2020年4月に読んだ小説・ライト文芸・ラノベ
2020年4月に読んだ小説(一般文芸・ライト文芸・ライトノベル)を、あらすじと一言コメントを付して紹介します(ネタバレなし)。
※初読の作品のみ列挙しています。再読したものは含まれていません。
※女性が主人公(物語の語り手)の作品には「★」を付しています。
一般文芸
『幽霊たちの不在証明』(朝永理人)
羊毛高校文化祭の二日目の午後、二年二組のお化け屋敷で、首吊り幽霊に扮していたクラス委員・旭川明日葉の絞殺死体が発見された。彼女に想いを寄せていた「僕」こと閑寺尚は、打ちひしがれながらもその仇を討つべく、クラスメイトの甲森瑠璃子とともに調査に乗り出す。幽霊役の彼女はいつ本物の死体になったのか。分刻みの“時間当て”で犯人を絞り込む本格フーダニット・パズラーの傑作! 2020年第18回『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作。
上述の通り、この作品はこのミス受賞作で、正統派の本格ミステリ(トリック(謎)とロジック(謎解き)に重点が置かれているミステリー)です。
ラノベやライト文芸に負けず劣らず主人公・閑寺尚や探偵役・甲森瑠璃子のキャラが立っていました。主人公の想い人である旭川明日葉が殺されてからは、その死に対するショックと甲森の生来の陰気さと人見知りで、物語は暗めの雰囲気です。しかし、それでも2人とも何らかの形で青春しているし、随所にギャグ要素が散りばめられているんだから、上手い構成というほかはありません。青春本格ミステリの一級品です。
『機長、事件です!』(秋吉理香子)
若きパイロット間宮治郎は、国際線デビューに胸を膨らませていた。だが初フライトを共にすることになったのは、厳しくて毒舌、変わり者で有名な美貌の女性機長、氷室翼だった。成田・パリ間の旅程ではトラブルが続発。往路では婚約指輪の消失事件が起こり、ステイ先では怪しげな連中に迫られ、ついには殺人事件にまで遭遇してしまう。氷室は持ち前の頭脳と観察力で事件の真相に迫るが!? ポップなトラベル&お仕事ミステリ!
著者の秋吉理香子氏といえば陰鬱な雰囲気のミステリーばかりを書いているイメージだったのですが、こんなポップなキャラクター重視のミステリーも書いているとは思いませんでした。
この作品は旅客機パイロットのお仕事小説でもあるのですが、なんと言ってもそのディティールに説得力がありました。小説末尾の謝辞を見てみれば、著者の両親と姉がパイロットでそこから取材していたようで、飛行機を操縦する様にはリアリティが溢れていました。
『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました』(日向奈くらら)
二年C組の問題の多さには、呆れますね―教頭の言葉が突き刺さる。また私のクラスの生徒が行方不明になった。これでもう4人だ。私はその失踪にあの子が関係しているのではないかと恐れている。宮田知江。ある時から急に暗い目をするようになった女生徒だ。私は彼女の目が恐い。でもそんなことは、これから始まる惨劇に比べれば些細なこと。なぜなら私は、夜の教室で生徒24人が死ぬ光景を目にすることになるのだから…。
定期的にホラー小説が読みたくなり、贔屓のイラストレーターである田中寛崇氏が表紙イラストを担当していたこともあってこの作品を手に取りました。
ジャンルとしては、24人の死にざまを見ればスプラッターですし、後半の展開を見ればサイコホラーになるのでしょうか。
『震える教室』(近藤史恵)★
歴史あるお嬢様学校、凰西学園に入学した真矢は、マイペースな花音と友達になる。ある日、「幽霊が出る」という噂のあるピアノ練習室で、二人は宙に浮かぶ血まみれの手を見てしまうのだが……。
こちらもホラー小説(連作短編集)です。ジャンルとしては、ミステリー要素のあるオカルトホラーです。主人公の真矢と友人の花音はなぜか触れ合うと幽霊が見えてしまうという設定のため、百合作品でもあるのですが。
それにしても、それぞれの幽霊についてその存在理由を解き明かすというミステリー仕立てなのが嬉しい作品でした。
ライト文芸
『いのしかちょうをこっそり視ている卯月ちゃん』(鳳乃一真)★
逆槻卯月は奇妙な女子高生である。クラスメイトとは交流せず、放課後になっても一時間は席から動かない。バレないように廊下をひょこひょこ移動し、使われていない部室に侵入。そこで卯月が一人でしていることは、隠し持っているスマホの中に残った、ある3人のLINE記録を読み返し、クスクスしながら観察日記をつけること。卯月がそんなことをするのには理由があって———他人が決めた当たり前なんて受け入れない。これは逆槻卯月という少女がたった一人でこっそりと繰り広げる反逆の物語である。
LINE文庫ならではと言うべきか、本文の一部はLINEのトーク画面を読む仕様になっています(そのため横読み作品です)。
読み始めの序盤は、主人公はなぜか他人のスマホのLINEのトークを読み返していて、「なんだこれ?」状態なのですが、主人公の事情が徐々に明かされてくると続きが気になってしょうがなくなります。
『横濱SIKTH』(ニリツ)★
これは、横濱で暮らす一人の『異能力者』の少女と、『掃除屋』達の物語。横濱――巷では表立ってはいないが『SIKTH=シックス』と呼ばれる異能力者達が確認され、事件が多発。最近では行方不明者まで出ているという荒様だ。そこには横濱の裏案件を「掃除」する元刑事を始め、蹴殺脳筋マシーンの男、カタコトの褐色ムスメ、詐称と女装が得意な美少年とそのメンヘラ保護者。そんな癖の強い奴らが揃う街で、女子校生の城黒セカイは今日も普通に生きている。たとえ自身が異能のシックスだとしても……。果たしてセカイが備える正しさは、この狂った世界の中で正しい武器となるのか、あるいは――
ライト文芸レーベルにもかかわらずラノベかと紛うほどに巻頭にカラーページがありますが、著者もイラストレーターもニリツ氏が担当している作品です。ジャンルとしては、異能バトルものです。
『ミウ -skeleton in the closet-』(乙野四方字)★
就職を前に何も変わらない灰色の日々。あたしは何気なく中学の卒業文集を開き、『母校のとある教室にいじめの告発ノートが隠されている』という作文を見つける。それを書いた元同級生が自殺したと知ったあたしは、その子のSNSのパスワードを暴いてログインし、その子の名でSNSを再開した。数日後、別の元同級生が謎の死を遂げる。灰色の日々に、何かが始まった――。
ジャンルとしては、百合要素のあるミステリーです。元同級生の作文を見つけてから始まってしまった怒涛のミステリー展開には引き込まれました。
ライトノベル
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…9』(山口悟)★
乙女ゲームの悪役令嬢カタリナに転生した私。魔法学園を卒業し魔法省で地道に働きはじめたはずが、最悪な未来が待つゲーム続編は進行中!? 回避方法がわからないまま、子供の誘拐事件の捜査のため、港街の食堂で給仕係として働くことになったのだけど…。任務では攻略対象のソラとマリアとの3人行動で、2人のお邪魔虫的立場に――って、ゲームの悪役と同じ立ち位置では!? これってまずくない!? 大人気破滅回避ラブコメディ★第9弾!!
現在放送中のアニメの原作ラノベ最新刊です。カタリナが魔法学園を卒業し魔法省で働き始めてからは、カタリナの傍にいるのはいつもマリア。やはり悪役令嬢モノでは「ヒロイン×悪役令嬢」の組み合わせがベストですよね。ゲーム1作目の登場人物も、2作目の攻略対象たちの勢いに押され気味です。そういえば、Twitter上で見つけたこのファンアート、素敵じゃないですか?
ヒロイン×悪役令嬢 pic.twitter.com/zyJdFWbCQJ
— しゃけ沢は死にました (@shakerizero) 2020年4月12日
『スイレン・グラフティ1~2』(世津路章)★
はじめまして! わたしは、池野彗花。この春から、高校一年生です。お母さんが働いてるから、おうちの中のことと弟・妹のお世話はわたしの仕事なんだ。今一番気になっているのは隣の席の庭上蓮さんのコト。クラスじゃ不良だヤンキーだって怖がられてるけど、なーんかそうは思えなくて……。だけどある日、偶然彼女の秘密を知って一緒に住むことになっちゃって!? 「誰にもアタシが漫画描いてるってバラすなよ。バラしたらコロス」 わたしの家を作業場にして、新人賞を目指して頑張る彼女を、ささやかながら応援してます。ちょっぴり怖いけど、悪い人じゃないって知ってるから。そんなこんなで、わたしとあの娘のナイショな青春グラフティ、はじまります!
少なくともここ半年の中で一番の百合作品です。あと、クリエイター系のラノベは初めて読んだのでその点も楽しめました。
それにしても、この作品の中で一番良かったのは主人公の彗花のキャラクターです。ラノベや漫画やアニメでは珍しいお節介長女キャラなのですが、非常に魅力的でした。はめふらのマリアを彷彿させるクセっ毛なのも可愛いですよね。続刊を非常に期待しています!
『超高度かわいい諜報戦』(方波見咲)
「凡田君と、もっと仲良くなりたいの!」 高校生にして秘密諜報機関を指揮する天才少女、橘黒姫は初恋の真っ最中。好きな人のために組織の力を濫用し、超高度な諜報技術で接触を図る。「……誰かに監視されている?」それに勘づいたのは初恋相手・凡田純一。一見影の薄い平凡な男子生徒の彼は、実はある秘密を持っていて……? 「私が……凡田君と友達になるの!?」 そんな中、組織の命令で凡田と接触することになった暗殺少女・芹沢明希星。友達の作り方なんて知らない彼女の行動は、とんでもない波乱を巻き起こす! 高校生の三角関係に裏社会の命運が揺るがされていく超本格学園スパイ・ラブコメ、開幕。
面白かった……のですが、タイトルもイラスト(特にヒロイン)も基本コンセプトも、やはり「かぐや様は告らせたい 天才達の恋愛頭脳戦」を想起せずにはいられませんでした。とは言っても、もちろんストーリーやキャラ設定は異なりますので、十分楽しめます。
凡田くんの持っている秘密については、これがなかった方が良いと感じた読者もいるかもしれませんね。
『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?』(紙城境介)
高校卒業から5年間、妹に監禁されていた俺は、やっとの思いで逃げ出した矢先にトラックに轢かれ、異世界に転生。悪魔のごとき妹からようやく解放された……。新しい、自由な世界での名はジャック。貴族の一人息子として、愛に溢れた両親と優しいメイドのアネリに囲まれ、幸せに満ちた、新たな人生が始まった――はずだった。そう、一緒に死んだ妹も、この世界に転生しているのだ。名前も容姿も変えたあいつが、どこに潜んでいるかはわからない。だが、今の俺には神様にもらった、世界最強クラスの力がある。この能力であいつを退け、俺は今度こそ、俺の幸せと、周りの人たちを守ってみせる――!
ヤンデレヒロインのラノベは初めて読んだ気がしますが、なんだかハマリそうです。が、前半の緊張感のまま後半を読了すると肩すかしを食らったような気分になりました。次巻以降に期待せよ、ということなのでしょうか。
『私、聖女様じゃありませんよ!?』(月島秀一)★
平凡な村娘として幸せに暮らしていた少女ティア。純朴な彼女はある日、異世界に召喚されてしまう。なんとティアは異世界の覇権を争う戦い『聖女大戦』に『聖女』として召喚されたのだった!「私、聖女様じゃありません!」と必死に訴えるティアだったが、実は彼女はレベル9999の最強少女であり、レベル上限が100しかない異世界では、正真正銘の無敵聖女様だった……! 襲い来る他国の聖女を圧倒的パワーで退けるどころか、規格外のスキルで仲間にしたり、自分を召喚した皇帝ユフィと仲良くなって異世界を満喫していって……! 目指すは聖女大戦の完全勝利! そしてお家に帰ること! 純朴聖女様のほっこり無双、開幕です!
百合ファンタジーです。聖女大戦のさなかのまったりとした日常描写には緊張感がないとは思ったものの、百合が優先されたようですね。
『底辺領主の勘違い英雄譚』(馬路まんじ)
犯罪者や異教徒が跋扈する荒廃した最悪の土地・ベイバロン領。若くして家督を継いで領主となったリゼは、凶悪な領民に殺されないため、一つの決断を下す。それは――領民に媚びへつらうこと! “王族や貴族にのみ与えられた神の力”とされる魔法を領民のために使いまくれば、幸せな暮らしを手に入れられる! ……はずが、いつの間にか領民に「国家への反逆者」だと祭り上げられ――!? 「「「さぁリゼ様、邪悪なる国王を討ち取りましょう!」」」 「(どうしてこうなった!?)」 浅慮さで右に出るものはいない、考えなし領主による最悪の領地運営譚、開幕!
主人公は領民に媚びへつらうために魔法を領民のために使用するのですが、それがなぜか変な方向に転がって行き、領民からは救世主だとか国王への反旗を翻すリーダーだとか勘違いされてゆきます。非常に楽しめる勘違いコメディ・ファンタジーで、本編32話構成なのでテンポ良く読み進められます。続刊希望!
以上が2020年4月に読んだ本です。
そういえば、3月くらいから、Twitter上で読了報告をするようになりました。作家は結構な割合でエゴサーチしているみたいなので(著者から♡が付けられることがあります)、感想までは書かなくともタイトル・著者名を読了報告するだけでも作家にポジティブな影響があるのではないかなぁと思っているところです。
ここ数日で読んだ本
— irohat (@irohat1) 2020年4月27日
・紙城境介『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?』MF文庫J
・馬路まんじ『底辺領主の勘違い英雄譚』オーバーラップ文庫
・月島秀一『私、聖女様じゃありませんよ!?』ダッシュエックス文庫
・日向奈くらら『私のクラスの生徒が、一晩で24人死にました』角川ホラー文庫
ちなみに、3月に読んだ本はこちらから。
2020年3月に読んだ小説・ライト文芸・ライトノベルのおすすめ
この記事では、2020年3月に読んだ小説(一般文芸)・ライト文芸(キャラクター小説)・ライトノベルを、あらすじと一言コメントを付して紹介します。
※女性が主人公(語り手)の作品には「★」を付しています。
- 一般文芸
- ライト文芸
- ライトノベル
- 『プロペラオペラ1~2』(犬村小六)
- 『最低皇子たちによる皇位争「譲」戦』(榎本快晴)
- 『デスニードラウンド1~3』(アサウラ)★
- 『王女殿下はお怒りのようです1~3』(八ツ橋皓)★
- 『最強の傭兵少女の学園生活 少女と少女、邂逅する』(笹塔五郎)★
- 『転生特典でコミュ力に全振りしたわたし最強でかわいい!』(神庭武敏)★
- 『転生従者の悪政改革録1~3』(語部マサユキ)
- 『所持金ゼロの彼が資産家令嬢から求められるようになった理由』(五木友人)
- 『姫ゴトノ色』(界達かたる)
- 『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)1~2』(黒留ハガネ)
- 『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(みかみてれん)★
- 『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』(みかみてれん)★
- 『こわれたせかいの むこうがわ 少女たちのディストピア生存術』(陸道烈火)★
- 『住職探偵』(建待吉作)
一般文芸
『ヅカメン!お父ちゃんたちの宝塚』(宮津大蔵)
「女なのに男の格好をして…一体どこがいいんやろ?」鉄道員一筋だった多々良源蔵は定年直前、それまで全く関心のなかった宝塚歌劇団の“生徒監”に任命された。突如娘たちの“お父ちゃん”となったことに戸惑いつつも真摯に向き合ううち、その眼差しに変化が―。大道具、プロデューサー、演出、父兄…タカラヅカを支える男たち=ヅカメンが織りなす、七つの奮闘物語。
当ブログ激推し漫画『かげきしょうじょ!!』の読者ならきっと楽しめる小説です。
『臨床探偵と消えた脳病変』(浅ノ宮遼)
医科大学の脳外科臨床講義初日、初老の講師は意外な課題を学生に投げかける。患者の脳にあった病変が消えた、その理由を正解できた者には試験で50点を加点するという。正解に辿り着けない学生たちの中でただ一人、西丸豊が真相を導き出す―。第11回ミステリーズ! 新人賞受賞作「消えた脳病変」他、臨床医師として活躍する後の西丸を描いた連作集。
表題作「消えた脳病変」は、新人賞受賞作なだけあって質の高いミステリとなっています。医師の責務・倫理が説かれているところも良かったですね。
『高校入試』(湊かなえ)
県下有数の公立進学校・橘第一高校の入試前日。新任教師・春山杏子は教室の黒板に「入試をぶっつぶす!」と書かれた貼り紙を見つける。迎えた入試当日。試験内容がネット掲示板に次々と実況中継されていく。遅れる学校側の対応、保護者からの糾弾、受験生たちの疑心。杏子たち教員が事件解明のため奔走するが……。誰が嘘をついているのか? 入試にかかわる全員が容疑者? 人間の本性をえぐり出した、湊ミステリの真骨頂!
