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ドキュメンタリー映画「14歳の栞」の感想――鮮烈な思春期の表層と内面

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14歳の栞

 

パンサーの向井さんがラジオで話しているのを聴いて興味を持ち、「14歳の栞」という映画を観てきました。とある中学校の3学期に、2年6組35人全員に密着したドキュメンタリー映画です(公式HP:14歳の栞)。

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以下、箇条的に感想を書き連ねますが、これを読んでから映画を観ても十分に楽しめるのではないかと思います。

 

 

1)みんな肌が若い!

まず、私の身近には中学生がいないので、ノーメイクで画面いっぱいに映し出されてもプリップリで綺麗な肌には驚いてしまいました! これが若さというものか……

 

2)声がまだまだ幼い!

一部の男子は既に声変わりしていましたが、多くの生徒はまだまだ子供の声をしていました。男性にせよ女性にせよ、歳を重ねるごとに声が低くなってゆきますが、中学生は概してまだ幼い範疇にありますね。それと、リアル中学生(の特に女子)の声は、アニメ声に近いものがありますね!

 

3)公立中学校の雰囲気が懐かしい!

舞台となった中学校とは世代も地域も違いますが、私の通っていた公立中学校も似たような雰囲気でした。私立中学校や男女別学校に通っていた方などは、この映画を観れば男女共学の公立中学校の雰囲気を感じられるのではないかと思います!

 

4)男子中学生のノリ!

男子中学生はとにかくじゃれ合う! とくに腕を首にかけるのは懐かしさを感じましたね。私が中学生のとき、BLとか腐女子とかいう概念を知っていたら、そういう色眼鏡で周辺を観察してしまっていたでしょう……

 

5)男子中学生は下ネタがお好き。

男子中学生は、エロへの興味が爆発する時期ですので、下ネタを言いたがりますよね。でも、まだ経験はないので、「みんなと一緒にワイワイ言う」「えげつないのは言えない」のが必須条件になっている気がします。

 

6)女子中学生のノリも!

中学生といえば思春期の真っ只中で、男女の差を敏感に意識する時期です。上記ような男子のノリに対して、女子は「男子ってこれだから」みたいな態度とる訳です。

でも、女子だって姦しいノリがあります。ただ、それは教室のような男女混合の場であらわれにくいだけで、女子だけの場ではノリが爆発しています。吹奏楽部、文芸部、美術部などの女子が全員や大多数を占めるような部活では、特にそうです。

 

7)誰しも複数のペルソナを使い分けている

人間は成長するにつれ、その場その場に適応した態度を取るようになりますよね。親友、クラス、部活、家庭など、それぞれで異なるペルソナ(仮面=人格)を被って、でも、そのうち本当の自分が分からなくなって……。そんなことで悩むのも思春期だからですよね。大人になると、そんなこと当たり前になって、どうでもよくなってゆきます……

 

8)吹奏楽部のとある女子生徒

クラスではそんな感じではなかった女子生徒が、意外にも吹奏楽部でしっかりとパートリーダーを務めているのは、あるあるではないでしょうか。

 

9)家では子ども?大人?

学校と比べて、家では子どもっぽくなったり、逆に大人っぽくなったり、だいたいの中学生は学校と家でのペルソナを使い分ける二面性を持っています。だからこそ、これを暴かれたくなくて、同級生には自分の親を会わせたくないんですよね。

 

10)早く大人になりたい!

インタビュー中に複数の生徒が口をそろえて語っていた言葉は「早く大人になりたい」

大人になった私たちからすれば、成長したからといって抱えている問題が必ずしも解決できる訳でもないし、むしろ新たな問題を背負い込むことになることは、もちろん承知済みです。

反対に、一人だけ「責任を負いたくない。赤ちゃんになりたい」と語っていた生徒がいましたが、その意味では彼が一番の大人ですよね。

 

11)将来に対する現実的な視点

クラスのお調子者、あるいは部活の主軸や校外のスポーツクラブに通う生徒は、表層だけを見れば、自身の将来について、何にも考えていなかったり、あるいは現実的には難しい夢を抱き続けているようなステレオタイプな印象を受けがちですよね。でも、意外とみんな、将来に対して現実的な視点を持っているようです。このままではいられないことを、ちゃんと理解しているようなのです。

中学生たちは、中学生なりに進路を真剣に悩んで、将来設計を行っています。彼/彼女らにアドバイスを行うとすれば、今の時代において公務員や正社員になれるのは必ずしも「普通」ではないし、結婚や出産の時期は想定より遅くなりがち、の2点を強調しておきたいですね。

