶がよみがえる。それは、幼少期のキリトとユージオが野山を駆け回る想い出――本来、あるはずのない記憶。更にその想い出には、ユージオともう一人、金色の髪を持つ少女の姿があった。名前は、アリス。絶対に忘れてはいけないはずの、大切な名前――。 

sao-alicization.net

 

 

(3)ラノベ原作ではないが注目の女性が主人公のアニメ

 

神田川 JET GIRLS

原作:オリジナル

制作:ティー・エヌ・ケー

あらすじ マシンを操作する「ジェッター」とウォーターガンで対戦相手を攻撃する 「シューター」の二人一組でマシンに乗り、 水面を駆けるスポーツ「ジェットレース」がメジャーとなった世界。 伝説のジェッターを母に持ち、自身もジェットレーサーを夢見る波黄 凛は、 故郷の島を旅立ち、東京・浅草へとやってくる。 そこでクールな美少女、蒼井ミサと出会い、ふたりはパートナーに。 ライバルたちとレースを繰り広げながら少しずつ絆を深めていく。 

kjganime.com

 

ぬるぺた

原作:オリジナル

制作:

あらすじ 天才少女「ぬる」は、お姉ちゃんを事故で亡くしてしまう。 でも大丈夫! 持ち前の知識で、大好きだったお姉ちゃん「ぺた」をロボットとしてつくることに成功! ただ、ロボットとして復活したお姉ちゃんは生前よりも、ちょっとちがう? 妹「ぬる」と、姉ロボ「ぺた」が繰り広げる、姉妹ドタバタコメディ! 『お姉ちゃん! コンセント抜けてるよ!』 

nullpeta.com

 

放課後さいころ倶楽部

原作:中道裕大小学館月間少年漫画誌ゲッサン」連載中、2019年8月現在既刊15巻)

制作:ライデンフィルム

あらすじ いつもひとりでいること――。 人付き合いが苦手で引っ込み思案な武笠美姫にとっては、それが当たり前の日常。 そんな美姫が、天真爛漫なクラスメイトの高屋敷綾、クラス委員長の大野翠、ドイツからの転校生エミーリアと出会い、 ボードゲームを通して友情を深め、少しずつ前に進んでいく。 当たり前だった日常が、特別な毎日に変わっていく――。 

saikoro-club.com

 

ライフル・イズ・ビューティフル

原作:サルミアッキ集英社となりのヤングジャンプ」「ヤンジャン!」「少年ジャンプ+」連載中、2019年8月現在既刊4巻)

制作:Studio 3Hz

あらすじ 距離10m、直径1mm、弾数60発、競技時間45分 硬いジャケットを身にまとい、 見た目よりもずっと気力を振り絞る過酷な勝負の世界 ──ビームライフル競技。 ……のはずが、誰もわかってくれないのが 知名度の低いスポーツのつらいところ。 でも私、世界を目指してます! 千鳥高校に偶然集った、 小倉ひかり、渋沢泉水、姪浜エリカ、五十嵐雪緒 の女子高生4人がおくる、ゆるーいけどひたむきな射撃部ライフ!!

chidori-high-school.com

 

Fairy gone フェアリーゴーン(第2クール)

原作:オリジナル

制作:P. A. WORKS

あらすじ かつて妖精は、“兵器”だった――。 この世界には、動物に憑依することで不思議な力を宿す、妖精が存在していた。 妖精が憑依した動物の臓器を摘出し人間に移植することで、妖精を分身として出現 させ、兵器として扱えるようになる。妖精を戦争の道具として自在に操る兵士た ち、彼らは『妖精兵』と呼ばれた。長きにわたる戦争が終結すると、彼らはその役 目を終え、行き場を失う。あるものは政府に、あるものはマフィアに、あるものは テロリストに。それぞれの生きる道を選択する。 戦争から9年の歳月が経つ。主人公のマーリヤは、妖精に関連する事件を捜査・鎮 圧する、違法妖精取締機関『ドロテア』に配属されたばかりの女の子。 未だ不安定な政治情勢の中、戦争によって受けた傷や過去を持つ犯罪者が現れ、 復讐のためテロを起こす。 これは、無秩序な戦後に抗い、それぞれの正義を求め戦う 『妖精兵』たちの物語――。 

www.fairygone.com

 

 

以上が2019年秋放送予定の注目アニメです!

女性が主人公のラノベ原作アニメは2本でしたね!必見です!

 

2020年冬以降も含めた今後放送される予定の女性が主人公のラノベ原作アニメ一覧をまとめた記事や、女の子が主人公のアニメおすすめ10作品を紹介する記事も書いていますので、よければご覧ください!

irohat.hatenablog.com

irohat.hatenablog.com

 

はやみねかおる『都会のトム&ソーヤ』――現実世界の街中でサバイバル!

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都会のトム&ソーヤ

(1)基本情報

 

『都会のトム&ソーヤ』(まちのトムアンドソーヤ)

著者:はやみねかおる

イラスト:にしけいこ

レーベル:講談社YA!ENTERTAINMENT(2019年8月現在既刊16巻)

文庫版:講談社文庫(2019年8月現在既刊10巻)

ジャンル:「サバイバル」「冒険」「ゲーム」

bookclub.kodansha.co.jp

―――――――――――――――――

冒険の始まりには、こんな三日月の夜こそふさわしいと思わないかい――。午後10時のビジネス街、塾帰りの内藤内人は同級生の竜王創也の姿を見かけ尾行するが、途中で忽然と見失ってしまう。だが、やがて内人は創也の秘密にたどりつき、少年たちは特別な友だちになる。都会の少年冒険小説、シリーズ第一弾!