元々は湊かなえ氏脚本のドラマを小説化したものです。ドラマ化が前提のためか、小説版では登場人物が覚えにくいので、ドラマを見た方が良いかもしれません。
『宝の地図をみつけたら』(大崎梢)
小学生の頃、祖母からこっそり手に入れた「金塊が眠る幻の村」の地図。それは晶良と伯斗の友情の証、そして秘密の冒険の始まりだった。「探しに行かないか、昔みたいにふたりで」。渋々と宝探しを再開する晶良だったが、直後、伯斗の消息が途絶えてしまう。代わりに“お宝”を狙うヤバイ連中が次々に現れて…!? 手に汗握る“埋蔵金”ミステリー!
いわゆる冒険小説です。「埋蔵金」「隠れ里」「冒険」などがお好きな場合にはお勧めします。
『盤上の敵』(北村薫)
我が家に猟銃を持った殺人犯が立てこもり、妻・友貴子が人質にされた。警察とワイドショーのカメラに包囲され、「公然の密室」と化したマイホーム!末永純一は妻を無事に救出するため、警察を出し抜き犯人と交渉を始める。はたして純一は犯人に王手をかけることができるのか? 誰もが驚く北村マジック。
終盤の二転三転する真相の展開には驚きました。北村ミステリーの真骨頂の一つです。
『復讐教室 連鎖』(山崎烏)
ある晩、中学3年生の愛川広樹は、目の前で恋人の中野美幸をレイプされた。数日後、美幸は自殺する。周囲から“恋人を売った”と責められ、失意のまま高校に入学した広樹は、美幸をレイプした犯人が元クラスメイトだと知る。高校で出会った少女・赤嶺由奈とともに、広樹は元クラスメイトへの復讐を開始した―。
第1作『復讐教室』に引き続き、どちらかというと画面映えする作品です。実際、コミカライズもなされているようです。
『彼女は死んでも治らない』(大澤めぐみ)★
沙紀ちゃんはいつも殺されがちな最高にかわいい女の子。わたしは普通じゃないレベルで彼女のことが好きだから、凶悪な犯人をなんどでも見つけ出してやる!と、四六時中息巻く神野羊子は、高校に入学早々、校内で蓮見沙紀の死体を発見。彼女の命を救うため、すかさずお得意の推理を巡らせる―。個性的なキャラクターと唯一無二の文体が織りなす超絶コージーミステリー!
軽妙な語り口は癖になります。
「マツリカ」シリーズ(相沢沙呼)
柴山祐希、高校1年。クラスに居場所を見付けられず、冴えない学校生活を送っていた。そんな彼の毎日が、学校近くの廃墟に住む女子高生マツリカとの出会いで一変する。「柴犬」と呼ばれパシリ扱いされつつも、学校の謎を解明するため、他人と関わることになる祐希。逃げないでいるのは難しいが、本当は逃げる必要なんてないのかもしれない…何かが変わり始めたとき、新たな事件が起こり!?やみつき必至の青春ミステリ。
※上記あらすじは第1作『マツリカ・マジョルカ』のもの。第2作『マツリカ・マハリタ』、第3作『マツリカ・マトリョシカ』と続く。
ドS女子高生探偵・マツリカとその飼い犬のドM男子高校生・柴山祐希による「日常の謎」学園ミステリーです。祐希が物語の語り手なのですが、かなり深く内面描写がなされていて、少し耽美的です。エスっ気のある女性、エムっ気のある男性、女の子の太腿が好きな人は読むべきでしょうね。
第1作・第2作は連作短編集でしたが、第3作は「日常の謎」にもかかわらず長編、しかも第18回本格ミステリ大賞候補作にノミネートされるほどの完成度を誇っています。
ライト文芸
『レールアテンダントガール 車内販売にまいりました!』(豊田巧)★
念願叶って、新幹線の車内販売を担当するJCS(ジャパンカフェテリアサービス)に就職した木古内七海。彼女の夢は、特別車両であるグランクラスの専属アテンダントになること! とはいえ、新米アテンダントの七海にとってそれはまだまだ遠い先の話で、先輩や同期、周囲の人たちに支えられつつ、なんとか日々の業務をこなすのに精一杯。車内で出会うお客様も千差万別で、修学旅行生、出張する会社員、そして何やら怪しい集団――!? 業務にハプニングはつきもの……だけど事件はご勘弁ください! 鉄道エンタメ小説の第一人者が贈る、読むと元気になるお仕事小説。
新幹線の車内販売のお仕事小説です。この本を読んだら、新幹線の車内販売を利用したくなりました。
ライトノベル
『プロペラオペラ1~2』(犬村小六)
極東の島国・日之雄。その皇家第一王女イザヤ18歳。彼女は、重雷装飛行駆逐艦「井吹」の艦長である。もちろん乗組員全員彼女の大ファン! そんな「井吹」に突然部下として乗り込んできたのは、主人公クロト。皇族傍系黒之家の息子クロトはイザヤとは幼なじみだったが、ある日、彼女に対し最っ低の事件を起こして皇籍剥奪、敵国ガメリア合衆国へと逃亡したのであった。お前、どの面下げて!? しかしクロトは言い切る、「俺はガメリアを牛耳る怪物から日之雄を守りに帰ってきた!」犬村小六の「恋と空戦のファンタジー」堂々開幕!!
空戦スチームパンク作品です。飛行艦による空戦が見どころの一つなので、是非映像化して欲しいですね!
『最低皇子たちによる皇位争「譲」戦』(榎本快晴)
望みはただ一つ、働きたくない。皇位の『譲り合い』勃発!ニート気質の第四皇子・四玄は、ある日いきなり次期皇帝の指名を受けてしまう。やる気のない彼に指名が回ってきた理由はごく単純―他の皇子たちもまた、クズ揃いだったのである。街頭露出行為に走る者、売国行為を仄めかす者、仮病で血を吐く者。卑劣な策略に出し抜かれ、四玄はあれよあれよという間に次期皇帝の筆頭候補へと追い込まれてしまう。そんな中で四玄が打った逆転の秘策は『城下で拾ってきた少女を第五皇子にでっち上げる』というもので―!?バカしかいない新感覚異世界コメディ、開幕!
同時期に同レーベルから出版された「皇位争奪戦を裏から操ってます」系の方は、「いかにも」な感じがして手が伸びなかったのですが、こういうコメディ路線だと嬉しいですね。期待に違わず面白かったです! 続編期待!!
『デスニードラウンド1~3』(アサウラ)★
多額の借金を持つ女子高生のユリは返済のために、銃を持ち、己の命をリスクに晒す……そんな危険な傭兵稼業に手を出した。彼女は合法・非合法を問わず危険な仕事を請け負う「死に損ない」ばかりの松倉チームで仕事を始めるが、なぜか連れて行かれたのは都内のバーガーショップ。「こ、これ、ヤバくないですか!? 超ヤバイですよね!?」 ユリの初仕事は、なんとバーガーショップのマスコットキャラクターを襲撃することだった…! 不可思議な仕事依頼をきっかけに、銃弾と血と笑い声が飛び交う常軌を逸した夜が始まる──ユリは未来を切り開くために戦い抜けるのか!?
作者の銃火器好きが伝わってきます。ファンタジーでも、(たぶん)異能モノでもなく、銃火器と肉体で戦うのは好きですね。あと、訴えられるかもしれないレベルのキャラクターをモチーフにした敵役が登場するのも良いですね!
『王女殿下はお怒りのようです1~3』(八ツ橋皓)★
王女であり最強の魔術師のレティシエルは、戦争によって命を落とし、千年後の世界へと転生した。彼女は魔力がないため周囲から無能令嬢扱いされるが、レティシエルの“魔術”は使えて拍子抜け。その後学園でレティシエルは、千年後の“魔術”を目の当たりにし―そのお粗末さに激怒した!我慢ならないレティシエルが見せた“魔術”は学園を震撼させ、やがて国王の知るところとなるが、レティシエルは“魔術”の研究に夢中で全く気付かず―!? 前世の伴侶によく似た少年・ジークと落ちこぼれの令嬢・ミランダレットを巻き込んで、生まれ変わった王女殿下は我が道を突き進む!常識外れの最強魔術譚、開幕!!
女性主人公モノの学園魔法ファンタジーが読みたい方にはお勧めです。
『最強の傭兵少女の学園生活 少女と少女、邂逅する』(笹塔五郎)★
伝説の傭兵エインズ・ワーカー。彼には、拾い育てた娘同然の傭兵少女―シエラという子がいた。…なのだが―、「俺は傭兵を引退する」エインズの突然の引退宣言。戦場以外の世界を知らないシエラは、エインズの言いつけで王都の学園に単身通うことになる。傭兵の経歴を隠す生活は窮屈だったが、シエラは孤独な貴族令嬢のアルナと出会い、友情を育む。しかし王位継承争いにアルナが巻き込まれ、暗殺者の手が迫ったことで事態は一変。アルナを守るため、シエラはエインズ譲りの最強の力を振るうことを決意する。世間知らずの最強傭兵少女が繰り広げる、ガールズバトルファンタジー!堂々開幕!!
百合に分類されるガール・ミーツ・ガール作品です。
『転生特典でコミュ力に全振りしたわたし最強でかわいい!』(神庭武敏)★
―今度こそ友達を作りたい!そんな想いを胸に命を落とした超コミュ障は、異世界で死にかけの美少女・エリシアとして転生!そして選んだ転生特典は、天下無敵のコミュニケーション能力。えっ、コミュ力って魔道具や大気中の魔素とも仲良くなれんの?魔法の才能を認められ王都の魔法学園に通ったら、すったもんだの末に良家のお嬢様たちとも仲良しになれました。念願のリア充ライフを謳歌するもくだらない貴族学校から逃げて今度は冒険者生活スタート!? これは、心から友達が欲しいと願った女の子が、二度目の人生を頑張る物語―。第6回集英社ライトノベル新人賞・特別賞受賞作品!
ハイテンションな筆致がクセになる、女性主人公モノの異世界転生ファンタジーです。アニメ化もされた『私、能力は平均値でって言ったよね!?』が好きな人はこの作品も気に入ると思います。
『転生従者の悪政改革録1~3』(語部マサユキ)
大好きな七海先輩との下校中、異世界転生してしまった勇利。没落貴族の跡取りとして、仕えるワガママ令嬢に会いに行くと―「申し訳ありませんでした!」と華麗な土下座をキメられた。普段と様子の違う令嬢に戸惑う勇利は、ふとした仕草から彼女が同じく転生した七海先輩だと気づく。元の世界に戻るには令嬢(=先輩)が婚約or悪徳貴族がはびこる王宮での成り上がり!? 先輩の婚約回避のため、悪役令嬢とはじめる異世界改革!!
残念ながら第3巻で打ち切りのようです。
『所持金ゼロの彼が資産家令嬢から求められるようになった理由』(五木友人)
貧乏生活を送る高校生・天満清太郎が出会ったのはお金持ちJKの美少女探偵!? ひょんなことから美少女の助手となった清太郎は、彼女のお屋敷に居候することに。お嬢様と一つ屋根の下、二人の仲は急接近していくかと思いきや―彼女が求めているのは、彼の貧乏に隠された力だった!? しかし二人で事件を追ううちに、いつしか清太郎自身もお嬢様に求められていくようになって―! 「アンタの貧乏全部ひっくるめて、好きよ、清太郎!」所持金ゼロの高校生が資産家令嬢に愛されまくる!貧乏を幸せに変えていく新感覚の身分差ラブコメディ! 第24回スニーカー大賞金賞受賞作。
あらすじでは触れられていませんが、主人公・天満清太郎の家には貧乏神が憑りついており、その貧乏神というのが、いわゆる「ロリババア」に分類される属性を持っています。
この作品の語り手は、清太郎とこの貧乏神なのですが、やや古風な語り口がクセになります(もちろん読みやすさは失われていません)。私が大好きなタイプです。続編希望!!
『姫ゴトノ色』(界達かたる)
高校入学を機に、豪奢な屋敷・姫裏家にて住み込みのアルバイトを始めた僕。和服メイドのイグルミさんによると、屋敷には三姉妹のお嬢様たちがいるらしい。でも長女は不在で次女はなぜか行方不明、三女の姫裏ねむは天使のような見た目なのにわがまま放題。だがのちに、ねむが自分の部屋から出ることができない少女であると知る。その理由は――彼女の視界が、"血色"に染まっているから……?
魔法も異能も登場しない、現代日本を舞台とするミステリーです。
『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)1~2』(黒留ハガネ)
ある日突然、超能力に目覚めた佐護杵光。そしてその力を狙う悪の組織が、突如彼の前に現れ―なかった。隣の家の幼馴染が実は退魔師の子孫だと発覚し―なかった! 謎の美少女が転入し―なかった!! 平和過ぎる日常に逆ギレした佐護は、自分自身が秘密結社になる事を決意する。日本中を探して見つけた有能美女・鏑木栞を副官に引き入れ秘密結社「天照」を創設、資金調達事業も成功。蓮見燈華、高橋翔太という新メンバーも加えたところ、ついに世界を滅ぼす魔王が現れ―なかった! そこで佐護は、とある計画を思いつくことになり…? ひとりの最強能力者が紡ぐ、圧倒的マッチポンプギャグコメディ、開幕!!
