「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」はアリなのか?――この種のラノベには違和感を抱きませんか?
2019年8月30日追記:この「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」という記事に対して、「ファンタジーのジャンル論・再考」という下記記事を書いたのでぜひご覧ください! 下記記事はこの記事の訂正版のような形になっております。
(1)問題の所在
先日、私はファンタジーは下図のようにジャンル分け出来るのではないかという記事を書きました。
ファンタジー
├─本格ファンタジー
それぞれの意味内容について、ざっとおさらいをすれば――
「本格ファンタジー」とは、主にヨーロッパの作家によって、ヨーロッパの神話・歴史等に基づいて作られた伝統的なファンタジーのことを指します(もちろん、日本人作家であっても、その影響を強く受けていればこちらに分類されます)。『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)や「ハリー・ポッター」シリーズなどがこれに該当します。
「異世界ファンタジー」は、ここ20年くらいに日本において、ライトノベルや小説投稿サイトという媒体を通じて発展したジャンルで、現実世界から異世界(ゲーム世界も含む)への転生・転移・(ゲームについては)没入を特徴としています。
さらに、「異世界ファンタジー」においては、ゲーム的(ドラクエ的・MMORPG的)な要素が含まれているもの(ゲーム的異世界ファンタジー)と、そういった要素が(ほとんど)ないもの(非ゲーム的異世界ファンタジー)とがあります。「異世界への転生・転移・没入」という一定の「型」を有する「異世界ファンタジー」のうち、「ゲーム的である」という点においてさらに強固な「型」を有する「ゲーム的異世界ファンタジー」と、「異世界転生・転移」という手法は使うものの、むしろその他の世界観設定は自由度が高かったり、あるいは本格ファンタジーに似通っていたりする「非ゲーム的異世界ファンタジー」とは、明らかに異なる特徴を有しています。
――以上がおさらいです(詳細は下記リンク参照)
しかし、上図のジャンル分けの方法では、「異世界転生(異世界への転生・転移、ゲーム世界への没入のすべてを含む。以下同じ)しないのに、ゲーム的な要素が登場するファンタジー」――具体例は後述――を上手く位置付けることができません。このジャンルは、上図の「ゲーム的異世界ファンタジー」とかなりの共通点を有しているにもかかわらず、「異世界転生」という特徴を有していないために、上図に位置付けることが出来ないのです。
「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」を上手く位置付けられないのなら、お前のジャンル分けの方法は失敗しているんだ、と一蹴することも可能かと思いますが、しかし、このジャンルは、そもそもかなりイレギュラーな存在であるために、上図に上手く位置付けられないだけではないか、とも思うのです。以下にその理由を書き連ねます。
まず、異世界転生が行われた場合であれば、その物語の舞台となる異世界は、転生者(主人公であることが多い)を通じてゲームが存在する現実世界(前世)との繋がりがあるため、ゲーム的な要素が登場してもそれほど違和感はありません(まったくない、と言えば嘘になりますが、ここではそういうことにしておきます)。
しかし、いよいよ異世界転生していないのにゲーム的な要素が登場すると、違和感に気付かないふりはできません。
だって、読者(というか私)としては、現実世界から切り離されたファンタジー世界を期待しているのに、そのファンタジー世界には存在していないはずのゲームに由来する要素が登場するんですよ? 現実世界にしか存在していないはずのゲーム的要素が、(異世界転生していないので)物語上は現実世界とは全く繋がりのないはずのファンタジー世界に登場するのは、変ではありませんか? 破綻している、とまでは言わないにしても、「ファンタジーとしてのほころび」を感じませんか?