――――――第1巻裏表紙より―――

 

 

(2)あらすじ

 

まずは登場人物を紹介。

 

内藤内人:主人公にして語り手。本人曰く平凡な中学2年生だが、どんな状況でも切り抜けられるサバイバル能力を持っている。

竜王創也:もう一人の主人公。内人の同級生。大財閥の跡取り。天才でイケメンだが猪突猛進バカ

栗井栄太:内人&創也のライバル。謎に包まれた伝説のゲームクリエイター

 

創也には「究極のゲームを作る」という夢があり、それを知った内人はそれに協力することになります。その夢とは、四つの伝説のゲームに続く「第五のゲーム」を作ること。しかも、コンピュータゲームなどではなく、R・RPG(リアル・ロールプレイングゲームです。

 

R・RPGは、コンピュータみたいな仮想現実じゃなくて、現実世界を舞台にしたRPGなの。たとえば、GPSを使った鬼ごっこ。たとえば、巻物を奪いあう忍者合戦。」(文庫第2巻322頁より)

 

ワクワクしませんか? 最近は「リアル脱出ゲーム」などの体験型レクリエーションが流行っていますが、はやみね先生は第1巻発売時の2003年の時点で、既にこのトレンドを先取りしていたのです!

 

さて、内人と創也の前には、伝説のゲームクリエイター集団の栗井栄太が立ちはだかります。ときには彼らの挑戦(テストプレイ)を受けて立ち、ときには彼らに挑戦し、あるいは彼らとは無関係のトラブルに巻き込まれたり。

 

創也は普段はイケメンの天才ですが、熱中すると周りが見えなくなる猪突猛進バカです。そのため、内人がその中学生離れしたサバイバル能力でフォローしていきます。

  

 

(3)おすすめポイント――これぞ童心をくすぐる正統派少年冒険小説!!

 

本作品は、講談社「YA!ENTERTAINMENT」という、もしかしたら見慣れないレーベルから出されている作品なので、ラノベ読者層の多くはご存じないかもしれません(なお、第10巻までは講談社文庫版〔ラノベ文庫ではない一般文庫〕が出ていますので、手に取りやすくなっています!)。その一方で、「YA(ヤングアダルト)」が示す通り、中高生のころに本作品を読んだという方も多いと思います。ヤングアダルトなので、読者層としてはライトノベルと同じくらいが想定されていると思いますので、そんな小説卒業しちまったなどと言わずに読んでみてください!!

 

さて、最近のラノベの最大派閥は「異世界冒険ファンタジー」だと思いますが、本作品は、「現実世界」での少年たちの冒険・サバイバルがテーマとなっています。現実世界での冒険・サバイバルと言っても、その舞台は無人島や密林などではなく、都会(まち)なのです! 都会での冒険って何?という方のために、6巻までの冒険の舞台を以下に記してみます。

 

第1巻:①トラップだらけのビルに侵入せよ!

    ②下水道に潜れ!

    ③テレビ局で監禁された!

第2巻:①深夜のデパートで恐怖の鬼ごっこ!?

    ②ゲームの館で伝説のゲームを探し出せ!

第3巻:①デートの練習中に誘拐事件!?

    ②文化祭中の学校に爆弾が!

第4巻:①マラソン大会から抜け出せ!

    ②ホラー屋敷で窃盗団とバトル!

第5巻:廃村でUFO!宇宙人!金塊!

第6巻:最強のホームセキュリティシステムと対決!

 

どうですか? ワクワクしませんか? 童心がくすぐられませんか?

 

最後に、この作品について重大な情報を一つ。

今度、実写映画化されます!

natalie.mu

公開時期やキャストは、2019年8月時点ではまだ未発表ですが、ワクワクがとまりませんね!

  

 

(4)関連おすすめ作品

 

「都会のトム&ソーヤ」シリーズを読んで、はやみねかおる作品にはまったあなたに、はやみね先生の別シリーズのおすすめを紹介します。

 

1つ目は、「虹北恭助」シリーズ(講談社ノベルス、全5巻)です。レーベルは講談社ノベルスですが、立派なライトノベルです。ジャンルとしては、日常の謎を解いてゆくミステリです。探偵役を虹北恭助という少年が、ワトソン役を響子という少女が務めます。

bookclub.kodansha.co.jp

 

2つ目は、「名探偵夢水清志郎事件ノート」シリーズ(講談社青い鳥文庫、全14巻)です。青い鳥文庫ということで、小学生向けの児童小説ですが、大人も十分に楽しめます!(一般文庫である講談社文庫から8冊ほど出されているので、大人でも手に取りやすくなっています)。ジャンルとしてはミステリです。中学1年生の少女、岩崎亜衣の臨家の屋敷に怪しい隣人が引っ越してきた。彼は名探偵を自称するが果たして……?

bookclub.kodansha.co.jp

 

さて、ここまで、はやみねかおる作品を3シリーズ紹介してきましたが、他にも「怪盗クイーン」シリーズ(講談社青い鳥文庫「ディリュージョン社の提供でお送りします」シリーズ(講談社タイガ、既刊2巻)など、おすすめしたい作品はたくさんあります。

 

さしあたり、まずは「都会のトム&ソーヤ」シリーズを読んで、はやみねワールドにはまってみませんか?

 

松智洋『パパのいうことを聞きなさい!』――アットホームで家族愛あふれる心温まるストーリー!

 

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パパのいうことを聞きなさい!