超能力に目覚めたにもかかわらずそれを使って活躍する舞台がないから、自分自身で秘密結社のボス(ヒーロー役)と世界の闇(悪役)を兼ねて、非日常を望む少年少女を秘密結社に引き入れて裏事情を知らせないままヒーローになってもらう、というマッチポンプコメディ作品です。超面白いにもかかわらず、第2巻で打ち切りとなってしまったのは非常に残念です。
『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』(みかみてれん)★
ぼっちな中学時代を捨て、高校デビューしたわたし・甘織れな子。でも、根が陰キャだから憧れの陽キャ生活に馴染めず、窒息寸前! そんなとき、我が校のスーパースター・王塚真唯とひょんなことからお互いの悩みを共有してヒミツの友達に。真唯がいれば毎日がんばれそう―と思ったはずが! 「君に、恋をしてしまったんだ」「待って!友達どこいった?」恋人なんて不安定な関係、ムリ!わたしは最高の友達を作って高校生活を楽しみたいの! でも真唯も恋心を諦めきれないようで―。「恋人と親友のどちらが私たちにふさわしいか、勝負で決めよう」こうして、ふたりの在り方を懸けたノンストップ・ラブコメディが幕を開けたのだった!
濃厚な百合作品です。真唯のキャラにクセはありますが、真正面から女の子同士の恋愛が描かれている王道百合作品です。
『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』(みかみてれん)★
「女同士なんてありえない!…はずなのに!!」 モテ系JKの榊原鞠佳は、ある日、クラスのクールな美少女・不破絢に、突然百万円を突きつけられた。その日から始まる、放課後の○○タイム。頭を優しく撫でたり手を握ったりするところから始まる絢の行動は、日に日にエスカレート!! 果たして鞠佳は、百日目まで絢に「ありえない」と言い張ることができるのか―(できない)。屈服確定!?敗北必至!?鞠佳の百日を巡るガールズラブコメディ!!
同じくみかみてれん氏による濃厚な百合作品です。「わたなれ」に比べると、わりと身体的接触を伴う甘美な描写がありますので、ご注意ください(?)
『こわれたせかいの むこうがわ 少女たちのディストピア生存術』(陸道烈火)★
“フウ”―最下層の孤独少女。友は小鳥のアサと、ジャンク屋の片隅で見つけた、古いラジオのみ。“カザクラ”―マイペースな腹ぺこガール。出会った瞬間からフウを「お兄ちゃん」と慕い、陽気な笑顔でつきまとう。そんな二人が出会ったここは、世界にただ一つ残るヒトの国。異形の怪物たちが支配する果てなき砂漠の真ん中で、ヒトビトは日々の貧苦を喜びとし、神の化身たる王のために生きねばならない―。だが、彼女たちが知る世界は、全部大ウソだった。たくさんの知恵と一握りの勇気を胸に。今、“世界一ヘヴィな脱出劇”が始まる。第26回電撃小説大賞“銀賞”受賞作。風の名を持つ、二人の少女の物語。
やや近未来SFの要素もあるディストピア百合作品です。第26回電撃小説大賞で大賞を受賞した二月公『声優ラジオのウラオモテ』(電撃文庫)と同じく、ラジオが物語の重要なツールになっているのが嬉しいですね。続編希望!!
『住職探偵』(建待吉作)
探偵・笹峰誓之助は住職の不貞を暴き別れるよう警告するが、逆に自身の過去をバラまかれ、探偵会社から自主退職を促されてしまう。さらに住職は本山に手を回し、依頼人であった妻・受海を隔絶された山奥の寺に異動するよう辞令を出させた。受海には難病を抱えた一人息子がおり、大きな病院もない山奥での生活は困難だった。妻と実の息子への非情な仕打ちに憤った笹峰は、僧籍に入っていた過去の立場から、受海の代務者として奥世郷に向かうことになる。そこで笹峰は、独自の信仰を持つ「厖蔵宗」の存在を知らされる。笹峰は信仰深い郷に紛れ込む異分子、厖蔵宗の正体を暴こうとするのだが―。限界集落で起こる連続猟奇殺人の真相とは!?
ラノベレーベルから刊行されていますが、どちらかというと一般文芸やライト文芸に分類されるべき作品かもしれません(挿絵もありません)。
独自の宗派が信仰されている隠れ里を舞台とするサスペンス・ミステリーです。ワクワクする設定ではないですか? 作者が現役住職という異色の作品で、作中で語られる宗教観も見どころです(説教臭くはないですよ!)。あと、あのラストは作者の性癖でしょうか?
というわけで、先月は読んだ本の数が多かったので気まぐれに紹介してみました。気が向いたらまたするかもしれません。
追記:4月に読んだ本の報告記事はこちらから↓
アニメ「俺を好きなのはお前だけかよ」第9話のちょっとした感想
アニメ「俺を好きなのはお前だけかよ」については感想記事を書いてこなかったのですが、第9話については特に思うことがあったのでここに記すことにします。
※筆者は原作未読です。誤解があったらごめんなさい。
※筆者の人間観が反映されていますのでご留意ください。
(1)パンジーとジョーロ
まずは、汚損してしまった高額の本をバイトによって賠償しようとするジョーロの姿勢をパンジーが厳しく指弾したシーンを振り返りましょう。
パンジー「最低の理由で続けるアルバイトなんて文句しかないわ」
ジョーロ「俺が何のためにバイトしてると……?」
パンジー「自分の立場を守るためよね」
ジョーロ「な、なんのことだよ……?」
パンジー「甲子園を目指すサンちゃん、テニス部のエースのヒマワリ、生徒会長のコスモス先輩、お店を切り盛りするツバキ、みんなと比べて劣等感を持つあなたは、どうにかこの件だけは自力で解決したかった。だから今回のあなたの行動は誰かへの優しさではないわ。善意の皮を被った自己満足。私が世界で一番嫌いな感情よ」
ジョーロ「ざけんな! だとしてもテメーにとやかく言われる筋合いはねえ!」
パンジー「俺にどうしろってんだよ……俺に何がある? 俺には何もねぇ……何も、ねぇんだよ……」
パンジー「私があるわ。ジョーロ君のことが大好きで大好きで仕方ない私があるわ」
ジョーロ「んなもんは……」
パンジー「大丈夫、大丈夫よ、ジョーロ君。あなたは十分立派な人よ」
ジョーロ「パンジー……テメーはもう失せろ」
パンジーはもちろん、ジョーロをストーカーするなど、これまで常人とは一線を画す人物として描かれてきましたが、ここにきて彼女の性格の「歪み」が一気に見えてきたような気がします。以下、3点にわたって具体的に記してゆきます。
1.賠償を固辞しようとするパンジー
まず、これは一つ前の第8話のことですが、パンジーは本を汚損してしまったジョーロの賠償を固辞しようとしていました。
一見するとこのようなパンジーの姿勢は美徳のように見えますが、「タダよりも高いものはない」という言葉があるように、負い目を感じている相手に何らかの形でその清算をさせないことは、その人に対して隠然と負い目を感じ続けさせることになります(「これまで通り図書室に通う」ことは「これまで通り」なので清算にはなりません)。そしてその人は、その負い目から、相手の要求を断りづらくなります。もしもジョーロが賠償の辞退を受け入れていたら、パンジーのジョーロに対する支配が強まったのではないでしょうか?
2.ジョーロのアルバイトの動機を非難するパンジー
サンちゃん、ヒマワリ、コスモス会長、ツバキらがそれぞれに個性(アイデンティティ)を確立している(ように見える)ことに対してジョーロが劣等感を抱き、それを克服するためにアルバイトをすることは、悪いことだとは全く思えません。
もちろん、他の誰のためでもなく、ほかならぬ自分のために行っているもの(自己満足)ですが、このような行動は一概に否定されるべきではありません。利己的行動が非難されるのは、それが他者の迷惑になるためですが、今回のジョーロのアルバイトは、普通に考えれば誰の迷惑にもなりません。迷惑を被る人をあえて挙げるとすれば、ジョーロと放課後に一緒に過ごす時間がなくなるパンジーが挙げられますが、これはもはやパンジーのわがままです。パンジーこそ、ジョーロのアイデンティティの形成を阻む利己的人物に思えてなりません。
パンジーは「今回のあなたの行動は誰かへの優しさではないわ。善意の皮を被った自己満足。私が世界で一番嫌いな感情よ」と言っています。しかし、人のあらゆる行動(とまでは言わないにしても重要な決断を伴う行動)がすべて「誰かへの優しさ」に基づかなければならないというのは、無理な話ですし、必ずしも良いことだとも思えません。そんな行動原理の人物がいたとすれば、その善意や優しさにつけ込んでその行動をコントロールしようとする人が現れてきます。まるで最近話題の「やりがい搾取」と似た構造です。パンジーはジョーロを奴隷にしたいのでしょうか?
3.ジョーロには自分がいると説くパンジー
自身の無個性に劣等感を抱くジョーロに対して、パンジーは自分がいると説きます。
アルバイトを通じてアイデンティティの形成を目指すというジョーロの動機を否定した上で、あなたが大好きな私こそがあなたのアイデンティティである、とパンジーはジョーロの心の隙間に入り込もうとしてきます。まるで洗脳です。
そもそも、自らのアイデンティティを他者の好意に依存することが健全だとは思えません。当事者同士はその時点ではその好意が変化することはないと信じているかもしれませんが、人の感情である以上、それなりの確率で裏切られる可能性があります。裏切られたときには、ひどいアイデンティティ・クライシスに陥り、心を病むのではないでしょうか。
アイデンティティはむしろ、安定性・持続性を持った関係(家族、郷土、母校など)や、個人的な成功体験(勉強、スポーツ、周りの人がやっていない仕事など)に基礎を置くべきではないでしょうか。これらは裏切ることが(ほとんど)ありません。
パンジーのような恋人未満の関係性の他者に、アイデンティティが依存するのは不健全に思われます。
(2)ジョーロの謝罪
「この間は本当に悪かった! お前に本心を言い当てられて、自分が惨めに感じて、八つ当たりをした……。それで俺なりに考えたんだ……アルバイトは続ける。負い目を無くしたいからじゃねぇ。俺がお前にちゃんと新しい本を買い直したいから」
ジョーロはパンジーにこう言って謝罪しましたが、「アルバイトは続ける。負い目を無くしたいからじゃねぇ。俺がお前にちゃんと新しい本を買い直したいから」というのは、額面通りに受け取るべき言葉ではありません。
まず、ジョーロはその前段において、自身が劣等感を抱いていること自体は本心であると認めているのです。そして、パンジーに賠償した後もバイトを続けていることからすれば、バイトの目的は、「俺がお前にちゃんと新しい本を買い直したいから」以外にもあり、それとはまさしく「劣等感を解消する」ことなのです。ジョーロはアルバイトを通じたアイデンティティ形成をなお目指しているのです。
ということは、上記のジョーロのセリフは、「アルバイトは続ける。負い目を無くしたいから(という理由だけ)じゃねぇ。俺がお前にちゃんと新しい本を買い直したいから(という理由もある)」と補足しておくべきでしょう。
(3)ツバキとジョーロ
ジョーロにバイトの早退をすすめたとき、ツバキは「今日はゆっくり休んで考えてほしいかな。自分が何のためにアルバイトするか、何を成し遂げたいかを」と言っていました。
また、祝勝会の裏側で二人はこんな会話をしていました。
ジョーロ「それに何か話があったんだろ? 俺に」
ツバキ「アルバイトを通して君は自信を持って行動できるようになった。そんな今だからこそ、僕の本当の恩返しをさせてもらおうと思ってね」
ジョーロ「いや、もう十分世話になってるし、これ以上は……」
ツバキ「ジョーロ、君はそろそろちゃんと覚悟を持った方が良いかな。転校してきた初日、ジョーロを見てて思ったんだ。君は自分には脇役がふさわしいって考えて、自分を卑下して、大事なことから目を背けてるって。君を大切に想ってる周りの気持ちから。だから決めたんだ。ジョーロは脇役なんかじゃない、みんなの中心にいる人だって覚悟をもってもらおう、それを僕の恩返しにしようってね」
ジョーロ「お前もしかして最初から……」
ツバキ「ジョーロ、みんな君が大好きだよ。君がいるからみんなが一緒にいるんだ。その気持ち、ちゃんと受け止められるかな?」
ジョーロ「そうだな……ちゃんと受け止めるよ。なんせ俺は……」(とびっきりかわいい女の子たち、頼れる親友。こんな最高の奴らと一緒に過ごす俺がモブなわけ……いや、そもそもモブなんて世界のどこにもいねーんだ)「……どこにでもいる平凡な主人公だからな!」
ツバキ「うん、大正解かな!」
アルバイト経験やツバキとのやり取りを通じて、自身がモブでないこと、モブなんて世界のどこにもいないこと、自身も主人公であることに気付いたジョーロは、他者に劣等感を抱いたり、他者に依存したりするのではなく、他者と対等な関係にある自己像=アイデンティティを形成することができました。
そして注目すべきは、ツバキの発言です。「ジョーロは脇役なんかじゃない、みんなの中心にいる人」「みんな君が大好きだよ。君がいるからみんなが一緒にいるんだ」と言っているのです。ツバキは、ジョーロについて、アルバイトをしていることだけでなく、みんなの中心的人物であることを指摘し、ジョーロにそのアイデンティティの在処を気付かせてくれています。ジョーロのアイデンティティを自身に依存させようとしたパンジーとは真逆のセリフです。
こうしてみてみると、無個性なことを劣等感として抱くジョーロに対して、その心の隙間に入り込もうとするパンジーと、ジョーロが無個性ではないことを気付かせ激励するツバキとが好対照な第9話でした。
どちらの方がジョーロにとって好ましい人物かと問われれば、一般的な感覚からすれば、もちろんツバキです。正ヒロインにふさわしいのは、パンジーではなく、ツバキではないでしょうか? いや、でも、この作品のヒロインたちは一様にどこかで失点をしているので、ツバキもその例外ではない……?
まあ、こんなことを考えたアニメ「俺を好きなのはお前だけかよ」の第9話でした。
次話の特別編「俺は丁寧に進める」というのは、「(これまでの放送を振り返ってストーリーを)丁寧に進める」だけでなく、「(作画を)丁寧に進める」ということも意味しているんでしょうか?
伊藤ヒロ『異世界誕生2006』――ライトノベルの新境地を拓いた作品を読みませんか?
