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『かげきしょうじょ!!』第9巻の感想・考察――渡辺さらさの因縁、奈良田愛の方針

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『かげきしょうじょ!!』第9巻

 

この記事は、斉木久美子『かげきしょうじょ!!』第9巻(2020年3月5日発売)感想・考察を書き連ねた記事です。ネタバレにはご注意ください!

 

『かげきしょうじょ!!』に関するその他の記事については、以下をご参照ください!

 

 

101期生が登場!

 

伊賀エレナ

 

運命の出会い?

注目すべき101期生の一人目は、財閥令嬢の伊賀エレナです。

初登場時、遅刻して焦るエレナは階段を踏み外し、あわや大怪我というところをさらさに助けてもらいました。あんな助けられ方されたら、異性同性問わず惚れてしまいますよね!

エレナとの別れ際、さらさは「それじゃっ、次に落ちる時は飛行石を忘れないで下さいね!」ラピュタネタを言いウインクして別れました(15頁)。さらさだけではありませんが、紅華乙女の生態なのか、彼女たちには日常にドラマtチック(歌劇的)な要素を取り入れたがるキザな部分がありますよね。しかし、一般人だったら似合わないようなキザな言動も、紅華歌劇音楽学校に入学できるような彼女たちがすると、また特に高身長に恵まれたさらさがすると、絵になります

というか、さらさはラピュタがかなり好きなようです。その後、伊賀エレナのことを「シータちゃん」と呼んだり(28幕43頁)、以前にはバルス並の眩しさでムスカっちゃいましたよ~!」なんて意味の分からないことを考えていたりもしていました(3巻9幕24頁)。もしかしたら、他のところにもラピュタネタがあるかもしれませんね。

 

遅刻した理由

エレナ初登場時の場面をよくよく振り返ってみると、エレナが遅刻した理由を不思議に思わなければなりません

紅華歌劇音楽学校の寮は基本的に相部屋のはずです。すべて二人部屋だと仮定すれば、101期生は全40名で余りが出ないので、エレナにもルームメイトがいるはずです。そうだとすれば、(ルームメイトと共に遅刻するのではなくエレナだけが遅刻したということは)エレナはルームメイトに起こしてもらえなかった、ということになります。

ルームメイトがエレナを起こさなかった理由としては、まず、財閥令嬢に気後れしてしまい起こせなかった、という可能性が考えられます。しかし、他人に興味がないルームメイトがわざわざエレナを起こさなかった、という可能性も考えられます。

前者の可能性については、むしろ、起こさなかったことに対する財閥令嬢の報復(?)を恐れるのが人の心理であるため、こちらはなさそうな気がします。その一方で、後者の可能性については、これにピッタリと当てはまりそうな101期生がいます。そうです。エレナのルームメイトは澄栖杏ではないでしょうか杏であれば、財閥令嬢であっても我関せずといった態度を貫き通しそうではありませんか? ただ、28幕36-37頁の伊賀エレナと澄栖杏の会話は、初対面のような感じで、あまりルームメイトっぽくないんですよね……。いずれにせよ、ルームメイトの情報は、第10巻以降で明らかになるかもしれません。

 

スリードには引っかかりましたか?

(キャラクター一覧は読み飛ばして)第28幕を初めて読んだとき、「こっちが伊賀エレナだったのか!」って思いませんでしたか?

28-29頁や36-37頁の凛とした雰囲気や周りの人に興味なさそうな様子の澄栖杏は「お嬢様然り」といった感じで、彼女こそが伊賀エレナだとスリードされてしまいました

でも、よくよく考えてみれば、伊賀エレナの丁寧な言葉遣いは、まさに良家のお嬢様として教育された感じがしますよね(ちなみに、さらさの丁寧な言葉遣いは、オスカル様になるためです〔8巻26幕100頁参照〕)。

 

澄栖杏

もう一人の注目すべき101期生は、澄栖杏(すみす・あん)です。

第28幕28頁以下の杏の様子を見れば、さらさとは過去に因縁があるようです。

たしかにさらさは100周年運動会で目立ったり文化祭のパンフレットに名前は載ったりしましたが、青田買いするファンや100期生の名前を全員覚えたエレナのように、先輩の名前をチェックするほど熱心ではない性格のようです。

だとすると、この場面で杏が「渡辺さらさ」とつぶやいたのは、やはり過去に何か因縁があったと見るべきではないでしょうか。もちろん、さらさの方は何も知らない様子ですが。

さて、第9巻の本編はいいところで幕切れとなってしまいましたね。年下の先輩、可愛らしいふわふわのツインテール、「さらさ」という一人称から、杏はさらさに幼さを感じてなれなれしい口のきき方をしいてしまったと弁明していました。

もちろん、先輩である以上は敬語を使うべきなのですが、本科生としては痛いところを突かれてしまったようです。でも、さらさのキャラクターだと、杏と親しくなりたいためにタメ口を許してしまいそうなんですよね~

ところで、本科生になった沢田姉妹は風紀委員キャラになってましたね笑(29幕82頁、30幕103頁)

 

指導担当の組み合わせ

 

嬉しい演出

第9巻ではついに101期生の予科生が登場し、100期生の本科生がそれぞれ指導担当につくことになりました。

本科生と予科生が指導担当を決めるときに顔合わせする場面の構図になんだか見覚えがありませんか? 実は、100期生が予科生だったときの『エピソード0』4幕105頁と、100期生が本科生になったときの9巻28幕29頁構図が一緒なのです! 嬉しい演出ですね!