(2)違和感を覚える具体的要素
それでは、「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」のどのような箇所に違和感を覚えるのか、あるいは違和感を覚えないのか、について具体的に指摘してゆきます。
1.違和感のない箇所
本格ファンタジーと同じく、ヨーロッパの神話・歴史・文化が踏まえられている要素については、ファンタジーにおいて伝統的に使用されてきたものなので、まったく違和感はありません。たとえば、
などです。むしろ、上記の具体例はファンタジーの骨格とでも言うべき要素です。
2.ギリギリ違和感を無視できる箇所
本格ファンタジーでの使用例は極少数だと思いますが、その要素が登場することに対して首肯できる歴史的背景がある場合は、ギリギリ違和感を無視できます。たとえば、
- ギルド(中世ヨーロッパに同業者組合としてのギルドが実在したため)
- 魔法の属性(たとえばギリシア哲学においては、土・空気・火・水が元素として考えられていたため)
などです。
3.違和感のある箇所
もっぱらゲーマー界隈にしかその言葉の意味を把握できない場合、あるいは理解できるとしても一般的にはその言葉を使わない場合は、明確に違和感を覚えます。
別の言い方をすれば、ゲーム的世界観を共有できていない――その結果、当然に「新宿駅はリアルダンジョンだ」などとゲーム的世界観を現実世界に持ち込まない――人々(というか私)にとっては、ゲームに固有の用語をファンタジーに出されると、「この作家、ゲーム脳すぎないか?」と思ってしまうのです。たとえば、
- 冒険者(何をする職業なのかピンと来ない)
- 勇者(どうやら英雄とは異なる固有の意味合いを与えられているらしいが、どのような地位なのかよく分からない)
- ダンジョン(英語のdungeonは地下牢を意味するところ、むしろラノベでいう「ダンジョン」は「(地下)迷宮labyrinth」の方が適切で一般人に伝わりやすいのではないか?)
- スキル(一般人はこれを「技術・技能・わざ」と呼ぶことが多い)
- レベル・ランク・クラス等(ゲームのステータス制度の現れとしか思えない)
- ユニーク○○(「特有・固有の」という意味で使われているのは実に英語的であるが、カタカナ英語として広く普及している「珍しい」という意味とは違う点で一般人には理解されにくい)
などです。
(3)おわりに
最後に、二点だけ付言しておきます。
第一は、書き手の方への要望です。
もしこの記事を読んだ書き手の方がいらっしゃれば、「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」は違和感があるので、できるだけ一般人も分かるような別の言葉に置き換えてほしい、ということを要望しておきます。
とはいえ、もちろん、私のように違和感を抱く読者――日本国民の中では多数派でもラノベ読者層の中では少数派だと思います――を切り捨てるという方法もアリだとは思います(言葉を置き換えた結果、むしろラノベ読者層の多数派から違和感を指摘される可能性だってあります)。そもそも、このジャンルを書く作家は、ゲーム的世界観を共有する読者が理解しやすいように、意図的にそう書いているのかもしれません。
その意味では、この記事のタイトルに掲げた「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」という問いに対しては、「アリな人にはアリ、ナシな人にはナシ」という面白くもない回答になってしまいますが……
第二に、上記の違和感に留保を付け加えておきます。
もしかしたら「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」に対して上記のように難癖をつけるのはナンセンスなことなのかもしれない、と留保をしておきます。
というのも、違和感を覚えると言っていたゲーム的要素は、今後、ファンタジー界の新たな伝統になったり、一般に広く普及したりする可能性があり、今はその過渡期なのかもしれないからです。もしそうなった場合には、ゲーム的な要素はもはや一般的な要素となり、違和感なんてなくなっているはずだからです。その意味で、私のような読者は、伝統的な本格ファンタジーに固執する守旧派なのかもしれませんね。
ゲーム的かゲーム的でないか等々については下記記事でも扱っていますので併せてご覧ください!
2019年8月30日追記:この「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」とすぐ上に掲げた「『異世界ファンタジー』の下位ジャンルの必要性」という記事に対して、「ファンタジーのジャンル論・再考」という下記記事を書いたのでぜひご覧ください! 下記記事はこの2つの記事の訂正版のような形になっております。