この作品は、発売翌日くらいにはもう読了していたのですが、今の今まで上手く記事をまとめられませんでした。「何を書いてもネタバレになる」「とにかく読むべし」「この感情をどう表したらよいのか分からない」などの抽象的な感想が散見される中、この作品をどうおすすめすればよいのか迷ったからです。
しかし、とりあえず「このライトノベルがすごい!2020」のアンケート締切(9月23日)までには公開させた方が良いかと思い、ひとまず公開することにしました。
(1)基本情報
『異世界誕生2006』
著者:伊藤ヒロ
イラスト:やすも
レーベル:講談社ラノベ文庫(2019年9月現在既刊1巻)
ジャンル:「メタフィクション」「社会派」「遺族」「家族関係」「異世界転生」
2006年、春。小学六年の嶋田チカは、前年トラックにはねられて死んだ兄・タカシの分まで夕飯を用意する母のフミエにうんざりしていた。たいていのことは我慢できたチカだが、最近始まった母の趣味には心底困っている。フミエはPCをたどたどしく操作し、タカシが遺したプロットを元に小説を書いていた。タカシが異世界に転生し、現世での知識を武器に魔王に立ち向かうファンタジー小説だ。執筆をやめさせたいチカは、兄をはねた元運転手の片山に相談する。しかし片山はフミエの小説に魅了され、チカにある提案をする――。どことなく空虚な時代、しかし、熱い時代。混沌を極めるネットの海に、愛が、罪が、想いが寄り集まって、“異世界”が産声を上げる。
〔裏表紙より〕
(2)あらすじ
いつもだったら詳しめのあらすじ紹介を行うのですが、この作品については、上記のあらすじだけでも十分に惹きつけられるのではないかと思い、省略します。
(3)おすすめポイント――ライトノベルの可能性を広げた作品
誰でも簡単に小説を書けるようになったこの時代、作家(あるいはその卵)が不運にも亡くなってしまい、遺族が遺品の中から夢の痕跡を見つけて、その行き場のない気持ちを作品に向かわせるなんてことは、もしかしたら本当にあるのかもしれません。
この作品は、ある人物の死に対して被害者遺族と加害者がそれぞれいかに向き合うのかについて、メタフィクションという手法で書かれています。
このように「死の清算」と「メタフィクション」を見事に融合させているという点において、この作品はライトノベルの新境地を切り拓いています。
1.メタフィクションという手法について
『異世界誕生2006』は、現実世界を舞台としています。そして舞台となった年は、2006年。
2010年代における現在の流行・興隆の様子を、ゼロ年代の異世界ファンタジーを執筆する書き手の周辺を舞台としてフィードバックさせることによって、メタ的な視点から現在の異世界ファンタジーを――ときにスパイスを効かせつつ――描写・分析する様は見事です。
ゼロ年代の中でも2006年が選ばれたのは、作中でも言及がある大人気ケータイ小説『恋空』が書籍化された年だからなんでしょうか。
このように異世界ファンタジーについて描写・分析している点において、あーだこーだとこの手の議論することを好む人は、かなり楽しめる内容となっているはずです。
メタフィクションという手法が活きているのは、異世界ファンタジー批評の点だけではありません。
『異世界誕生2006』において、死んだ息子が遺したプロットをもとに小説を書くようになった母親は、精神的不安定さから、現実と虚構が、精神世界と作品世界がないまぜになってゆきます。書き手の現実が小説に織り込まれてゆく様にはゾッとせずにはいられません。メタフィクションならではの構造です。
2.死の清算について
『異世界誕生2006』は、ある人物の死に対して被害者遺族と加害者がそれぞれいかに向き合うのかという「死の清算」の物語の側面もあります。
この作品は、加害者が死とどう向き合うのか、遺族が死とどう向き合うのか、遺族の家族関係はいかにあるべきか、遺族と加害者の関係はいかにあるべきか、など、ライトノベルが通常は扱わない社会派なテーマを真正面から扱っています(とはいえ、やはりライトノベルらしく読みやすい筆致ですが)。
死んだ息子が遺したプロットをもとに母親は小説を書き、娘と加害者の協力を得てそれをネットで公開することになるのですが、物語の中盤で、息子の死や小説公開をめぐる数々の事実が発覚して以降、ストーリーは二転三転します。遺族・加害者がそれぞれよりどころとしてきた小説が不確かな存在となってゆくのです。果たして彼/彼女らに死の清算は訪れるのでしょうか――?
あともう一つ、おすすめポイントを挙げるとすれば、巻頭のカラーページです。なかなか忘れることができない衝撃のイラストが読者を待っています。
(4)この作品は人気が出るのか?
正直なところ、一般的言えば、この手のメタフィクションは人気が出るジャンルではないと思います。また、作者自身もあとがきで言及されているように、「流行りものに対するアンチテーゼ」的な要素も含まれているので、もしかしたら「流行りもの」を愛好する人は受け付けないのかもしれません(もちろん、「“ただの”アンチテーゼ」ではないのですが)。
しかし、『異世界誕生2006』は、人気が出るかどうかはともかく、広く読んでもらいたい作品なのです。どうすればこの作品の魅力が広く伝わるのでしょうか? どうすればこの作品が評価されるのでしょうか?
……なんてあれこれ考えていたら、「あとがき」にこのようなことが書かれているではありませんか!
この“異世界誕生”ですが……なんと! 続編が出るのが決定しました!
もちろん、このあとがきを書いている段階では、まだ1巻は発売前です。売り上げの数字など出ていません。
つまり講談社と担当のシゲタ編集者はなんと、ただ『面白いから』というだけの理由で2巻を書くよう言ってくださったのです。作家として、これほど幸せなことはありません。
なんと、出版社側は既に発売前の時点で、「売り上げ=人気」ではなく、「面白い=優れている」という点において、この作品を正当に評価しているではありませんか!(私なんかが言うと偉そうですが!)
ライトノベルにおいてはせいぜい2ページが相場の「あとがき」には、『異世界誕生2006』では4ページも費され、ここで著者が本作品について熱く語っています。著者・出版社のこの作品にかける熱意が伝わってくる箇所でもあります。
また、続刊については、
実は、既に原稿にとりかかっています。なかなか面白い話になりそうです。〔中略〕蛇足にならぬよう、同じ登場人物や世界観を使いながらも異なる物語を作っていく予定です。ご期待ください。
とありますが、どういうストーリーになるのか私には予想がつきません。この手の作品は続編が難しいのではと思うのですが……。とにかく期待ですね!!
(5)関連記事
実は、『異世界誕生2006』を手に取ろうと思ったのは、以下の記事を書いて公開したとろ、「伊藤ヒロみたいだ」とコメントされ気になっていたからです。異世界ファンタジーにおけるメタフィクションの可能性について色々書いていますので、気が向いたらご笑覧ください!
「異世界ファンタジー」の定義問題――転生・転移モノを異世界ファンタジーと呼ぶことは文化破壊なのか?
(1)はじめに
先日、「『異世界ファンタジー』の意味を歪めることが問題である理由(追記あり)」と題する記事(2019年8月31日付〔翌9月1日午前8時最終閲覧〕。以下、この記事を「当該記事」、当該記事の作成者〔 id:srpglove さん〕を「筆者」と呼びます)を拝読させていただきました(上記リンク参照)。
しかも、私の記事へのリンク参照もして頂きました。今まで私の記事に対して一言程度のご意見を頂くことは多々あったのですが、その短さゆえにその趣旨の読解に難儀していたところ、このような長文で、しかもその趣旨も理解しやすい形でご意見をくださりありがとうございます(もちろん私が念頭に置かれているのかは不明ですが)。
そこで、この私の記事では、(既に2016年頃に私と同様の見解がTwitter上で見られたようなので、屋上屋を架すような部分もあるかと思いますが)せっかくの機会なので当該記事を読んで考えたことを記したいと思います。
ここでは、当該記事の主張に対して、疑問点を2つほど挙げたいと思います。
①「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」にどれほどの存在意義があるのか?
②「(新たな意味での)異世界ファンタジー」は果たして文化破壊なのか?
※最初に付言しておきますが、当該記事で語られた「異世界ファンタジー」の伝統的・本来的な意味における用法の歴史それ自体については、「そんな歴史なんてなかった!」などと言って異議を唱えるつもりはありません。この点については、同時代的に読書してきたとみられる筆者の主張を信頼しています。
なお、この記事を読まれる前に上記リンクから当該記事を一読しておくことをお勧めします。
(2)疑問点①――「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」にどれほどの存在意義があるのか?
まず、私の立場を表明しておきます。
ごく最近になって新たに出てきた「異世界ファンタジー」の用法というのは簡単に言うと、「基準となる世界(多くの場合は現実に近い世界)とは別の一つないし複数の世界が登場するファンタジー」もしくは、「RPG風の職業やステータスやスキルといった概念が存在するファンタジー」ということになります。これは言うまでもなく、現在web小説およびその書籍化(ラノベ)で流行している異世界転移・転生ファンタジー作品群を想定したものです。
その背後には若い世代の、
「ファンタジーが別の世界を舞台にするのは当たり前でしょ?なのにわざわざ『異世界』って付けてるんだから、転移転生のことに決まってるじゃない」
「『伝統的なファンタジー』が舞台にしてきた世界と、現在のなろう系ファンタジーが舞台にするステータスやスキルが存在するRPG風の世界は全く質が違う。『異世界』は後者にのみ適用すべきだ」
といった認識があるようです。
〔当該記事より引用〕
とありますが、前者の「転生・転移モノ」のみを私は「異世界ファンタジー」と呼んでいます(後者の要素を持つファンタジーについては「ゲームファンタジー」という概念が適当だと考えています)。詳しくは下記記事をご覧ください。
その上で、筆者は(前後者いずれにせよ)このような「(新たな意味での)異世界ファンタジー」概念は、「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」概念とは意味するところが異なり、「異世界ファンタジー」概念を新たな用法で使うことは「異世界ファンタジー」概念の伝統的・本来的な用法を無視した文化破壊行為だと主張されています。
それでは、この筆者は、「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」をどのように定義しているのでしょうか?
「異世界ファンタジー」は伝統的に、基準世界、転移転生、PRG要素の有無を問わず、この宇宙・この地球とは別の世界を舞台とするほぼ全てのファンタジーを指してきた言葉です。
〔当該記事より引用〕
ここで、このような「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」の名称の存在意義について疑問がわいてきます。
というのも、このような「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」と「ハイ・ファンタジー」の関係性について、両者はその意味するところが重複しているのではないでしょうか?
筆者の「ハイ・ファンタジー」の定義が分からないので確定的なことは言えませんが、「この宇宙・この地球とは別の世界を舞台とする」という要素からすれば、筆者のいう「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」は伝統的には「ハイ・ファンタジー」が指してきた領域を意味するのではないでしょうか?
もし両概念が重なるとすれば、「異世界ファンタジー」は「ハイ・ファンタジー」の「日本的な言い換え」ということになりますが、両概念の意味するところの名称としては、用法に無視できない対立のある日本独自の「異世界ファンタジー」よりも、国際的通用力のある「ハイ・ファンタジー」の方を使う方が適当だと思われます。
いずれにせよ、おそらく最もメジャーなファンタジーの下位ジャンル名称である「ハイ・ファンタジー」と「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」の関係については、筆者の書きぶりからすれば両者はかなり類似しているように見られるだけに、その異同についての説明(同義概念であるならば言い換えるべき理由)が是非とも欲しいところです。
(3)疑問点②――「(新たな意味での)異世界ファンタジー」は果たして文化破壊なのか?
ここでは、(2)で述べた疑問点①はひとまず措いておくことにして、ひとまず当該記事の主張通りに、以下の図式に従うことします。
この図式を前提として、筆者は以下のような危機感を表明されています。
もしも新しい用法が定着し、転移転生“だけ”、RPG要素を持つもの“だけ”が「異世界ファンタジー」とされる世の中になった場合。それら以外の本来の「異世界ファンタジー」は、決して「異世界ファンタジー」とは呼ばれなくなってしまうのです。〔中略〕これは単なる意味の限定に過ぎず、言葉の部分的な“死”なのです。
ただ、新定義の「異世界ファンタジー」を頑なに使い続ける方々にこれだけは言わせてもらいます。
ご自分が手を染めている行いが文化破壊、言葉に対する“殺人”に当たるという意識だけは持ってください。それが最低限の責任であり礼儀というものです。どうかよろしくお願いします。
〔当該記事より引用〕
一般論として、あるジャンルに含まれる作品例が多くなり、その領域内が雑多・多様になった場合に、この中から共通の特徴を有するもの同士をまとめて、これに対してサブジャンルとしての(または分離・独立させた上で新しいジャンルとしての)名称を与えることは、文学の歴史の上で繰り返し行われてきた文化的な行為のはずです。
この点については、筆者も同意して下さることかと思います。当該記事では以下のような記述もあります。
(「異世界ファンタジー」という既存のジャンル名の定義を無理やり捻じ曲げることにこだわらず素直に別の名前を考えた方がよっぽど手っ取り早いだろうとは思うけど)。
〔当該記事より引用〕
これら二つの記述からすれば、おそらく筆者の問題意識は、「Aというジャンル内で最近になって興隆した新たな(サブ)ジャンルに対して名称を付ける際に、(この新規部分に対して新たにBという名称が与えられたのではなく)新規部分の方がAという名称を名乗ったために、ジャンル全体(旧A)を指す名称が無くなった(その結果、ジャンル全体(旧A)にはCという新たな名称を付けざるを得なくなる)」ことにあるのではないかと思います。
「異世界ファンタジー」についてこのようなことが起こるのは、「(伝統的・本来的な意味での)異世界ファンタジー」概念に慣れ親しんできた方達にとっては、まさに「僭奪」とでも言うべき事態なのかもしれません。つまり、ジャンル全体についてAの名称がそのまま維持されたり、旧Aから新規部分を控除した残余部分――旧Aの伝統的・本来的部分――が新Aを名乗ったりするのは正統な名称として認められるが、新規部分――最近旧Aで興隆した若輩者――が新Aを名乗るのは僭称のため許せない、といった感じなのかもしれません。
しかし、「異世界ファンタジー」の問題に対するこのような厳格な姿勢は、果たして唯一絶対の文化的行為なのでしょうか? 果たして「(新たな意味での)異世界ファンタジー」は議論の余地もない文化破壊行為なのでしょうか?
たしかに、「異世界ファンタジー」概念の意味が変遷した結果として、当該記事が警告するように、欠落する部分――名称が失われる部分――が生じ得ること自体は首肯できます。しかし、その欠落部分を指す名称がなければ、また新たに考えればよいではないか、とも思うのです。これもまた、責任・礼儀のある文化的行為ではないでしょうか。(筆者の好みではないかもしれませんが)「本格」とか「伝統的」とか「本来的」など、おあつらえ向きの言葉はあると思います。
一般的に言って、ある概念の持つ意味の変遷は不可避な面があります。本来の意味に厳格にこだわることも文化的行為の一つだとは思いますが、変遷の結果として生まれた齟齬の部分に新たな名称を与えるという発想を否定することまでも文化的行為だとは思いません。
「死語」という言葉があるように、通常の言語活動に“死”はつきものです。ある概念を指す言葉がなくなって困るのなら、「新語」「造語」を“生み出す”のもまた通常の言語活動の一環ではないでしょうか。
(4)おわりに――ジャンル分けをする意味について
そもそも、人々(作者・出版社・読者など)は、なぜジャンル分けという行為をするのでしょうか? あるいは、「ファンタジー おすすめ」と検索するように、なぜジャンルを利用するのでしょうか?
その最たる答えの一つとしては、「読者が探したい本を見つけられるようにするため」といった即物的理由が挙げられると思われます。つまり、ジャンル分けという行為は、読者一般に対して便宜を図る行為であって、それを超えて、ジャンル分けの正義や真理を探究することは――文学研究上の学術的意義はありますが――それが読者一般に支持されない限りは、即物性という点においてあまり意味がないと思うのです(そもそも、過去・現在・未来にかけて多種多様なファンタジーが存在する中では、完璧なジャンル分けなんてものは期待できませんから、どこかで割り切る必要があると思われます)。
これを踏まえると、相容れないジャンル分けの方法が並立しているとき、いずれが優れているかを判断する際に重要になるのは、「どのジャンル分けの方法が読者に支持されているのか」という――これもまた短絡的な――指標になると考えられます。
この点、「異世界ファンタジー」を巡るジャンル分けの方法については、その概念把握について混乱・対立があり、おそらく、どの考え方が多数の支持を集めているかは分からない状況です(少なくとも、他を圧倒的に差し置くような支配的・優越的な見解はないはずです)。
そのような状況下において、当該記事を書いてくださった筆者や私のような者が、混乱の所在を明らかにし、概念を整理し、「これなら探したい本が見つけやすくなる」というジャンル分けを行うことは、読者が支持すべきジャンル分けの方法の選択肢を提示するという点において意義のある行為なのかなあと思うところです。
なお、この記事において、私はポジショントークのようなものをしたので、もしかしたら私のジャンル分けの方法について誤解のある方がいるかもしれません。下記記事では私のジャンル分けの方法について語っているので、まだ読んでいない方は是非ご覧ください!