(1)基本情報

 

パパのいうことを聞きなさい!』(集英社スーパーダッシュ文庫、全19巻)

著者:松智洋

イラスト:なかじまゆか

ジャンル:「アットホーム」「家族愛」「ラブコメ

dash.shueisha.co.jp

―――――――――――――――――

大学に合格し、新生活をスタートさせたばかりの瀬川祐太は、新しい友人や憧れの人に巡り会い普通の大学生活を送っていた。しかし、一人暮らしの六畳間に、中学生の空、小学生の美羽、保育園児のひなが同居することになってしまったのだ! いきなり思春期の少女達のパパになってしまった祐太の運命は!? ドキドキの同居生活に、祐太を慕う少女達に憧れの先輩との恋も絡んで大騒動! 愛と感動満載で贈るドタバタアットホームラブコメ開幕!!

――――――第1巻裏表紙より―――

 

ちなみに、アニメ化もされています

king-cr.jp

 

(2)あらすじ

 

まず、本作品の主人公となるのは、瀬川祐太という男子大学生です。小学生の頃に両親が事故で亡くなって以来、彼は姉の祐理に育てられていました。

 

姉の祐理は小鳥遊信吾という男性と結婚しており、二人の間には三人の子供がいます。

 

一人目は、(そら)。中学2年生の女の子。生みの母親とは死別。儚げなセミロング美少女。

二人目は、美羽(みう)。小学5年生の女の子。アイドルばりの金髪美少女。母親は元外国人モデルらしく……?

三人目は、ひな。3歳の女の子。祐理と信吾の間に生まれた子で、三姉妹の中で唯一祐太と血縁関係がある。

母親が全員違う三姉妹ですが、三人は仲良し姉妹です(なお、信吾パパがプレイボーイだったという訳ではありません!)。

 

あるとき、祐理と信吾は海外出張に出かけますが、飛行機が墜落し、二人は行方不明となってしまいます。残された三姉妹は、親戚によってバラバラに引き取られることになります。しかし、祐太は違いました。「三人で一緒にいたい」と言う三姉妹を引き取ったのです

 

そこから三姉妹は、祐太の下宿先である六畳間の安アパートで生活することになります。

 

祐太は、思春期女子との共同生活に戸惑ったり、生活費を稼ぐためにバイト漬けになったり、保育園児であるひなの育児に戸惑ったり、空や美羽は、初めての家事に悪戦苦闘したり……

 

ある程度生活が安定してからも四人には乗り越えるべき壁が立ちはだかります。幼い頃に亡くした生みの母を想う空、生みの母との葛藤を抱える美羽、両親の事故の意味をいつか知らなければならないひな……

 

祐太と三姉妹が様々な困難を乗り越え成長してゆく姿には心が温まります

 

 

(3)おすすめポイント――ラノベらしからぬ(?)アットホームな家族愛

 

ブコメ主人公と言えば、「おっぱいタッチ」「お尻にキス」「裸を見てしまった」のようなラッキースケベをいくら体験しようと、「キスは好き同士じゃないとダメなんだ!」などと、恋愛方面で妙に律儀で誠実な性格をしている傾向にあります。

 

本作品の主人公は、家族愛という方面において誠実な性格をしています。主人公はずーっと、叔父として、保護者として、三姉妹に家族愛を向けているのです

 

ラノベでは「家族愛」をテーマにした作品は意外に少ない気がします。もちろん、「兄と(義理あるいは実の)妹」の関係性をテーマとする作品は大量にありますが、この種の作品は、むしろ「家族愛」ではなく「恋愛」がテーマとなっていると言うべきものでしょう。その意味で、「家族愛」をメインテーマにすえた本作品はラノベらしからぬアットホームな内容となっています(といっても、ちゃんとラブコメもしているんですけどね)。

 

家族愛でほっこりしたい方、子供が成長する姿を見たい方、ドタバタラブコメが見たい方におすすめの作品です。

 

 

(4)関連おすすめ作品

 

「アットホーム」とか「家族愛」とか、そういうジャンルの作品をおすすめしようと思ったのですが、適当な作品が思いつきませんでした……。申し訳ありません。代わりと言っては何ですが、同じ作者の別シリーズである松智洋迷い猫オーバーラン!』(集英社スーパーダッシュ文庫、全12巻)を紹介しておきます。ただ、管理人はまだ読んだことがありません。再び申し訳ございません。しかし、アニメ化されたくらいの作品ですので良作間違いないでしょう! あらすじを以下に載せておきます。

―――――――――――――――――

 都築巧は、血の繋がらない姉と二人暮らしをしている。潰れかけの洋菓子店『ストレイキャッツ』店長である姉はお人好しで不器用なドジッ子の為、近くに住む幼なじみ芹沢文乃の手を借りながら何とか店を維持するだけで精一杯の日々。そこに、姉が謎の美少女を拾ってきてしまう。更に学校では巧に思いを寄せる学校一のお嬢様や悪友達と共に新しいサークルを作ることに。しかも巧や少女達にはある共通の秘密があったのだ……!

―――――――――下記HPより―――

スーパーダッシュ文庫

 

パパのいうことを聞きなさい!』のような、「家族愛」や「アットホームさ」を売りとするラノベがあれば是非教えてください!

 

小山恭平『我が姫にささぐダーティープレイ』――ダメダメお嬢様×ダーティー執事!

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我が姫にささぐダーティープレイ

(1)基本情報

 

『我が姫にささぐダーティープレイ』(講談社ラノベ文庫、2019年8月現在既刊2巻)

著者:小山恭平

イラスト:ファルまろ

ジャンル:異世界転生ファンタジー」「執事」「暗躍」「学園」

kc.kodansha.co.jp

―――――――――――――――――

文武両道なエリート少年・鎧塚貝斗は、生徒会副会長として『王』たる存在を支えることに喜びを見出していた。だがある日、彼は異世界に転生してしまう。そこで出会ったのは、騎士公爵家の一人娘、ラライ・アッフィードだった。名門王立女学園に通う彼女は、家柄だけは優秀なものの、学問ダメ武芸ダメ努力なんて大嫌い、さらには性格も悪くて友達もゼロな問題児。それでも生徒会長になりたいという彼女。そんな彼女が執事となった貝斗に下した命令は――「執事くんが私のライバルみーんなの足を引っ張ればいいんだよ!」 そして貝斗は、ダメお嬢様のためのライバル少女たちを篭絡し……!? いずれ王とならんとする少女のために執事が暗躍する物語、開幕!

