異世界転生系ラノベのアイデアを考えたので誰か書きませんか?(前編)――いかにして「型」を破るのか考察してみた
「異世界転生系ラノベのアイデアを考えたので誰か書きませんか?」と銘打ったものの、これは少々ミスリーディングなタイトルです。というのも、詳しくは読み進めてもらえば分かると思いますが、一般に「異世界転生系ラノベ」として皆さんがイメージするものと、私がここで提案するものには少しズレがあるからです。しかし、「アイデアを提供する」という点では間違っていませんのでご安心を!
以下、目次です。
(2)メタ方面における「型破り」の可能性
(3)具体的アイデア
(4)おわりに
長くなるので記事を前後編に分割し、この記事では(1)(2)を、明日の記事では(3)(4)を扱います。
(1)異世界転生ファンタジーにおける「型」と「その破り方」
異世界転生(転移)系のライトノベルは、既に「型」「お約束」「あるある」のようなものが出来上がっています。
つまり、「①現世において何か問題を抱える主人公が、②事故死をきっかけに異世界に転生し、③そこで最強の能力を手に入れ、④その世界を救い、⑤ついでにヒロインにモテまくる」というサクセスストーリーが典型的展開ではないでしょうか(下記サイトも参照)。
そして、大量供給がなされるこのジャンルにおいては、他作品との違い=自分の作品の特徴を出すために、この「型」からいかにはみ出すかが重要になります(これを「大喜利」に例える人もいます)。
その結果、次のような「型の破り方」の作品が出てきています。
「転生したら人間ではなくスライム/魔王/剣だった」
「一人ではなくクラス全員で異世界転移」
「転生してくれる女神ごと転生」
「与えられた能力が(一見すると)役立たず」
「剣や魔法ではなくスコップで無双」
みなさんは、どの作品を指しているか分かりましたか?
しかし、いずれにせよ、大多数の作品は、こういった方面での型の破り方しかしていません。それでは、他にどのような方面での型破りがあるのでしょうか?
(2)メタ方面における「型破り」の可能性
型破りの方法のもう一つは、メタ方面での方法です。
その良い例があるので、ここで紹介します。その作品とは、名倉編『異セカイ系』(講談社タイガ、2018年)です。この作品は、第58回メフィスト賞受賞作です(メフィスト賞は、エンターテインメント小説=細かいジャンルは不問の講談社の新人賞です)。
あらすじは以下の通りです。
小説投稿サイトでトップ10にランクインしたおれは「死にたい」と思うことで、自分の書いた小説世界に入れることに気がついた。小説の通り黒騎士に愛する姫の母が殺され、大冒険の旅に……♪ ってボケェ!! 作者(おれ)が姫(きみ)を不幸にし主人公(おれ)が救う自己満足。書き直さな! 現実でも異世界でも全員が幸せになる方法を探すんや! あれ、何これ。「作者への挑戦状」って……これ、ミステリなん?
『異セカイ系』(名倉 編):講談社タイガ|講談社BOOK倶楽部
さて、あらすじを読んでみてどうですか? メタ方面への型破りというものがどんなものか分かりましたか?
より一般的な言い方をすれば、異世界転生ファンタジーにおけるメタ方面での型破りとは、「異世界転生ファンタジーにおける世界観やストーリー展開などの設定のあり方(=『型』)を作品のメインテーマとする型破りの方法」と言えるでしょう。
通常の型破りの場合(異世界転生ファンタジーの多くの場合)は、世界観やストーリー展開などの設定のあり方(=「型」)を主人公が問題にすることはありません。
もちろん、「俺がよく読んでいるラノベでは、こんな展開にはならないはずなのに!!」や「この異世界は、俺がかつて作ったゲームの世界だ!」のような一種のメタ発言を主人公が行うことはあります。しかし、主人公はそう言及するだけで、「型」そのもののあり方を変えようとはせず、「型」の中で主人公は行動していくことになります。
その点、『異セカイ系』の場合は、小説世界の中では「神」である作家の主人公が、その作中世界に出たり入ったりすることで、メタ方面での型破りを可能としました。
なお、以上の(1)(2)の一部は、2018年11月13日日本経済新聞夕刊を参考としています。
以降の内容は後編の記事に続きます(下記リンク参照)。
2019年9月8日追記:異世界ファンタジーにおけるメタフィクションの例は、『異セカイ系』以外にも、波摘〔原作〕/燐人〔漫画〕『獣耳ロリ勇者はえっちな修正に困っている』(電撃コミックスNEXT、全1巻)という作品があります。こちらも『異セカイ系』と同じく、主人公は自らの書いた作中世界へと転移しますが、勇者ヒロインに降りかかる災難を主人公は原作を修正する能力で救ってゆきます。
2019年11月19日追記:さらに最近刊行された例として挙げられるのは、伊藤ヒロ『異世界誕生2006』(講談社ラノベ文庫、2019年11月現在既刊2巻)です。この作品においては、2010年代における異世界ファンタジーの流行・興隆の様子を、ゼロ年代の書き手の周辺を舞台としてフィードバックさせることによって、メタ的な視点から現在の異世界ファンタジーが描写・分析されています。詳しくは下記の紹介記事をご覧ください。