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて
(1)先日の記事に関するお礼と反省
先日、「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」はアリなのか?――この種のラノベには違和感を抱きませんか?」と題する上記記事を書いたところ、望外の反響がありました!
様々な場所で(ご批判を中心に)ご意見を頂き、ありがとうございました!
上記記事については、ライトノベル/ファンタジーのジャンル論の「叩き台」としてひっそり機能すればよい、くらいの気持ちで記事を書いたのですが、そのまま「叩き」台にして下さり感謝しております。
叩き台の側になって気づいたのですが、私と異なるジャンル論を提示してくれるという意味での建設的意見の少なさからは、やはりジャンル論の不在・混乱を感じましたし、建設的な意見をくださる方についても、どうやら手探り状態といった感じでした。
いずれにせよ、先日の記事については、お陰様で皆様から頂いた意見から以下のように反省すべき点があると気づかされました。
- 私自身のライトノベルの読書歴が「異世界転生」の興隆後から始まったことによる、ライトノベルあるいはファンタジーの歴史と古めの作品に対する理解の不足。特に、ゲームとファンタジーの相互影響に対する視点の欠落。
- 「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」については、上記記事で書いたような違和感――もはや偏見とでも言うべきかもしれません――があったのであまり読んでこなかったこと。
- ファンタジーのジャンルの切り分け方には様々な方法があるが、必ずしも同時に成り立たない訳ではないこと。
特に、最前者については、ラノベ読者の諸先輩方から多くのご不評を頂きました。これについては、「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」という、やや挑戦的なタイトルのせいもあったかと思います。また、記事の趣旨からして、このジャンルの愛読者に対して「私の好みはあなたとは違う」というメッセージが強く伝わり過ぎたのかもしれません(とはいえ、可処分時間と好みの関係から、少なくともしばらくの間は、この種のジャンル――存在自体が疑われているのですが――を読むことはないだろう、と正直に告白しておきます)。色々と反省しているところです。
様々な反省すべき点がある反面で、上記記事を書いて改めて良かったと思った点もあります。
上で自身のラノベ読書歴の短さを反省しましたが、あまりラノベに慣れていなかったからこそ、「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」に対する違和感を抱くことができたのだと思います。もちろん、この点についてご批判のあることは承知していますが、おそらく今しかないこの極めて主観的な感覚を言語化し、公開・問題提起できたことは良かったと思います。
また、ご批判の声に圧倒されたものの、私が抱いた違和感に対するご共感の声もちらほらと頂けました。この手の記事にわざわざコメントしようとする方がいるとすれば、愛の鞭をもって私の不見識を正そうとしてくださる方のみだと思っていたので、大変嬉しく思います。
今後は、より皆さんからの賛意を頂けるように、この違和感の整理方法やジャンル分けの方法について議論ができればと考えております。今後とも、忌憚のないご意見を賜ることができればと思います。
(2)本題――ファンタジーのジャンル論・再考
さて、いよいよ本題です。
「ファンタジーのジャンル論・再考」と題しましたが、皆さんからのご批判を受け、自らの無理解と不見識と浅学非才さを反省した結果、下記記事で論じたファンタジー小説のジャンル論を見直さなければならないと考えました(皆さんのご意見をすべて拝読しすべて咀嚼できた訳ではないのですが、問題意識はひしひしと感じたのでひとまず見直しを行ってみました)。
詳細はここには書きませんが、上記記事では、ざっくり言うと下図のようなジャンル分けをしていました(これから修正を加えるので無視してもらっても構いません)。
ファンタジー
├─本格ファンタジー
│ ├─ハイ・ファンタジー
│ └─ロー・ファンタジー
以下では、このジャンル分けに大幅な修正を加えてゆきます。
1.本格ファンタジーとゲームファンタジーの区別の可能性
まずは、「本格ファンタジー」と「ゲームファンタジー」の区別の可能性について考えたいと思います。
「本格ファンタジー」とは、ヨーロッパなど各地の神話・歴史・文化・宗教等に基づいて作られた伝統的なファンタジーのことを指します。『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)や「ハリー・ポッター」シリーズなどがこれに該当します。
これ対して、「ゲームファンタジー」とは、(神話・歴史・文化・宗教等を背景とするか否かに関わらず)ロール・プレイング・ゲーム(RPG)の諸要素が盛り込まれたファンタジーのことを指します。
しかし、ファンタジー小説とゲームが相互影響の下に発展してきたことに鑑みれば、ゲームファンタジーと本格ファンタジーとを区別することの意義は疑わしいのかもしれませんし、両者を区別するとしても、その区別の基準も設けようがないのかもしれません(両者の差は、ゲーム的要素の多寡・強弱の程度問題・グラデーション問題でしかありません)。
その一方で、両者の区別の基準――何をゲーム的要素とするか――が恣意的・主観的になってしまうことを承知の上で、あえて区別を設けようと試みることも、私のような読者の便宜のため――読みたい本を探しやすくするため――には必要なことだとも思います(私がジャンル論に手を出して固執する理由はここにあります!)
試論ですが、ゲームファンタジーと本格ファンタジーの区別の基準について、以下のようなゲーム的要素を持つファンタジーは、ゲームファンタジーに分類すべきではないかと思われます。
- 物語の舞台がゲームであると明言されている場合(ゲーム世界への没入、ゲーム世界に取り残された、転生先がゲーム世界だった、など)
- HP、経験値、スキル、ランク、レベルなどのステータス制度が存在し、この情報が登場人物の強さを規定する場合(世界や人間の複雑性を各種のステータス制度へと捨象・変換し、これらの客観的指標によって世界観を管理することは、ゲームの特徴の一つであるため。ゲームを有意に進行させるためには必要不可欠な要素といえる)
- 冒険者・勇者といった職業・地位が存在し、登場人物の属性情報として重視される場合(職業が登場人物の重要な属性となることがRPGの特徴の一つであるため)
※典型的には、主人公らが剣士・魔法使い・聖職者などでパーティーを組むような場合は、そこにおいては職業・地位が重要な属性として機能する世界観なので、これはゲームファンタジーと呼べるでしょう。
※たとえば、「魔法使い」はRPGの職業の一つとして挙げられることが多いですが、主人公などの主要な人物がすべて魔法使いで学生である魔法学園モノであれば、各人の職業・地位の特殊性・重要性は相対的に低下するので、(他の要素との兼ね合いもありますが)このような魔法学園モノはゲームファンタジーとは呼べないでしょう。
以上のようなゲーム的要素を持つ場合はゲームファンタジーに一応分類でき、上記のいずれの要素も持たない場合は本格ファンタジーに一応分類できるのではないかと思います。
2.ハイ/ロー・ファンタジーと異世界ファンタジーの関係性
まず先に、ハイ/ロー・ファンタジーの定義を確認しておきたいと思います。
ハイ・ファンタジーとは、現実の世界ではなく、架空の世界のファンタジーとして定義される。その架空の世界は(架空世界内では)一貫しているが、現実の世界とは異なる「法則」で成り立っている。逆にロー・ファンタジーは、現実の世界に魔法の要素が含まれていたり、架空の世界であっても(現実の世界として)合理的で親しみのある世界に魔法の要素が含まれている。
また、異世界ファンタジーについては、物語において、現実世界とは別の異世界への転生・転移・接続や、ゲーム世界への没入・転生・転移などが描かれるファンタジーと定義しておきます。また、これらをまとめて、「転生・転移」と呼ぶことにします。
さて、ハイ/ロー・ファンタジーと異世界ファンタジーの関係については、いくつか考え方があります。
第一に、現実世界を基点として異世界に転生・転移する点や、転生・転移者が現実世界での知識・経験を異世界において活用するという点を捉えて、異世界ファンタジーをロー・ファンタジーの一類型とする考え方があります。
第二に、異世界ファンタジーにおいては、異世界と現実世界の間を行ったり来たりすることはできず、異世界が物語の主要な舞台となるパターンが多いため、異世界ファンタジーをハイ・ファンタジーの一類型とするという考え方もあります。
第三に、一大ジャンルとなった異世界ファンタジーを、ハイ・ファンタジー、ロー・ファンタジーに並ぶ類型として据える考え方があります。
しかし、いずれの考え方も妥当とは思えません。
①第一、第二の考え方については、異世界ファンタジー(転生・転移)の多種多様さをハイ/ロー・ファンタジーともに捕捉しきれていないですし、②第一と第二の考え方が真っ向から対立する中でどちらかの考え方を採用しても混乱の元となるだけですし、③第三の考え方については、一つの作品において異世界ファンタジーとハイ/ロー・ファンタジーとが両立し得ることを無視してしまっています。
そこで、第四に、ハイ/ロー・ファンタジーと、異世界ファンタジーの各種類型(転生・転移のあり方)は相互に独立したジャンル分けの方法であるとする考え方があり得ると思われます。具体的には下表をご覧ください。
「?」の箇所があったり、枠内の説明に自身が完全に納得できてる訳ではなかったり、そこでの作品例が適切なのかについて不安があったりなど、この表は暫定版なので、適当な作品例やアイデアを思い付いた方はご教示頂ければ幸いです。
(3)とりあえずの結論――相互に独立した三つのジャンル分け方法
ここまで、三つのジャンル分けの方法を記してきました。
①ゲーム的要素の多寡を基準とする区別方法(本格ファンタジー/ゲームファンタジー)
②現実世界との関係性を基準とする区別方法(ハイ・ファンタジー/ロー・ファンタジー)
③転生・転移のあり方を基準とする区別方法(転生・転移なし/狭義の異世界間転生・転移/逆異世界転生・転移/異世界接続/異世界内転生・転移、異世界間転生・転移/ゲーム世界への没入・転生・転移)
これらは相互に独立したジャンル分けの方法であるため、たとえば、
- 『この素晴らしい世界に祝福を!』は、「ゲームファンタジー」かつ「ハイ・ファンタジー」かつ「狭義の異世界転生・転移が描かれた異世界ファンタジー」
- 『通常攻撃が全体攻撃で二回攻撃のお母さんは好きですか?』は、「ゲームファンタジー」かつ「ハイ・ファンタジー」かつ「ゲーム世界へ没入・転生・転移するファンタジー」
- 『七つの魔剣が支配する』は、「本格ファンタジー」かつ「ハイ・ファンタジー」かつ「転生・転移なしのファンタジー」
- 『フォーチュン・クエスト』は、「ゲームファンタジー」かつ「ハイ・ファンタジー」かつ「転生・転移なしのファンタジー」
とそれぞれ分類することができるのです。
以上が、先日の記事に対するご意見を受けて考え直した、ファンタジーのジャンル分けの方法に関する試論です。これもまた叩き台ですので、忌憚のない意見を頂ければ幸いです。
……しかし、ジャンル論は鬼門ですね。もしよかったら、ジャンル論以外にも下記のような雑考記事を書いているので是非ご覧ください!
以上が2019年8月30日に書いた元記事の内容です。
(4)コメント返し(2019年9月5日追記)
全部ではなく一部だけですが、せっかくくださったコメントに何の反応もしないのも心苦しいので、いくつか返信いたします。
なお、論点は1~5とありますが、1、2については、この記事の趣旨をより理解するのにはあまり役に立たないので、関心のない方は読み飛ばしてもらって結構です。
1.「深まっ太郎」問題
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
「「叩き」台にして下さり感謝しております」「おそらく今しかないこの極めて主観的な感覚を言語化し、公開・問題提起できたことは良かったと思います」 ふ、深まっ太郎……
2019/08/30 20:58
恥ずかしながら「深まっ太郎」なる単語は初めて見ました。以下のような意味を持つ言葉らしいです。
自身の暴言がそもそもの原因であるにもかかわらず『議論が深まっただろう』と評して逃げに徹する人
つまり、以下の三要件すべてを満たしている人がこれに該当することになります。
①自身の暴言がそもそもの原因であること
②「議論が深まっただろう」と評していること
③逃げに徹していること
以下、この三要件該当性について考えます。
①「自身の暴言がそもそもの原因であること」の該当性について
この点については、この記事の(1)で触れた通り反省しています。ですので、①の要件は満たしていると思います。
②「『議論が深まっただろう』と評していること」の該当性について
「おそらく今しかないこの極めて主観的な感覚を言語化し、公開・問題提起できたことは良かったと思います」と私が書いたことについては、「議論が深まった」という言葉遣いでこそありませんが、まとっている雰囲気はまさに②の要件に該当します。
③「逃げに徹していること」の該当性について
この要件の該当性については、まったく同意することができません。前の記事で書いた「ゲーム的なファンタジーに対する違和感」については、この記事の(2)1で「ゲームファンタジーと本格ファンタジーの区別とその基準の可能性」という形で訂正・昇華させたつもりです。むしろ、この方に対して、この点に関する私の見解についてどう考えるのかご意見を伺いたいところです。
と、言いたいところですが、どうやら、この方のブログやTwitterを見る限り、私とは異なるジャンル分けの理解をされています。そこで勘繰ってみるに、このような意見の相違から「深まっ太郎」と評されたのではないかと思います。その限りで、上記の「ご意見を伺いたい」は不要なお願いです(もちろん、自身と異なるジャンル分けの理解が提示されたことに対して「逃げに徹している」「深まっ太郎」と評することの妥当性・適切性については甚だ疑問ですが)。
なお参考までに、ジャンル分けの理解の相違が現れている記事として、「異世界ファンタジー」の定義問題に関するこの方の記事を以下に挙げておきます(ついでにこれに対する私の応答記事も挙げておきます)。 srpglove.hatenablog.com irohat.hatenablog.com
2.「深まっ太郎」「トマじゃが警察」問題
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
深まっ太郎!深まっ太郎じゃないか!こんなところで何をやってるんだ、さぁトマじゃが警察の仕事に戻ろう!