――――――第1巻裏表紙より―――

 

 

(2)あらすじ

 

さて、ざっくりあらすじを説明すると、ダメ人間のお嬢様のラライが生徒会長になるために、執事の貝斗が暗躍する物語です。

 

ラライの通う名門王立女学園には国中から優秀な少女が集い、その生徒会長の座を射止めた者は「学徒の王」と呼ばれ、国で最も将来有望な人材の一人と見なされます。

 

アホの子のラライがそんな生徒会長になりたいなんて言い出しますが、会長候補に選出されるには、武芸、学問、芸術のすべての分野で秀でた成績を修める必要があります

 

しかもラライは努力してその座を勝ち取りたいという訳ではありません。

 

武芸も、学問も、芸術も、あらゆる競争は相対評価なんだよ? 私がダメでも、みんながもっとダメなら私の勝利! 私がマイナス99でもみんながマイナス100になれば私が1番! だから私が努力する必要なんてこれっぽっちもないんだよ!」(第1巻69頁)

 

どうですか? ダメ人間の発想でしょう? とにかく、こう言い放ったラライは、自身が生徒会長になるために貝斗に工作をするよう命じます(あくまでもラライ自身が工作するわけではないのです!)

 

第1巻では、武芸の栄誉を得るために、「剣姫祭」に出場しラライを勝たせるために貝斗は暗躍します。第2巻では、芸術の栄誉を得るために、「芸麗祭」文芸部門に出場し、ラライを勝たせるために暗躍します。

 

 

(3)おすすめポイント――二重の意味で「ダーティープレイ」

 

貝斗が行う工作の基本的手法は、「対戦相手に八百長をさせてラライを勝たせる」という意味で「ダーティープレイ」です(手元の英和辞典でも「dirty play:反則」とあります)。

 

しかし、「ダーティー(dirty)」に、もう一つの意味があるのはご存知ですか?

「下品な」「卑猥な」「みだらな」という意味もあるのです。この意味でも貝斗はダーティープレイを行うのです。

 

対戦相手に八百長をさせるためには、その人を自分の意のままに操る必要があります。そのためには、1つ目の意味でのダーティープレイも行いますが、貝斗はためらいもなく2つ目の意味でのダーティープレイも行って相手を篭絡させてゆきます。

 

ラノベの大半は、中高生をまず第一の読者層として想定しているため、「着替えをのぞいちゃった!」「おっぱいタッチしてしまった!」「風でめくれたスカートの中を見てしまった!」的なラッキースケベは頻繁に描かれますが、官能小説的なエロ描写は避けられる傾向にあります。しかし、本作品は、それをやっているのです!! (ちなみに、巻頭カラーページや挿絵では、そんなことをやっている場面が描かれていますよ!)

 

しかも、ラライお嬢様の方もかなりダーティーなキャラクターをしています。

 

普通(というか私の偏見ですが)、「お嬢様×執事」モノといえば、「執事に何だかんだ惚れてしまったお嬢様が執事のモテっぷりに嫉妬する」、みたいな感じが王道ではないでしょうか?

 

しかし、ラライは貝斗にこう囁きます。

 

――さあ執事くん、夢を叶えるチャンスだよ。君の見果てぬ夢を私の中に見ていいよ。私を君の理想の王様にしちゃいなよ。そのためには、いっぱい悪いことをしていいよ人を陥れていい女の子と寝ちゃっていい。――私がちゃーんと全部許してあげる」(第1巻76頁)

 

ラノベのお嬢様ヒロインとしては異例のお言葉です。まるで悪魔のようではないですか?しかし彼女は悪魔ではありません。むしろ……。

(既読の方ならわかってくれると思いますが、このようなラライたとえる比喩にはなるほどと思ってしまいました!)

 

 

(4)関連おすすめ作品

 

最後に、『我が姫にささぐダーティープレイ』を読んで、「お嬢様×執事」モノにはまったあなたに同ジャンルのおすすめ作品を紹介します(と言っても、1作品だけです。むしろ私に紹介して欲しいくらいです……)。

 

桜目禅斗『上流学園の暗躍執事』(角川スニーカー文庫、2019年8月現在既刊1巻)は、2019年7月に第1巻が発売されたニューフェイスです。舞台となる星人学園では、良家エリートの子女が「主人」となり、一般生徒が彼らの「執事」として仕える制度となっています。主人公・片平遊鷹は、大財閥令嬢の三神黒露に見初められ彼女に仕えることになるのですが、同じ学級内には現役総理大臣の娘と彼女に仕えるトップ入学の執事がいて……!

上流学園の暗躍執事

 

さて、管理人は「お嬢様×執事」「執事が暗躍する」系のラノベが好きなんですけど、あまり読めていないので、おすすめ作品があれば教えてください!

