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伊藤ヒロ『異世界誕生2006』――ライトノベルの新境地を拓いた作品を読みませんか?

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異世界誕生2006

 

この作品は、発売翌日くらいにはもう読了していたのですが、今の今まで上手く記事をまとめられませんでした。「何を書いてもネタバレになる」「とにかく読むべし」「この感情をどう表したらよいのか分からない」などの抽象的な感想が散見される中、この作品をどうおすすめすればよいのか迷ったからです。

しかし、とりあえずこのライトノベルがすごい!2020」アンケート締切(9月23日)までには公開させた方が良いかと思い、ひとまず公開することにしました。

 

 

(1)基本情報

 

異世界誕生2006』

著者:伊藤ヒロ

イラスト:やすも

レーベル:講談社ラノベ文庫(2019年9月現在既刊1巻)

ジャンル:メタフィクション」「社会派」「遺族」「家族関係」「異世界転生」

kc.kodansha.co.jp

2006年、春。小学六年の嶋田チカは、前年トラックにはねられて死んだ兄・タカシの分まで夕飯を用意する母のフミエにうんざりしていた。たいていのことは我慢できたチカだが、最近始まった母の趣味には心底困っている。フミエはPCをたどたどしく操作し、タカシが遺したプロットを元に小説を書いていた。タカシが異世界に転生し、現世での知識を武器に魔王に立ち向かうファンタジー小説だ。執筆をやめさせたいチカは、兄をはねた元運転手の片山に相談する。しかし片山はフミエの小説に魅了され、チカにある提案をする――。どことなく空虚な時代、しかし、熱い時代。混沌を極めるネットの海に、愛が、罪が、想いが寄り集まって、“異世界”が産声を上げる。

〔裏表紙より〕

 

 

(2)あらすじ

 

いつもだったら詳しめのあらすじ紹介を行うのですが、この作品については、上記のあらすじだけでも十分に惹きつけられるのではないかと思い、省略します。

 

 

(3)おすすめポイント――ライトノベルの可能性を広げた作品

 

誰でも簡単に小説を書けるようになったこの時代、作家(あるいはその卵)が不運にも亡くなってしまい、遺族が遺品の中から夢の痕跡を見つけて、その行き場のない気持ちを作品に向かわせるなんてことは、もしかしたら本当にあるのかもしれません。

 

この作品は、ある人物の死に対して被害者遺族と加害者がそれぞれいかに向き合うのかについて、メタフィクションという手法で書かれています。

このように「死の清算メタフィクション見事に融合させているという点において、この作品はライトノベルの新境地を切り拓いています

 

 

1.メタフィクションという手法について

 異世界誕生2006』は、現実世界を舞台としています。そして舞台となった年は、2006年

 2010年代における現在の流行・興隆の様子を、ゼロ年代異世界ファンタジーを執筆する書き手の周辺を舞台としてフィードバックさせることによって、メタ的な視点から現在の異世界ファンタジーを――ときにスパイスを効かせつつ――描写・分析する様は見事です。

 ゼロ年代の中でも2006年が選ばれたのは、作中でも言及がある大人気ケータイ小説『恋空』が書籍化された年だからなんでしょうか。

 このように異世界ファンタジーについて描写・分析している点において、あーだこーだとこの手の議論することを好む人は、かなり楽しめる内容となっているはずです。

 

メタフィクションという手法が活きているのは、異世界ファンタジー批評の点だけではありません。

異世界誕生2006』において、死んだ息子が遺したプロットをもとに小説を書くようになった母親は、精神的不安定さから、現実と虚構が、精神世界と作品世界がないまぜになってゆきます。書き手の現実が小説に織り込まれてゆく様にはゾッとせずにはいられません。メタフィクションならではの構造です。

 

2.死の清算について

異世界誕生2006』は、ある人物の死に対して被害者遺族と加害者がそれぞれいかに向き合うのかという「死の清算」の物語の側面もあります。

この作品は、加害者が死とどう向き合うのか、遺族が死とどう向き合うのか、遺族の家族関係はいかにあるべきか、遺族と加害者の関係はいかにあるべきか、など、ライトノベルが通常は扱わない社会派なテーマを真正面から扱っています(とはいえ、やはりライトノベルらしく読みやすい筆致ですが)。

死んだ息子が遺したプロットをもとに母親は小説を書き、娘と加害者の協力を得てそれをネットで公開することになるのですが、物語の中盤で、息子の死や小説公開をめぐる数々の事実が発覚して以降、ストーリーは二転三転します。遺族・加害者がそれぞれよりどころとしてきた小説が不確かな存在となってゆくのです。果たして彼/彼女らに死の清算は訪れるのでしょうか――?

 

 

あともう一つ、おすすめポイントを挙げるとすれば、巻頭のカラーページです。なかなか忘れることができない衝撃のイラストが読者を待っています。

 

 

(4)この作品は人気が出るのか?

 

正直なところ、一般的言えば、この手のメタフィクションは人気が出るジャンルではないと思います。また、作者自身もあとがきで言及されているように、「流行りものに対するアンチテーゼ」的な要素も含まれているので、もしかしたら「流行りもの」を愛好する人は受け付けないのかもしれません(もちろん、「“ただの”アンチテーゼ」ではないのですが)。

 

しかし、異世界誕生2006』は、人気が出るかどうかはともかく、広く読んでもらいたい作品なのです。どうすればこの作品の魅力が広く伝わるのでしょうか? どうすればこの作品が評価されるのでしょうか?

 

……なんてあれこれ考えていたら、「あとがき」にこのようなことが書かれているではありませんか!

この“異世界誕生”ですが……なんと! 続編が出るのが決定しました!

もちろん、このあとがきを書いている段階では、まだ1巻は発売前です。売り上げの数字など出ていません。

つまり講談社と担当のシゲタ編集者はなんと、ただ『面白いから』というだけの理由で2巻を書くよう言ってくださったのです。作家として、これほど幸せなことはありません。

なんと、出版社側は既に発売前の時点で、「売り上げ=人気」ではなく、「面白い=優れている」という点において、この作品を正当に評価しているではありませんか!(私なんかが言うと偉そうですが!)

ライトノベルにおいてはせいぜい2ページが相場の「あとがき」には、異世界誕生2006』では4ページも費され、ここで著者が本作品について熱く語っています。著者・出版社のこの作品にかける熱意が伝わってくる箇所でもあります。

 

また、続刊については、

実は、既に原稿にとりかかっています。なかなか面白い話になりそうです。〔中略〕蛇足にならぬよう、同じ登場人物や世界観を使いながらも異なる物語を作っていく予定です。ご期待ください。

とありますが、どういうストーリーになるのか私には予想がつきません。この手の作品は続編が難しいのではと思うのですが……。とにかく期待ですね!!

 

 

(5)関連記事

 

実は、異世界誕生2006』を手に取ろうと思ったのは、以下の記事を書いて公開したとろ、伊藤ヒロみたいだ」とコメントされ気になっていたからです。異世界ファンタジーにおけるメタフィクションの可能性について色々書いていますので、気が向いたらご笑覧ください!

irohat.hatenablog.com

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