2019/09/02 14:26
こちらのコメントについても、上の方と同じ趣旨であれば、同様の回答をしたいと思います。
しかし、もしかしたら、このコメントはそのような趣旨ではなく、その他の点に関する批判・揶揄だったり、自身の考えを上手く言語化できないまま脊髄反射的に放言したものだったりするのかもしれません。
一言居士も大歓迎ですが、批判するにせよ揶揄するにせよ、せめてその趣旨を明らかにしてほしいところです。でないと、この手の一言コメントを読解するのが不得意な私にとっては、小学生が「バーカ!バーカ!」と放言しているのとそう変わりはありません。まさかそのような意図でわざわざコメントする方がいるとは信じたくないので、無粋なことをお願いするようですが、不肖な私にコメントの趣旨をご教示して頂ければと思います。文字数が足りないというのであれば、記事下方のコメント欄へお願いします。
また、「トマじゃが警察」については、「中世ヨーロッパ“風”ファンタジー」について、特にトマトとジャガイモを取り上げて、「こんなのは中世ヨーロッパではない」と指摘する人を揶揄する言葉だと理解しています。
しかし、この記事では「中世ヨーロッパ風ファンタジー」について触れていませんし、そもそも私はトマじゃが警察活動をしたことがありません。これはどのような趣旨のコメントなのでしょうか? もしかしたら、私の記事に対する致命的な勘違いあるいは偏見があるのではないでしょうか? もしこのコメントが的を射た批判・揶揄だというのでしたら、この手のコメントは私には高尚すぎるので、できれば解説をお願いします。
3.ハイ/ロー・ファンタジーと転生・転移モノの関係について
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
- [ゲーム]
- [アニメ・コミック]
- [読み物]
異世界転生ものはハイファンタジーでは。ナルニア国物語とか。で、我々の世界とは違う自立した世界が舞台のはずなのにゲーム要素が出てくるからなんじゃこりゃなのであって。ゲームの世界に転生する話ならともかく。
2019/08/31 07:51
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
異世界転移転生ジャンルは全てローファンタジーなので頭が悪い俺定義クソ野郎っぷりが笑える
2019/08/31 02:17
このように、この記事のコメント欄においてだけでも、両者の意見は真っ向から対立しています。もちろん、(2)2にも書いてありますがどちらの立場もそれなりの理由はあります(究極的には、どのようにハイ/ロー・ファンタジーを定義するのかという好みの問題になってしまいます)。だからこそ、このような不毛な対立が生まれるのです。
そこで、境界問題として扱うには作品例が多くなり過ぎた転生・転移モノをどう扱うかについては、視点を変える必要があるのではないでしょうか? つまり、「現実世界との関係性を基準とする区別方法」(ハイ・ファンタジー/ロー・ファンタジー)と、「転生・転移のあり方を基準とする区別方法」(転生・転移するか否か)は、相互に独立したジャンル分けの方法であると整理する方が良いと思うのです。
4.ゲームファンタジーと本格ファンタジーの区別について
コメント①
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
この人そもそもゲーム由来の用語なのか、それ以前のファンタジー小説等からの輸入なのか区別つかないんじゃないだろうか。
2019/08/31 06:10
コメント②
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
その世界に現代地球のゲーム的要素がある利用なんて『そういう世界だから』で十分なんだけどな。話の根幹に何ら関わらない、地球の一地方にあるものと同じ(に見える)ものがその世界にある理由を延々語ってみる?
2019/08/31 21:14
既に(2)1で述べていますが、たとえば、ゲームを有意に進行させることを目的として、世界や人間の複雑性を捨象・変換し、客観的指標によって世界観を管理するための、HP、経験値、スキル、ランク、レベルなどのステータス制度が登場する作品群は、この点において、その他の作品群とは異なる性質を持っています。つまり、ゲームファンタジーと特徴づけ区別することができるのです。【論点A――区別の存在性】
コメント①の方については、たとえば、このような由来・目的のあるステータス制度が登場するか否かは、「ゲーム由来の用語なのか、それ以前のファンタジー小説からの輸入なのか」を区別する基準として使えるのではないでしょうか?
【論点A――区別の存在性】についてその存在を認める人であっても、(おそらくコメント②をくださった方のように)ゲームファンタジーも本格ファンタジーのどちらも好きな人は、この区別の重要性を認めないと思われます。その一方で、(少数派かもしれませんが)私のように、上記の特徴に対して「ひっかかり」を覚える者にとっては、この区別は重要です。それというのも、ゲームファンタジーだけが好みで本格ファンタジーは好みでない人は前者だけを探し出す指標が欲しいだろうし、本格ファンタジーだけが好みでゲームファンタジーは好みでない人は前者だけを探し出す指標が欲しいだろうからです(両方好きな人であっても、気分によって細かく読むジャンルを決めているような人にとってもこの指標は重要です)。【論点B――区別の重要性】
コメント②の方については、まさに【論点B――区別の重要性】のことを言っておられるのだと思われます。この区別の重要性を認めるかどうかは、まったくもって各人に委ねられている好みの問題だと思うので、この方の意見を否定するつもりは毛頭ございません。他方、【論点B――区別の重要性】の前提問題たる【論点A――区別の存在性】については、おそらくご理解を頂けたようで嬉しく思います。
5.ジャンル分けの意義について
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
ジャンル分けってやりたい人が自分の基準でやるもんだから共通解を求めても仕方ない気がする。 それよりも本題は、最近の作品でテレビゲーム由来の符丁を濫用してるのが鼻に付く、てことなのでは。
2019/08/30 22:40
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
- [web]
ガチのジャンル論やりたいなら1000タイトル読んでからでは?こういうのに正解はないから、外形的な部分だけで分類しても突き崩されると思う。
2019/08/31 00:31
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
ジャンルの定義とかどうでもいいわ。知るか
2019/08/31 01:42
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
あなたがそう思うものがラノベです。但し他人の同意を得られるとは限りません。/神様がどうやって世界を作ったか。即席でジャンクなのと、素材から育てたのと。
2019/08/31 09:05
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
ラノベをジャンル分けしようという試み自体が間違っているのだという割と以前から出ている結論に果敢に挑戦しようとしてる気はする/がやっぱりなんかラノベ誌はざっとでいいからレビューしておいてほしい
2019/08/31 23:21
これらの方は皆、ジャンル分けの意義(あるいは私がジャンル分けを行う意味)を問うておられるように思われます。これに対する回答としては、後日書いた記事の中で触れていますので、引用します。
そもそも、人々(作者・出版社・読者など)は、なぜジャンル分けという行為をするのでしょうか? あるいは、「ファンタジー おすすめ」と検索するように、なぜジャンルを利用するのでしょうか?
その最たる答えの一つとしては、「読者が探したい本を見つけられるようにするため」といった即物的理由が挙げられると思われます。つまり、ジャンル分けという行為は、読者一般に対して便宜を図る行為であって、それを超えて、ジャンル分けの正義や真理を探究することは――文学研究上の学術的意義はありますが――それが読者一般に支持されない限りは、即物性という点においてあまり意味がないと思うのです(そもそも、過去・現在・未来にかけて多種多様なファンタジーが存在する中では、完璧なジャンル分けなんてものは期待できませんから、どこかで割り切る必要があると思われます)。
これを踏まえると、相容れないジャンル分けの方法が並立しているとき、いずれが優れているかを判断する際に重要になるのは、「どのジャンル分けの方法が読者に支持されているのか」という――これもまた短絡的な――指標になると考えられます。
この点、「異世界ファンタジー」を巡るジャンル分けの方法については、その概念把握について混乱・対立があり、おそらく、どの考え方が多数の支持を集めているかは分からない状況です(少なくとも、他を圧倒的に差し置くような支配的・優越的な見解はないはずです)。
そのような状況下において、当該記事を書いてくださった筆者や私のような者が、混乱の所在を明らかにし、概念を整理し、「これなら探したい本が見つけやすくなる」というジャンル分けを行うことは、読者が支持すべきジャンル分けの方法の選択肢を提示するという点において意義のある行為なのかなあと思うところです。
6.ジャンル分けの方法について(2019年9月8日追記)
ファンタジーのジャンル論・再考――「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」に対するご批判を受けて - 小説・ラノベ・アニメ・漫画の感想・おすすめブログ
結局この人ろくに古典ファンタジー/ラノベ黎明期について調べてなさそうだし、ジャンルというものが二元論・二分探索的に分類できるハズ、っていう謎な思い込みそのままだしこんなものに真面目に反応する価値はない
2019/09/04 17:22
わざわざコメントしてくださったのに真面目に反応しない訳にはいきません。この方はおそらく私の議論について謎の思い込みをしていると思われます。
私が上で提言した、①ゲーム的要素の多寡を基準とする区別方法、②現実世界との関係性を基準とする区別方法、③転生・転移のあり方を基準とする区別方法のうち、たとえば、①は「ゲームファンタジー」と「本格ファンタジー」の二元論をとっています。
しかし、ここでは「ファンタジーのうちゲームファンタジーでないものは本格ファンタジー」というように消極的・控除的な定義を行ってます。そのため、「ゲームファンタジー」と「本格ファンタジー」の二元論は理論上当然に成立します。
とはいえ、消極的・控除的に定義された「本格ファンタジー」には当然、その分だけ雑多な内容が含まれています(ゲームファンタジーも同様です)。そこで、②現実世界との関係性を基準とする区別方法(ハイ・ファンタジー/ロー・ファンタジー)や、③転生・転移のあり方を基準とする区別方法(転生・転移なし/狭義の異世界間転生・転移/逆異世界転生・転移/異世界接続/異世界内転生・転移、異世界間転生・転移/ゲーム世界への没入・転生・転移)について、該当項目をそれぞれ当てはめてゆき、「○○は、『本格ファンタジー』かつ『ハイ・ファンタジー』かつ『転生・転移なしのファンタジー』である」などとジャンル分けすることができるのです。
もちろん、①~③以外にもジャンル分けの方法は当然に考えられます。④SF要素の有無・多寡を基準とする区別方法(SFファンタジー/非SFファンタジー)、⑤メルヘン要素の有無・多寡を基準とする区別方法(メルヘンファンタジー/非メルヘンファンタジー)などがその例です。
このように相互に独立した区別方法による特徴付けを重ねてゆくことによって、ジャンル分けをするというのが、私のジャンル論なのです。つまり、たとえて言うならば、私のジャンル分けの方法は、ツリー構造ではなく、多次元のマトリクスのような構造なのです。
「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」はアリなのか?――この種のラノベには違和感を抱きませんか?
2019年8月30日追記:この「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」という記事に対して、「ファンタジーのジャンル論・再考」という下記記事を書いたのでぜひご覧ください! 下記記事はこの記事の訂正版のような形になっております。
(1)問題の所在
先日、私はファンタジーは下図のようにジャンル分け出来るのではないかという記事を書きました。
ファンタジー
├─本格ファンタジー
それぞれの意味内容について、ざっとおさらいをすれば――
「本格ファンタジー」とは、主にヨーロッパの作家によって、ヨーロッパの神話・歴史等に基づいて作られた伝統的なファンタジーのことを指します(もちろん、日本人作家であっても、その影響を強く受けていればこちらに分類されます)。『指輪物語』(ロード・オブ・ザ・リング)や「ハリー・ポッター」シリーズなどがこれに該当します。
「異世界ファンタジー」は、ここ20年くらいに日本において、ライトノベルや小説投稿サイトという媒体を通じて発展したジャンルで、現実世界から異世界(ゲーム世界も含む)への転生・転移・(ゲームについては)没入を特徴としています。
さらに、「異世界ファンタジー」においては、ゲーム的(ドラクエ的・MMORPG的)な要素が含まれているもの(ゲーム的異世界ファンタジー)と、そういった要素が(ほとんど)ないもの(非ゲーム的異世界ファンタジー)とがあります。「異世界への転生・転移・没入」という一定の「型」を有する「異世界ファンタジー」のうち、「ゲーム的である」という点においてさらに強固な「型」を有する「ゲーム的異世界ファンタジー」と、「異世界転生・転移」という手法は使うものの、むしろその他の世界観設定は自由度が高かったり、あるいは本格ファンタジーに似通っていたりする「非ゲーム的異世界ファンタジー」とは、明らかに異なる特徴を有しています。
――以上がおさらいです(詳細は下記リンク参照)
しかし、上図のジャンル分けの方法では、「異世界転生(異世界への転生・転移、ゲーム世界への没入のすべてを含む。以下同じ)しないのに、ゲーム的な要素が登場するファンタジー」――具体例は後述――を上手く位置付けることができません。このジャンルは、上図の「ゲーム的異世界ファンタジー」とかなりの共通点を有しているにもかかわらず、「異世界転生」という特徴を有していないために、上図に位置付けることが出来ないのです。
「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」を上手く位置付けられないのなら、お前のジャンル分けの方法は失敗しているんだ、と一蹴することも可能かと思いますが、しかし、このジャンルは、そもそもかなりイレギュラーな存在であるために、上図に上手く位置付けられないだけではないか、とも思うのです。以下にその理由を書き連ねます。
まず、異世界転生が行われた場合であれば、その物語の舞台となる異世界は、転生者(主人公であることが多い)を通じてゲームが存在する現実世界(前世)との繋がりがあるため、ゲーム的な要素が登場してもそれほど違和感はありません(まったくない、と言えば嘘になりますが、ここではそういうことにしておきます)。
しかし、いよいよ異世界転生していないのにゲーム的な要素が登場すると、違和感に気付かないふりはできません。
だって、読者(というか私)としては、現実世界から切り離されたファンタジー世界を期待しているのに、そのファンタジー世界には存在していないはずのゲームに由来する要素が登場するんですよ? 現実世界にしか存在していないはずのゲーム的要素が、(異世界転生していないので)物語上は現実世界とは全く繋がりのないはずのファンタジー世界に登場するのは、変ではありませんか? 破綻している、とまでは言わないにしても、「ファンタジーとしてのほころび」を感じませんか?
(2)違和感を覚える具体的要素
それでは、「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」のどのような箇所に違和感を覚えるのか、あるいは違和感を覚えないのか、について具体的に指摘してゆきます。
1.違和感のない箇所
本格ファンタジーと同じく、ヨーロッパの神話・歴史・文化が踏まえられている要素については、ファンタジーにおいて伝統的に使用されてきたものなので、まったく違和感はありません。たとえば、
などです。むしろ、上記の具体例はファンタジーの骨格とでも言うべき要素です。
2.ギリギリ違和感を無視できる箇所
本格ファンタジーでの使用例は極少数だと思いますが、その要素が登場することに対して首肯できる歴史的背景がある場合は、ギリギリ違和感を無視できます。たとえば、
- ギルド(中世ヨーロッパに同業者組合としてのギルドが実在したため)
- 魔法の属性(たとえばギリシア哲学においては、土・空気・火・水が元素として考えられていたため)
などです。
3.違和感のある箇所
もっぱらゲーマー界隈にしかその言葉の意味を把握できない場合、あるいは理解できるとしても一般的にはその言葉を使わない場合は、明確に違和感を覚えます。
別の言い方をすれば、ゲーム的世界観を共有できていない――その結果、当然に「新宿駅はリアルダンジョンだ」などとゲーム的世界観を現実世界に持ち込まない――人々(というか私)にとっては、ゲームに固有の用語をファンタジーに出されると、「この作家、ゲーム脳すぎないか?」と思ってしまうのです。たとえば、
- 冒険者(何をする職業なのかピンと来ない)
- 勇者(どうやら英雄とは異なる固有の意味合いを与えられているらしいが、どのような地位なのかよく分からない)
- ダンジョン(英語のdungeonは地下牢を意味するところ、むしろラノベでいう「ダンジョン」は「(地下)迷宮labyrinth」の方が適切で一般人に伝わりやすいのではないか?)
- スキル(一般人はこれを「技術・技能・わざ」と呼ぶことが多い)
- レベル・ランク・クラス等(ゲームのステータス制度の現れとしか思えない)
- ユニーク○○(「特有・固有の」という意味で使われているのは実に英語的であるが、カタカナ英語として広く普及している「珍しい」という意味とは違う点で一般人には理解されにくい)
などです。
(3)おわりに
最後に、二点だけ付言しておきます。
第一は、書き手の方への要望です。
もしこの記事を読んだ書き手の方がいらっしゃれば、「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」は違和感があるので、できるだけ一般人も分かるような別の言葉に置き換えてほしい、ということを要望しておきます。
とはいえ、もちろん、私のように違和感を抱く読者――日本国民の中では多数派でもラノベ読者層の中では少数派だと思います――を切り捨てるという方法もアリだとは思います(言葉を置き換えた結果、むしろラノベ読者層の多数派から違和感を指摘される可能性だってあります)。そもそも、このジャンルを書く作家は、ゲーム的世界観を共有する読者が理解しやすいように、意図的にそう書いているのかもしれません。
その意味では、この記事のタイトルに掲げた「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」という問いに対しては、「アリな人にはアリ、ナシな人にはナシ」という面白くもない回答になってしまいますが……
第二に、上記の違和感に留保を付け加えておきます。
もしかしたら「異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー」に対して上記のように難癖をつけるのはナンセンスなことなのかもしれない、と留保をしておきます。
というのも、違和感を覚えると言っていたゲーム的要素は、今後、ファンタジー界の新たな伝統になったり、一般に広く普及したりする可能性があり、今はその過渡期なのかもしれないからです。もしそうなった場合には、ゲーム的な要素はもはや一般的な要素となり、違和感なんてなくなっているはずだからです。その意味で、私のような読者は、伝統的な本格ファンタジーに固執する守旧派なのかもしれませんね。
ゲーム的かゲーム的でないか等々については下記記事でも扱っていますので併せてご覧ください!