 

女性が主人公のライトノベルはおもしろい!――おすすめすべき理由を考察してみた

 

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図書館戦争

 

1.まずは「結論」と「おわび」と「お断り」から

 

まずは結論として、「女性が主人公のライトノベルはおもしろい!」の理由を掲げておきます。詳しくは下を読み進めて行ってください。

 

①女性主人公モノは恋愛以外の要素をウリにしないといけない

②女性主人公に安易なキャラ設定は使えない

③男性作家の多くは女性主人公モノを書けない

④構造的な痛快さ

⑤ハイテンションな筆致の高いポテンシャル

 

さて、「女性が主人公のライトノベルはおもしろい!」と銘打ったものの、ネットオフさんのまとめ↓を見る限り、管理人はこのテーマを一般的に語れるほどの量の作品を(有名タイトルも含めて)読んでいないなあと痛感します……

女主人公ライトノベル / ネットオフまとめ

 

それでは、お前の記事は何なんだ!という話になりますが、読んだ作品数は少ないながらも、一応、「女性が主人公のライトノベルはなぜ面白いのか?」問題について、より正確に言えば「女性が主人公のライトノベルはアタリが多い気がする」問題について、その理由を私なりに考察しようと思います。

 

しかし、ライトノベルにはまったのはここ半年ぐらいの若輩者で、読んだ作品数も少ないので、この記事の内容は話半分くらいの気持ちで読み流して頂ければと思います!(だけどしっかり読んでくれても嬉しいです!!

 

 

 

2.先人はどう分析しているのか?

 

「女性が主人公のライトノベルはなぜ面白いのか?」問題について、先人たちはどのように分析しているのか、少しネットで調べてみました。

 

すると、このようなサイト↓を見つけました。

ラノベに女性主人公があまりいない理由とは?

 

そこでは、その理由について、ヤーリースさんが上手く分析・整理してくださっていると思うので、その内容を以下にまとめてみます(なお、私なりの整理と解釈が施されています)。

 

 

①女性主人公モノは恋愛以外の要素をウリにしないといけない

 

ライトノベルで恋愛要素が入り込んでいる作品は、ボーイ・ミーツ・ガール(男性主人公がヒロインに出会うという定式)のラブコメが定番・王道であり、これがライトノベルで恋愛を描く際の基本的枠組みとなります。なぜなら、この定式がライトノベルの主要読者層である男性の感情移入を最もよく引き出せるからです。つまり、この定式は、男性のモテたい願望を気持ちよく叶えてくれる必勝法なのです。

 

他方で、少女小説・少女漫画という女性読者を主に対象とする作品群もあります。これらは反対に、ガール・ミーツ・ボーイ(女性主人公が王子様に出会うという定式)が定番・王道となります。私(管理人)は、少女小説・少女漫画をほぼ読んだことがないのですが、おそらく恋愛モノがその圧倒的多数を占めていると聞きます。

 

さて、このような、右にラブコメモノのライトノベル、左に恋愛要素たっぷりの少女小説・少女漫画という挟撃を受けた状況では、女性が主人公のライトノベルが恋愛要素を発揮する余地はほとんどありません

 

したがって、様々なキャラクターのヒロインズを主人公の周りに配置するという男性主人公ラブコメラノベの必勝法を、女性主人公モノのライトノベルがこれを男女逆にしたところで勝てる余地はほとんどありません。その結果、女性主人公モノは、恋愛要素以外の魅力を、つまり、キャラ設定、世界観設定、ストーリー展開、文章力などで作品の魅力を出さなくてはならないのです。そのため、面白い作品が生まれやすいのです。

 

そもそも、ラノベに恋愛要素を求める男性読者は、ラブコメのようなコメディー要素を求めているのであって、ドロッとした昼ドラ的な恋愛要素はあまり求めていない気がします。だとすれば、女性主人公モノであってもライトノベルである以上は男性読者を主な対象とするのですから、恋愛要素・ラブコメ要素を不用意に大量投入して男性読者の不興を買うよりは、その要素を薄めにした方が良い気がします。

 

 

②女性主人公に安易なキャラ設定は使えない

 

女性主人公モノでは、その作品のほぼ全編がその女性の視点から語られることになります。したがって、その分だけキャラクターに深みが必要となるので、「なかなか思いを伝えられない幼馴染」「義理の妹」「ブラコン気味の姉」「ツンデレお嬢様」「主人公に優しいギャル」「暴力的な同級生」「近所の年上お姉さん」「厳しめの若い担任教師」など、ブコメ男性主人公モノがヒロインズに適当なキャラを振り分けるように、女性主人公のキャラクター設定をする訳にはいかないのです。もしラブコメ男性主人公モノのヒロインズと同じように女性主人公のキャラ設定をすれば、きっと薄っぺらい物語になるでしょう。

 

 

③男性作家の多くは女性主人公モノを書けない

 

②のような前提の下で、女性主人公のキャラクターを描くとすれば、それはラノベ作家の大多数を占める)男性作家にとっては非常に高度の技量が要求されることになります。したがって、男性作家は容易にこのジャンルに用意に手を出しにくくなります。その結果、高い技量を持った選ばれし男性作家が女性主人公モノを書くことになるので、このジャンルの水準が上がるのです。

 

 

さて、以上が「女性が主人公のライトノベルはなぜ面白いのか?」問題に対する先人の回答です(私の解釈も多分に入り込んでしまいましたが……)

 

 

 

3.管理人はどう考えているのか?

