「星合の空」第6話の感想とソフトテニスの解説
この記事は、「星合の空」の第6話の感想とソフトテニスの解説を記しています(筆者がソフトテニスから離れてしばらく経っていることにご留意ください)。
第5話については以下の記事をどうぞ!
1.OP映像の変更について
第4話で眞己のラケットが父親に壊され、第5話で再び柊真から新たなラケットを貰ったことに伴い、今回、第6話のOP映像における眞己のラケット(画面左側)が新しいものに替わっていました。
2.試合におけるコートとサイドの決め方
ソフトテニスの試合においては、コートとサイドの決め方は少し複雑な手順を踏みます。
なお、ここにおいて、「コート」を決めるというのは、ネットを挟んでどちら側のコートを選ぶのか(日差しや風向きを考慮します)、「サイド」を決めるというのは、サービスサイドを選ぶのかレシーブサイドを選ぶのか、ということを意味します。なお、ここで決めるコートとサイドは1ゲーム目のものであるため、2ゲーム目以降はルールに従ってコートやサイドは交代してゆきます。
コートとサイドの決め方は、試合の冒頭に以下の手順に従って行われます。
(1)それぞれのペアの代表者がじゃんけんをする。
(2)じゃんけんに勝った方のペア(ペアA)が「表」か「裏」のどちらかを指定する。ここでいう「表」とは、ラケットのシャフトに刻印されている日本ソフトテニス連盟の緑色のマークがある方の側面をいい、「裏」はそのマークがない方の側面です。
(3)じゃんけんに負けた方のペア(ペアB)のどちらかが、ヘッドを地面に着けてラケットを回転させる。ラケットの回転数が十分でない場合はやり直しとなる(表または裏となった結果が意図的に操作された可能性があるため)。ペアBは、ラケットを回転させるに先立って、ラケットの表面(連盟マークのある側)をペアAに提示することが望ましい(グリップテープの巻き過ぎによってマークが隠れてしまっていたり、そもそも連盟公認以外のラケットが使用されていたりした場合は、「裏」しか出ないことになってしまう)。
(4)回転させたラケットが倒れた際に上に向いている方の側面が、(2)においてペアAが指定した側面と同じであればペアAの勝ち、違う側面であればペアBの勝ちとなる。
(5)(4)において、勝った方のペアが「コート」または「サイド」を選ぶことができる。このとき、勝った方のペアが「コート」を選べば、負けた方のペアは「サイド」を選ぶことができる。
※第1試合において、(4)で勝った御崎学園のペアが「サーブはやるよ。コートはこっちでいい」と言ったことからすれば、彼らはコートだけでなくサイドも選んでいるように見えますが、そうではありません。彼らには「サイドを選べるなら当然にサービス側を選ぶはず」という前提・固定観念があるので、このような発言になったのです。第3試合にはこんなややこしい発言はありませんので、こちらも注目してみてください。
3.ダブル後衛が実力を発揮!
既に第4話の記事で指摘しましたが(下記リンク先記事の8を参照)、第1試合において、ついに大洋と直央によるダブル後衛(2人ともが常態としてベースライン付近に位置するポジショニング)が練習試合において発揮されることになりましたね!
「星合の空」第4話の感想とソフトテニスの解説 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
1ポイント目のプレーを解説すると、ダブル後衛のポジショニングについた大洋と直央のペアは、前衛と後衛という一般的なポジショニングをする相手ペアとラリーするにあたって、左右にボールを打ち分けて相手後衛を走らせていました(反対に、相手前衛はまったくプレーに関与できていませんでした)。
このプレーにおいて、左右に走らされた相手後衛がバックハンドで打たなければならなかった場面があったのに対し、大洋と直央のペアはすべてフォアハンドで打ち返していました(普通、バックハンドよりもフォアハンドの方が、スピードもコントロールも優れています)。
単純計算すれば、大洋と直央が左右に走らなくてはならない距離は相手後衛の半分なので、左右のどこに打たれても余裕をもって打ち返せます。それに対して、相手後衛は、左右に走らされた挙句、返球が甘くなってしまい、ポーンと浮いた球をボレーで決められてしまいました。まさにダブル後衛の基本的・理想的な得点パターンです。
2ポイント目も甘い球をボレーで決め、3、4ポイント目については左右に振られた相手後衛がバックハンドで打ったところアウトボールになってしまいました。いずれについてもダブル後衛の戦術がうまく機能しています。
4.試合の進め方