 

組み合わせや如何に

気になる指導担当の組み合わせは、伊賀エレナには奈良田愛が、澄栖杏には渡辺さらさが担当することになりました。

キャラクターの系統でいえば、エレナとさらさ愛と杏という組み合わせが同系統でベストマッチな気がします。特にエレナは早い時期からさらさのことを慕っているようですから。それに、本科生と予科生が顔合わせをする前のガイダンスにおいて遅刻したのは、エレナだけではなく、一年前のさらさもでした(『エピソード0』3幕73頁、9巻28幕9頁)。

とはいえ、エレナと愛、杏とさらさという組み合わせは、今後間違いなく面白くなると言えます。対照的なさらさと愛がルームメイトで当初は上手くいかなかったけれど、今ではすっかり親友なのを見ると、過去の愛と同系統の杏がさらさと出会ってどのように変化するのか楽しみです! もちろん、杏とさらさの間には過去に因縁がありそうなので、そっちも楽しみですね!

 

 

奈良田愛の方針

 

男役か娘役か

文化祭後に安道先生から進路として男役も考えてみるよう提案された愛は悩んだ末、「男役も視野に入れてみる」ことにして(30幕99頁)、「オルフェウスとエウリュディケ」では、オルフェウス(男役)にもエウリュディケ(娘役)にも挑戦しようとします。

ところで、愛がショートカットに髪を切ってきて帰ってきたシーンの各々の反応が面白かったですね! ショートカットの愛を見た途端、誰もが「愛は男役を目指すのでは?」と考えたはずです。伏線はありました。文化祭でさらさの代役として愛が演じたのはティボルト(男役)だったのですから(8巻24幕)。

9巻30幕86頁以下において、男役志望の杉本紗和や星野薫は、真剣な眼差しでショートカットの愛を見つめていました。同期の男役のライバル(それも知名度抜群)が増えるので当然の反応です。それとは対照的に、娘役志望の山田彩子や沢田姉妹は、一瞬驚きはしたものの、すぐに立ち直って愛と会話していました

そして、おそらく他の誰よりも「ショック」を受けていたのは、さらさでした。

「さらさは嫌なの? 私が男役を目指す事」と愛に問われたさらさは、「……嫌っていうか……なんだかショックで……。でも、ごめんなさい愛ちゃん。さらさは、何がショックなんだか自分でもよく解らないんです」と答えました。

この「ショック」は、決してネガティブな意味ではありません。ショック(shock)は、時にネガティブな意味で使われることがありますが、もともとは「衝撃を受ける、驚く、動揺する」くらいの意味しか持っていない中立的な言葉です。

きっとさらさは愛が男役をするなんて微塵も想定していなかったのでしょう。「さらさ達〔さらさと愛〕はお互い男役と娘役を極めますので!」なんて無邪気に宣言もしていましたから(8巻27幕154頁)。

そもそも、愛は、紅華音楽学校に入学した理由が極めて消極的で(『エピソード0』6幕186頁以下)、特に演じてみたい役なんて本科生になってからも見つけられていません(9巻29幕58-59頁)。実技の授業(1巻)やオーディション(5巻)で、愛が娘役を演じてきたのだって、周りから「未来の娘役トップの有望株」などと言われ続けてきたのに流されていた節があります。

そのため、男役を提案する安道先生の言葉は、間違いなく愛にとって転機になりました。9巻30幕は、澄栖杏の問題発言で幕切れとなってしまいましたが、男役も視野に入れるようになった愛に対して、これからさらさは何を思い、何を語るのでしょうか? 気になりますね!

 

小園桃との関係性

愛とさらさの関係も要注目ですが、もう一つ注目すべきは愛と小園桃の関係です。小園桃はJPX48の現役メンバーにしてトップアイドル(グルーブで一番人気?)であり、愛はかつてこのグルーブに所属していたのでした。

小園桃の初出は、『エピソード0』4幕116頁でした。愛の指導担当であった野島聖の推しメンは、小園桃だったのでした(ちなみに、聖が桃を応援する様子は、第5巻スピンオフ「愛の指導役・野島聖編」123頁以下に描かれています)。

さて、9巻29幕における愛の様子を見る限り、愛はかなり小園桃のことを意識しているように見えます。実際、母親の奈良田君子から演技中の小園桃について「本番で全部、今の自分が持ってる物、全部出してぶつかって来たの」と聞いたり、インタビューされている小園桃が「イメージダウンになるって言われても、今はできる役は何でもやってみたいです。ダメでも次があるって信じます。失敗したら、またそこから考えればいいんだって、そう思ったんです」と語っているのを聞いたりして、その直後に、愛は男役への布石として髪を切ったのですから。つまり、愛は小園桃の言葉を聞いて、たとえ失敗したって今の自分が持っている物すべてを出して男役に挑戦してみようと思ったのです。