 

それでは、私(管理人)はこの問題について、どう考えているのか?ということになります。

 

私としては上記①~③の仮説は説得力のあるものだと考えています。その上で、④構造的な痛快さ⑤ハイテンションな筆致の高いポテンシャル、という2つの仮説を付け加えたいと思います。

 

 

④構造的な痛快さ

 

ライトノベルの圧倒的多数は、男性主人公モノです。また、その中の相当数において、男性作家・男性読者のモテたい願望通りに(?)、男性主人公の周りには魅力的なヒロインが次々と現れて、主人公に惹かれてゆきます。ここでは、当然に、主人公が魅力的に見えなければなりませんから、主人公は活躍をしてヒロインズをときめかせます。そのため、「女性ヒロインが何らかの形で主人公に助けられる」という構図が多く描かれがちです。

 

そのような構造が存在する中、女性主人公モノはある種の痛快さを読者に与えてくれます。つまり、圧倒的多数のラノベとは異なり、このジャンルでは女性主人公の活躍劇が見られるという痛快さを感じられるのです。

 

しかし、この痛快さは、少なくとも第一義的には、自立的な女性像を打ち立てようといったフェミニズム的なものに位置づけられる訳ではありません。この痛快さは、「予想を裏切る痛快さ」の一種(下位類型)なのです。

 

「予想を裏切る痛快さ」の他の種類(下位類型)には、たとえば、「現実世界では不遇だった俺が異世界では英雄に!モテモテに!」「最初は下に見られていた人たちの前で俺TUEEE的な活躍!」「現世での常識や知識で転生先の人々から驚かれる!」みたいな痛快さ、心地よさなども含まれています。これらは皆、男性主人公モノで多く見られる痛快さです。

 

要するに、上で指摘した構造を持つ男性主人公モノがあふれるライトノベルにおいて、女性主人公が活躍するというのは、ある意味、読者の予想を裏切ることになりますから、ここに痛快さが生まれるのです。この痛快さは、女性主人公モノが少ないだけに、そのジャンル一般の魅力になり得るでしょう。

 

 

⑤ハイテンションな筆致の高いポテンシャル

 

「ハイテンションな筆致」と言っても、分かりにくいと思うので、その例を以下に示したいと思います。

 

―――――――――――――――――

 私は家庭教師の先生が来るまでの短い時間に、そう考えをまとめて、極力優しく接してあげようと、天使のように優しい輝きを放つ温かい眼差しをクソガキアランに向けてあげた。強く生きろよ、子分。

「な、なんだよ! カエルが死んだような目をこっちに向けてきやがって! 牛乳買ってこいって言われたって、もう時間もないから無理だからな!」

 ちょっと、私の天使な眼差しを死んだカエルにたとえないで! 失敬な! あと、その言い方だと私がしょっちゅう君をパシらせているみたいじゃないか。私が子供相手に、しかも貴族をパシらせるなんて、そんなこと……1、2回しかしていないでしょう!

 思わず眉間にしわを寄せてクソガキのほうへ目を向ければ、蛇ににらまれたカエルのようにびくっとなって、彼は視線を逸らした。

 あらいけない、子供相手に私ったら、おほほ。

――――――第1巻112頁より―――

 

これは、唐澤和希『転生少女の履歴書』(ヒーロー文庫のある一節です。作品の詳細については下記の紹介記事をご覧ください。

irohat.hatenablog.com

 

さて、上記の引用部分で、「ハイテンションな筆致」というものが分かって頂けましたか? クセになりませんか? 冷めた筆致が多い男性主人公モノと比べると、女性主人公の心情や魅力が伝わりやすい文章になっていませんか?

 

このようなハイテンションな筆致は、男性主人公モノでは難しい気がします。寡聞にして例作を思いつかないので、(私の文章力で)試してみるとすれば、「クソッ」「ふざけるな!」「なんてこったい!」「ちくしょう!!」みたいな感じでしょうか? なんだか、少年漫画のような情熱系・熱血系・全力系のキャラ、あるいはヤサグレ系になってしまいました。もしこんな調子で全編が主人公の視点で語られるとすれば、読者は疲弊してしまう気がします。書けるキャラクターも限られてくる気がします。

 

また、女性主人公であれば、「~かしら」「~だわ」などの「女性言葉」を使えます。つまり、その分だけ、ハイテンションな筆致のための表現の幅が広がります。

 

以上をまとめれば、ハイテンションな筆致が可能な女性主人公モノは、主人公の魅力を引き出し、それを読者に伝える上での優れた表現手段を有しているのです。この点において、「だから女性主人公モノは面白い!」と言えるでしょう。

 

 

 

4.再び「お断り」

 

さて、このように語っていると、読者の方に誤解が生まれているかもしれないので、二点ほど付言させてください。

 

第一に、男性主人公モノはこう、女性主人公モノはこう、と断定的な書き方をしましたが、もちろん例外も多くあります(というより、一般論を語れるほどラノベを読めていないので分不相応な考察となってしまいました)。たとえば、男性主人公モノでも、ヒロインのキャラクターに深みがある作品は多くあります(『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』など)。

 

第二に、男性主人公モノと比較する形で女性主人公モノの魅力を語ってきましたが、男性主人公モノは不出来だ、駄作だ、とかという主張をしたいわけではありません。むしろ、ライトノベルの圧倒的多数を占める男性主人公モノの方が、数多くの優れた作品を生み出していることは否定のしようがありません

 

この記事で伝えたかったのは、「女性主人公モノは概して面白い!面白いだけの理由がある!みなさん女性主人公モノを読みましょう!」ということです。

 

個人的な感覚ですが、ライトノベルでは、「女性主人公」というジャンルが未発達な気がします。この記事が女性主人公モノの興隆の一助になれば幸いです!!

