石之宮カント『始まりの魔法使い』――原始の時代で魔法の仕組みを解明しろ!
(1)基本情報
『始まりの魔法使い』(富士見ファンタジア文庫、2019年8月現在既刊5巻)
著者:石之宮カント
イラスト:ファルまろ
かつて神話の時代に、ひとりの魔術師がいました。彼は、“先生”と呼ばれ、言葉と文化を伝え、魔法を教えました。そんな彼を人々はこう呼びました――始まりの魔法使い、と。
そんな大層な存在ではないのだ――「だから火を吹かないで!」「ごめんごめん。私にとってはただの息だからさ」竜として転生した“私”は、エルフの少女・ニナとともに、この世界の魔法の理を解き明かすべく、魔法学校を建てることにした。そこで“私”は、初めての人間の生徒・アイと運命の出会いを果たし――。これは、永き時を生きる竜の魔法使いが、魔術や、国や、歴史を創りあげる、ファンタジークロニクル。 【第1巻裏表紙より】
(2)あらすじ
主人公は天寿を全うした後、異世界に転生します。が、そこでの姿はドラゴンでした。
母竜に育てられ10年、巣を追い出された彼は独り立ちをします。そこで出会ったのは、木々を魔法で操るエルフ・ニナ、そして文字も言葉もない原始的な生活をする村から生贄として捧げられた人間の少女・アイ。
前世で魔法を研究しつくした(そしてそんなものはないと結論付けた)オカルト研究家であった彼は、木々を操るエルフの魔法や、ドラゴンである自身の口から炎が出る現象に興味を持ちます。その結果、この原始の世界で、魔法と文明を研究・教育し普及させるために学校を作ることになるのですが、魔法を操るエルフでさえもその体系化はなしておらず、彼はほとんど一から魔法の仕組みを解明してゆくことになります。
個人的に面白かったのが魔法陣に関するエピソードです(第2巻)。皆さんは何のために魔法陣が描かれると思いますか? なんとなく、召喚魔法の際に使われるヤツというイメージではありませんか? しかし『始まりの魔法使い』では、魔法陣の効用について、なるほどと思わせる再解釈がなされています。
(3)おすすめポイント――あなたは「ドラゴン」になったことがありますか?
ドラゴンに転生した主人公は、ほとんど永遠とも言えるほどの寿命を有することになります。その一方で、家族も同然の人間の教え子たちはせいぜい数十年しか生きられません。章や巻が変わるごとに数年~数百年とテンポよくストーリーは進みますが、人間の方は目まぐるしく世代が交代してゆき、彼は数多の出会いと別れを経験することになります。
主人公の彼は、姿かたちこそドラゴンですが、心は前世からの人格を引き継いでいます。それゆえに、かつて人間だっただけに、彼は人間との関わり方に苦悩することになります。
この物語の半分が「ドラゴンにして始まりの魔法使い」としての彼の英雄譚であるとすれば、もう半分は「人間」としての喜びと苦悩に溢れた人間らしいストーリーとなっております。
このほろ苦さは、もしあなたが人間のまま普通に生活していれば経験することはできません。この作品を読んで、もし自分だったら、と考えてみてください。意外と深淵な問題がそこにあるのかもしれません。
(4)関連おすすめ作品
その世界においてある程度は魔法が体系化されているものの、試行錯誤しながら「未発見」の魔法の仕組みを解明してゆく異世界転生ファンタジーという点において、唐澤和希『転生少女の履歴書』(ヒーロー文庫、2019年8月現在既刊8巻)を関連おすすめ作品として挙げさせてもらいます。この作品については過去に紹介記事を書いたのでそちらも参照してみてください!