ソフトテニスの試合は、1ゲームごとにサイド(サービスサイドかレシーブサイドか)が、2ゲームごとにコート(ネットを挟んでどちらのコートか)が交代します。具体的には以下の手順で交代します(自分が試合をするつもりで見てください)。
1ゲーム目:東側コート、サービスサイド(1ゲーム目終了後、チェンジサイズ)
2ゲーム目:西側コート、レシーブサイド(2ゲーム目終了後、チェンジサービス)
3ゲーム目:西側コート、サービスサイド(3ゲーム目終了後、チェンジサイズ)
4ゲーム目:東側コート、レシーブサイド(4ゲーム目終了後、チェンジサービス)
となり、5ゲーム目以降は1ゲーム目からと同様の繰り返しです。ただし、ファイナルゲーム(5ゲームマッチにおいては5ゲーム目、7ゲームマッチにおいては7ゲーム目)については、上記とは異なるルールに従ってサイドとコートが交代します(機会があればまた説明します)。
各ゲームが始まるごとに審判が「ゲームカウント〇〇」と言っていますが、たとえば、「ゲームカウント2-1(ツーワン)」は、3ゲームを終えて4ゲーム目を始めるにあたって、サービスサイドのペアが2ゲームを、レシーブサイドのペアが1ゲームを獲得しているということを意味します(サービスサイドのペアの方を先にカウントします)。「ゲームカウント1-1(ワンオール)」というのは、2ゲームを終えて3ゲーム目を始めるにあたって両ペアとも1ゲームずつを獲得しているという意味です。ゲーム内におけるポイントのカウントも同様の方法で行います。
ちなみに、ゲーム内においてペアのうち誰がサービス/レシーブをするのかについては、下記リンク先記事の4で解説していますが、とりあえずは下の画像を見てもらえば分かるかと思います。
「星合の空」第3話の感想とソフトテニスの解説 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
5.スライスサーブ
スライスサーブ(カットサーブ)とは、サーブを打つ際にラケットを傾けることによってスライス(横)回転をかける技法です。スライス回転をかけることによって、サーブの軌道がカーブし、打球のスピードが増し、奥方向へのフォルトが少なくなります(逆に、左右方向へはフォルトしやすくなります)。スライス回転はかけられてはいるものの、バウンド時に思ったよりは変な方向には曲がりません(スピードに乗ってほとんどそのまま直進します)が、バウンド後のボールが思ったよりレシーバー側に伸びてきて、レシーブの姿勢が崩されます。
スライスサーブを打つには、普段はウェスタングリップの握り方を、一時的にイースタンやセミイースタンに変えたり、あるいはウェスタンのまま手首をひねって回転をかけたりします(グリップの握り方の種別については、第2話および下記記事の5を参照)。
「星合の空」第2話の感想とソフトテニスの解説 - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
6.番外編――夏アニメを思い出す
御崎学園の王寺アラシが、他人の試合を見て「へえ~おもしれえ奴ら」とか「なんかスゲーおもしろいじゃん」とか言っていますが、夏アニメ「女子高生の無駄づかい」第1話で妄想を繰り広げるバカ(田中)を思い出してしまうので、可笑しいことこの上ないですw
7.試合中の奇声について
第3試合において、晋吾と翅(つばさ)は試合中に奇声を上げるという戦法をとっていました。
サービス時にサーバーが奇声を上げるのは、ルール上もマナー上も特に問題ないと思われます。硬式テニスのプロの試合において、サービスなどの打球時に「ポゥ!」などの声をテレビ画面越しに聞いた経験は皆さんあるのではないでしょうか。サーバーとなった翅や晋吾が奇声を上げるのはこの延長線上の行為と解釈することができます。
しかし、(サーバーが晋吾のとき)レシーバーの正面に立つ前衛の翅が相手レシーブの際に奇声を上げたり、相手側がサーブする瞬間にレシーバー側の翅・晋吾ペアが奇声を上げたりするのは、(少なくとも私の目から見れば)どう見てもマナー違反であり、審判はこれを注意すべきです。おそらくルール上では特に禁止されていないと思いますが、「おもしろい」とか「頭脳プレー」で済まされる話ではありません。
(ついでに言えば、こんな前衛がいたら報復を食らう可能性があります。たとえば、「アウトやネットになる可能性はあるけど、レシーブを強打してあのムカつく相手前衛の体にぶつけてやろう……」といったことを相手ペアが考えていてもおかしくはありませんし、実際に「偶然」ぶつかってしまってもルール上は問題ありません)
公式試合において、もし自分が審判の立場でこのような場面に遭遇したときは、一旦注意をして、それでも改善されなかった場合には、試合を中断して大会本部に相談しに行くと思います。