 

 

 

5.女性主人公モノのおすすめ作品

 

こんな記事を書いたのだから、女性主人公モノのおすすめ作品を紹介しない訳にはいきません。

 

1つ目は、私のいち推し、唐澤和希『転生少女の履歴書』(ヒーロー文庫、2020年4月現在既刊9巻)です。「異世界転生ファンタジー」という超メジャージャンルに分類されますが、男性主人公モノと比較する上で良い作品だと思います。上記の①~⑤のすべてが盛り込まれています。きっと主人公の少女の女性性以外の魅力に惹かれると思います。この作品の紹介は以前行ったので、下記記事も読んで見てください!

irohat.hatenablog.com

転生少女の履歴書 1 (ヒーロー文庫)

転生少女の履歴書 1 (ヒーロー文庫)

 

 

2つ目は、ラノベレーベルから出版されていないので、あまりライトノベルという認識がないかもしれませんが、有川浩図書館戦争」シリーズ(角川文庫)も女性主人公モノのライトノベルです。有川先生が女性ということもあってか、この作品にはかなりの恋愛要素が盛り込まれています。しかし、それと同時に存在する作り込まれた世界観社会に対するメッセージ性には脱帽するしかありません。有名作家の代表作なので既に読んだことがある方も多いと思います(アニメ化や実写化もされました)。まだ読んでない方は是非手に取ってみてください!

図書館戦争 図書館戦争シリーズ (1) (角川文庫)

図書館戦争 図書館戦争シリーズ (1) (角川文庫)

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2011/04/23
  • メディア: 文庫
 

 

3つ目は、まだ私自身が読んだことがないのに紹介するのは恐縮なのですが、香月美夜本好きの下剋上』(TOブックス、2019年8月現在既刊20巻)です。2019年10月よりTVアニメが放送されるということで、紹介させていただきます。

 

また、以下の記事にも女性主人公モノのライトノベルを紹介しているので参照してみてください!

irohat.hatenablog.com

 

 

みなさんも女性が主人公のライトノベルのおすすめ作品があれば是非教えてください!

 

 

唐澤和希『転生少女の履歴書』――女性主人公の異世界転生ファンタジーの決定版!

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転生少女の履歴書

(1)基本情報

 

『転生少女の履歴書』(ヒーロー文庫、2019年12月現在既刊9巻)

著者:唐澤和希

イラスト:桑島黎音

ジャンル:「女性主人公」「異世界転生ファンタジー」「魔法」「学園」

herobunko.com

 ―――――――――――――――――

優秀な成績を収めていた少女は、親の愛に恵まれずに不慮の事故でその人生を終える。転生先は、ろくに畑の知識もなく、魚を捕まえる術さえ知らない農民たちが暮らす開拓村。その村の6人兄弟の末娘としてリョウと名付けられる。あまりにも極貧な生活のなか、身売りされないため、飢え死にしないため、また、前世では得られなかった親の愛を求めて、村の改革に奔走する。リョウの活躍で、とりあえず、飢え死には免れたと思ったところに、魔法使いたちがやってくる。魔法使いが絶対の支配階級である異世界で、リョウは前世の知識や技術を役立たせながら、農家、貴族の小間使い、山賊……居場所を転々としていく――――。

――――――第1巻裏表紙より―――

 

 

 (2)あらすじ

 

まずは登場人物を3人だけ紹介します。

 

リョウ:主人公の少女。

アラン:魔法使いの少年。レインフォレスト伯爵家の次期領主。

カイン:アランの兄。非魔法使い。優秀な剣の使い手。

 

主人公の少女は、学芸・家柄・容姿に優れたハイスペック女子高生でしたが、親の愛に恵まれぬまま不慮の事故で命を落とし、極貧村の娘のリョウとして転生します。

 

転生先の異世界では魔法が存在し、魔法使いが非魔法使いを支配・庇護する体制となっています。しかし、リョウは魔法使いではありません。なので、前世の知識を駆使し、魔法なしでも農村を成り立たせていくべく奔走します(読後の方なら、この知識が意外な広まり方をして後にリョウを困らせてしまうようになったのにはクスっとしましたよね!)

 

ところが、ある事情によりリョウは村を離れ、レインフォレスト伯爵家という魔法使い貴族の家で小間使いとして働くことになります。

 

そこで出会うのが、リョウと同年の貴族アランとその兄カイン。魔法使いが絶対視されるこの世界では、兄のカインは非魔法使いのため成人後は貴族の資格を失いますが、弟のアランは魔法使いのため次期レインフォレスト領主の地位が約束されています。

 

リョウと出会った頃のアランは、多忙な父母から愛を得られず、相当やさぐれていました。非魔法使いの使用人たちをいびっては次々と交代させていたのです。

 

そんな折、リョウがアランの小間使いに就くことになります。出会っていきなり魔法で泥水をぶっかけられたリョウは、彼女の生意気さに腹を立てたアランからの決闘の要求に応じます――――そしてアランを叩きのめしたリョウは彼の親分となりました

 

リョウの子分となってから、彼女に影響されたアランの素行は良くなってゆきます。ところが、ある日、リョウはレインフォレスト伯爵家から去ることになります。

 

そして紆余曲折あって、リョウはルビーフォルン伯爵家の養女となり、王都の貴族学校でアランやカインと再会します。……とまあ、ここまでが第2巻冒頭までのダイジェストです。ここから以後数巻、魔法学園での生活が描かれることになります。

 

 

 

(3)おすすめポイント――魅力的な女性主人公とハイテンションな筆致

 

「魔法使いと非魔法使いの支配・被支配関係のあり方」「魔法の仕組み」「二つ名」「ウ・ヨーリの教え」など、他にも紹介したい魅力は数多くあるのですが、本作品の一番の魅力は、女性を主人公にすえたライトノベルという点でしょう!!!

 

ライトノベルの主人公の圧倒的多数は男性ですが、本書は珍しくリョウという少女が主人公です。しかも、ただ女性が主人公というだけではありません!