 

12)学力と将来設計

これは映画で描かれていなかったことなのですが、映画を観て、学力と将来設計の関係について思い至ったことがあります。

もちろん「学力=将来設計について考える能力」ではないですが、学力は将来設計について考える能力の重要な要素のはずです(たぶん)。しかし、実際には、学力のない者は中卒・高卒で働き始め、学力のある者は大学や大学院に進学します。ということは、学力のない者の方が先に将来設計を行う必要に迫られ、反対に、学力のある者は進学した分だけそれを先送りすることができる訳です。このことはきちんと自覚しておきたいです。

 

13)恋愛模様が甘酸っぱい!!

度々、恋愛模様が登場します。みんな(交際経験ないだろうにもかかわらず)「恋愛を知っている風」を装いますが、その一方で、誰もかれも手探りな状況なのが見て取れます。思春期に高まる恋愛への興味と、それをコントロールしているように装いたい自意識がぶつかり合っている様子が見えます。

集団になると、男子は男子で、女子は女子で、それぞれに集まって、恋愛事でワーキャー騒ぐのですが、いざ当事者で一対一になると、大人の恋愛よろしく一気に真剣さが増していました。

 

14)辛辣な言葉

とある男子生徒が、その趣味に没頭する姿について、同級生から辛辣な言葉を投げかけられていました。

最初に「キモッ!」と言ったのは、1人の女子生徒でした。そのシーンで、劇場内ではクスッとした笑い声が漏れ出ていました。次いで、男子生徒4、5人のうちの1人が「気持ち悪いんだよ!」と彼に言っていました。このシーンでは劇場内の誰一人も笑っていませんでした。

この差は何なのでしょうか? 両者の言葉の意味は異なりません。人数比の差? ジェンダー差? あるいは、本人しか知ることができませんが、その言葉に込められた感情の種類の違いでしょうか?

いずれにせよ、問題の中心は、彼がそれぞれの言葉をどのように受け取ったのかです。本人しか知り得ないことに対する無責任な想像はひとまず措いておき、ここでは、熱く夢を語ってくれた彼の将来に幸あらんことを祈ります。

 

15)問題は解決しない

修了式の日の記念撮影の際、とある問題は解決しませんでしたね。フィクションならぬドキュメンタリーゆえのリアリティ溢れるシーンでした。

 

16)表層と内面

「友人はいらない」と語る女子生徒を見て思いました。

思春期は、自分という存在を過剰なくらいに意識する時期ですよね。一方においては、他者から見て自分がどう見られているのか気になって仕方なく、他方においては、自分が何者なのかを自分自身に問いかけます。それまで所与とされてきた自分の存在が危うくなり、アイデンティティを大きく揺さぶられ、自分を嫌いになることなんて多々あります。

それに伴って、小学生のときのような――いわば能天気な――人間関係は築けなくなります。友人関係・恋人関係などの人間関係は、自己の存在を肯定してくれる可能性がある一方で、それを否定するリスクも内包しています。思春期における自己の存在に対する否定は、人生の終了にも感じられる出来事です。そのため、思春期の防衛本能は、自己の表層と内面を慎重に分離させて、裏切られるリスクを表層だけに限定し、内面を他者に晒さないように警戒しますでも、その内面は、裏切ることのない他者からの絶対的な肯定を切実に求めてしまいます

この映画におけるインタビューは、このような思春期の内面に迫るものでした。もちろん、撮影スタッフに表層的にしか対応していないと見受けられる生徒もいましたが、(限定的にであっても)内面を打ち明けてくれる生徒も多くいたように感じました。大人になってみれば過去の一幕に過ぎないけれども、その頃は人生そのものでしかなかった思春期の激烈な表層と内面を、この映画で鮮やかに思い出すことができました

 

 

以上が「14歳の栞」を観た感想です。年齢的な意味で上から目線、つまり、「年長者は物事を理解している」風の感想になってしまいましたが、この感想は、普遍性を装っている一方で、私の特殊個人的な経験に裏打ちされたものでしかないことも一言付け加えておきます。それでもなお、誰かに誰かを重ねて、誰かに自分を重ねることができる、おそらく多くの人がそのような感覚を得られるだろうドキュメンタリー映画でした。

 

多くの都道府県で見られるので、興味のある方は是非ご覧になってください!

14歳の栞 劇場情報