上記のように愛が小園桃を意識した理由は、小園桃の演技の迫力2人の間の過去の因縁の可能性も考えられますが、このほかに2つほど挙げられます。

理由の第一は、小園桃の「失敗したら、またそこから考えればいいんだって、そう思ったんです」というセリフ(9巻29幕80頁)が過去のさらさのセリフと似ていたことです。さらさは、文化祭で失敗した愛に対して、「失敗したって、何度でも、また蘇りましょう!」と励ましの言葉を送っていました(8巻27幕142頁)。この2つのセリフ、似ていませんか? 親友であるさらさの言葉と似ていたからこそ、小園桃の言葉は愛に響いたのかもしれません。

理由の第二は、小園桃の役どころです。小園桃の役どころは、主役男性の娘役で、この男性の愛人役である奈良田君子をトラブルから殺すというものでした。

よくよく考えてみると、この小園桃の役どころは、愛の幼少期と似通っているように見えませんか? この頃の奈良田君子には恋人がいて、幼少期の愛はこの男からわいせつ行為を受けているのです(『エピソード0』7幕参照)。

幼少期の愛は、母の恋人の男に対して特に反撃はできませんでした。それに対して、映画の中の小園桃は、父親の愛人役を殺しているのです。もしかしたら愛は幼少期の自分と小園桃を重ね合わせ比較し、それに触発された可能性があります。似通った境遇(役どころ)の小園桃の言葉だからこそ、愛の心に刺さったのだと思われます。

 

 

白川煌三郎は「計算高い

 

第9巻には「白川宗家の娘・丁嵐志織」と題された番外編が収録されていました。そこには白川家にまつわる興味深いエピソードが盛り込まれていましたね。

まずは、いろいろと書き連ねる前に、白川家・渡辺家の家系図を示しておきます。今までの情報を総合すれば、以下のような家系図が出来上がります。

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白川家・渡辺家の家系図

この番外編では、白川福二郎と志織の間で興味深い会話が交わされました(125-126頁)。

志織「そうだ、それでさ。煌三郎が居たんだよね。慣れた感じでチビ〔さらさ〕の相手しててさ。あれはさぁ、もしかしてウチの父さん〔白川歌鷗〕のスケープゴートになってんのかなぁ」

福二郎「やれやれ。お嬢は勘だけはいいんだね。あれ(煌三郎)は芸があっても血筋がないからね。計算高いんだよ。自分の欲望に忠実で、それをおくびにも出さず、いつもすました顔している抜け目のない男だよ」

さらさは、実際は15代目白川歌鷗の娘(隠し子)であるにもかかわらず、白川煌三郎の娘(隠し子)だと噂されています(2巻6幕69頁)。このような噂が立ったのは、単に煌三郎がイケメンでモテモテだからという訳だけではありません。上記の会話からすれば、煌三郎が意図的にさらさと親しくすることで自らの隠し子のように周りに見せていたこともあってそのような噂が立ったのです。

そして、上記の会話によれば、煌三郎がさらさと親しくしたのは、16代目白川歌鷗になるためです。煌三郎は、娘婿であっても白川宗家の15代目白川歌鷗とは血縁関係が薄いために16代目になれそうになく、16代目の最有力候補は15代目白川歌鷗のイトコの息子である白川暁也だと言われています(『エピソード0』5幕135頁、6幕171頁)。つまり、煌三郎は、スケープゴートになる(自らがさらさの父親だと噂される)ことで白川歌鷗に恩を売り、16代目を継ごうとしているのです。

福二郎や志織の見立てが正しいとすれば、煌三郎はかなり狡猾な男です。

さて、丁嵐志織の番外編は、「また次の機会に」と幕切れになってしまいました。志織とさらさの関係は次巻以降に持ち越しのようです。

しかし、第8巻の記事で書いた突飛な仮説が明確に肯定も否定もされませんでしたね。

 

 

第8巻・第10巻・第11巻・第12巻の記事はこちら!

 

 

 

追記

最近文庫化された小説が面白かったのでおすすめします。宮津大蔵『ヅカメン! お父ちゃんたちの宝塚』(祥伝社文庫は、宝塚歌劇団の男性関係者を主人公にした連作短編集です。

それまでは宝塚には興味のなかった男性たちが、生徒監、大道具、プロデューサー、演出、受験生の父兄という立場でそれぞれ宝塚に関わってゆくストーリーで、もちろん彼らが主人公なのですが、同時にタカラジェンヌの成長の物語でもあります。

宝塚ファンや『かげきしょうじょ!!』読者にはおすすの一冊です。

ヅカメン!  お父ちゃんたちの宝塚 (祥伝社文庫)

ヅカメン! お父ちゃんたちの宝塚 (祥伝社文庫)

  • 作者:宮津大蔵
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 文庫