とはいえ、レシーバーを動揺させたいというサーバー側の前衛の気持ちはよく理解できるものです。しかし、その場合には、奇声ではなく、行動を起こすべきなのです。つまり、前衛は左右にラケットや上体を揺らし、また小刻みにステップを踏むことで、相手レシーバーの視界に印象深く入り込み、レシーブが前衛のボレーによってカットインされてしまうのではないかと相手レシーバーに思わせ動揺させるのです。これこそが正当的な方法でしょう。
記事下方コメント欄にてご指摘を頂き、上記訂正線部について以下の通り追記修正します。
日本ソフトテニス連盟の定めるハンドブック(2004年改訂版)は、次のように規定しています(PDF:http://www.soft-tennis.com/shiga/2_HSAF/H31/handbook.pdf)。
競技規則15条 プレーヤーは互いにマナーを尊重し、次の事項を守らなければならない。
(1)過度のかけ声、又は相手を不快にする発声をしないこと。〔中略〕
(3)アンパイヤーの指示に従いプレーすること。
[解説5] プレーヤーの心得を第15条にまとめた。過度のかけ声・連続プレー等プレーヤーの心得を示しているが、その判定は、アンパイヤー判断とする。
競技規則41条 第15条、第38条及び第40条に明らかに違反したと認められる場合、正審はプレーヤー(団体戦の場合は部長・監督・外部コーチ・コーチを含む)に対し警告(イエローカード)を与える。
審判規則19条 正審はマッチの進行に支障があると認める行為等に対しては、関係者(プレーヤー、部長、監督、外部コーチ、コーチ、当該チーム(ペア)等の総称)に注意を喚起することができる。
審判規則20条 正審はプレーヤー(団体戦の場合は部長、監督、外部コーチ、コーチを含む)が明らかに競技規則第15条、第38条及び第40条に違反していると認める場合は、競技規則第41条に従い警告(イエローカード)を与える。なお、警告はカードを提示して行う。
[解説27] 競技では、関係者(プレーヤー、部長、監督、外部コーチ、コーチ、当該チーム(ペア)応援者の総称)の応援(発声)は、競技の盛り上がりとして認める方向であるが、それが行き過ぎ、不快感となり、プレーに支障があるとアンパイヤーが判断した場合は、第19条の注意の喚起、第20条の警告を適用する。
これらの規定のうち、今回、ルール違反として問題になりそうなのは、競技規則15条(1)です。しかし、「過度」や「不快」の感じ方は個人差がありますので、直ちに「明らかに違反した」として警告を出すこと(競技規則41条、審判規則20条)は躊躇われます。もっとも、[解説5]は、この判断について審判の主観に委ねていますので、中立性と一般的な公正感を持つ審判であれば、今回のような行為はルール違反と認定しそうです。
しかし、むしろ、審判規則20条(警告)とは別に審判規則19条(注意の喚起)が定められている趣旨および[解説27]を踏まえれば、審判がすべきなのは、まずは競技規則15条(1)への抵触の疑いを理由とする審判規則19条に基づく注意の喚起であり、次いで対象者がこれに従わず繰り返す場合には、競技規則15条(1)および(3)に反する行為として競技規則41条・審判規則20条に基づく警告であると言えるでしょう。
8.第4試合について
第4試合の1ポイント目において、眞己はいきなりアラシのレシーブにカットインしてボレーを決めました。1ゲームの1ポイント目のレシーブといえば、経験則から言えば(特に中学生は)、クロス(対角)に打ってサーバー(相手後衛:柊真)の方へ返球する確率がかなり高く、ストレートに強打して相手前衛(眞己)の正面を抜く確率はかなり低いです。眞己は初心者とは思えないほどの勝負強さを持っています。
第1試合の御崎学園の後衛は逆サイドに来たボールをバックハンドで返球していましたが、この第4試合の2ポイント目において、後衛のアラシは逆サイドに来たボールでもきっちりと回り込んで、フォアハンドで打っていました。その尊大な態度に違わず、きっちりと実力も備えていることが分かる描写でした。また、相手前衛(眞己)のポジションを見てその正面に打って得点したのも、上手な証左です。
ところで、2ゲーム目の1ポイント目において、審判がゲームカウントをした後に、サーバーのアラシがその場でボールを地面にポンポンと打ちつけていましたが、これは許されていない行為です(第3試合のプレイボール直後の晋吾にも同様のことが当てはまります)。
硬式テニスとは異なりソフトテニスのルールにおいては、審判がゲーム数やポイント数をカウントした後に地面にボールを落とした(打ちつけた)場合は、サーブの失敗=フォルトと見なされます。
9.ネットの描写が地味にすごい
地味なところですが、ボールがネットに引っかかって揺れる際の描写が素晴らしいです。
第7話の感想記事はこちらから!