2019年8月30日追記:この「『異世界転生しないのにゲーム的な要素が登場するファンタジー』はアリなのか?」とすぐ上に掲げた「『異世界ファンタジー』の下位ジャンルの必要性」という記事に対して、「ファンタジーのジャンル論・再考」という下記記事を書いたのでぜひご覧ください! 下記記事はこの2つの記事の訂正版のような形になっております。
【はめふら】アニメ化も話題のおススメ漫画『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』――悪役令嬢モノの一番人気ここにあり!
「次にくるマンガ大賞2019」コミックス部門で第4位を獲得した人気作品です!
(1)基本情報
『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』
原作:山口悟(一迅社文庫アイリス、2020年4月現在既刊9巻)
漫画:ひだかなみ(原作イラストも担当)
掲載誌:月刊コミックZERO-SUM
レーベル:ZERO-SUMコミックス(2020年5月25日第5巻発売予定)
ジャンル:「異世界転生」「ファンタジー」「悪役令嬢」「ラブコメ」「逆ハーレム」
私が転生したのは、前世でプレイしていた乙女ゲームの悪役令嬢・カタリナ!? そんな悪役令嬢の未来は、国外追放か死亡のみ! 転生した瞬間、どん底の未来予測なんてあんまりすぎない!? 破滅エンドは自分で回避する! 破滅回避ラブコメディついに開幕!!
この時点で気になった方は下記サイトより試し読みしてみてください!
(2)あらすじ
第1巻の内容にある程度立ち入ってあらすじを紹介しますのでご注意を。
この物語の主人公は、公爵家の一人娘、カタリナ。8歳のとき、頭を強くぶつけて自身が転生者であることを思い出します。
このとき頭をぶつけた遠因となったのが、天才と名高いが実は腹黒の同い年の第3王子ジオルド。彼はカタリナの額にキズを負わせてしまったとして責任を取り、彼女と婚約を結びます。
その後、しばらくしてからカタリナは思い出しました。この世界が、ここにいる人々が、前世にプレイしていた乙女ゲームそのものだと。しかも、カタリナといえば、そのゲームにおいては、ゲーム主人公(プレイヤー)のライバルとなる悪役令嬢役なのです。
ところで、このゲームでは、ゲーム主人公が攻略すべき対象は、ジオルド、アラン、キース、ニコルの4人ですが、カタリナがゲーム主人公の主要ライバルとして登場するジオルドルート、キースルート、逆ハーレムエンドでは、良くて国外追放、悪くて死亡というシナリオでした。つまり、悪役令嬢役のカタリナには破滅エンドしか待っていないのです。
そこでカタリナは気づきます。彼女はうっかりジオルドと婚約をしてしまったのです! このままでは、ジオルドがゲーム主人公と結ばれるために、邪魔になった婚約者のカタリナを破滅へと追いやるシナリオにまっしぐら……!
そこで彼女は、ジオルドに殺されそうになった場合のための対策として、魔力と剣の腕を磨くことを決意し、訓練を開始します。その後も親交を続ける二人ですが、なぜかジオルドはカタリナから離れようとしません。額のキズが消えてなくなったとしてカタリナが婚約解消を申し出たときも、ジオルドはキズが残っていると言い張り婚約を継続させたのです。
そんな折、一人娘のカタリナが第3王子のジオルドに嫁ぐことになるため、公爵家は後継ぎとして分家から養子をとることになります。同い年ですがカタリナの義理の弟となる彼の名はキース。またも破滅フラグがやって来ました。
ゲームにおいてキースは、お色気担当のチャラ男です。彼がそうなったのは、養子に迎えられた公爵家でカタリナや公爵夫人から冷たく当たられ、孤独になったからです。そして成長したキースは、その孤独を埋めるかのように様々な浮名を流すことになるのですが、そんな中で出会うのが平民の出自のゲーム主人公。ここで彼は初めて本当に人を好きになります。しかし、ゲームの中のカタリナは貴族意識が高く、義弟に近づく平民の主人公に様々な嫌がらせを行います。もちろん、そんな悪役令嬢役のカタリナに待っているのは、国外追放か死亡かの破滅エンドのみ。
そこで彼女は、キースが孤独にならないように、義弟を思う存分に可愛がることにしました。すると彼はカタリナにベッタリとなつき始めるのです。カタリナは「これで義姉弟仲はよし、破滅エンドも回避できる」と気分上々ですが、キースが彼女に抱く感情は姉弟としてではなく……!?
9歳になったカタリナは、お茶会でメアリという同い年の美少女令嬢に出会います。ここで二人は、ガーデニングという共通の趣味を通じて仲良くなります。が、彼女はただの友人ではありませんでした。メアリは、ジオルドの双子の弟で第4王子のアランの婚約者なのです。
ゲームにおいては、アランはジオルドに強烈なライバル意識と劣等感を抱いているのですが、ゲーム主人公に出会い彼女と恋に落ち、彼女から良い影響を受けることで兄との関係も改善します。このアランルートにおいては、カタリナはほとんど登場しないので特にやっておくべき対策はありません(ちなみに、アランルートのライバルは、アランの婚約者のメアリなのですが、ゲーム主人公にアランを譲るエンドか、メアリがアランと結ばれるエンドのどちらかです! カタリナとは大違いです!!)。
アランとの関係は心配しなくて良い――そうカタリナは思っていたのですが、ある時、アランが公爵家に乗り込んできてカタリナに文句を言います。曰く、アランがメアリと話していても彼女が話すのはカタリナの話題ばかり、彼女を誘惑するな、と。その流れでカタリナはアランと対決をすることになるのですが、その中でカタリナはアランの音楽の才能に気付きます。そこで彼女はアランに音楽の道を究めることを勧めたのです。
その後、音楽家として名高くなったアランは自信を持てるようになり兄弟仲も改善します。これで一件落着と思いきや――アラン自身もカタリナ自身も自覚はない(周辺は気付いている)のですが――アランは婚約者メアリがいながらカタリナに惹かれているらしく……!? しかも、メアリもカタリナのことを……!?
ところで、カタリナには畑作りのほかにロマンス小説という趣味があります。ある時、お茶会に参加したカタリナは、ロマンス小説に出てきそうな美少女に出会い、思わずお気に入りのセリフで彼女に話しかけてしまいます。が、なんと彼女――ソフィア――もロマンス小説の愛読者だったのです!
共通の趣味を通じて仲良くなった同い年の二人ですが、実はソフィアには兄がいました。その名もニコル、人形のような美貌を持つ彼もまたゲーム攻略対象の一人なのです! が、ニコルルートにカタリナはライバルとして登場しません。ならば心置きなくソフィアと交流できる、と思いきや、ニコルもカタリナのことを……!? ソフィアもカタリナのことを……!?
以上が第1巻の大まかな流れです。カタリナの努力により、ゲームの登場人物の性格やカタリナとの関係性はゲームとは異なる箇所が出てきました。そして第2巻からは、ゲーム本編となる魔法学園生活が始まります。ここではついにゲーム主人公のマリアも登場します。カタリナの運命や如何に……!?
(3)おすすめポイント――女性向けだけど男性にも支持される人気作!
女性向けライトノベルや漫画の最近のトレンドとして興隆しているのは、男性向けと同じく「異世界ファンタジー」です。しかも、その中でも定番のジャンルは、「転生したら悪役令嬢だった」パターンのようです。
そんな中、いわば激戦区のこのジャンルにおいて頭一つ飛びぬけた人気を誇るのが、本作品『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』なのです。
私自身が把握しいてる限りでは、本作品については、既にコミカライズもなされており、書店に行けば原作小説もコミックも表紙が見えるように置かれ、さらに2020年にはテレビアニメが放送されることが決定しています。
これらの点を踏まえれば、本作品は、「悪役令嬢転生」モノの中で、あるいは「女性向けライトノベル」の中で、一番人気と言っても過言ではないと思われます。
ところで、小説にせよマンガにせよアニメにせよ、一般的に、人気作品になるための条件の一つとして、「幅広い層からの支持の獲得」が挙げられるでしょう。
その点、この作品が大きな人気を獲得しつつあるのは、「男性が読んでも面白い」からだと思われます(人気作品『ちはやふる』『フルーツバスケット』などは男性読者も多いですね!)。
まず、絵柄・作画の点について言えば、女性向け漫画っぽくない点を指摘できます。
女性向け漫画といえば、細やかな線画(特に髪と目)がその特徴の一つです。このような技法で描かれた綺麗な登場人物は、女性読者の心を掴みますが、その一方で、これに慣れない男性読者が女性向け漫画を敬遠する要因ともなります。
その点、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』は、良い意味で絵柄・作画が女性向け漫画っぽくありません。一般的な女性向け漫画よりは控えめな線画となっています。
とはいえ、男性向けに振り切っている訳でもありません。おさえめですが、やはり男性キャラはキラキラしています。また、男性漫画誌のように、不自然に胸の大きな女性は登場しませんし、男性読者に妙に媚びた感じの女性描写もありません。
要するに、本作品は、女性からも男性からも受け入れられ愛されるような良い感じの絵柄・作画なのです! (ここで語られても分かりにくいと思うので、試し読みで確認してください!)
この作品の優れている点は、絵柄・作画だけではありません。その内容も魅了的なのです。
(他の作品についてはきちんと読んだことがないのでイメージで語ってしまうことになるのですが)多くの悪役令嬢モノは、「悪役令嬢のラブロマンス」をメインテーマとするなど、恋愛要素を濃い目にしていると思われます。つまり、大部分の作品は、ラブロマンスをメインテーマとする女性向け小説・漫画の王道パターンに沿っているのです。
その反面、男性読者は、「ラブロマンス」よりも「ラブコメディ」を、言い換えれば、「純粋な恋愛」よりも「コメディ要素が盛り込まれた恋愛」を好む傾向にあります。
この点、『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』は、乙女ゲームを舞台とするので、次々と攻略対象となる男性がカタリナのもとに現れ、彼女は彼らを惚れさせてゆきます。このような王道的な恋愛要素は、女性読者の好みにピッタリです。
その一方で、本作品にはコメディ要素もあります。攻略対象の男性たちはゲームシナリオ上ではゲーム主人公と結ばれる予定なので、悪役令嬢役であるカタリナとしては彼らのアプローチを本気にしません。むしろ、シナリオ通り進めばカタリナは彼らに命を狙われるので、彼女は人間関係・恋愛関係に戦々恐々としています。本作品は、破滅エンドを防ぐために行動するこのようなカタリナの様子をコミカルに描いているので、男性読者が好む「ラブコメディ」にもなっているのです。
また、主人公カタリナのキャラクターの魅力もこの作品のおすすめポイントとして挙げておかなければならないでしょう。
彼女の行動原理の基本は、破滅エンドを回避すること。そのためには出来ることを何でもやってやる!と言うのが彼女の姿勢です。
その一環として彼女がまず行ったのは、殺されるのから身を守るための、苦手な魔力を高める訓練です。彼女は自身の魔力特性が「土」ということで、本に書いてあった「魔力の源との対話」を「畑作り」と解釈します。しかし、これは魔力を高めるのに役に立たないことが後に分かるのですが、すっかり彼女の趣味となってしまったのです。しかも、国外追放された場合には、公爵令嬢なのに農民になる気満々なのです。どうですか? 愛すべきキャラではありませんか?
さらに、破滅エンドを回避するためにカタリナは人間関係を人一倍気にするのですが、その結果として男性キャラも女性キャラも彼女に惹かれるのです。ここで彼女は、いわゆる「逆ハーレム」状態になるのですが、彼女は男性キャラから寄せられる恋愛感情を本気にはしません。なぜなら、彼らはゲームシナリオではゲーム主人公に惚れて、むしろ悪役令嬢のカタリナを破滅に追いやるのですから。そのため、カタリナは周りから鈍感だと言われてしまうのですが、そこには彼女なりのきちんとした理由があるのです。このような事情を抱えるカタリナは、逆ハーレム状態でも嫌味がなく、むしろ好感・共感を持てるキャラとなっているのです。
以上を読んで気になった方は、まずは下記サイトから試し読みを!
(4)関連おすすめ作品
既に言及していますが、本作品はコミカライズ作品ですので、原作があります。山口悟『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』(一迅社文庫アイリス、2020年4月現在既刊9巻)が原作です。コミック第4巻の段階では、原作小説の第2巻末尾までしかコミカライズされていませんので、漫画版を待てない!という方は是非こちらの原作を手に取ってみてください! 漫画版ではすべてカタリナ視点で物語は進みますが、原作小説では他の登場人物の視点からの描写もあるので、彼らの言動の裏にある心情に触れることができます!
一迅社WEB | 一迅社文庫アイリス乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…
また、アニメも2020年4月より、テレビアニメも放送されています。原作ラノベは第2巻の末尾まで、漫画は第4巻の末尾までアニメ化されるペースのようです。続きが気になる方は、原作ラノベ&漫画の購入を是非!
久追遥希『ライアー・ライアー2』感想――考え抜かれた鮮やかな本格的頭脳戦!正ヒロインレースや如何に!?
この記事では、『ライアー・ライアー』第2巻の感想を書いています。ほんのりとしたネタバレを含んでいるので注意してください!(ただ、かなりぼかした表現を使っているので、未読の方も読んでも問題ないと思います!)なお、これは感想記事なので、おすすめ紹介記事とは異なり、あらすじは最小限にしか記していないのでご注意を。
まだこのシリーズを読んだことがない方は、第1巻からぜひ手に取ってみてください。あらすじ、おすすめポイント等を紹介した記事も書いているのでご参照を!
(1)基本情報
『ライアー・ライアー2 嘘つき転校生は小悪魔先輩に狙われています。』
著者:久追遥希
イラスト:konomi(きのこのみ)
レーベル:MF文庫J
発売日:2019年8月24日
ジャンル:「頭脳戦」「嘘」「学園」「ラブコメ」
ライアー・ライアー2 嘘つき転校生は小悪魔先輩に狙われています。 | ライアー・ライアー | 書籍 | MF文庫J オフィシャルウェブサイト
決闘で等級を決める学園島で、史上最速の学園島最強(偽)に成り上がった俺、篠原緋呂斗。姫路らの力も借り、強敵・久我崎との死闘も切り抜けた。でも、“偽りの最強”である俺に平穏はない。英明学園の伝統イベント・区内選抜戦は、一週間で生徒総数9000人が連戦で最後の一人になるまで続く鬼サバイバル。最強の座を盤石にするためにも戦略を立て準備は万全、のはずだった。だが、不穏な動きを見せる“小悪魔”秋月乃愛のせいで、俺の行動は全て先読みされてしまう。これは敵の不正のせいなのか? OK、ならば俺に不正で勝負を挑んだことを小悪魔に後悔させてやろう――! 【裏表紙より】
(2)正ヒロインレースの行方や如何に
姫路白雪と彩園寺更紗について語りたいところですが、まずは第2巻にして、3人目のヒロイン登場! その名も、“小悪魔”先輩こと、秋月乃愛(あきづきのあ)! あざとさ全開でしたね!