 

男性主人公のライトノベルは概して、「やれやれ」とか「オレ何かやっちゃいました?」みたいな、なんというか冷めた筆致です(熱血キャラのラノベ主人公なんてあまりいないですよね?)。女性が主人公のラノベであっても、あるいは男性主人公のラノベにおいて女性の視点で語られる箇所であっても、このような冷めた筆致はよくあります。

 

しかし、『転生少女の履歴書』は、主人公の少女リョウの視点からハイテンションな筆致で物語が綴られます。試しに以下の一節を読んでみてください。アレンの親分となったリョウが、父母と一緒に過ごす時間の少ないアレンに同情した場面です。

 

―――――――――――――――――

 私は家庭教師の先生が来るまでの短い時間に、そう考えをまとめて、極力優しく接してあげようと、天使のように優しい輝きを放つ温かい眼差しをクソガキアランに向けてあげた。強く生きろよ、子分。

「な、なんだよ! カエルが死んだような目をこっちに向けてきやがって! 牛乳買ってこいって言われたって、もう時間もないから無理だからな!」

 ちょっと、私の天使な眼差しを死んだカエルにたとえないで! 失敬な! あと、その言い方だと私がしょっちゅう君をパシらせているみたいじゃないか。私が子供相手に、しかも貴族をパシらせるなんて、そんなこと……1、2回しかしていないでしょう!

 思わず眉間にしわを寄せてクソガキのほうへ目を向ければ、蛇ににらまれたカエルのようにびくっとなって、彼は視線を逸らした。

 あらいけない、子供相手に私ったら、おほほ。

――――――第1巻112頁より―――

 

どうですか? お手元の適当な男性主人公のラノベを手に取って『転生少女の履歴書』と比べてみてください。全然違いますよね? 

 

たしかに最初は慣れていないため違和感があるかもしれませんが、この軽妙さ、ハイテンションさはクセになりますし、そこから主人公の魅力があふれ出ていて、いつのまにか愛すべきキャラクターになっているはずです!! というかこの一節だけでリョウに惚れてしまいませんか??

 

下記記事では、「なぜ女性が主人公のライトノベルはおもしろいのか?」という問題について考察しています。気になった方はご覧ください。

irohat.hatenablog.com

 

ところで、リョウ以外にも、魅力的なキャラはたくさんいます。カインとアレンの好対照なキャラを紹介しましょう。次のセリフは、ドレス姿でおめかししたリョウを見たときのカインの反応です。

 

―――――――――――――――――

「リョウ! 見違えたよ! 普段のリョウも可愛いけれど、今日のリョウは一段と美しいね。淡い緑色のドレスにリョウの金色の髪が輝いて、まるで野に咲く可憐な花のようだよ。リョウ、お願いだからその姿で外に出てはいけないよ。花達が自分達よりも美しく咲くリョウを見たら、恥ずかしくなって萎れてしまうかもしれない」

――――――第2巻234頁より―――

 

ここだけ抜粋すると、カインはチャラ男のように見えてしまいますが、彼は誠実な人間です。ただ、ちょっとポエマーなだけなんです!

 

未読の方は、ここでリョウとカインの恋愛関係を想像するかもしれませんが、二人の関係はむしろ、友愛・親愛と呼ぶべきものです(ついでに言えば、この作品では「逆ハーレム」なんてことにはなりませんからね。ただ、第6巻126頁以降は、「絶対そうではない」とは言い切れませんが……。既読の方は分かってくれますよね?)。

 

さて、既読の方はご存知の通り、怪しむべき関係と言ったらリョウとアレンの関係です。次の一節は、先ほどと同じ場面でリョウがアランに自身のドレス姿の感想を尋ねたシーンです。

 

―――――――――――――――――

「アラン、どうですか?」

「え?」

「だから、この私の格好ですよ」

 そう言って、私はドレスをつまみ上げた。

「あ、うん。……いいんじゃないか」

 アランは視線を落として、小声でそう言った。

 そっけない! もっと褒めてくれたっていいじゃないか! 気の利かない子分め! と思った私はおそらく不満の色を顔に出していたのだろう。

 私の顔を見たアランが慌てた様子で目を泳がせた。視線はカイン様がいる辺りを見て止まり、そして、私のほうに戻った。

「は、花が、枯れるのは、リョウのせいだと思う!」

 やめてよ! どういう意味!? 花が枯れるのを私のせいにしないで! 自然の摂理! レディを満足させる一言も言えないなんて、子分はまだまだね。先が思いやられるよ。

――――――第2巻235頁より―――

 

リョウの方は、アレンとの関係を親分と子分だと解釈しています。しかし、アレンの方は明らかに……なんですよね。頑張れ、アレン!

 

 

 

(4)関連おすすめ作品

 

最後に、『転生少女の履歴書』の既刊をすべて読み終わり、続刊を待てないあなたに女性が主人公のおすすめ作品を2つ紹介します。

 

1つ目は、日向夏薬屋のひとりごと』(ヒーロー文庫、2019年8月現在既刊8巻)です。ジャンルを一言でいえば、中華宮中ミステリです。主人公の少女、猫猫(マオマオ)が毒好きの知識を活かして宮中で起こる不思議な謎を解き明かしていく物語です。ミステリファンからの支持も厚い作品です。宮中の女性から大人気のイケメン宦官(!)と猫猫の関係も気になりますね!

herobunko.com

 

2つ目の関連おすすめ作品は、山田彩人『眼鏡屋は消えた』(創元推理文庫、第21回鮎川哲也賞受賞作)です。この作品は、分類上はライトノベルではなく、本格ミステリにカテゴライズされる一般文庫の作品です。が、「女性が主人公」「ハイテンションな筆致」ということで挙げさせて頂きました。その分、ミステリ初心者の方でもとっつきやすくなっていると思います!

www.tsogen.co.jp

 

みなさんも同ジャンルのおすすめ作品があれば是非教えてください!