第1巻の紹介記事は頭脳戦要素を中心に紹介したので、ヒロインについてはあまり触れませんでした。そのため、記事としてのまとまりが悪くなるとして、2人しか出てこないヒロインのうちの1人(姫路)を記事中にまったく登場させないという暴挙に出てしまったわけです。
自分としては彩園寺派だからまぁ大丈夫か、なんて思っていたところ、第2巻です。いきなり冒頭、あちらから先制パンチが飛んできました。あろうことか(?)姫路が篠原と同じ学校・同じクラスに転校してきたのです!
そして、第2巻第2章中盤あたりまで読んで思いました。「もしかして彩園寺、この巻では登場しないんじゃね!?」、と。
個人的な解釈として、タイトル『ライアー・ライアー』の一方の嘘つき〈ライアー〉は篠原、もう一方の嘘つき〈ライアー〉は彩園寺だと理解していただけにショックでした(彩園寺が登場しなければ、ただの『ライアー』になっちゃうじゃん!)
思えば、第1巻の表紙イラストやサブタイトルは姫路だったし、本編の登場頻度も彩園寺と姫路で互角くらいだったし……。もしかして、正ヒロインレースは姫路の勝利確定…?
……と、思いきや、物語中盤から大きく状況が変わりましたね! 特にあの扉絵のシーン!! やっぱ、ああいうギャップのある性格が良いんですよね。
第1巻の表紙イラストとサブタイトルで姫路に出遅れた彩園寺ですが、第2巻ではきっちり表紙イラストを確保しました(サブタイトルは秋月に譲りましたが)。また、篠原との秘密の共有度合いでは、彩園寺の方が優勢です。しかし、日常的な物理的距離は姫路が優勢です。
総合すると、現時点では、正ヒロインレースは大混戦といったところでしょうか(え?やっぱり秋月先輩も追い上げが激しい?)。3巻以降に期待です。
そして、加賀谷さんのイラスト初登場!
第1巻では読者にとっては文字のみの登場だった加賀谷さんが、第2巻79頁にてイラストとしては初登場! 個人的な期待通りと言うべきか、残念美人ジャージ眼鏡変態お姉さんでした!
(2)相も変わらぬ緊迫感!複雑に入り組んだ頭脳戦!!
まったく作者の頭の中はどうなっているんでしょうか??
こういう作品を読むたびに彼我の差を痛感します。自分も同種のものを書いている訳ではないのですが、頭脳戦モノを好んで読むような読者は同じような気持ちではないでしょうか? まさに、してやられたり、という感じです。
要するに、今回も考え抜かれたゲーム設定と鮮やかな戦い方に脱帽しました。
個人的なハイライトは2つあります。
1つ目のハイライトは、115頁以下に登場した「アレ」です。「アレ」は、最初の方で使いようがあると思っていたのに使われなくて、その存在を忘れていた頃にうまい具合に登場したので、警戒していただけにちょっと悔しかったです。
2つ目のハイライトは、263頁以下のどんでん返しに向けて、245頁はもちろん、225頁などでもきちんと伏線が張られていて、本格ミステリばりに読者に対してもフェアな状態で頭脳戦を挑んで来られたのには感嘆しました!(未読の方は、ここで示したページ数は一旦忘れて、第4章に挑んでみてください!)
(3)今後の展開への期待と続刊情報
第2巻の最後は、「彩園寺更紗」に関する重大な事件が起こってワクワクする幕引きとなりましたね!
今後の展開としては、個人的には、篠原には色付き星〈ユニークスター〉を使って活躍してもらいたいですね! 特に、♰藍色の星♰は、嘘つき〈ライアー〉の彼が嘘を貫き通すために使える演出装置としてピッタリではないでしょうか?
あと、篠原と彩園寺、姫路との間に、そろそろ「下の名前で呼び合う」イベントが発生しても良い頃合いだと思うんです。名字呼びや「ご主人様」呼びもアリっちゃアリなんですが、(極めて個人的な事情を挟むとすれば)彼らの呼び方に従ってこのブログでも名字呼びしていると、なんだかよそよそしい感じになるんですよね。
そういえば、第2巻253頁6~8行目の記述も気になりましたね! わざわざ傍点がふってあるだけに、ただの記述とは思えません。今後、何かに関わってくるのでしょうか? それとも勘繰り過ぎでしょうか?
気になる続刊情報ですが、第2巻の巻末に、第3巻について「今冬発売!」とありました! 一般的な季節理解からすれば、具体的には2019年12月~2020年2月の間でしょうかね! 待ち遠しいです!!
今話題の漫画版『薬屋のひとりごと』――次にくるマンガ大賞1位のこの作品をおすすめする理由とは?
去る2019年8月22日、漫画版『薬屋のひとりごと』が「次にくるマンガ大賞2019」コミックス部門第1位を獲得しましたね。おめでとうございます!! 本作を継続購入している読者としては、嬉しい限りです!
そもそも、原作小説の扱いが良かったのですよ。
書店に行けば表紙が見えるように置かれ(ヒーロー文庫の筆頭扱いです)、なぜかコミカライズは2誌で並行して展開されるし(ビッグガンガン版とサンデーGX版。今回受賞したのは前者)、古本屋に行けば強化買取中なんです。
個人的には、映像化のオファーも来ているのではないかと思っています。アニメ化ももちろん良いですが、一般ウケする内容なのでNHKあたりが潤沢な予算を使って実写ドラマ化するというのもアリではないでしょうか?
さて、前置きが長くなりましたが、この記事では、ビッグガンガン版の『薬屋のひとりごと』のあらすじとおすすめポイントを紹介します!
(1)基本情報
『薬屋のひとりごと』
構成:七緒一綺
作画:ねこクラゲ
掲載誌:月刊ビッグガンガン
レーベル:ビッグガンガンコミックス(2020年4月現在既刊6巻)
ジャンル:「ミステリー」「毒」「中華風」「後宮」「ラブコメ」
中世の宮中で下働きをする少女・猫猫(マオマオ)。花街で薬師をやっていた彼女が、帝の御子たちが皆短命であるという噂を聞いてしまったところから、物語は動き始める。持ち前の好奇心と知識欲に突き動かされ、興味本位でその原因を調べ始める猫猫の運命は――…!?
薬屋のひとりごと 1巻 (デジタル版ビッグガンガンコミックス)
- 作者:日向夏(ヒーロー文庫/主婦の友インフォス),ねこクラゲ,七緒一綺,しのとうこ
- 発売日: 2017/09/25
- メディア: Kindle版
この時点で気になった方は下記サイトより試し読みしてみてください!
https://magazine.jp.square-enix.com/biggangan/introduction/kusuriya/
(2)あらすじ
物語の舞台は、どこかの時代のどこかの国の王宮。作中で言及こそされてはいませんが、中国の王宮が舞台であると見てもらって構いません。
主人公は17歳の少女、猫猫(マオマオ)。元は花街(高級風俗街)にある薬屋の娘だったのですが、薬草採取に出かけた森で人攫いに誘拐され、後宮で働くことになります。
後宮とは、宮廷の中の一区画を指しており、帝の子を成すための女の園です。猫猫はここで下女(女官)として働いています。皇帝の相手をする妃とは違い、下女は妃の世話や後宮の雑務をこなします。
そこで働いてから3か月、猫猫はとある事件を知ることになります。その名も「後宮で生まれるお世継ぎの連続死」。現在までに現皇帝がもうけた子は5人。うち3人はすべて乳幼児のころに亡くなっているのというのです。
現在は、梨花妃(リファひ)との間に生まれた生後3か月の男児の宮「東宮(とうぐう)」と、皇帝の寵愛が注がれている玉葉妃(ギョクヨウひ)との間に生まれた生後6か月の女児の宮「公主(こうしゅ)」の2人が存命中。しかし、2人の宮と梨花妃は、体調を崩しているようなのです。
後宮中で皆が「これは呪いに違いない!」と噂する中、薬屋にいた猫猫は考えます。
「幼児の死亡」「頭痛」「腹痛」「吐き気」「げっそりとした様子」……これらの情報から原因を特定した猫猫は匿名で文を書き、2人の妃に情報提供をします。
しかし、その1か月後、東宮は亡くなってしまいました。梨花妃も以前の面影がない程に憔悴しきっているそうです。どうやら猫猫の警告は無視されたようなのです。その一方で、玉葉妃の方では警告が聞き入れられ、公主は体調を回復してきました。
その情報を仕入れた後宮を取り仕切る壬氏(ジンシ)は、一計を案じて警告をしたのは猫猫だと見抜きます。
結局、正体を見破られてしまった猫猫は、その功績が認められ、玉葉妃の侍女となりました。そこでの猫猫の役割は毒見役でした。が、猫猫にとってこれは天職なのです! 薬屋の実家にいた頃は、実験と称しその身を実験体としていたほど、猫猫は毒(と薬)が大好きなのです!!
玉葉妃の侍女になれた一方で、猫猫は壬氏にも目を付けられてしまいました。壬氏は、後宮に出入りする以上は、宦官――生殖機能を失った元男性――なのですが、その中性的美貌から女性からも男性からもモテモテなのです(普通、性欲を無くした宦官は欲が食欲に向かい、小太りなおばさん体型になってしまいます)。
しかし、猫猫は壬氏の溢れ出る色気には魅力を感じません。むしろちょっと苦手に感じているくらいです(心の中で「変態宦官」と呼んでいます)。そんな猫猫を壬氏はいたく気に入ってしまいます。曰く、「あれは思った以上に仕える。本人は上手く隠しているつもりなんだろうが、あの毛虫でも見るような目。欲情してこない人間もいくらか見てきたが、あんな目で見られたのは初めてだ。被虐嗜好者(マゾヒスト)ではないのだが妙に面白い。新しい玩具(おもちゃ)を手に入れた気分だ」、と。
こうして猫猫は壬氏に振り回されながら、宮中で次々と起こる謎をその薬の知識を持って解決してゆくのです!
以下に、これから起こる出来事を記しておきます。
「モテモテのあの宦官が媚薬をご所望!?」(第1巻)
「後宮の城壁で踊る幽霊!?」(第1巻)
「体調の回復しない梨花妃を救え!」(第2巻)
「園遊会で妃の皿に毒が盛られた!!」(第2巻+第3巻)
「里帰り中に妓楼で自殺騒ぎ!」(第3巻)
「エリート官僚が宴席で酒を飲み過ぎて死んだ!?」(第3巻)
「自殺?他殺?女官はなぜ堀で死んでのか?」(第4巻)
「阿多妃・里樹妃の秘密と過去とは?」(第4巻)
「猫猫が後宮を解雇された!?」(第4巻)
「講師は猫猫!上級妃への後宮授業は女の園の他言無用の秘術!?」(第5巻)
「外廷の食糧庫でボヤ騒ぎ!?」(第5巻)
「毒が薄いはずのフグの皮身を食べた官僚が昏睡状態に!なぜ?」(第5巻)
「彫金細工師の遺言を解読せよ!」(第5巻)
(3)おすすめポイント――「ミステリー」「中国王朝」「宦官とのラブコメ」……魅力を語りきれない!
さて、本作品は、「小説家になろう」に投稿された作品がライトノベルとして書籍化されたものを原作としています。
しかし、上記のあらすじを読んできた方はもうお気づきではないでしょうか? 「小説家になろう発って異世界転生ばかりでしょ?」「ラノベって異世界ファンタジーか学園青春モノしかないんじゃない?」という固定観念はとっくに裏切られたのではないでしょうか?
本作品には様々な魅力があるのですが、ここでは「ミステリー」「中国王宮」「宦官とのラブコメ」の3つに絞ってその魅力を語ります!
1つ目の魅力は、この作品は「きちんとミステリーをしている」ところです。
猫猫が探偵役として、事件が起こった際に、「誰が」「何のために」「どのようにしてやったのか」をきちんと解き明かしているのです。「ミステリーファンも大絶賛」という売り文句に偽りありません!
私の個人的お気に入りは、園遊会での毒混入事件と、里帰り中の妓楼での自殺騒ぎです。一見関係ないように見える出来事が実は複雑に絡み合っており、その接点を見出して猫猫が解き明かしてゆく様は見事としか言いようがありません。
2つ目の魅力は、「中国っぽい王宮を舞台としている」点です。
現代日本を舞台としないライトノベル(やそのコミカライズ)と言えば、その大部分が中世ヨーロッパっぽいところを舞台とするファンタジー作品だと思われます。
しかし、本作品は、東洋風・中華風の異国情緒あふれる宮廷を舞台とするミステリーなのです(魔法や魔物は登場しないのでファンタジーではありません)。原作イラストもそうですが、コミカライズにあたっては、衣装や建築、調度品など、細やかな点まで配慮が行き届いており、本作品の中国王宮風の世界観がよく伝わってきます!
時代小説の読者層ならともかく、ラノベや漫画の読者層ならば、きっと目新しい世界観となっていると思います!
3つ目の魅力は、「宦官とのラブコメ」です!
宦官、つまり生殖機能を失った元男性がラブコメの相手方なんですよ!? しかも、女性も男性も魅了されてしまう美貌の持ち主ですよ!! たった2つだけなのに、ちょっと属性を盛り過ぎに感じませんか!?
ともかく、本作品は中国王宮を舞台とすることで、「宦官」という属性を持った魅力的な人物を登場させることに成功しましたが、この人物が物語において猫猫を大いに翻弄します。彼は猫猫を相当に気に入っているのです。猫猫に言わせれば彼女に粘着しているのです。
しかし、彼の行動は、猫猫のことを「面白いおもちゃ」だと思っているからなのでしょうか、それとも……?
以上を読んで気になった方は、まずは下記サイトから試し読みを!
https://magazine.jp.square-enix.com/biggangan/introduction/kusuriya/
(4)関連おすすめ作品
既に言及していますが、本作品はコミカライズ作品ですので、原作があります。日向夏『薬屋のひとりごと』(ヒーロー文庫、2020年4月現在既刊9巻)が原作です。原作は漫画版にかなり先行していますので、漫画版を待てない!という方は是非こちらの原作を手に取ってみてください!
また、理由は分かりませんが、ビッグガンガン版と並行して、サンデーGX版の倉田三ノ路〔作画〕『薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~』(サンデーGXコミックス、2020年4月現在既刊7巻)も同時に連載・刊行されています。読み比べも良いかもしれませんね!
なお、ビッグガンガン版のコミカライズもサンデーGX版のコミカライズもストーリーは同じですが、後者の方が刊行スピードが速いですね(2020年4月現在、前者は既刊6巻、後者は既刊7巻)。あとは絵柄の好みの問題かと思われます。試し読みして比べてみてはいかがでしょうか?
ビッグガンガン版の試し読み↓
サンデーGX版の試し読み↓
薬屋のひとりごと~猫猫の後宮謎解き手帳~|無料・試し読みも【漫画・電子書籍のソク読み】kusuriyano_003